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4. ウミガメ語り『女の子』

 月日が経ったある日、人間と会話がしてみたくなったワシは、砂浜で砂遊びをしている小さな男の子に近付いた。


 するとその子は、砂を握るやワシの顔に投げつけてきたのじゃ。


「グワッ!」ワシは思わず叫んでしまった。


 それを隣で見ていた女の子が、慌ててその子供を止めてくれた。


「こら! ウミガメさんをいじめちゃ、だめでしょ!」


 その優しい女の子に「助けてくれてありがとう」と言うと、女の子は驚いた顔をしたが、すぐに『ニコッ』と笑顔を見せてくれたのじゃ。


 そのやり取りを、隣にいた中年の女性が見ていた。


「今、このウミガメ喋ったよね?」


 女性は女の子に尋ねた。


 女の子は少し困った顔をした。


「そうじゃ、ワシは人間と仲良くなりたいんじゃ」


「うわ! ほんとに喋ってる!」


 女性はワシの声にかなり驚いた様子じゃった。そして大きな声で仲間を呼んだんじゃ。


「ねー、みんなちょっとこっち来て! このウミガメ、喋るんだけど!」


 ワシは嫌な予感がしたので、急いで海に逃げ込むことにした。


「誰か、早く捕まえて! 逃げちゃうよ!」


 そう叫んでいる女性のところへ、数人の男達が走ってきた。


「しゃべるウミガメだって? あれがそうなの?」


「あーもう間に合わないな」


 ワシは何とか捕まらず海の中へ逃げることができた。


 ただ仲良くなりたかっただけなのに、人間はワシを捕まえてどうするつもりじゃったのか……


 ワシはしばらく海辺の岩陰から人間を観察することにした。するとさっきより大勢の男達が網などを持ってやってきたんじゃ。


「ホントにしゃべるウミガメなんているのか?」


「どうやらほんとらしいよ」


「まだ近くにいるかな?」


「見つけたら俺が捕まえてやる!」


 人間達はなかなか諦めず、ずっとワシを探していた。


 そんな時、さっき砂を投げてきた男の子が波打ち際にやってきた。


 次第に風が強くなり、だんだん波も高くなってきた。


 男の子は突然、「あっ!」と叫ぶと海に向かって走り出したんじゃ。


 女の子がそれに気付き、慌てて男の子を追い駆けた。


「あぶない、そっちにいっちゃだめ!」


 突然大きな波がやってきて、二人はあっという間に飲み込まれてしまった。


「大丈夫かー!」


 近くにいた男性が駆け付け、すぐさま海に入り男の子を救い出した。


「ここで待ってろ、おねぇちゃんを助けてくる!」


 しかし、女の子を見つけられないのか、男性は大声で叫んだ。


「子供が波にさらわれた! みんなで探してくれ!」


 ワシを探していた男達の多くが海に潜って女の子を探したが、誰も見つけられなかったんじゃ。


 しかし、ワシは少し離れたところから観察していたおかげでどこに流されたのか見えていた。


『そっちじゃない、もっと沖の方じゃよ!』


 女の子は離岸流に流されたのだろう、人間が探しているところよりずっと沖の方で溺れていた。それを人間達に知らせることができないワシは、気付いてくれるように願った。


「おとぉゔ…… ゔぼぼ……」


 その願いも虚しく、女の子は人間に気付かれないまま力尽きて沈んでしまった。


『もう人間では間に合わん』ワシは急いで向かい、沈んでいく女の子を背中で受け止めたんじゃ。


 甲羅からは女の子の心拍が伝わり、微かに呼吸も感じられる。どうやらワシの背中では息が出来るようじゃ。これも『ワシの城』で得た力なのじゃろうか。


 女の子はとりあえず、『ワシの城』へ連れて行くことにした。勿論、陸まで連れて行こうか迷ったが、人間に捕まることを考えるとそれはできなかったのじゃ。


 女の子は意識が無いし、かなり衰弱している。急がなければ!

 あそこに帰ってもワシには何もできないが、何とかなるような気がした。『ワシの城』へ向かっている間、女の子の呼吸は少しずつ安定していった。


 この子を少し休ませて、元気になったら陸まで連れて行ってあげるつもりじゃった。


 ワシと女の子は『ワシの城』に無事到着し、ゆっくり寝かせてあげることができた。翌日、女の子が目を覚ました。


「ここはどこ? なにもわからない……おもいだせない……」女の子はワシを見るなりそう言った。女の子は記憶を無くしていたんじゃ。


『このままでは陸まで連れて行ったとしても、家に帰ることはできない。記憶が戻るまではここにいてもらうしかない』とワシは思った。


「ここは君のお家じゃ、君はここのお姫様じゃよ」


「そうなの? なにもおぼえてない……あたしのなまえ、なんていうの?」


「名前……」人間には名前があるのじゃった。


 そういえば、女の子が溺れてる時に何か言おうとしていたようだったが何だったか、確か「おと……」


 女の子は首を傾げた、「おと?」


 あの時『お父さん』と言いたかったんだと気付いたが、もう言い直すことはできない。


「そう、君の名前は『おと』、乙姫じゃよ」


「そんななまえだった? じゃあ、あなたは?」


 ワシはウミガメである、名前などない。


「ワシは爺じゃ」とりあえずそう答えた。


「じい……じゃあ、あなたは『かめじい』ね」


 女の子はそう言って笑顔を見せた。


 その日から、乙姫様とワシの生活が始まったのじゃ。


 ここはとても居心地がよく、時間があっという間に過ぎて行く。それは乙姫様にとっても同じじゃった。

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