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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
第2章:中央市場への進出

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第14話:エンチャントサービスはあまりにもハイリスク

「おーい、エルネストー!耳寄り情報だぞー!」


 朝早くから家の前でルーナが声を上げていた。

 まだ眠いが、無視するわけにもいかない。


「耳寄り情報って何だ?」


 俺は寝ぐせを整えることもないまま、玄関を開けてルーナの応対を始めた。


「冒険者ギルドでお前向けの依頼があったんだよ!」


 なんで冒険者ではない俺向けの依頼が、冒険者ギルドにあるんだよ!

 依頼する場所を間違えてないか。


「どんな依頼だ?」

「エンチャントサービスをオープンしてくれって話だよ」

「断る!」

「即答!?報酬は100万ゴールドだぞ!」

「どう考えても割に合わない」


 エンチャントサービスとは、武器や防具に宝石や結晶体をはめ込んで更なる性能を引き出すサービスだ。

 そしてそのエンチャントは、錬金術師にしかこなせない。

 しかし、俺は絶対にやりたくなかった。


 もしエンチャントサービスを始めたならば、錬金釜の近くで営業する必要がある。

 つまり俺が露店を出している間は、サリアが自ら営業しなければならない。

 世間知らずの彼女がまともに対応できるはずがない。


 そもそもエンチャントサービスは独立した錬金術師であっても、賠償リスクの重さから短期間で廃業してしまう。


「100万ゴールドで割に合わないってマジ?」

「ああ、1億ゴールドでやっと検討するレベルだ」


 もちろん、契約期間が5年以上ともなれば即座に断る。


「えぇっ!」

「お前はアネットが愛用している魔剣エアレンディルの相場を知ってるか?」

「確か230万くらいだっけ?」


 230万ゴールドは素材にかかる原価だよ。


「350万ゴールドだ。まあ、その差額のことを今は気にしなくていい」


 今はエンチャント事業を100万で請け負うのが割に合わないって話だ。

 ルーナが相場を正しく認識しているかどうかは関係ない。


「問題はエンチャントに失敗して元の装備が使い物にならなくなったら、それは店側の責任になるんだよ」

「えっと、つまり1回失敗したら350万の赤字なのか?」

「素材代を含めればもっとだな。エアレンディルに合わせるなら、シリウスライトだろうからざっと420万の赤字だ」

「うげぇ、マジかよ……」


 現在俺たちの手元には約150万ゴールドもの大金がある。

 しかし、エアレンディルをお釈迦にしてしまえば、その一回だけで一気にマイナス270万ゴールドだ。

 それは地獄の借金生活が始まることを意味する。


 とはいえ、依頼を断り続けていれば客足が遠のく上に、納得のいかない冒険者が暴れ出す危険性さえある。

 戦闘慣れした彼らが暴れ出したら、俺のような商人ではどうしようもできない。

 その割にエンチャントサービスの請負相場は決して高くない。

 だからといって設定金額を高めにすれば、利用者は激減するだろう。

 エンチャントに大金を掛けるくらいなら、より高価な装備を買ったほうがお得な傾向にあるからだ。

 これがエンチャントサービスの実態だ。


「1億ゴールドかぁ……」


 1億ゴールドは引き受けない意思表示のために言っただけだ。

 実際に持ってこられたら、それはそれで困惑する。


「さすがのアネットさんでも出せないよな……」


 彼女の口ぶりからすると、すでにアネットから依頼を引き受けていたのだろう。

 社会サービス拡充のため、自分の懐からお金を出そうとするのはいかにもアネットらしい。

 ……とはいえ、今アネットはこの場にいない。


 そのため、この日は大人しく諦めたルーナだったが、彼女は翌朝も俺の家を訪れた。


「おーい、エルネストーー!」

「今日はどうした……って、え!?」


 俺の家を訪れたルーナの隣には、アネットが立っていた。

 ……ということは、どう考えても昨日の続きだよな。


「驚かせて済まない」

「それはいいですけど、エンチャントサービスなら断りますよ」

「理由を聞かせてもらって構わないか?」


 ルーナから聞いてないのかよ!

