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第六話 湖畔の街で、魔法使いと出会った

翌朝。


「レオンさん、起きてください」


「……ん」


「朝ですよ」


「……あと五分」


「駄目です」


「あと三分」


「駄目です」


「じゃあ一分」


「起きてください」


「……」


 俺は布団に顔を埋めた。


 昨日は色々ありすぎた。


 リーネ湖畔都市に到着して。


 ミレイアと出会って。


 風魔法を反射して。


 湖では魔物に襲われた少年を助けて。


 夜には湖の底から妙な音まで聞こえた。


 正直。


 疲れている。


「レオンさん」


「……何?」


「起きないなら、魔法を使います」


「……」


 俺は目を開けた。


「起きました」


「おはようございます」


「おはよう」


 ベッドの横に立っているのはミレイアだった。


 昨日と同じ杖を背負い、髪を整えている。


 ただ。


 寝起きの俺とは違って、やたらと元気だ。


「朝から元気だな」


「今日は楽しみにしていた日ですから」


「何かあったっけ?」


「魔法具店です!」


「ああ……」


 昨日、そんな話をした気がする。


「あと魔法学院の図書館も」


「そんなところまで行けるの?」


「一般開放されている場所があります」


「へえ」


「それから――」


 ミレイアが指を折っていく。


「湖畔の市場」


「うん」


「魔法薬店」


「うん」


「魔道具の露店」


「うん」


「それと、美味しい魚料理のお店」


「最後だけ急に普通だな」


「重要ですよ?」


「まあ、それはそう」


 俺が起き上がると。


 ミレイアが少しだけ後ろへ下がった。


「……?」


「どうした?」


「いえ」


 ミレイアは俺を見る。


「レオンさんって、寝起きだと雰囲気が違いますね」


「そう?」


「はい」


「どんな?」


「少し無防備というか」


「寝起きだからな」


「それに」


 ミレイアがじっと俺を見る。


「思っていたより――」


「?」


「……何でもありません」


「気になるんだけど」


「秘密です」


 ミレイアは笑った。


「早く着替えてください」


「はいはい」


 ミレイアが部屋を出ていく。


 扉が閉まる。


「……何だったんだ?」


 俺は首を傾げた。


 * * *


 食堂へ行くと。


 すでにルナが待っていた。


「おはよう」


「おはよう」


「遅かったね」


「ミレイアに起こされた」


「そう」


 ルナがミレイアを見る。


「朝から部屋まで行ったの?」


「はい」


「へえ」


「何?」


「別に」


 まただ。


 昨日からルナが時々こんな顔をする。


「何か怒ってる?」


「怒ってない」


「じゃあ何?」


「何でもない」


「……」


 ミレイアが俺の隣に座る。


「朝ご飯、何にします?」


「魚」


「朝から?」


「この街なら魚だろ」


「私も魚にします」


 ルナはパンを一口食べて。


「私は普通にパンでいい」


「魚、美味しいよ?」


「朝から重い」


「そう?」


「うん」


 三人で朝食を取る。


 昨日までなら。


 俺とルナの二人だった。


 でも。


 今日からは三人。


 たった一人増えただけなのに。


 なんとなく。


 旅の雰囲気が変わった気がした。


「食べ終わったら、まず魔法具店ですね!」


「分かった」


「その後は図書館です!」


「分かったって」


「楽しみですね!」


「ミレイアは本当に魔法が好きなんだな」


「もちろんです」


 ミレイアは胸を張った。


「私は魔法が大好きです」


「どのくらい?」


「一日中魔法のことを考えていられます」


「それはすごい」


「でも」


 ルナが言った。


「昨日みたいな失敗は駄目だよ」


「……」


 ミレイアが固まる。


「昨日のことは忘れてください」


「無理」


「お願いします」


「無理」


「レオンさん!」


「だって面白かったし」


「もう!」


 ミレイアが頬を膨らませる。


 俺は笑った。


 こういうやり取りも。


 悪くない。


 * * *


 食事を終え。


 俺たちは街へ出た。


 リーネ湖畔都市は朝から賑わっていた。


 湖へ向かう観光客。


 魚を運ぶ漁師。


