第二十五話 最後の一日前
地下に広がる巨大な門の間には、無数の鏡が浮かんでいた。
それぞれの鏡には異なる世界が映し出されていて、燃え尽きた王都もあれば、雪に閉ざされた王都もあり、見たこともない文明の街並みが広がっているものもあったが、そのどれもが現実と同じように人の営みを抱えているように見え、ただの幻影として片付けるにはあまりにも生々しい気配を放っていた。
俺たちは、その中心にある黒い柱を囲むようにして立っていた。
柱の表面には、さっきまで存在していなかった文字が浮かんでいる。
『選択開始』
その文字は赤く明滅しながら、一定の間隔で光を強めていた。
そして。
そのたびに、周囲の鏡の数が増えていく。
「……増えてる」
セレナが呟いた。
「ああ」
俺も頷く。
最初にこの場所へ入ったときには、せいぜい数十枚だった鏡が、今では百枚を超えている。
いや。
正確な数なんて、もう数える意味がない。
壁にも。
床にも。
天井にも。
何もない空間にまで。
鏡が浮かび続けている。
「世界が増えているのか?」
ルナが訊いた。
「違う」
アルベルトが答える。
「世界そのものが増えているわけではない」
「じゃあ、何が増えてる?」
「可能性だ」
アルベルトは中央の柱を見上げた。
「この門は、世界を繋いでいるんじゃない」
「……」
「世界に存在した可能性を、すべて同じ場所へ集めている」
俺は鏡の一枚を見る。
そこには、俺たちの王都とよく似た街が映っていた。
ただし。
王城がない。
代わりに巨大な塔が建っている。
「じゃあ、あれも?」
「ああ」
「実際に存在した世界なのか?」
「分からない」
「またそれか」
俺が苦笑すると、アルベルトは少しだけ目を細めた。
「だが、一つだけ確かなことがある」
「何だ?」
「この門が完成すれば、可能性と現実の境界がなくなる」
ミレイアが息を呑んだ。
「つまり……」
「別の世界が、こちらへ来られる」
「……」
「そして、こちらの世界も向こうへ流れ込む」
その言葉を聞いた瞬間。
俺は、さっき見た鏡の中の「俺」を思い出した。
『今度は、お前たちが俺たちを選ぶ』
あいつが言った言葉。
あれが本当なら。
俺たちが今まで考えていた「選択」とは、少し違う。
今までは。
俺が世界を選ぶ。
俺がリゼリアを選ぶ。
俺が自分を選ぶ。
そういう話だった。
けれど。
今回は違う。
世界の方から。
俺たちを選ぼうとしている。
「……アルベルト」
「何だ?」
「俺たちは、何を選ばされる?」
アルベルトは答えなかった。
しばらくして。
「まだ分からない」
そう言った。
その返事を聞いて、俺は中央の柱へ近づいた。
柱の表面には、無数の細い亀裂が走っている。
その亀裂の一つから。
赤い光が漏れていた。
俺が手を伸ばす。
「レオンさん」
ミレイアが呼ぶ。
「大丈夫だ」
そう答えてから、俺は柱へ触れた。
瞬間。
頭の中に、膨大な映像が流れ込んできた。
燃える王都。
雪に沈む王都。
誰もいない王都。
リゼリアが一人で立っている世界。
俺が剣を握っている世界。
ミレイアが泣いている世界。
セレナが父親と笑っている世界。
ルナが誰かを守るために戦っている世界。
アルベルトが一人で王城の前に立っている世界。
そして。
俺たち全員が。
何も失わずに生きている世界。
「……!」
俺は反射的に手を離した。
息が荒くなる。
「レオン!」
ミレイアが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「ああ……」
俺は膝に手をついて呼吸を整える。
「何を見た?」
アルベルトが訊く。
「いろんな世界だ」
「何か重要なものは?」
「……全部だ」
「全部?」
俺は顔を上げた。
「全部の世界に、俺たちがいた」
「それは当然だ」
「違う」
俺は首を振った。
「俺たちがいたんじゃない」
「……?」
「俺たちになる前の可能性が、全部あった」
アルベルトが黙った。
「どういう意味ですか?」
ミレイアが訊く。
「分からない」
そう答えたあと。
俺は少し考えた。
「でも、たぶん……世界が俺たちを作ったんじゃない」
「では?」
「俺たちが選択した結果で、世界が形を変えてきた」
自分で言っておきながら、確信はなかった。
けれど。
これまで見てきたものを繋げると、それが一番近い気がした。
