12. 玉手箱の真実
暗闇の中、遠くの方にぼんやりとした明かりが見える。もうすぐ龍宮城に着くようだ。
「ちょっと質問していい?」
ウミガメの話は理解できたけど、確認したいことがいくつかあった。
「聞きたいことがあるなら何でも答えてやるわい」
「乙姫が若く美しいのは、人間の寿命を利用していたわけではなかったの?」
「ワシはそんなこと一度も言っておらん。何のことじゃ?」
「僕はどうやら勘違いしていたらしい。今の質問は気にしないで。約束を破って話を広めた『墨吉』というのは、もしかして亡くなった祖父のこと?」
「やはり思った通りじゃ。浦島さんは墨吉によく似ておる。そうか、墨吉はもう亡くなっておったか、それは残念じゃ。それにしても人間というのは我慢のできない生き物じゃな。墨吉は最後まで秘密にしておくことができなかったようじゃ。お爺さんになったら誰かに話したくなったんじゃろう」
確かに知らない人からしたら『俺はお爺さんにされたんだ』という話を聞いたら、信じはしないだろうけど面白いかもしれない。しかし、身内に話しても『ボケたの?』と思われるだけだ。きっと、誰も信じない話だから面白半分でしてしまったんだろう。
「そうかもしれない。でもどうしてあの時、子供にわざといじめられてまで僕を龍宮城に連れてきたの?」
「ワシは『乙姫様が悪者』という誤解を解きたいのじゃ。浦島さんが何も知らないことはすぐに分かった。ただ、話をしただけで浦島さんに真実を広めてもらうのは無理じゃ。これは『本人に体験してもらうしかない』と思ったのじゃ」
噂を噂で上書きするということか。強引なやり方だけど、そう言われると仕方がない。それに龍宮城での体験は楽しかった。お爺さんにされることさえなければ。
「理由はわかった。もしかして乙姫も一緒に僕を騙してたの?」
「ワシが勝手にしたことじゃ、乙姫様は何も知らんわい」
「それって、乙姫のためというよりウミガメさんの自己満足ということ?」
「確かに自己満足かもしれんわい。じゃが自己満足を悪いこととは思っておらん。結果はどうあれ、そこには相手を思う気持ちがあるんじゃ。自己満足を自分勝手と同じように思っとる人間の方こそ理解できん」
「ウミガメさんの乙姫を思う気持ちは分かった。自己満足もそう言われたらそうなのかもしれない。でも僕が玉手箱を開けなかったらどうしてたの?」
「開けるじゃろ、人間なんじゃから。玉手箱には災いを吸い取る力がある。だからお爺さんになっても龍宮城にいるだけで元の姿に戻れるのじゃ。玉手箱を開けなければ、それは何よりも価値のある宝物なんじゃよ。しかし、人間は開けずにはいられない、というのが残念じゃわい」
と言って、ウミガメは「グハハッ!」と笑った。
僕も初めから分かっていれば開けたりはしない。
「それならそうと言ってくれれば良かったのに! 人間を馬鹿にしないでくれ!」
とは言ってみたが、ウミガメの思惑通りに玉手箱を開けてしまった自分が悔しくて仕方ない。
「何度も言っとるが、これは乙姫様のためじゃ。決して人間の欲を満たすためではないわい」
そんな話をしているうちに、龍宮城へ到着した。