 荷物を積んだ商人。


 冒険者らしき人たち。


 街の至るところに露店が並んでいる。


「すごいな」


「観光地だからね」


 ルナが答える。


「湖だけじゃなくて、魔法関係でも有名なんですよ」


 ミレイアが説明する。


「この地方は魔力の濃い土地が多くて、昔から魔法研究が盛んなんです」


「だから魔法学院があるのか」


「はい」


「じゃあ、ミレイアもそこで勉強してた?」


「……」


「違う?」


「少しだけ」


「少し?」


「途中で辞めました」


「何で?」


 ミレイアは歩きながら黙った。


「……ちょっと、色々ありまして」


「そっか」


 俺はそれ以上聞かなかった。


 ミレイアの表情が。


 ほんの少しだけ曇ったからだ。


「まあ」


 すぐにミレイアは笑う。


「今は旅をしてますから」


「そうだな」


「レオンさんと一緒に」


「……」


 その言い方。


 妙に嬉しい。


「まあ、しばらくは一緒だな」


「はい」


 ミレイアが笑う。


 そのとき。


「着きました!」


 目の前に。


 大きな店があった。


 看板には。


【魔道具商会 リーネ支店】


 と書かれている。


「ここ?」


「はい!」


 ミレイアの目が輝く。


「入りましょう!」


 * * *


 店の中には。


 見たこともない道具が大量に並んでいた。


 小さな魔石。


 光るランタン。


 勝手に動く箒。


 温度を調整する箱。


 水を作る道具。


「何でもあるな……」


「魔道具ですから」


 ミレイアは棚を見て回る。


「これは風属性」


「へえ」


「こっちは火属性」


「何に使うの?」


「調理用です」


「便利だな」


「こっちは防犯用」


「どんな?」


「侵入者が入ると音が鳴ります」


「それなら普通の警報器みたいなものか」


「そうですね」


 ミレイアが楽しそうに説明してくれる。


 完全に。


 目が子供だ。


 好きなものを見つけた子供そのもの。


「これ欲しい……」


 ミレイアが一つの魔道具を手に取った。


 小さな銀色のペンダント。


「何それ?」


「魔力を蓄える魔道具です」


「魔力を?」


「はい。自分の魔力を少しずつ貯めておいて、必要なときに使えるんです」


「便利じゃん」


「高いんですけどね」


 値札を見る。


「……高い」


 俺も驚く。


 普通の冒険者が気軽に買える金額じゃない。


「諦める?」


「はい」


 ミレイアはペンダントを戻した。


 少しだけ名残惜しそうだった。


「欲しいなら買えば?」


「え?」


「必要なんだろ?」


「でも……」


「旅の仲間なんだから、役立つものなら買ってもいいだろ」


「レオンさん……」


「まあ、俺も全部出すとは言ってないけど」


「そこは出してくれないんですね」


「当たり前だろ」


 ミレイアが笑う。


「冗談です」


 そう言ったが。


 やっぱり。


 少し残念そうだった。


 * * *


 店を出る。


「楽しかったです」


「よかったな」


「はい」


「何か買わなくてよかったの?」


「大丈夫です」


「そう?」


「はい」


 ミレイアは笑う。


 だが。


 しばらく歩いたところで。


「……」


 急に立ち止まった。


「どうした?」


「レオンさん」


「ん?」


「少しだけ、付き合ってもらえませんか?」


「どこに?」


「魔法学院」


「今から?」


「はい」


 ルナを見る。


「私は別にいいよ」


「じゃあ行こう」


 * * *


 魔法学院は。


 街の中心から少し離れた場所にあった。


 巨大な石造りの建物。


 塔がいくつも立ち並び。


 周囲には魔法結界らしきものが張られている。


「すごい……」


 俺は思わず声を漏らした。


「ここで魔法を勉強してたの?」


「はい」


「ミレイアが?」


「昔は」


 ミレイアの表情が変わる。


「少しだけ」


 入口へ向かう。


 門番に話をすると。


「図書館だけなら一般利用できます」


 と言われた。


「ありがとうございます」


 中へ入る。


 図書館には。


 大量の本が並んでいた。


 魔法理論。


 属性魔法。


 魔物学。


 魔法史。


 古代魔法。


 そして。


 反射魔法。


「……」


 俺はその棚の前で足を止めた。


