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第十二話 王都滅亡の実行犯

王都の朝は。


 いつもより騒がしかった。


 俺たちは宿を出て。


 大通りへ向かっていた。


「……何か変じゃない?」


 セレナが呟く。


「人が多いな」


「そうじゃなくて」


 セレナが。


 通りの壁を見る。


 そこには。


 大量の紙が貼られていた。


「何だ、あれ」


 俺が近づく。


 そして。


 足を止めた。


「……」


 紙に。


 一人の男の顔が描かれている。


 黒髪。


 鋭い目。


 そして。


 その顔は。


「……俺?」


 間違いない。


 俺だった。


「レオンさん……」


 ミレイアが。


 隣で絶句する。


 紙の上には。


 大きな文字で。


『指名手配』


 と書かれていた。


 その下。


『王都滅亡の実行犯』


「……」


 俺は。


 しばらく動けなかった。


「ちょっと待って」


 セレナが紙を掴む。


「これ、いつの話?」


 下に小さく。


 日付が書かれている。


「三百年前……?」


「三百年前?」


 ルナが眉をひそめる。


「どういうことだ?」


「知らない」


 俺は答える。


「俺は三百年前なんて生きてない」


「本当に?」


 セレナが俺を見る。


「……」


「レオン?」


「本当に」


 そう答えた。


 だが。


 胸の奥では。


 別の感覚があった。


 ――知らない。


 そう思っているのに。


 その肖像画を。


 俺は知っている気がした。


 この顔。


 この目。


 この表情。


 まるで。


 昔から見ていたような。


「……」


 俺は紙に触れた。


 その瞬間。


 頭の中に。


 映像が流れた。


『逃げろ!』


 誰かが叫ぶ。


 燃える王都。


 崩れる城壁。


 赤い空。


 そして。


 俺。


 いや。


 俺と同じ顔の男が。


 剣を持って立っている。


「……!」


 俺は。


 反射的に手を離した。


「レオンさん!?」


「大丈夫」


「今、何か見ましたよね?」


「……少しだけ」


 ミレイアが心配そうに近づく。


「何が?」


「王都が」


 俺は。


 紙を見る。


「燃えてた」


「……」


「それと」


 言葉が止まる。


「俺がいた」


 セレナが。


 ゆっくり紙を見る。


「じゃあ」


「……」


「これ、本当にあなたなの?」


「分からない」


 答えは。


 それしかなかった。


 * * *


「三百年前の指名手配書なんて、普通は残ってないわ」


 セレナが言った。


 俺たちは。


 大通りから離れ。


 人の少ない路地へ移動していた。


「だったら何で今貼られてる?」


「誰かが意図的に貼った」


 ルナが答える。


「問題は誰が、何のためにだ」


「……」


 ミレイアが。


 指名手配書を見つめる。


「この紙」


「何か分かる?」


「魔法がかかっています」


「魔法?」


「はい」


 ミレイアが指先で触れる。


「普通の紙じゃありません」


「どんな魔法?」


「記録魔法に近いです」


「記録?」


「情報を保存して」


 ミレイアが顔を上げる。


「必要な人間に見せるための魔法」


「つまり?」


「この指名手配書は」


 ミレイアが。


 小さく息を吸う。


「三百年前から残っていた可能性があります」


「……」


「誰かが保存していた」


「でも」


 セレナが言う。


「三百年よ?」


「そうです」


「じゃあ」


 セレナが。


 俺を見る。


「その頃のレオンが」


「……」


「本当にいた?」


 俺は。


 答えられなかった。


 * * *


 俺たちは魔法学院へ向かった。


 理由は一つ。


 ミレイアなら。


 古い記録を調べられるからだ。


「ここです」


 王都魔法学院。


 巨大な建物。


 以前ミレイアが通っていた場所でもある。


「久しぶり」


「はい」


 ミレイアは。


 少し複雑そうな顔をしていた。


「ここには古い資料が大量にあります」


「三百年前のものも?」


「あります」


「じゃあ」


 俺は。


 指名手配書を見せる。


「これを調べよう」


 * * *


 資料室。


 大量の本。


 古い紙。


 魔法具。


 埃の匂い。


「これ」


 ミレイアが一冊の本を取り出す。


「王都史です」


 ページをめくる。


「三百年前……」


「何かある?」


「待ってください」


 ページを進める。


 そして。


 手が止まった。


「……ありました」


「何?」


「王都崩壊事件」


 俺は。


 その文字を見る。


「三百年前」


「はい」


「王都が滅びた?」


「正確には」


 ミレイアが読む。


「王都中心部の大規模崩壊」


「原因は?」


「不明」


「死者は?」


「……記録なし」


「記録なし?」


「はい」


 ミレイアが。


 眉を寄せる。


「おかしいです」


「何が?」


「王都でこれだけの事件が起きたなら」


 ミレイアは別の資料を開く。


「死者数も被害状況も残っているはずです」


「なのに?」


「全部消されています」


「……」


 ルナが。


 本を覗き込む。


「誰かが消した?」


「その可能性が高いです」


