8. 夢と龍
『ドン!』という音とともに気付いたら僕は龍宮城の床でうつ伏せになっていた。
目の前には綺麗に輝く黒い箱が置いてある。
『これは…… 開けてはいけない!』と思った瞬間、誰かの手が勝手にその箱を開けてしまった。
中からは白い煙が現れ、僕の全身を覆い尽くした。
煙が無くなると、僕は老人の姿になっていた。
目の前では乙姫が立ち尽くして泣いてる。
「浦島さん、ごめんなさい」
僕は立ち上がり乙姫の手を握った。
「乙姫様、もう僕は陸では暮らせません。これからは二人でここで暮らしま……」
「浦島さん、起きて、こら起きるんじゃ!」
僕は今まで聞いたことのない低く重い声に起こされ、目が覚めた。
「やっぱり寝ておったか、ずっと声がせんし、元の姿に戻って驚かすつもりじゃったのに全く反応無しじゃ、つまらんわい」
謎の声はかなり不機嫌だった。
僕には何を言われているのかさっぱり分からなかった。それにしてもこのゴツゴツした硬い岩の上にいるような感覚は何なのか、目の前の光景を見て驚いた。
「うわっ! り、り、り、龍? 僕はどうして龍の背中に?」
慌てて転げ落ちそうになる僕を見て、龍の機嫌はたちまち良くなった。
「人間がワシを見る反応はそうでないと! グハハハハ!」
「何? 何? どういうこと?」
「ワシは本当は龍だったのじゃ。ウミガメの姿は海の中を観察するのに丁度良かった。他の生き物も逃げんし、不意に襲われても甲羅に守られておる。それに、人間に見られても怪しまれたりせん。ある日、サメに襲われて傷を負ったのじゃが、何とか龍宮城まで辿り着いて意識を失ったのじゃ。龍がサメに食べられてはシャレにならんわい。グハハハ!」
「ウミガメさんが龍? それをずっと忘れてたの?」
「そうなんじゃ。ウミガメの姿に違和感がないほど、もう何年も龍の姿に戻っていなかったんじゃ」
「龍宮城の不思議な力は、あなたの力だったのか」
すべてが龍の力なら何が起きても驚かない。
「そうじゃ。ワシが死んだら龍宮城は力を失ってしまうのじゃ。それにしてもワシがことの成り行きを話しておるのに途中で寝てしまうとは、しかも乙姫様と一緒に暮らそうなどと、どういうつもりじゃ?」
「あ、いや、寝言言ってた? 恥ずかしい」
僕の顔はきっと真っ赤だったに違いない。
「ワシの話をどこまで覚えておるのじゃ?」
「墨吉さんが亡くなったお姉さんの話をしてたのは覚えてる。その人が乙姫なんだね」
「おそらくそうじゃろう」
「そのことは乙姫は知らないの?」
「そうじゃな、乙姫様の記憶は戻っておらんし、ワシからも話しておらん。知ったとしても今更陸には戻れないのじゃ」
「そうかもしれない」僕は納得するしかなかった。
「その後の話を続けよう、今度はちゃんと聞いておるのじゃぞ」
「わかった。でもこの硬い鱗が気になって話に集中できない、できればウミガメに戻ってほしい」
「グハハッ! わがままなやつじゃ!」
龍は再びウミガメになり、続きを話し始めた。