「レオン?」


「これ」


 本を手に取る。


【反射魔法概論】


 ページをめくる。


 そこには。


 反射魔法は。


 相手の魔法を受け止め。


 術式によって方向を変える魔法。


 そう書かれていた。


「普通の反射魔法って、こういうものなのか」


「はい」


 ミレイアが隣から覗き込む。


「かなり難しいですけどね」


「俺の能力とは違うな」


「全然違います」


 ミレイアが本を読む。


「普通の反射魔法は、魔法の構造を理解して、その術式に合わせて跳ね返します」


「俺の場合は?」


「反射を無限化する」


「うん」


「だから」


 ミレイアは俺を見る。


「相手の魔法そのものを理解しなくても、条件さえ成立すれば反射できる」


「そういうことか」


 これは。


 かなり重要な違いだ。


 俺は魔法を反射できる。


 でも。


 それは俺が「反射魔法」を使っているわけではない。


 俺の能力そのものが。


 反射という現象を無限化している。


「……」


 俺はページをめくる。


 そして。


 一つの記述に目が止まった。


【反射とは、対象が何らかの形で接触・干渉した際に、その作用の方向が変化する現象を指す】


「……」


 俺はその文章を読む。


「これって」


「はい」


 ミレイアが頷く。


「レオンさんの能力と相性がいいと思います」


「そうだな」


 反射というのは。


 単純に。


 物体が跳ね返ることだけじゃない。


 「作用の方向が変わること」。


 もし。


 その範囲が広いなら。


 俺の能力は。


 もっと。


 とんでもないことができるかもしれない。


 だが。


「……まだ分からないな」


「はい」


 ミレイアも頷く。


「だから研究する価値があります」


「またそれか」


「だって面白いですから」


 ミレイアが笑った。


 * * *


 そのとき。


「……ミレイア?」


 背後から声がした。


 ミレイアが固まる。


 俺も振り返った。


 そこには。


 黒いローブを着た女性が立っていた。


 三十歳前後。


 眼鏡をかけ。


 長い黒髪を後ろで束ねている。


「……先生」


 ミレイアが小さく呟いた。


「久しぶりね」


「はい」


「どうしてここに?」


「少し本を見に」


「そう」


 女性はミレイアを見る。


 そして。


 俺たちを見る。


「旅をしているの?」


「はい」


「そう」


 女性は少し笑った。


「あなたらしいわね」


「……」


 ミレイアは黙った。


 俺は気になった。


「先生?」


「私はこの学院の講師です」


 女性が答える。


「ミレイアの元指導教官でした」


「そうなんですか」


「ええ」


 先生はミレイアを見る。


「魔法の才能だけなら、学院でも上位だったわ」


「……」


「でも」


 そこで言葉を切る。


「少し、危なっかしい子だった」


「今もです」


 俺が言う。


「レオンさん!」


 ミレイアが抗議する。


 先生が笑った。


「そうみたいね」


 そして。


 俺を見た。


「あなたは?」


「レオンです」


「レオン君」


 先生は俺の目を見る。


「……妙な魔力の流れね」


「え?」


「あなた、何か特殊な魔法を使うでしょう?」


 俺は答えなかった。


 先生はそれ以上聞かなかった。


「まあいいわ」


 そして。


 ミレイアに向き直る。


「また無茶をしないように」


「はい」


「それと」


 先生は少しだけ声を落とした。


「もし、あの件について何か分かったら連絡しなさい」


 ミレイアの表情が変わった。


「……はい」


「じゃあね」


 先生は去っていった。


 俺はミレイアを見る。


「……あの件って?」


「……」


 ミレイアはしばらく黙った。


「昔のことです」


「そう」


「今は関係ありません」


「分かった」


 俺はそれ以上聞かなかった。


 * * *


 図書館を出る。


 外は昼過ぎ。


 湖から風が吹いている。


「……」


 ミレイアは黙って歩いていた。


「ミレイア」


「はい?」


「無理に話さなくていいからな」


「……」


 ミレイアが俺を見る。


「レオンさん」


「ん?」


「ありがとうございます」


「何が?」


「聞かないでいてくれて」


