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第九話 王都へ向かう少女

少女はしばらく俺たちを見ていた。


 俺たちも。


 何も言わずに少女を見る。


「……」


「……」


「……」


 妙な沈黙だった。


 さっきまで盗賊に追われていたというのに。


 今は何故か、自己紹介の途中で止まっている。


「……えっと」


 俺が口を開く。


「名前、教えてくれるんだよな?」


「あ」


 少女が瞬きをする。


「そうだった」


 そして。


 少女は服の裾についた泥を払った。


 破れた服。


 汚れた頬。


 ところどころ傷もある。


 それでも。


 妙に堂々としていた。


「私の名前は、セレナ」


「セレナ?」


「そう」


 少女――セレナは胸を張る。


「セレナ・アーデル」


「よろしく」


「……」


 セレナは俺の差し出した手を見る。


 それから。


 俺の顔を見る。


「握手?」


「そうだけど」


「あなた、変わってるわね」


「よく言われる」


 セレナは少し笑った。


 そして。


 俺の手を握る。


「よろしく。レオン」


「うん」


 その瞬間。


 セレナの指が。


 俺の手のひらを軽くなぞった。


「……?」


「何でもないわ」


「そう?」


「ええ」


 セレナは手を離す。


 だが。


 その視線は俺の剣へ向いていた。


「それ」


「これ?」


「さっきの短剣」


「うん」


「魔法?」


「違う」


「じゃあ何?」


「反射」


「……」


 セレナが眉を寄せる。


「反射?」


「そう」


「魔法じゃなくて?」


「能力」


「能力……」


 セレナは何かを考えるように黙った。


「変なの」


「それもよく言われる」


「ふふっ」


 セレナが笑った。


「本当に変な人ね」


 その笑顔を見て。


 俺は少しだけ警戒を解いた。


 だが。


 ミレイアは違った。


「レオンさん」


「ん?」


「その子」


「うん」


「少し怪しいです」


「……」


 セレナが振り向く。


「失礼ね」


「だって」


 ミレイアは杖を握ったままだ。


「盗賊に追われていたのに、あなたはほとんど怯えていませんでした」


「……」


「それに」


 ミレイアがセレナを見る。


「どうして王都へ行きたいんですか?」


 セレナの笑顔が。


 ほんの少し消えた。


「……」


「答えられませんか?」


「答えたくないだけ」


「それでは」


 ミレイアは杖を下ろさない。


「信用できません」


「ミレイア」


「レオンさん」


 ミレイアが俺を見る。


「私は反対です」


「……」


「この子を連れて行くのは危険だと思います」


 セレナがムッとする。


「私が危険だって言いたいの?」


「あなたが何者なのか分かりませんから」


「何者って」


「追われている理由も」


「……」


「王都へ行きたい理由も」


「……」


「全部、何も分かりません」


 セレナは黙った。


 俺は二人を見る。


 確かに。


 ミレイアの言うことは正しい。


 俺たちはセレナのことを何も知らない。


 だから。


「セレナ」


「何?」


「俺からも聞いていい?」


「どうぞ」


「盗賊に追われてた理由」


「……」


「話せる範囲でいい」


 セレナは。


 少しだけ空を見た。


「私が持っているものを狙ってるの」


「何を?」


「これ」


 セレナが首元から何かを取り出した。


 小さなペンダント。


 黒い石が埋め込まれている。


「魔石?」


 ミレイアが呟いた。


「ただの魔石じゃない」


 セレナが言う。


「私も詳しくは知らない」


「知らないの?」


「ええ」


「じゃあ、どうして持ってるの?」


「父から預かったから」


「父親?」


「……」


 セレナの表情が変わった。


「もう死んだけど」


「……ごめん」


「いいの」


 セレナはペンダントを握る。


「父は、これを絶対に誰にも渡すなって言ってた」


「それで盗賊が?」


「たぶん」


「たぶん?」


「盗賊だけじゃないと思う」


「……」


 セレナは周囲を見る。


「私を追っているのは、盗賊だけじゃない」


 風が吹く。


 森の葉が揺れた。


「王都へ行けば分かる」


「何が?」


「全部」


 セレナは俺を見る。


「父が何を恐れていたのか」


「……」


「どうして私が追われているのか」


「……」


「そして」


 セレナの指が。


 ペンダントを強く握る。


「この石が何なのか」


 俺は。


 その石を見つめた。


 黒い。


 ただそれだけの石。


 なのに。


 なぜか。


 目を離せなかった。


 * * *


「とりあえず」


 俺は言った。


「王都まで一緒に行く」