 セレナが。


 小さく呟く。


「父が言ってた」


「何を?」


「王都の歴史は」


 セレナは。


 資料を見る。


「嘘だって」


「……」


 その瞬間。


 資料室の奥から。


 物音がした。


「……誰?」


 ルナが剣に手をかける。


 俺も。


 周囲を見る。


 誰もいない。


「気のせい?」


 ミレイアが言う。


 だが。


 机の上に。


 一冊の本が。


 いつの間にか置かれていた。


「……」


 誰も。


 その本には触れていない。


 表紙には。


『王都滅亡記録』


「これ」


 ミレイアが近づく。


「さっきの資料にはありませんでした」


「開ける?」


「待って」


 俺が止める。


「罠かもしれない」


「……」


 セレナが。


 本を見る。


「でも」


「?」


「これ」


 セレナが。


 表紙の端を指差す。


「父の印がある」


「……!」


 俺たちは。


 顔を見合わせた。


「開こう」


 俺が言った。


 ミレイアが。


 ゆっくりページをめくる。


 最初のページ。


 そこには。


 三百年前の王都の絵。


 そして。


 一人の男が描かれていた。


「……」


 俺。


 また。


 俺だった。


「嘘……」


 ミレイアが。


 声を失う。


 その下に。


 名前。


『レオン・アーデル』


「アーデル?」


 セレナが。


 驚く。


「私と同じ?」


「……」


 俺は。


 その名前を見つめる。


 そして。


 さらに下。


『王都滅亡の実行者』


 と書かれていた。


「俺が……」


 俺の声が。


 震える。


「王都を滅ぼした?」


「そんなはずありません」


 ミレイアが即座に否定する。


「だって」


「……」


「レオンさんはここにいます」


「そうだけど」


「三百年前の人間じゃないです」


「……」


 そのとき。


 本のページが。


 勝手にめくれた。


 パラ。


 パラ。


 パラ。


 最後のページで。


 止まる。


そこには。


たった一行。


『彼は王都を滅ぼしたのではない』


「……?」


 俺は。


 続きを読む。


『王都を滅ぼさなければならなかった』


「……」


 セレナが。


 息を呑む。


「どういうこと?」


 次のページ。


 そこには。


 一枚の図が描かれていた。


 王都。


 地下遺跡。


 巨大な黒い結晶。


 無数の鏡。


 そして。


 その中央に。


 一人の少年。


『第六周期』


「……」


『世界境界崩壊を確認』


『反射能力者による封印を実行』


 ミレイアが。


 震える声で読む。


「封印……」


「俺が?」


「そう書いてあります」


 そして。


 最後に。


『レオン・アーデルは』


 文字が。


 滲んでいる。


『世界を救うために、王都を――』


 そこだけ。


 破り取られていた。


「……」


 俺は。


 しばらく黙っていた。


 すると。


 セレナが。


「ねえ」


「何?」


「私の家名」


「うん」


「アーデル」


「……」


「三百年前のあなたも」


 セレナが。


 俺を見る。


「アーデルだった」


「……」


「じゃあ」


 セレナの顔が。


 青ざめる。


「私の家って」


 そこで。


 資料室の扉が。


 勢いよく開いた。


「動くな!」


 大量の魔法学院の兵士が。


 一斉に入ってくる。


「……!」


 先頭にいたのは。


 昨日の騎士ではなかった。


 白いローブを着た男。


 魔法学院の紋章。


「ミレイア・エルネスト」


「……!」


「お前を」


 男が杖を向ける。


「禁忌資料への不正アクセスの容疑で拘束する」


「え?」


 ミレイアが。


 目を見開く。


「そして」


 男が。


 俺を見る。


「レオン」


「……」


「お前には」


 一瞬。


 男の顔が歪んだ。


「三百年前の事件について」


「……」


「聞きたいことがある」


 俺は。


 剣に手をかける。


「三百年前の俺を知ってるのか?」


 男は。


 答えなかった。


 ただ。


 小さく呟いた。


「……やはり」


「何が?」


「記憶が戻り始めている」


「……!」


 その瞬間。


 俺の頭の中に。


 また。


 あの声が響いた。


『次の周期では』


『必ず、彼女を連れてくるな』


「……誰だ」


 俺は。


 頭を押さえる。


『ミレイアを』


「……!」


『王都地下へ』


 俺は。


 ミレイアを見る。


 彼女は。


 何も知らない顔で。


 俺を見ていた。


 そして。


 俺は気づく。


 今まで。


 ずっと。


 何かを探していたと思っていた。


 だが。


 本当は。


 俺たち自身が。


 探されていたのかもしれない。


 資料室の奥。


 閉じられた本の中から。


 最後の一枚の紙が。


 ゆっくりと。


 床へ落ちた。


 そこには。


 こう書かれていた。


『第七周期において、レオンとミレイアを再会させること』


 そして。


 その下に。


 小さく。


『これが失敗した場合――』


 文字は。


 そこで途切れていた。

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