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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
3章:アキナイ領の未来を巡る攻防

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第20話:営業存続の危機

 中央市場で営業を始めてから二ヶ月が経った頃、俺たちは店の存続を揺るがす事態に直面していた。

 それはサリアの両親──アルケライト夫妻の来店がきっかけだった。


「失礼、質問よろしいかな?」

「なんでしょう?」

「私たちの娘と思わしき子が、度々この店に出入りしていると聞き及んでいるのです」


 アルケライト夫妻と対面した直後の俺は、娘を心配している優しい両親だと思っていた。

 サリアから聞いていた話でも、アルケライト夫妻に悪印象を抱いたことはなかった。

 しかし、いざ両者が対峙すると、俺はアルケライト夫妻の本性を知ることとなった。


「サリア、やっと見つけたよ」

「さあ、シャルル様がお前を待っているよ」

「シャルル様って誰?」

「お前の婚約者だよ」


 サリアに婚約者がいたとは初耳だ。


「ヤダ!私はエルネストさんと結婚するの!」


 サリアは俺の体にしがみつく。

 結婚相手は一人であるということを分かっていたようだ。

 俺はその常識を身に付けていたことに少し安心した。


「サリア……」


 だが、この状況はまずいかもしれない。

 本人の合意なしに決めた婚約者ともなれば、アルケライト夫妻の狙いはほぼ間違いなく政略結婚だ。

 彼女の結婚相手次第では、俺の仕事を請け負うことすら認めないだろう。

 そうなってしまえば、この店の存続が危ぶまれる。


「君がサリアと?」


 サリアの父親が俺に問いかける。


「付き合っているのは事実です」

「サリアは次期領主の妻となる身です。そんな娘を略奪したともなれば、あなたはシャルル様に処刑されるかもしれませんよ」

「……」


 アキナイ領の次期領主か……

 現在の領主オルバス・フレッドバーンは善良な人物として領民に親しまれているが、その息子に関する噂はろくでもないことばかりだ。

 そもそも次期領主として仕事している姿を、領民の誰もが見たことすらない。

 大方噂通りの人物だろう。

 俺はそんな人物がサリアと上手くやっていけるとは思えなかった。


「次期領主のことはよく知りませんが、耳に入るのは悪い噂ばかりです」


 俺は話を逸らし、次期領主シャルルの人物像を聞き出すことにした。


「ええ、その噂は本当よ」


 サリアの母親はシャルルの悪い噂を、あっさり真実だと暴露した。

 シャルルがどんな人物か、よく知っているようだ。


「どうしてそんな男に娘を嫁がせるんですか?」

「オルバス様は信頼の置けない息子よりも、私たちに実権を委ねるはずだ」

「シャルル様は地位にしがみつくだけで、政治に関心のない暗愚ですから」


 サリアはアキナイ領を簒奪するための道具か。

 アルケライト夫妻の言い分だと、実権を握ることさえできれば娘はどうなってもいいのだろう。

 まるで醜い貴族のお手本だ。


 こういった手合いを説得することは不可能だ。

 どうあっても俺とサリアを引き離すつもりだろう。


 だが、何も手を打てないわけではない。

 オルバスとシャルルを説得すればいい。

 幸いシャルルが領主の息子だと分かっているのだ。

 対話の機会を作ることは、そう難しくないはずだ。


「サリア、ここは両親の言う通りにするといい。今後の対策は俺が練っておく」

「……」


 サリアは泣きながら、俺から離れようとしない。

 サリアは俺たちの話を聞いていたとはいえ、シャルルのことをよく分かっていなかった。

 それなのにこうまで嫌がるとは、俺を特別視してくれるようになったのだろうか。

 ……だとすれば、なおさら見捨てるわけにはいかないな。


「ほらサリア、シャルル様に会いに行くよ」

「ヤダー!」


 アルケライト夫妻はサリアを強引に俺から引き離した。


「こればっかりはお前のわがままを聞き入れられないよ」


 必死に抵抗するサリアだったが、非力な彼女が両親を相手に腕力で敵うはずもない。

 彼女は程なくして、アルケライト夫妻に連れ去られてしまった。


 俺への配慮は一切ない。

 アルケライト夫妻の器が知れるな。


「あの子は大丈夫なのか?」

「シャルルって結局どんなやつなんだ?」

「なんか嫌な奴らでしたね」

「私はアキナイ領のこれからが心配ですよ」


 店内の客がざわつき始めた。

 アルケライト夫妻の言葉を聞いて、アキナイ領の未来を不安に思ったのは俺だけではなかったらしい。


 それはともかく、ひとまず店内の客に俺から一言入れておくべきだろう。


「えー、お騒がせしてすみません。当店の商品製造に携わっていたサリアが不在となったため、しばらく休業とさせていただきます」


 俺は店内にアナウンスを行う。


「えっ、この店の商品ってあの子が作ってたの?」

「やべぇ、錬金術製品が値上がりするぞ!」

「エレメンタルクロース5個と、エーテルプレート3個を頼む!」


 アナウンスを聞いた客たちは、慌てて商品を買い込もうとする。

 ……俺はそんな目論みがあって、発信したわけじゃないんだけどな。

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