「話したくないなら、それでいいだろ」


「……」


 ミレイアが少しだけ笑った。


「優しいんですね」


「普通だよ」


「そういうところです」


「何が?」


「……何でもありません」


 まただ。


 ミレイアは時々。


 俺がよく分からないことを言う。


「でも」


 ミレイアが歩きながら言う。


「いつか話します」


「ん?」


「私のこと」


「そう?」


「はい」


「じゃあ、そのとき聞く」


「約束ですよ?」


「分かった」


 ミレイアが笑う。


 その笑顔は。


 昨日までより。


 少しだけ距離が近く感じた。


 * * *


 午後。


 俺たちは湖畔の市場へ向かった。


「おお……」


 魚。


 果物。


 魔法薬。


 アクセサリー。


 服。


 食べ物。


 何でも売っている。


「これ食べたい」


 ミレイアが串焼きを指差す。


「さっき昼食べただろ」


「別腹です」


「魔法使いって別腹まで魔力でできてるの?」


「違います」


 ルナが笑う。


「買ってあげたら?」


「ルナが甘やかしてどうする」


「私は何も買ってないよ」


「そういう問題じゃない」


 結局。


 三人分の串焼きを買った。


「いただきます」


 ミレイアが嬉しそうに食べる。


「美味しい!」


「よかったな」


「はい!」


 ミレイアが笑いながら。


 俺の方へ串を差し出した。


「レオンさんも」


「俺?」


「一口どうです?」


「……」


 少し迷う。


「いいの?」


「はい」


 俺は串を一口食べた。


「うまい」


「でしょう?」


 ミレイアが嬉しそうに笑った。


 ルナが隣で。


「……」


 無言で自分の串を食べている。


「ルナ?」


「何?」


「いや」


「何でもない」


「また?」


「何でもないって」


 そう言いながら。


 ルナの頬が少し膨らんでいた。


 * * *


 その後。


 俺たちは湖畔を歩いた。


 水面は穏やかだった。


 昨日見た巨大な影も。


 今日は見えない。


「昨日の魔物」


 俺が言う。


「湖の中にいたやつ?」


「うん」


 ミレイアが答える。


「気になりますか?」


「少し」


「調べてみます?」


「いや」


 俺は首を振る。


「今日はいい」


「どうして?」


「せっかくの休日だし」


 俺は湖を見る。


「毎日魔物退治じゃ疲れるだろ」


「……」


 ミレイアが笑った。


「そうですね」


 ルナも頷く。


「私も賛成」


「じゃあ今日は平和に過ごそう」


 三人で湖畔のベンチに座る。


 何も起きない。


 誰も襲ってこない。


 魔物も出ない。


 ただ。


 湖を眺めて。


 買った菓子を食べて。


 どうでもいい話をする。


「そういえば」


 ルナが言った。


「レオンって、前はどんな生活してたの?」


「前?」


「旅に出る前」


「……」


 一瞬。


 前世のことが頭をよぎった。


 でも。


「普通だよ」


 俺は答えた。


「どこにでもいるような生活」


「仕事してた?」


「してた」


「大変だった?」


「まあまあ」


「じゃあ」


 ミレイアが聞く。


「今の方が楽しいですか?」


「……」


 俺は湖を見る。


「うん」


 即答だった。


「今の方が楽しい」


 ルナが笑う。


「そっか」


「うん」


 ミレイアも。


「私も」


 そう言った。


 * * *


 夕方。


 宿へ戻る。


 今日は何も起きなかった。


 ……いや。


 十分色々あった気もする。


 魔道具店。


 学院。


 昔の先生。


 市場。


 湖。


 そして。


 ミレイア。


「……」


 俺は部屋の窓から湖を見る。


 今日は静かだ。


 昨日聞こえた音もない。


 湖の底に何かがいるという話も。


 今は忘れていい。


 俺はベッドへ腰を下ろす。


 そのとき。


 コンコン。


 扉が鳴った。


「誰?」


「ミレイアです」


「どうした?」


「少しだけ」


 扉を開ける。


 ミレイアが立っていた。


 昼間とは違って。


 髪を下ろしている。


 白い寝間着。


 少し大きめの服なのか。


 肩がわずかに見えていた。


「……」


「どうしました?」


