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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
第1章:ビジネスパートナーへと育て上げる

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第2話:素材の区別はできないけど、料理はできる

 家に帰りたくないサリアは、どこか別の場所で寝泊まりする必要がある。

 だから俺は「詳しい話を聞きたいから場所を変えよう」と言って、彼女を自宅まで招いた。

 見習いの錬金術師を俺の自宅に住まわせるためだ。


「サリアはどこで俺のことを知ったんだ?」

「冒険者ギルドの人に聞いたの」

「俺のことを知らないのに、どうやって聞いたんだ?」

「鑑定してくれそうな人を教えてって言ったら、エルネストさんのことを紹介してくれたの」

「なるほど……」


 嘘は言っていないだろう。

 俺は依頼の相場を確認するため、冒険者ギルドによく出入りしている。

 さらに商品を安く仕入れるため、ギルドにいる冒険者と直接やりとりすることも珍しくはない。

 つまり冒険者が俺を紹介したと話すサリアに不自然な点はない。


「もう一つ聞くが、これまでどんな暮らしをしてたんだ?」


 サリアの世間知らずぶりは常軌を逸している。

 生活環境に何らかの原因があるとしか思えない。


「お人形さんと一緒に本を読んだり、絵を描いてたよ」

「同世代の子供と遊んだことは?」

「ないよ!パパもママも関わっちゃダメって言うんだもん!」

「そうか……」


 サリアは友人がいないどころか、両親以外とはほとんど会話した経験すらないという。

 一人で外出することさえ禁止されていた彼女は、事実上の軟禁生活を送っていたようだ。

 社会常識がないのも無理はない。


「もう話はいいよね?」

「あ、ああ……」


 俺は次に何を聞こうかと考えていると、彼女は半ば強引に話を断ち切った。

 サリアは返事も待たずに厨房へ向かい、フライパンに手を伸ばした。


 お腹が空いていたのだろうか。

 だが、彼女に料理ができるとは思えない。

 下手したら火事を起こす可能性さえある。

 そう思った俺はサリアの様子を見守ることにした。


「エルネストさーん、水はどこにあるの?」

「右下のバケツに保存してある」

「おー」


 サリアはコップ一杯分の水をフライパンに注ぐと、勝手に棚を開けては香辛料を次々と投入していった。


「サリア、お前は何をやってるんだ?」

「何って錬金術だよ?」

「はっ……?」


 フライパン一つで錬金術ができるとは聞いたことがない。

 本来錬金術は専用の大釜に素材を投入してかき混ぜるものだ。

 フライパンで料理するような感覚で行う作業ではない。


 しかし、サリアが料理しているようにも見えなかった。

 何せフライパンの上に食材を置いていないのだ。

 さらに香辛料を注ぎ込んだ水をかき混ぜる時間が異様に長い。


「あとどのくらいかかるんだ?」

「多分一時間くらい」

「ふむ……」


 他人の所有物を勝手に使うことへの注意は後回しだ。

 今は錬金術を行う過程を見届けたい。


「でっきたー!」


 約一時間後、サリアは錬金術の作業を終えたようだ。

 完成を喜ぶサリアに俺はそっと近づき、フライパンの上に浮かぶ液体を見つめる。

 その液体はまぎれもなくポーションだ。


「錬金術を使えるのは本当だったんだな」

「えへへっ、すごいでしょ!」

「売り物にならないけどな」

「えーっ……」


 朝に見せられたポーションよりはマシだが、到底売り物になる品質ではない。

 しかもサリアが勝手に使った素材の原価は、ポーションの販売相場である25ゴールドを超えている。

 これでは商売にならない。


「お前の使った素材はグリーンセージ5グラム、砂糖1グラム、少量のウォーターライザーだが、それらの原価合計は58ゴールドだ。対してポーションの販売相場は25ゴールドだ。最高品質でも50ゴールドが限界だ」