六つの周期。
六つの世界。
六つの結末。
そのすべてで、俺は何かを選び続けた。
その選択によって。
世界が変わった。
つまり。
世界は最初から一つではなかったのかもしれない。
「それなら」
ミレイアが静かに言った。
「第七周期も……」
「ああ」
「まだ決まっていない?」
「たぶん」
俺は彼女を見る。
「だから、選ばれなかった世界がこっちを狙ってる」
「……」
「第七周期が、まだ何も決めてないから」
その瞬間。
中央の柱が大きく震えた。
ゴォン――。
低い音が地下空間全体へ響き渡る。
無数の鏡が一斉に揺れた。
「来るぞ!」
ルナが剣を構える。
鏡の一枚が。
ゆっくりとこちらへ向きを変えた。
そこに映っていたのは。
俺だった。
ただし。
今の俺よりも遥かに傷ついている。
服は血で汚れ。
頬には大きな傷が走っている。
それでも。
その目だけは。
妙に落ち着いていた。
『第七周期』
鏡の中の俺が言う。
「……」
『お前は、まだ何も理解していない』
「だったら教えろ」
『教える必要はない』
「何?」
『思い出せばいい』
その瞬間。
頭の奥が激しく痛んだ。
「っ……!」
膝をつく。
「レオンさん!」
ミレイアが俺の肩を支える。
だが。
痛みは止まらない。
頭の中に。
知らない記憶が流れ込んでくる。
誰かと歩いている。
誰かと話している。
誰かに笑いかけている。
そして。
誰かを抱きしめている。
その相手は。
リゼリア。
「……リゼリア」
俺の口から名前が漏れた。
ミレイアが息を呑む。
「レオンさん?」
映像が変わる。
今度は。
俺がリゼリアに剣を向けている。
彼女は泣いている。
「違う……」
俺は頭を抱える。
また映像が変わった。
今度は。
リゼリアが俺に剣を向けている。
その顔は。
泣いているのに。
笑っていた。
『ごめんなさい』
声が聞こえる。
『これで、終わらせます』
「やめろ……」
映像がさらに変わる。
ミレイアがいる。
俺の隣に。
笑っている。
俺も笑っている。
その世界では。
何も起きていない。
平和だった。
そして。
俺は。
ミレイアの手を握っていた。
『一緒に行こう』
俺が言う。
ミレイアが笑う。
『はい』
次の瞬間。
世界が崩壊した。
「……!」
俺は目を見開いた。
「何だ……今の……」
ミレイアが俺の顔を見る。
「何を見たんですか?」
「お前と……」
言葉が止まる。
言っていいのか分からなかった。
「私と?」
「一緒にいる世界だ」
「……」
「でも、その世界も壊れた」
ミレイアは少し俯いた。
「どうして?」
「分からない」
「……」
ミレイアはしばらく黙っていた。
そして。
「だったら」
顔を上げる。
「壊れない方法を探しましょう」
「……簡単に言うな」
「簡単じゃないです」
彼女は笑わなかった。
いつもの柔らかな表情ではなく。
真剣な目をしていた。
「でも」
ミレイアは俺の手を握った。
「もう、一人で答えを決める必要はないんですよね」
俺は。
しばらく彼女の目を見ていた。
「ああ」
「なら」
彼女は言った。
「最後まで一緒に探します」
その言葉に。
胸の奥にあった不安が、ほんの少しだけ軽くなった。
そのとき。
鏡の中の俺が。
再び口を開いた。
『仲良くしている場合じゃない』
俺は鏡を見る。
「だったら何だ?」
『残り三日だ』
鏡の表面に。
赤い文字が浮かび上がる。
『残り――三日』
セレナが息を呑んだ。
「四日じゃなかったの?」
アルベルトが首を振る。
「時間が進んだ」
「まだ数分しか経ってないのに?」
「この場所では時間の流れが違う」
「じゃあ……」
俺は鏡を見る。
「外では?」
「分からない」
またか。
そう思った。
けれど。
今回は笑えなかった。
もし本当に。
俺たちが知らないところで時間が進んでいるなら。
もう猶予はほとんどない。
その瞬間。
鏡の中の俺が。
ゆっくり手を上げた。
『見せる』
「何を?」
『お前が最後に選ぶものを』
鏡が白く染まる。
次の瞬間。
俺たちは。
見知らぬ場所に立っていた。
そこは。
巨大な広間だった。
壁も床も。
すべてが白い。
中央には。
一つの椅子がある。
その椅子に。
リゼリアが座っていた。
「……リゼリア」
彼女は顔を上げる。
「久しぶりですね」
「そんなに久しぶりじゃないだろ」