「いや」


 俺は目を逸らす。


「何でもない」


「?」


 ミレイアは首を傾げる。


「少し話したくて」


「うん」


 俺は部屋の外へ出る。


「ここで話そう」


「はい」


 二人で廊下の窓際へ行く。


 夜の湖が見える。


「綺麗ですね」


「ああ」


「私」


 ミレイアが言った。


「今日、楽しかったです」


「俺も」


「学院に行くのは、少し怖かったんです」


「先生に会ったから?」


「はい」


「でも」


 ミレイアは湖を見る。


「レオンさんとルナさんが一緒だったので、大丈夫でした」


「そっか」


「だから」


 ミレイアがこちらを見る。


「これからも」


「ん?」


「一緒に旅をしてもいいですか?」


「もちろん」


「……本当に?」


「もう仲間だろ」


「……」


 ミレイアは少しだけ目を伏せた。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


「それと」


「ん?」


「私」


 ミレイアが一歩近づく。


「レオンさんのこと、もっと知りたいです」


「俺を?」


「はい」


「なんで?」


「興味があるから」


「能力に?」


「……」


 ミレイアが笑った。


「それだけじゃありません」


「……」


 胸が。


 少しだけ跳ねた。


「そっか」


「はい」


 ミレイアは笑う。


「おやすみなさい」


「ああ」


 ミレイアが自分の部屋へ戻っていく。


 俺はその背中を見送る。


「……」


 何だったんだ。


 いや。


 なんとなく分かる。


 分かるけど。


 まだ。


 俺自身が。


 どう受け取ればいいのか分からない。


「……まあ」


 俺も部屋へ戻る。


 そして。


 ベッドへ横になる。


 明日も。


 たぶん。


 今日みたいな日になる。


 観光して。


 食事して。


 魔法を見て。


 時々魔物を倒して。


 仲間と笑う。


 そんな日々。


 それでいい。


 今は。


 それが楽しい。


 * * *


 その夜。


 リーネ湖の底。


 人の目には届かない深さ。


 暗闇の中で。


 一つの巨大な瞳が開いた。


 湖底に沈んでいるのは。


 巨大な魔石だった。


 その表面には。


 無数のひびが走っている。


 そして。


 そのひびの一つから。


 淡い光が漏れていた。


 ――反射。


 湖底に差し込んだ月明かりが。


 魔石に触れる。


 光が反射する。


 反射した光が。


 別の場所へ。


 そこから。


 さらに反射。


 さらに。


 さらに。


 終わらない。


 まるで。


 何かが。


 「反射」という現象を。


 待っているかのように。


 * * *


 翌朝。


「レオンさん!」


「……」


「起きてください!」


「……また?」


「はい!」


「今日は何?」


「湖で遊びましょう!」


「……」


「泳ぎましょう!」


 俺は目を開けた。


「本当に?」


「はい!」


「魔物いるかもしれないぞ」


「大丈夫です!」


「昨日、湖の底に巨大な何かがいるって言ってなかった?」


「……」


 ミレイアが固まる。


「それは」


「それは?」


「……忘れましょう」


「忘れられるか!」


 廊下からルナの声が聞こえた。


「朝からうるさいよ!」


「ごめん!」


「ごめんなさい!」


 俺は笑う。


 ミレイアも笑う。


 ルナも呆れながら笑っている。


 そんな朝だった。


 この街に来て。


 まだ二日。


 旅は始まったばかり。


 何が待っているのかなんて。


 俺には分からない。


 ただ。


 今は。


 この三人で旅をすることが。


 少しだけ楽しみになっていた。


 そして。


 俺はまだ知らない。


 この先。


 旅の途中で。


 俺たちの前に。


 さらに多くの仲間が現れることを。


 戦う力を持つ者。


 生き残る術を持つ者。


 そして。


 俺の「反射」という力とは。


 まったく違う形で。


 俺の旅を支えてくれる者たち。


 その一人目として。


 魔法使い――ミレイアとの旅は。


 まだ始まったばかりだった。

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