「レオンさん!」


 ミレイアが驚く。


「大丈夫」


「ですが……」


「このまま一人にするわけにもいかない」


「……」


「それに」


 俺はセレナを見る。


「王都に行けば、事情も分かるんだろ?」


「ええ」


「だったら行こう」


 セレナが目を丸くする。


「本当に?」


「うん」


「私、結構面倒なことに巻き込まれてるわよ」


「もう巻き込まれてる」


「……」


「さっき盗賊と戦ったし」


「それはそうだけど」


「今さらだろ」


 セレナが。


 ふっと笑った。


「あなた」


「ん?」


「お人好しね」


「そうかな」


「そうよ」


 ミレイアが小さく呟く。


「……私もそう思います」


「ミレイアまで?」


「でも」


 ミレイアはセレナを見る。


「私も一緒に行きます」


「ありがとう」


「勘違いしないでください」


 ミレイアが少しだけ頬を膨らませる。


「あなたを信用したわけではありません」


「分かってる」


「王都まで監視します」


「それなら助かる」


「……」


 セレナが俺とミレイアを見る。


「なんだか」


「?」


「仲がいいのね」


「そう?」


「そうよ」


 ミレイアの顔が赤くなる。


「な、何を言ってるんですか」


「ふふ」


 セレナは楽しそうに笑った。


 その笑い方を見て。


 俺は思った。


 この子。


 見た目よりずっと強い。


 そして。


 たぶん。


 かなり面倒な性格だ。


 * * *


 俺たちは街道を歩き始めた。


 王都までは二日ほど。


 途中に小さな宿場町があるらしい。


 そこまで行けば。


 今日は泊まれる。


「ねえ」


 歩き始めてしばらくすると。


 セレナが俺の隣に来た。


「何?」


「あなた」


「うん」


「本当に貴族?」


「一応」


「一応って何よ」


「転生したら貴族だった」


「……」


 セレナが止まった。


「何?」


「今なんて?」


「いや」


 俺は慌てて言い直す。


「生まれた家が貴族だったってこと」


「びっくりした」


「何が?」


「変なこと言うから」


「……」


 危ない。


 転生者だということは。


 まだ誰にも言っていない。


「じゃあ」


 セレナが歩きながら聞いてくる。


「お金持ち?」


「まあ」


「じゃあ宿代は?」


「俺が出す」


「ご飯は?」


「俺が出す」


「服が破れてるんだけど」


「……」


「買ってくれる?」


「それは」


「お願い」


 セレナが俺を見る。


 少しだけ上目遣い。


「……」


 俺はため息をついた。


「分かった」


「やった」


「でも」


「何?」


「その代わり」


「?」


「何か手伝って」


「もちろん」


 セレナが笑う。


「私、こう見えて役に立つから」


「何ができるの?」


「盗める」


「……」


「冗談じゃないわよ」


「え?」


「私、盗賊だったから」


 ミレイアが後ろから聞いていたらしい。


「……え?」


「正確には」


 セレナが訂正する。


「盗賊団にいた」


「なんで?」


「拾われたの」


「拾われた?」


「小さい頃にね」


 セレナは前を見る。


「そこで生き方を覚えた」


「じゃあ」


「鍵開け」


 指を一本。


「罠解除」


 二本。


「隠密」


 三本。


「短剣」


 四本。


「あと」


 セレナが笑う。


「人の懐から物を取るのも得意」


「……」


「便利でしょ?」


「かなり」


 ミレイアが呆れた顔をする。


「それは自慢していい技能なんでしょうか……」


「旅では便利よ」


「確かに」


 俺は頷いた。


 セレナは笑った。


「でしょ?」


 こうして。


 俺たちの旅に。


 また一人。


 新しい仲間が加わった。


 まだ。


 仲間と呼んでいいのかは分からないけど。


 * * *


 宿場町に着いたのは。


 日が沈む少し前だった。


「お腹空いた!」


 宿に入るなり。


 セレナが言った。


「……」


「何?」


「さっきまで格好いい感じだったのに」


「お腹が空けば誰だってこうなるわよ」


「そういうもの?」


「そういうもの」


 セレナは食堂のメニューを見る。


「……!」


 目が輝いた。


「何?」


「これ」


 指差した先。


 鹿肉のシチュー。


「これ食べたい」


「好きなの?」


「大好き」


「じゃあ頼もう」


「本当に?」


「うん」


「レオン、大好き」


「……」


 突然。


 そんなことを言われた。


「……」


「どうしたの?」


「いや」


「顔赤いわよ?」


「暑いだけ」


 ミレイアが。


 ものすごく微妙な顔をしている。


「……レオンさん」


「はい」


「この人」


「うん」