 要は今使った素材でポーションを作っていたら、どれだけ品質の良いものに仕上げても赤字だ。

 買い出しや水を汲む手間を原価換算したら、もっとお金がかかることになる。


「えっ、グリーンセージって何?」


 原価や相場の話をしてもすぐに伝わらないとは思っていたが、返ってきた言葉は想定外のものだった。

 サリアは自分で使った素材の正体が分からないまま投入していたのだ。


「お前が勝手に使った香辛料だ」

「あれってミドリーフじゃないの?」

「……」


 昼間に見せられた禍々しいポーションも素材を間違えていたのだろう。

 素材をきちんと見極められないのでは、まともな道具を作れるはずがない。


「素材を間違えなかったら稼げた?」

「いや……」


 グリーンセージをミドリーフに替えれば、ポーションの原価は9ゴールドだ。

 買い出しや水を汲む手間を考えなければ、利益を出すことはできる。

 しかし、あまりにも利幅が小さすぎる。


 大量生産、大量消費を前提とする組織経営でなければ取り扱うべき商品ではない。

 さらにサリアは一本分のポーションを作るのに、1時間近く費やしていたのだ。

 標準的なポーションの相場は25ゴールドであり、彼女の錬金術は時給換算で16ゴールドにしかならない。


 つまりこれではサリアが盗み食いしたパンを一つ買うのに、約12時間半ポーションを作り続けなければならない。

 どう考えても割に合わない。


「サリア、明日からはしばらく素材を見極める訓練な」

「え~っ……」


 サリアは肩を落とすが、拒否することはなかった。

 錬金術を学ぶためには必要なことだと、彼女なりに理解していたのだろう。


「あっ……」


 唐突にサリアは声をあげる。

 何かに気づいたのだろう。


「どうした?」

「今日はエルネストさんの家に泊まるね」


 今日の宿代がないことに気づいたのだろう。

 俺は元より彼女を自宅に留めておくつもりだったのだ。

 何も問題はない。


 だが、決定ありきで話を進めるな!

 相手の許可を取れ!


 俺は思わず説教してしまいそうになったが、心の奥でグッと堪えた。

 せっかく上手くことが運んでいるのだ。

 下らない説教をして、関係を崩したくない。


「分かった。しばらくは俺の家で暮らすといい」

「はーい」


 サリアは警戒も感謝もしなかった。

 それまでの彼女の暮らしを考えれば、当然の反応だろう。

 自宅以外で寝泊まりすることへの常識がないのだから。


「確認しておきたいのだが、家事はどのくらいできる?」


 せっかく俺の家に住まわせるのだ。

 家事の手伝いをしてもらいたい。

 もっとも彼女の常識力は5歳児といい勝負だ。

 下手に料理でもさせたら家事ではなく、火事になりかねない。


「何でもできるよ」

「料理もできるのか?」

「もっちろん!」


 グリーンセージとミドリーフの区別がつかないサリアに料理ができるとは思えない。

 けれど、近くで俺が監視していれば、火事になる心配はない。

 せっかくだからやらせてみるか。


「だったら試しに棚に入ってる食材で料理を作ってみてくれ」

「うん、分かった」


 俺はサリアがきちんと料理できるのかを近くで観察する。


 サリアの包丁捌きは俺よりもずっと上手だった。

 野菜を熱する際の炎魔法の加減も適切にできている。

 食材を多く投入しすぎていた上に、香辛料の使い方を間違えていたが、許容できる範囲内だ。


「できたよー!」

「きちんと食べられそうだな」


 昼間見せられたポーションと違い、きちんと口に入れて大丈夫なものだ。

 それは見ただけで分かる。


 俺はサリアの作った料理を口にした。

 味付けは少々濃いが、好みの問題でしかない。

 つまり、彼女はきちんと料理が作れたのだ。


「料理ができたのは意外だな……」

「えへへっ、火事を起こす心配はないよね?」

「ああ、そうだな」


 確かに俺はサリアが火事を起こすのではないかと不安だった。

 けれど、俺はその懸念を一言も口にしていない。

 それなのに自分から「火事を起こす心配はないよね?」と言った彼女は、何かそういう経験があったとしか思えない。


「火事を起こしたことがあるのか?」

「うん、だからママに料理を覚えさせられたの」

「なるほどな……」


 やはりか……

 丁寧な包丁捌きも指を切らないようにと母親に仕込まれたのだろう。

 作れる料理のバリエーションは多くはないようだが、指を切ったり、火事を起こさなければ十分だ。


 サリアが料理できることを確認した俺は、他の家事もできないかと一通りやらせてみた。


 整理整頓は論外だった。

 そもそも整理整頓の必要性を理解していない。


 掃除も話にならない。

 ゴミは風魔法で外に吹き飛ばせばいいと思っているからだ。

 そんな方法では近所迷惑になる上に、大事な書類がゴミと一緒に吹き飛ばされてしまう。


 洗濯は及第点だったが、今の生活環境では任せられそうにない。

 彼女の洗濯は、高価な魔導具ありきだったからだ。

 彼女に手洗いという概念はない。


 家事の能力確認をしているうちに、時間はどんどん過ぎ去る。

 そして夜が訪れた。

 俺は売れ残った布を床に敷き、サリアに寝床を提供した。


「えーっ!」


 サリアは露骨に嫌そうな態度を取る。

 床で寝たことのない貴族のお嬢様には、辛いことを要求しているのかもしれない。


「ベッドは一つしかないんだ。仕方ないだろう」


 けれども上下関係を示すため、彼女にベッドを譲るつもりはない。


「じゃあ一緒に寝ようよ」

「はぁっ!?」


 思春期の少女とは思えないその純粋さに、俺は慌てたあまり声が裏返ってしまった。

 サリアはそんな俺を見て、楽しそうに笑っていた。

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