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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
第2章:中央市場への進出

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第10話:次なる目標は錬金釜と共に始まる

 俺の手元にあるお金は現在約100万ゴールドだ。

 黒竜の心臓で得た大金、アイゼンから受け取ったコンサル料、日々の商売で得た収入。

 そうしてここまで積み上げてきた。


 だが、俺の目指す新たなステージへの道のりは険しかった。

 1000万ゴールド──中央市場の土地を買い、店舗を構えるにはそれだけの大金が必要だ。

 中古物件でさえ600万ゴールドは必要であり、手持ちの金額からは程遠い。


「おじさん、ありがとう!」


 サリアはあれから何度かイシヅエル家を訪問していた。

 彼から学ぶためではない。

 彼の家にある錬金釜を借りて、効率的な生産を体験してもらうためだ。

 特に俺たちの主要商材であるクアドラプルスレッドは、一度に大量生産することで大きな利益を見込める。

 供給が追い付いていないため、在庫リスクがほとんどない。


「これはトリプルスレッドですか」

「うん、そうだよ」

「エルネストさんは技術流出に慎重でしたが、私に見せて良かったのですか?」

「大丈夫だよ。私たちの主要商材はクアドラプルスレッドだもん!」

「なんと……」


 アイゼンは錬金釜の使用料を特に求めなかったが、筋を通すなら対価を支払うべきだ。

 その対価として選んだのが、トリプルスレッドの技術共有だった。


「私も自分の錬金釜が欲しいっ!」


 錬金釜を使った調合に慣れてきたサリアは、自分専用の錬金釜が欲しいと俺にねだるようになった。


「分かってる」


 元々買い与える予定でいたのだ。

 何の問題もない。


「アイゼンの錬金釜には劣るが、フライパンよりずっと効率的に作れるものを用意してやるさ」

「やだ~、もっといいのが欲しい!」


 サリアの返答はわがまま極まりない。

 だが、今の俺にとっては野心を煽れる都合が良い返答だった。


「安心しろ。安い錬金釜を買うことが、最高級の錬金釜を買わない理由にはならない」

「えっ?」

「サリアはAがあるんだから、Bは買わない。そんな風に言われたことはあるか?」

「うん」


 安い錬金釜だろうと、今みたいにフライパンで調合しているよりはずっと稼げる。

 だから何も買わない選択肢と比べれば、ずっとお得なはずだ。

 けれど、サリアは俺が安い錬金釜を買うことを嫌がった。


 その理由は容易に推測できた。

 同系統の機能を持つ道具は複数要らない。

 だから「Aがあるんだから、Bは我慢しなさい」と躾けられる。

 そう言われて育った子供は、やがて安価なものを買い与えられることを嫌がるようになる。

 本当に欲しいものを買って貰える機会がなくなるからだ。

 それは甘やかされて育ったサリアも例外ではなかったようだ。


「俺はAもBも両方手に入れる。だからAがあるせいでBを我慢する理由にはならない!」

「!」

「中央市場に店舗進出できるだけの財力を得た後なら、最高級の錬金釜だって用意してやる!」

「ほんとー!」


 俺はそうした先入観を逆手に取って、自分が特別な理解者であることを強調した。

 そして、中央市場進出を目論む俺の夢と、サリアの願望を結び合わせた。

 俺と共に中央市場へ進出したい──彼女にそう思わせるには十分な動機付けだろう。


 数日後、俺たちは錬金釜を買うために中央市場へと来ていた。

 サリアはもちろんのこと、ルーナも同行している。

 比較的小さな錬金釜でも、俺の腕力では持ち運ぶのが大変だからだ。


「こいつがお前の拾った錬金術師か」

「ああ、お前と対面するのは初めてだったな」

「おう、こいつって武器を作れるのか?」

「作ったことはないし、作らせるつもりもない」

「えぇっ、何でだよ!」


 サリアは武器を作ったことがない。

 それはレシピを知らないからではない。

 一から錬金術で武器を作るのが、非効率な判断だからだ。


「ルーナ、お前はどうして鍛冶師が廃業せずにいるかを考えろ」

「ん、エルネストは何が言いたいんだ?」

「仮にサリアが錬金術で武器を作れても、鍛冶師に頼んだほうが安くて良いものができるってことだ」

「へー!」


 俺たちは雑談しながら、錬金釜を販売している店へと入っていった。

 俺の選んだ錬金釜は高さは約50cm、半径は30cmほどの大きさだ。

 これでも錬金釜としてはかなり小さい。

 価格も8万ゴールドと安くない出費だが、錬金釜としてはかなり安いほうだ。

 専業の錬金術師からは安物買いの銭失いと笑われる品選びかもしれないが、俺の家に置くにはこのサイズが限界だった。


「エルネスト、お前はこの程度すら持ち運べないのかよ」


 ルーナは俺が買った錬金釜を軽々と持ち上げる。


「非力で悪かったな」

「あはははっ」


 ルーナは笑う。

 ルーナは荷物運びを楽な仕事と口にするが、それは彼女に並外れた腕力があるからだ。

 小型の錬金釜でさえ15kgはあり、市場から俺の家までは結構な距離がある。

 ましてや荷物運びは魔物と戦わない安全な仕事だ。

 当然この手の仕事は報酬相場が安い。


 そのため、仕事が選べないFランク以下の冒険者が請け負う仕事だ。

 本来ならCランク冒険者のルーナがやる仕事ではない。


「サリアだっけか?」


 ルーナはサリアに話しかける。


「そうだよ」

「お前は何でエルネストとつるむようになったんだ?」

「錬金術を教えてくれるからだよ」

「こいつは錬金術師じゃねぇだろ」

「でも本業の人より詳しいよ」

「マジで?」

「うん!」


 ……ルーナ、勘違いするなよ。

 この間出会った錬金術師が浅学だっただけだ。


 俺たちはゆっくりと談笑しながら、自宅までの道のりを歩き続けた。


「この部屋に置いてくれ」


 自宅に帰ってきた俺は、すぐさまルーナに錬金釜の配置を指示した。


「おう」


 ルーナは錬金釜を指定された位置を置く。

 これで従来より大幅な増益を、そして新レシピの開発もしやすくなったことだろう。


「よーしっ、じゃあ景気付けにアタシからの調合依頼だ!」


 景気付けをしてくれるのはありがたいが、サリアはまだ個人依頼を受けられるほどではない。

 悪いが、ルーナの期待には応えられないと思う。


「魔剣エアレンディルの調合を頼むわっ!」

「おいっ、さっき武器製作は鍛冶師の仕事だって言っただろ!」

「あぁん、そうだっけ?」


 ルーナ、お前は興味のないことも少しは記憶に留めろ!

 しかもエアレンディルは、素材原価が200万ゴールドを超すんだぞ!

 お前は錬金術師を無から有を生み出す職人だと勘違いしているだろ……

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