「あなたにとっては、そうかもしれません」
「どういう意味だ?」
リゼリアは答えなかった。
代わりに。
俺たちの背後へ視線を向ける。
「ミレイア」
「はい」
「こちらへ」
ミレイアが一歩前へ出る。
俺も続こうとした。
「レオン」
「何だ?」
「あなたは、そこで待ってください」
「……」
「これは彼女自身が決めることです」
ミレイアが俺を見る。
「大丈夫です」
「……本当に?」
「はい」
彼女は一人でリゼリアの前へ歩いていく。
二人の距離が。
少しずつ縮まる。
「あなたの中にあるものを」
リゼリアが言った。
「私は知っています」
「……」
「あなたは、私ではありません」
「はい」
「でも」
リゼリアが手を伸ばす。
「私の記憶を持っている」
ミレイアがその手を見る。
「それが嫌ですか?」
「……分かりません」
「なら」
リゼリアは言う。
「選んでください」
「何を?」
「私を受け入れるか」
「……」
「それとも」
リゼリアの声が少しだけ震える。
「私を拒むか」
ミレイアは黙っていた。
俺は口を挟まない。
ここで俺が何か言えば。
また。
同じことになる気がした。
六回の俺たちは。
きっとこういう場面で。
自分が答えを出してきた。
だから。
今回は。
待つ。
ミレイア自身が決めるまで。
「……リゼリアさん」
「はい」
「私は」
ミレイアは自分の胸に手を当てた。
「あなたの記憶を、全部消したくはありません」
「……」
「だって」
彼女は少しだけ笑った。
「あなたが生きてきた証だから」
リゼリアの目が揺れる。
「でも」
ミレイアは続ける。
「あなたになりたいわけでもありません」
「……」
「私はミレイアです」
その声には。
迷いがなかった。
「あなたの人生を奪うつもりもないし」
「……」
「あなたの代わりになるつもりもありません」
リゼリアは目を閉じた。
「そうですか」
「はい」
「では」
リゼリアが微笑む。
「それで十分です」
その瞬間。
ミレイアの胸元から。
淡い光が溢れた。
俺は思わず目を細める。
光はミレイアの身体を包み込み。
その中から。
一人の女性の姿が浮かび上がった。
リゼリア。
もう一人のリゼリアだった。
だが。
その姿は。
すぐにミレイアの中へ吸い込まれていく。
「……!」
ミレイアが胸を押さえる。
「大丈夫か!」
俺が駆け寄る。
「大丈夫です」
ミレイアは苦しそうに息をしながら。
それでも立っていた。
「今……」
「何があった?」
「少しだけ」
彼女は目を閉じる。
「リゼリアさんの記憶が、分かりました」
「どんな記憶だ?」
「全部ではありません」
ミレイアは首を振る。
「でも」
ゆっくり俺を見る。
「六回とも」
「……」
「レオンさんは、最後に私を探していた」
「俺が?」
「はい」
「でも、俺は……」
「違います」
ミレイアは静かに言う。
「私ではありません」
「……?」
「私になる前の誰かを」
意味が分からなかった。
「どういうことだ?」
「分かりません」
ミレイアは少し困ったように笑う。
「でも、リゼリアさんの記憶にはありました」
リゼリアが。
俺たちの会話を聞きながら。
静かに立ち上がった。
「それ以上は」
彼女が言う。
「まだ思い出さない方がいいでしょう」
「どうして?」
「知れば」
リゼリアは俺を見る。
「あなたはまた、一人で答えを出そうとするからです」
「……」
何も言い返せなかった。
リゼリアは。
小さく息を吐く。
「本当に変わりませんね」
「何が?」
「あなたは」
その声には。
懐かしさがあった。
「いつも、誰かのために自分を捨てようとする」
「……」
「それが優しさだと思っている」
「違うのか?」
「違います」
リゼリアは即答した。
「それは、逃げることです」
胸を刺されたような気がした。
「自分が傷つくことを選べば」
彼女は続ける。
「誰かに責任を負わせずに済む」
「……」
「だから、あなたは一人で決める」
俺は黙って聞いていた。
「でも」
リゼリアがミレイアを見る。
「今回は、違う」
「……」
「あなたの隣には、あなたを止める人がいる」
ミレイアが少しだけ笑った。
「止めますよ」
「はい」
リゼリアも微笑む。
「それを望んでいました」
その瞬間。
広間全体が揺れた。
「何だ?」
俺が周囲を見る。
白い壁に。