「距離感が近すぎませんか?」


「……俺もそう思う」


 セレナは笑っていた。


 だが。


 料理が運ばれてくると。


 そんなことはどうでもよくなったらしい。


「いただきます!」


 スプーンを持つ。


 一口。


「……!」


 目を閉じる。


「おいしい……」


「そんなに?」


「おいしいものを食べるために旅してるの」


「さっき王都に行くって」


「それは別」


 セレナはシチューを食べる。


「旅の一番の楽しみはご飯よ」


「なるほど」


 ミレイアが笑った。


「じゃあ、私が料理を作るときも食べてくれますか?」


「もちろん!」


「何が好きです?」


「甘いもの」


「……」


「特に焼き菓子」


「意外」


「何で?」


「もっと辛いものとか好きそうなので」


「私、見た目で判断されること多いのよ」


 セレナが頬を膨らませる。


「こう見えて甘党」


「覚えておく」


「本当に?」


「うん」


「じゃあ」


 セレナが俺を見る。


「次に何か買うとき」


「うん」


「甘いものにして」


「分かった」


 そんな。


 何でもない会話。


 だけど。


 俺は。


 こういう時間が。


 嫌いじゃなかった。


 * * *


 食事が終わった後。


 俺たちは部屋に戻った。


 三人部屋。


 ベッドが三つ。


「じゃあ」


 セレナが荷物を置く。


「私はここ」


「なんで俺の隣?」


「いいじゃない」


「ミレイアは?」


「私はここです」


 ミレイアが反対側のベッドを選ぶ。


「……」


 俺は真ん中。


「なんか落ち着かないな」


「そのうち慣れるわよ」


「慣れたくない」


「ひどい」


 セレナが笑う。


 そのとき。


 ミレイアが。


「セレナさん」


「何?」


「そのペンダント」


「……」


「少し見せてもらえませんか?」


 セレナの表情が変わった。


「どうして?」


「昼から気になっていました」


「魔石に?」


「はい」


 ミレイアが杖を取り出す。


「私、魔法学院で魔石について勉強していたので」


「……」


「何か分かるかもしれません」


 セレナは迷った。


 そして。


 ペンダントを外した。


「触るだけなら」


「ありがとうございます」


 ミレイアが受け取る。


 黒い石。


 指先で触れる。


「……」


「どう?」


「魔力が」


 ミレイアが眉を寄せる。


「ほとんどありません」


「え?」


「普通の魔石なら、内部に魔力が蓄積しています」


「じゃあ」


「これは違う」


 ミレイアが石を光にかざす。


 部屋の照明が。


 石の表面に当たる。


 その瞬間。


 黒い石が。


 淡く光った。


「……」


 俺は。


 思わず立ち上がった。


「何?」


 セレナが見る。


 石から。


 光が。


 少しだけ跳ね返った。


 壁に。


 そして。


 壁から。


 床へ。


 床から。


 天井へ。


 天井から。


 また石へ。


「……」


 ミレイアが息を呑む。


「これ」


「どうした?」


「普通じゃありません」


「それは見れば分かる」


「違います」


 ミレイアが石を見る。


「反射した光が」


「うん」


「減衰していない」


「……」


 俺も見る。


 確かに。


 普通なら。


 光は反射するたびに弱くなる。


 なのに。


 この光は。


 何度反射しても。


 ほとんど弱くならない。


 壁。


 床。


 天井。


 石。


 壁。


 床。


 天井。


 まるで。


 小さな光が。


 部屋の中を永遠に走っているようだった。


「……止められる?」


 セレナが聞く。


「たぶん」


 ミレイアが手をかざす。


 魔力を込める。


 すると。


 光が消えた。


「……」


 三人とも黙る。


 俺は。


 黒い石を見る。


 その感覚。


 どこかで覚えている。


「これ」


「レオンさん?」


「俺の能力と」


 言葉が止まる。


 同じ。


 とは言えない。


 だが。


 あまりにも似ている。


「何です?」


「……分からない」


 ミレイアが俺を見る。


「レオンさん」


「うん」


「もしかして」


「?」


「この石」


 ミレイアが。


 小さな声で言う。


「反射を記録しているんじゃないでしょうか」


「記録?」


「はい」


「どういうこと?」


「例えば」


 ミレイアが説明する。


「普通の鏡は光を反射します」


「うん」


「でも、この石は違う」


「……」


「一度起きた反射を」


 ミレイアは石を見る。


「まるで保存しているみたいです」


 俺は。


 言葉を失った。


 反射を。


 保存する。


 それが。


 俺の能力と。


 どう繋がる?