 俺は二度手間になっていることを面倒に思いつつも、アネットにエンチャントサービスを行うリスクの重さを説明した。


「なるほど、損害賠償リスクか」

「分かっていただけましたか?」

「ああ、だがエンチャント済みの装備を販売するのはどうだ?」


 エンチャントサービスをしなくてもいいから、エンチャント済みの武具を売り出せときたか。

 売れるものだけ選べばいいと思えば、そこまで悪くはない案だ。

 だが、アネットの提案には大きな問題点がある。

 それは在庫スペースの確保と、運搬コストの問題だ。


「特定の魔石や結晶体をはめ込んだ状態での装備販売は、かなりニッチな市場といえるでしょう。従って商品回転率は悪く、在庫を抱えるリスクが大きくなります。しかも俺のような露店商となれば、商材の持ち運びだけで毎日人手が必要になってしまいます」

「アタシが運ぼうか?」


 俺の指摘に対し、ルーナが提案する。


「毎日お前に頼んでいたら、人件費が無駄にかかるだろう」


 しかも売れ残ったら、その武器を持ち帰る必要がある。

 つまり営業中はずっとルーナと共にいなければ、その時の都合に合わせて営業終了時間を決められなくなる。


「君と提携してくれる武具屋が必要不可欠か」


 武具屋との業務提携か。

 考えてもいなかったが、アネットの提案は悪くない。


「そうですね。そこまで条件が整えば、俺にも利があります」

「ならば適切な人材を見つけたら、声をかけさせてもらおう」

「分かりました。ただ、俺たちの名前は伏せてくださいね」

「どうしてだ?」

「サリアに面倒な連中が押し寄せるのは嫌なので!」


 独立していない錬金術師を食い物にしようとする人間は珍しくもない。

 商人ならば、なおさらだ。


「なるほど。了解した」


 俺の意向を確認すると、アネットはルーナと共に去っていった。

 まさかアネットが俺の家まで訪ねるとはな……

 そもそもルーナは他の人を勝手に俺の家まで案内するなよ!

 レネもたまにやるが、防犯意識をもっとしっかり持ってくれ!


 アネットが再び俺の家を訪問したのは、その5日後だった。

 俺との提携を前向きに検討している店を見つけたという。

 だが、紹介された店はマアティスが経営する金色商店だ。


 金色商店は錬金術製品を取り扱う店であって、武具屋ではない。

 彼のことだから錬金術師との縁が欲しかったのかもしれない。

 しかし、俺たちはすでに協力関係を結んでいる。

 だから相手が俺だと知ったらガッカリしないだろうか。


 そんなことを考えながら、俺は金色商店に入店した。


「失礼します」

「おや、エルネストさんですか。営業時間はもう終了していますが……」

「エンチャント事業の件で、あなたが業務提携を検討しているとアネットさんから聞いてきたのです」

「ああ、そのことでしたか。それでしたら、こちらへどうぞ」


 俺は店の奥へと案内された。

 商談は基本的に奥の部屋で行っているらしい。


「金色商店は武器や防具の販売もするんですか?」

「いえ、私はあくまで仲介ですよ」


 仲介、すなわち中抜きで稼ぐつもりか。

 相変わらず商魂逞しいことだ。


「ちょっと待ってくださいね」


 マアティスは棚を開けると、一枚の書類を取りだした。


「こちらの書類を見てください」

「企画書のサンプルですか?」

「その通りです」


 マアティスの持ってきた企画書のサンプルによれば、まず俺が発注したい武器や防具、装着する宝石や結晶体、そして請求する技術料と原価を記入する必要があるらしい。

 その企画書を受け取った武具屋の商人が、利益を出せる企画と判断すれば取引が成立するシステムらしい。

 もちろんエンチャントに失敗したときは俺の自己責任だ。


 ……これは業務提携とは言わない。

 マアティスに伝えられたシステムは、それぞれが自己責任でやりとりする取引先の関係だ。

 もっともこのほうが俺にとっては気楽だ。

 わざわざ口出しする必要はない。


「なるほど、これは実力が問われますね」


 企画書は利益が出せればいいわけではない。

 取引先の商人に、その企画が稼げそうだと思わせる必要がある。

 しかも文章のみでその価値を伝えるのだ。

 なおのこと難しい。


 だが、理に適った判断だ。


「分かりました」


 俺はマアティスの取引提案を受け入れた。

 なお、武器や防具の運搬はマアティスのもとで働いている使いの者が対応するとのことだ。

 中抜きされても、きちんと彼を通す利点がある。

 そういうことまで考えているのはさすがだ。


「それでは失礼します」


 ん、待て……

 マアティスのアルバイトが運搬するということは、彼らにも俺の家が知られてしまうのか。

 しかも錬金術師が住んでいる情報と共にだ。


 ……今後のことも考えて、そろそろ警備の人間を雇うべきだろうか。

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