大きな亀裂が走っている。
亀裂の向こうから。
黒い光が入り込んでくる。
「時間です」
リゼリアが言う。
「何の?」
「選ばれなかった世界が」
彼女の表情から。
初めて余裕が消えた。
「こちらへ来ます」
「止められないのか?」
「もう」
リゼリアは首を振る。
「始まってしまいました」
壁が崩れる。
その向こうに。
巨大な都市が見えた。
俺たちの王都と同じ形をしている。
けれど。
そこには無数の人間がいた。
その全員が。
こちらを見ている。
「……あれは」
セレナが震える。
「人間……?」
「違う」
アルベルトが答えた。
「人間だ」
「でも」
「私たちと同じだ」
その瞬間。
都市の中央に。
一人の男が現れた。
俺だった。
今まで見たどの俺とも違う。
傷もない。
血にも汚れていない。
王族の服でもない。
ただ。
普通の服を着ている。
そして。
隣には。
一人の女性がいた。
リゼリア。
俺は息を呑んだ。
「……あの世界」
ミレイアが呟く。
「何ですか?」
「何も失ってない」
そう。
そこには。
俺とリゼリアがいる。
王都もある。
人々も生きている。
何も壊れていない。
「じゃあ」
ルナが言う。
「そこが正解なのか?」
アルベルトは答えなかった。
俺も。
そうは思わなかった。
何故か。
あの世界を見た瞬間。
胸の奥に。
強烈な違和感があった。
そして。
その理由を。
俺はすぐに理解した。
あの世界には。
ミレイアがいない。
「……」
ミレイアも。
気づいたようだった。
「私がいない」
その声は。
静かだった。
「そうだな」
「でも」
ミレイアは笑った。
「リゼリアさんはいます」
俺は答えられなかった。
あの世界は。
きっと。
六回のどこかに存在した世界なのだ。
完全に見える。
だからこそ。
何かを犠牲にしている。
「レオン」
鏡の向こうの俺が。
こちらを見た。
『お前は、もう分かっている』
「……」
『世界を救う方法はある』
「何だ?」
『俺たちの世界と交換する』
俺は目を見開いた。
「交換?」
『そうだ』
鏡の向こうの俺は。
穏やかに笑う。
『お前たちがこちらへ来ればいい』
「……」
『そして』
彼は。
ミレイアを見る。
『俺たちが、お前たちの世界へ行く』
ミレイアの表情が固まる。
『そうすれば』
男は言う。
『誰も死なない』
「嘘だ」
俺は即答した。
『なぜ?』
「ミレイアがいない」
男の笑顔が。
初めて消えた。
「お前たちの世界には、ミレイアがいない」
『……』
「それは」
俺は拳を握る。
「俺たちの世界を捨てるってことだ」
男はしばらく黙った。
そして。
『そうだ』
認めた。
『だから、お前が選べ』
「……」
『リゼリアか』
「……」
『ミレイアか』
「……」
『世界か』
その言葉に。
胸の奥が締め付けられる。
結局。
また同じだ。
六回と同じ。
何か一つを選ばなければならない。
俺は。
また一人で決める。
そう思った瞬間。
隣から。
ミレイアの手が伸びてきた。
俺の手を握る。
「レオンさん」
「……」
「一人で決めないでください」
その声は。
震えていた。
それでも。
はっきりしていた。
「分かってる」
「本当に?」
「ああ」
「なら」
ミレイアが。
鏡の向こうを見る。
「私も選びます」
「……」
「私の世界を」
そして。
リゼリアを見る。
「あなたの世界を」
最後に。
俺を見る。
「レオンさんの世界を」
俺は。
息を吐いた。
「三つとも?」
「はい」
「欲張りだな」
「そうかもしれません」
ミレイアは笑った。
「でも」
その目は。
まっすぐだった。
「それが私の選択です」
その瞬間。
俺の右手の甲が。
強く光った。
反射・無限化。
今までとは違う。
ただ能力を増幅するだけではない。
目の前にある可能性そのものが。
光として見える。
無数の選択肢。
無数の世界。
無数の結果。
その中心に。
一つだけ。
何も描かれていない場所がある。
「……見つけた」
俺は呟いた。
「何を?」
「まだ選ばれていない場所だ」
アルベルトが振り返る。
「何?」
「世界と世界の間に」
俺は光を見る。
「どの世界にも属していない場所がある」
リゼリアが。
目を見開いた。
「それは……」
「知ってるのか?」
「はい」
彼女は。
少しだけ震える声で答えた。