 そのとき。


 コンコン。


 扉が叩かれた。


「誰?」


 セレナがペンダントを隠す。


「宿の人じゃない?」


 ミレイアが言う。


 俺が扉を開ける。


「はい」


 誰もいない。


「……?」


 廊下を見る。


 誰もいない。


 だが。


 床に。


 一枚の紙が落ちていた。


「何これ?」


 拾う。


 紙には。


 短い文章が書かれていた。


『その石を王都へ持っていくな』


「……」


 俺は。


 ミレイアを見る。


 セレナを見る。


「誰から?」


 セレナの顔が。


 青ざめた。


「……この文字」


「知ってる?」


「ええ」


 セレナが紙を受け取る。


「父の字よ」


「……」


 空気が。


 凍った。


「でも」


 セレナの手が震える。


「父は死んでる」


 俺は。


 紙を見る。


「それなのに」


 セレナが呟く。


「どうして……?」


 * * *


 その夜。


 俺たちはほとんど眠れなかった。


 翌朝。


 宿を出る。


 セレナは。


 いつものように明るかった。


 だが。


 無理をしているのが分かる。


「セレナ」


「何?」


「大丈夫?」


「大丈夫」


「本当に?」


「……」


 セレナは笑う。


「大丈夫じゃない」


「……」


「怖いわよ」


 初めて。


 弱音を吐いた。


「父は三年前に死んだ」


「うん」


「私がまだ盗賊団にいた頃」


「……」


「その人が」


 セレナは紙を見る。


「今さら私に警告してくるなんて」


「何か理由がある」


「そうね」


「だから」


 俺は言った。


「王都へ行こう」


「え?」


「この紙を書いた奴が誰なのか」


「……」


「それを調べよう」


 セレナは。


 しばらく俺を見る。


 そして。


「分かった」


 小さく頷いた。


「行きましょう」


 * * *


 王都へ向かう道。


 昼頃。


 森を抜ける。


 その先に。


 巨大な街道があった。


 そして。


 遠く。


 城壁が見えた。


「王都……」


 ミレイアが呟く。


「大きいな」


 俺も思わず声が出る。


 城壁の上には。


 兵士が並んでいる。


 巨大な門。


 その向こうには。


 無数の建物。


 これまで見た街とは。


 規模が違う。


「ここから」


 セレナが言った。


「全部始まる」


「何が?」


「分からない」


「……」


「でも」


 セレナは。


 ペンダントを握る。


「父が最後に言っていた」


「何を?」


「もし何かあったら」


 セレナが。


 俺を見る。


「王都の地下へ行けって」


「地下?」


「ええ」


「何があるんだ?」


「知らない」


「じゃあ」


「だから行くの」


 セレナは笑った。


「知らないから」


 そのとき。


 王都の門が。


 大きな音を立てて開いた。


 だが。


 俺たちを迎えるためではなかった。


 中から。


 大量の兵士が走ってくる。


「何だ?」


 ルナが剣に手をかける。


 兵士たちが。


 一斉に街道を封鎖した。


「止まれ!」


 先頭の兵士が叫ぶ。


「全員、その場から動くな!」


「……」


 俺たちは止まった。


 兵士がこちらへ近づいてくる。


「名前を確認する!」


「レオンです」


「……レオン?」


 兵士の顔が変わる。


 そして。


 後ろにいるセレナを見る。


「その女は?」


「セレナ」


 答えた瞬間。


 兵士が剣を抜いた。


「セレナ・アーデルだな!」


「……!」


 セレナが一歩下がる。


「王都より指名手配が出ている!」


「え?」


 俺は兵士を見る。


「何の罪で?」


「国家機密の持ち出し」


「……」


 セレナの顔が。


 完全に固まった。


「待って」


 俺が言う。


「彼女は――」


「抵抗するなら全員拘束する!」


 兵士たちが武器を構える。


 ミレイアも。


 ルナも。


 それぞれ武器を構えた。


「レオンさん」


 ミレイアが小声で言う。


「どうします?」


「……」


 俺は。


 セレナを見る。


 セレナは。


 ペンダントを握っている。


 その顔から。


 さっきまでの笑顔は消えていた。


「……レオン」


「うん」


「逃げてもいい」


「何で?」


「私一人なら」


 セレナは。


 少しだけ笑う。


「逃げられるから」


「……」


「でも」


 俺は剣を抜いた。


「一人じゃないだろ」


「……え?」


