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2. ウミガメ語り『ワシの城』

 もう何十年も前のことじゃ。


 ワシが目を覚ますと、ここはどこなのか、自分は誰なのかも分からない。どうやら記憶を無くしているようじゃった。一体いつから寝ていたのかも覚えていない。


 しかし、この場所はなぜかとても居心地が良く、ただいるだけで心が満たされたような、まるで卵の中にいるかのような、そんな感覚じゃった。もちろん卵の中にいた時の記憶なんてないのじゃが。


 この広い空間には中央に食卓が並び、奥には舞台がある。その反対に面した壁には、『眼光鋭い迫力のある絵』が飾られ、両隣には幾つか部屋があった。しかし、この建物にはワシの他に誰もいないようじゃ。


 ただ、何か大きな力に包まれている様な不思議な感覚があった。その力がまるで体に入ってくるようで、疲れは無くなり、頭は霧が晴れたようにスッキリしてくるんじゃ。ここはなんとも居心地のよい場所じゃ。


 この建物の中ではとても体が軽く、まるで水の中にいるように泳ぐことができる。しかし、実際に水があるわけではなく息もできるんじゃ。


 並んだ食卓の上を覗くと、なぜかできたての食事がたくさん並んでいる。さっきまで誰かいたのじゃろうか?


 お腹が空いていたワシは我慢できずにそれを食べた。


 不思議な事に、食べ終わったお皿は消えて無くなり、元あった場所に新たな料理が現れた。一体どうなっているのか、いくら食べても料理は無くなることがないんじゃ。


 それにこの建物はなぜか明るい。どうやら建物全体がぼんやりと光っているようじゃ。時間が経つにつれだんだん明かりが暗くなってくる。とりあえずその日は寝ることにした。


 目が覚めると建物内はまた明るくなっていた。今が朝なのか昼なのかは分からんが、そんなことはどうでもいい。


 相変わらずここにはワシだけで、自分が何者なのかも分からない。外はどうなっているのか気になり、出口を探すと、ガラスと思っていた所が実は海だったんじゃ。それなのに海水は一滴も入らず、床も全く濡れていない。


 思い切って外に出てみると、そこは真っ暗な海の底じゃった。暗闇の中この建物だけが、ぼんやりと不思議な光を放っている。


 目が覚めてから何の変化もないまま数日が経った。その間、海の生き物達はこの建物に近付くことさえしなかった。まさに、ここは『ワシの城』じゃった。


 なぜここで寝ていたのか、思い出すことはなかったが、おそらく泳いでいる間に気を失い、たまたま沈んだところにこの城があったのじゃろう。そう思うことにした。

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