「第零領域です」
「第零領域?」
「世界が生まれる前の場所」
俺は光を見る。
「そこなら」
「……」
「どの世界も消さずに済む」
リゼリアは。
ゆっくり頷いた。
「可能性はあります」
「じゃあ、そこへ行けばいい」
「簡単ではありません」
「分かってる」
「戻れないかもしれません」
「それでも」
俺はミレイアの手を握り返した。
「一人で選ぶよりはいい」
ミレイアも。
強く握り返す。
「はい」
その瞬間。
鏡の向こうの俺が。
初めて怒りを見せた。
『やめろ』
空間が震える。
『第零領域へ行けば』
男の声が響く。
『すべての世界が消える』
「……何?」
『世界を維持するためには、必ず一つの結果を選ばなければならない』
「だったら」
『選ばないということは』
男の顔が歪む。
『全部を捨てることだ』
俺は黙った。
その言葉は。
今までの話とは正反対だった。
選ばない。
それは。
何も犠牲にしないことだと思っていた。
けれど。
もし。
選ばないことそのものが。
全部を失うことなら。
俺たちは。
また選ばなければならない。
世界を。
リゼリアを。
ミレイアを。
自分を。
「……だったら」
俺は。
ゆっくり顔を上げた。
「別の方法を作る」
『できると思うのか?』
「ああ」
『何を根拠に?』
「俺の能力だ」
右手の光が。
さらに強くなる。
「反射は」
俺は言う。
「存在するものを映すだけじゃない」
「……」
「俺はずっと、そう思ってた」
能力を使えば。
相手の魔法を反射できる。
攻撃を跳ね返せる。
無限化すれば。
それすら無限にできる。
でも。
本当の意味は。
もっと別のところにある。
「反射っていうのは」
俺は鏡を見る。
「相手と自分を同じ場所に置くことだ」
リゼリアが目を見開いた。
「だから」
俺は続ける。
「世界同士も」
無数の鏡を見る。
「同じ場所に置ける」
光が。
地下空間を埋め尽くした。
「レオン!」
アルベルトが叫ぶ。
「何をするつもりだ!」
「まだ分からない!」
「なら止めろ!」
「でも」
俺は笑った。
「今までよりは、少し分かってきた」
ミレイアが隣で笑う。
「私もです」
「何が?」
「レオンさんが無茶をすること」
「……」
「でも」
彼女は杖を構えた。
「今回は私も一緒に無茶します」
「頼もしいな」
「でしょう?」
セレナがペンダントを握りしめる。
「なら、私もやります」
ルナが剣を抜く。
「当然だ」
アルベルトも。
静かに剣を抜いた。
「第七周期」
「……」
「最後まで付き合おう」
俺は。
一人ずつを見る。
セレナ。
ルナ。
アルベルト。
ミレイア。
そして。
鏡の中のリゼリア。
俺は。
初めて。
自分以外の全員と一緒に。
答えを出そうとしていた。
その瞬間。
空間の奥で。
巨大な音が鳴った。
ゴォォォン――。
中央の黒い柱が。
真っ二つに割れる。
その向こうから。
巨大な門が姿を現した。
黒い。
何も映さない。
完全な闇。
そして。
その中央に。
赤い文字が浮かび上がった。
『残り――一日』
セレナが息を呑む。
「一日……」
アルベルトが。
静かに言った。
「最終段階だ」
俺は門を見る。
その向こうには。
無数の世界がある。
そして。
その中には。
俺たちが知らない可能性も。
まだ存在している。
俺はミレイアの手を握った。
「行くぞ」
「はい」
「今度は」
俺は門を見据える。
「誰も置いていかない」
ミレイアが頷く。
「はい」
その瞬間。
門の向こうから。
一人の少女の声が聞こえた。
『……やっと』
俺は。
その声を知っていた。
リゼリアでも。
ミレイアでもない。
けれど。
どこか懐かしい。
『見つけてくれた』
門が。
ゆっくり開いていく。
そして。
その向こうに。
一人の少女が立っていた。
黒い髪。
白い服。
胸元には。
見覚えのない紋章。
少女は。
俺たちを見て。
微笑んだ。
『第七周期』
その声が。
地下空間いっぱいに響く。
『ようこそ』
少女の背後には。
無数の世界が広がっていた。
『私たちの始まりへ』
そして。
その瞬間。
俺はようやく理解した。
第零記録が。
記録ではなかった理由を。
あれは。
世界が始まる前に存在していた。
最初の場所だったのだ。
そして。
そこには。
俺たちがまだ知らない。
最初の選択が。
待っていた。




