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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
第2章:中央市場への進出

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第13話:錬金術師には体づくりも大事!

 サリアの新商品開発は着々と進んでいた。

 魔導具連合会の指定25品目に含まれる商材も、新たに3品の開発に成功している。

 これによって、1日あたりの収入は4万ゴールドまで膨れ上がった。


 しかし、開発を進めていくうちに彼女の苦手分野も浮き彫りになった。

 一つは品質が命の商材だ。

 素材の品質を見極められない彼女は、自分が作った道具の出来さえ客観的に評価することができない。

 上手くいかないのは、こうした観察眼の欠如が原因だろう。

 この調子では、シリウスライトを始めとした高純度の魔法エネルギー結晶体は作れそうにない。

 何せ魔石の不純物を取り除く基礎ですら、全然できなかったのだ。


 一方で物理的な課題も浮き彫りになった。

 それは石材を大量に使った道具の製造だ。

 こちらが苦手な理由は単純明快だった。

 サリアも俺と同じく非力だからだ。

 石材を大量に使ったレシピを作る時は、一度は俺も一緒にかき混ぜたことがある。

 あの作業は力仕事と言っても過言ではない。


 それでもサリアにはこなして欲しい仕事があった。

 サークルストーンの大量生産である。

 連合会の指定した25品目の一つで、昨日やっと開発に成功した商材だ。

 その利益率はクアドラプルスレッドを大きく上回る。


「うー、もう無理!」

「同時に7個作るのは無理があったか」


 しかしサリアは作業を中断して、錬金釜から離れてしまった。

 錬金釜を覗くとその中には加工前とほぼ変わらない石材がたくさんあった。

 もはや失敗以前の問題だ。


「あんなにいっぱいできるわけないよ!」


 そう言って彼女はすぐさま横になってしまった。

 しかも俺のベッドを勝手に占領する始末だ。

 ……とはいえ、無理をさせすぎたのは事実だ。

 今日くらいは譲ってやるか。


「どのくらいならできそうだ?」

「多分2個が限界」

「2個か……」


 同時生産数が2個では、時給換算で5000ゴールドにしかならない。

 平民の平均所得と比べれば7倍近いが、それでも今の俺たちにとってはそこまで魅力的な金額ではない。


「疲れたから三日は休む」

「さすがに三日は長くないか?」

「だって疲れたんだもん……」

「まあ、明日は休んでも構わない。次の日以降は様子を見てからでいいだろう」

「うん」


 サリアが自分から丸1日休みたいと言い出すのは初めてだった。

 よほど大変だったのだろう。

 俺は錬金術へのモチベーションを削ぐまいと、本人の意向を尊重することにした。


 翌日、サリアは昼になってもまだ俺のベッドから動かない。


「まだ寝てたのか」

「うん」

「とりあえず食事はきちんと取っておけ」

「じゃあ食べさせて!」

「……何で?」

「だって腕が重いんだもん!」


 子供の世話じゃないんだぞ!

 しかし、今のサリアに自分で作れと言ったら、ほぼ間違いなく食事を抜くだろう。

 ただでさえ彼女は食を疎かにする傾向がある。

 しかも彼女はあまり肉を食べたがらない。

 彼女の食事傾向は、筋力が付く機会を自ら放棄してしまっているに等しい。


 食わせてやるか。

 体づくりも人的投資の一環だ。


 俺は炊きあがったご飯と一緒に、ファッツバードの卵と大豆、さらに玉葱をフライパンに入れて炒める。

 筋力を付けるための食事は、全身が筋肉のような魔物の肉を食べるのが一番だが、肉を避けがちな彼女はほとんど口にしないだろう。

 そのため、俺は畑の肉とも言われる大豆に、栄養価の高いファッツバードの卵を合わせることにした。


 味付けはあえて胡椒ではなく、砂糖を選んだ。

 サリアは甘いものが好きだからだ。


「できたぞ」

「食べさせてー」


 お前は幼児か!

 恋人同士ならこうしたこともするだろうが、俺たちはそういった関係ではない。

 そもそもサリアは関係性による距離感の取り方の違いを理解していない。

 だから平気で「食べさせて」などと求めるのだ。


「スプーンくらい持てるだろ!」

「別にいいじゃん!」


 下らない常識感覚に従って、機嫌を損ねるのもバカらしい。

 そう思った俺は料理をスプーンですくってサリアの口へと運ぶ。


「どうだ?」

「美味しい!」


 サリアは満面の笑みを浮かべる。

 彼女の「美味しい」は本音と見ていいだろう。

 何しろ彼女は口に合わなければ、平気で不味いと言うからだ。


「ならば、レシピを書き残しておこう」

「やったー!」


 せっかくだから、他にも幾つか料理レシピを作っておくべきだろう。

 たとえ栄養価を重視した料理を気に入ったとしても、同じものばかり食べていては偏ってしまう。

 それに色々な料理を再現することで、新たに錬金術のレシピを閃くかもしれない。

 そう考えた俺は、夕食と翌日の朝食も手掛けることにした。


 夕食は消化の良い野菜中心のレシピだ。


「これはどうだ?」

「食べれる」


 美味しくないけど、不味くもないって評価か。

 自分から積極的に作ることはなさそうだが、とりあえずレシピに記しておこう。

 ナスダックポテトを丸々一個に、ワラントニンジンを6分の1、さらにアルラウネとドリアードの葉を少量加えたポテトサラダだ。

 他領から仕入れた食材はやや値が張る。

 しかし、今の収入ならそこまで気にすることでもない。


 朝食は玄米にエルダーフィッシュの塩焼きを添えた。

 さらにバナナとヨーグルトがあれば十分だろう。


「これは好きかも」


 サリアはバナナをおいしそうに食べる。

 ヨーグルトはあまり好みではなかったようだが、バナナだけでも気に入ってくれたなら結果は上々だ。

 なにせバナナは料理の手間が不要で、家にあればすぐに食べられる。

 そんなバナナを気に入ってくれたのなら、お菓子中心の食生活の改善に希望が見えてきた。


「筋肉痛はもう治ったか?」

「うん。でもサークルストーンはしばらく作りたくない」


 トラウマってほどではなさそうだが、サークルストーンに苦手意識を根付かせてしまったようだ。

 気を付けなければいけない。

 このまま石材、金属全般に苦手意識が定着してしまえば、その損失は計り知れない。


「そうか。とりあえず今日は固定タスクの他は自由にしてくれ」

「分かった」


 安定して利益を得られる商材群は、固定タスクと定めて日常のルーチンにする方針を取っていた。

 日常のルーチンにしてしまえば、余計な思考の手間を省けるからだ。


「あと食事バランスもある程度考えるようにな!」


 彼女はもっと食に興味を持った方がいい。

 例えそれが錬金術の閃きに繋がらなくてもだ。


「うん!」


 そう元気に返事したサリアだったが、昼食は当たり前のようにお菓子で済ませていた。

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