「俺たち」


 ミレイアが杖を構える。


「そうですね」


 ルナも剣を抜いた。


「今さら置いていくのもね」


 セレナが。


 目を見開く。


「……本当に?」


「うん」


 俺は前を見る。


 兵士たち。


 王都。


 そして。


 その向こうにある。


 まだ見えない何か。


「王都へ行くんだろ?」


「……」


「だったら」


 俺は笑った。


「正面から入ろう」


 兵士たちが一斉に走り出す。


 俺は。


 剣を構えた。


「反射――」


 その瞬間。


 セレナが。


「待って!」


 叫んだ。


「何?」


「兵士を傷つけないで!」


「……」


 セレナは。


 兵士たちを見る。


「この人たちは何も知らない」


「でも」


「私が悪いなら」


 セレナが前へ出る。


「私が説明する」


「セレナ!」


 ミレイアが叫ぶ。


 セレナは。


 ペンダントを外した。


 そして。


 地面に置いた。


「これを見せる」


「何を?」


「王都の人間なら」


 セレナは。


 黒い石を見る。


「これを見れば分かるはず」


 次の瞬間。


 黒い石が。


 光った。


 周囲の光が。


 一瞬。


 すべて石へ吸い込まれたように見えた。


 そして。


 次の瞬間。


 光が。


 無数に分裂した。


 空へ。


 地面へ。


 城壁へ。


 森へ。


 そして。


 王都の奥へ。


 反射して。


 反射して。


 反射して。


 まるで。


 王都そのものを巨大な鏡に変えるように。


「な……」


 兵士たちが立ち止まる。


 俺は。


 その光景を見つめていた。


 そして。


 聞こえた。


 声が。


 どこからともなく。


『――反射を確認』


「……!」


 俺の頭の中に。


 聞き覚えのない声が響く。


『無限化能力者を確認』


 俺は。


 息を呑んだ。


『接続を開始します』


「何だ……?」


 世界が。


 一瞬。


 白く染まった。


 そして。


 その瞬間だけ。


 俺には見えた。


 王都の地下。


 巨大な空間。


 そこに並ぶ。


 無数の黒い石。


 そして。


 中央に。


 巨大な鏡。


 その前に立つ。


 銀髪の男。


「……」


 男が。


 こちらを見る。


 まるで。


 俺を。


 待っていたかのように。


『ようやく来たか』


 声が。


 頭の中に響く。


『反射を無限にした者よ』


 視界が戻る。


 俺は。


 その場に立っていた。


「……今の」


 誰も。


 何も見ていない。


 ミレイアが心配そうに俺を見る。


「レオンさん?」


「……」


 俺は。


 王都を見る。


 巨大な城壁。


 無数の建物。


 その地下。


 そこに。


 何かがある。


 確信できた。


 俺の能力と。


 セレナの父親と。


 三年前のミレイアの事故と。


 黒い魔石。


 そして。


 俺がこの世界へ転生したこと。


 全部が。


 まだ一本の線にはなっていない。


 だが。


 確実に。


 同じ場所へ向かっている。


 王都。


 その地下へ。


「レオンさん」


 ミレイアがもう一度呼ぶ。


「大丈夫ですか?」


「ああ」


 俺は頷いた。


「大丈夫」


 そして。


 セレナを見る。


 彼女は。


 俺の顔をじっと見ていた。


「……今」


「うん」


「何か見た?」


「……」


 俺は少し迷って。


「見た」


 と答えた。


「王都の地下に」


 セレナの表情が変わる。


「何かがある」


「……」


「俺たちが探していたものが」


 俺は。


 王都を見つめる。


「たぶん、全部そこに繋がってる」


 セレナが。


 ペンダントを握った。


「……じゃあ」


 彼女は小さく笑った。


「行きましょう」


 その笑顔には。


 もう逃げる者の怯えはなかった。


 自分から。


 何かを確かめに行く者の顔だった。


 俺たちは。


 王都へ向かって歩き始めた。


 だが。


 そのとき。


 俺はまだ知らなかった。


 王都の地下に眠るものが。


 俺の「反射」という力の秘密だけではなく。


 この世界そのものの成り立ちに関わるものだということを。


 そして。


 神様が俺に。


 なぜ「反射」を選ばせたのか。


 その答えもまた。


 この王都の地下で。


 少しずつ。


 姿を現し始めることになる。

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