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13. 乙姫の苦悩

「浦島さん、話は終わりじゃ。中へ入ろうか」


 僕は龍宮城へ入り、乙姫と再会した。


 龍宮城を出て戻ってくるまで一日しか経っていないのになんだか懐かしく感じる。


「乙姫さん、また会えて嬉しいです」


 僕は心からそう思ったが、時間が経つのが遅い龍宮城にいた乙姫にとって、僕がここへ戻るまであっという間だっただろう。


 乙姫は老人になった僕を見て少しがっかりした様子だった。


「浦島さんもお爺さんになってしまったのですね」


「はい……」


 乙姫との間に明らかな温度差があるのに気付き、僕は落ち込んだ。


「玉手箱は決して開けてはいけないと伝えたはずなのに、中身を知りたいという欲望には勝てなかったのですね」


 それは否定できない、けど乙姫にも欲はあるでしょ?


「無欲な人間なんていません。乙姫さんも髪飾りで美しくなった自分を見て、笑顔を浮かべていたでしょ?」


 乙姫はそれを聞いて涙を浮かべた。


「墨吉さんの話を聞いているときに思い出したのです。『亡くなった姉というのはあたしだ』ということを。でも、ここで暮らして長い年月が経っている、今更人間の世界には戻れない。でも、不安な顔をするとかめ爺が心配する、ちゃんと笑顔になれているのか鏡で確認していたのです」


 ウミガメはその話を聞いて驚いていた。


「それが鏡を見て笑っていた理由じゃったなんて…… 乙姫様はすべて知っておったんじゃな」


「墨吉さんを連れてきてくれたことは本当に嬉しかった。そのことを後悔させたくなかった。あたしの記憶が戻っても今までのあたしと変わることはありません」


 乙姫は話しながら涙を流した。


「乙姫様、今まで黙っていて悪かった」


ウミガメも涙をにじませていた。


「そんなことはありません。かめ爺はいつもあたしのためを思ってくれています」


 僕は乙姫に言ったことを後悔した。


「そういうことだとは…… 傷付けるようなことを言ってごめんなさい」


「人間はなぜ他人を思いやることができないのでしょう。あたしは自分のことを思い出してからも、陸に戻りたいとは思いませんでした。海が怖いし、今更戻っても何もかも変わっているという理由もありますが、一番は人間が怖いからです」


「人間が怖い?」


「陸の様子はすべてかめ爺から聞いています。人間の中には、騙す、奪う、傷付ける、サメの様な人がいると聞きました。みんな自分勝手だということも。一人一人が周りの気持ちを考えることができれば、争わなくて済むのに。浦島さんに玉手箱を渡す時に言った『決して開けないで』という言葉には『あなたが信用できる人間であってほしい』という願いも込めていました。結果は残念でしたが」


 普段の僕は周りのことを考えていただろうか……


「確かに人間は欲深いかもしれない。人間は弱い生き物だから力を持つほど欲望に負けてしまう。でも乙姫さんと同じようにみんな平和を望んでいます」


「そうでしょうか? もしそれが本当なら、その時はあたしも人間の世界へ戻りましょう」


「陸が平和な世界だと証明できれば、今度は陸で乙姫さんと会うことができるのか! よしっ、頑張るぞ!」

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