10. ウミガメ語り『玉手箱』
朝になり、乙姫様が目を覚ました。
「墨吉さんはまだ寝ているの?」
「まだ起きないみたいじゃな」
ワシがそう答えると、乙姫様は墨吉と話ができなくて、少し残念そうにしているようじゃった。
「そういえば、『龍の絵』の裏にあった箱からこんな髪飾りが出てきたのじゃ」
ワシは髪飾りを乙姫様に渡した。
乙姫様はその髪飾りを一目で気に入ったようじゃった。
「なんて綺麗な髪飾りでしょう! かめ爺、ありがとう。これは私の宝物、肌身離さず大切にします」
「気に入ってもらえて良かった。それは龍の鱗でできておるんじゃ」
「龍は本当にいるのですね。あの絵の裏に箱があったのですか?」
「そうなんじゃ」
ワシは自分が龍であることを黙っていた。乙姫様にとってのワシは『かめ爺』なのじゃ。
乙姫様が絵の裏を覗くと、そこには綺麗に光る黒い箱が置いてあった。乙姫様はその箱を手に取った。
「この中に髪飾りが入っていたのですね?」
「この箱には不思議な力があり、中身を期待しなければ宝物が出るんじゃが、欲を出して開ければ災いが起きる。じゃから誰でも気軽に開けていいという代物ではないんじゃ。もしこれを誰かに渡すことがあれば、その時は『決してこの箱を開けないで』と言って渡すとよい。それでも中身に期待して開けたなら意味はないのじゃが。墨吉さんはワシが気付いた時には勝手に箱を開けてお爺さんになっておった。それも時間が経てば元に戻れるから安心するんじゃ」
「そんなことがあったのですね。あたしにこれは必要ありません。この箱は戻しておきましょう。それにしても美しい箱ですね。この玉のように美しい手箱は玉手箱と名付けましょう」
乙姫様はそう言ってにっこり笑った。
「それは良い名前じゃ」
ワシに名前のことはよく分からんが、乙姫様がそう呼びたいのなら特に反対はなかった。
乙姫様はワシがあげた綺麗な髪飾りを付けて振り返った。
「どう? 似合ってる?」
「とても良く似合っておるわい」
ワシは髪飾りを付けた乙姫様を見て、心からそう思った。
それ以来、時間が経つ程に乙姫様の髪はツヤツヤになり、お肌もツルツルになっていった。
一方、墨吉は、龍宮城で数日程過ごし、完全に元の姿へ戻ったので、陸へ帰ることになった。
ワシはその時に、墨吉と一つだけ約束をした。
「墨吉さん、ここでの出来事は決して誰にも話さないでほしい。欲深い人間は龍宮城を探したり、ワシを捕まえようとするじゃろう。ワシと乙姫様のことはそっとしておいてほしいのじゃ」
「分かった。このことは誰にも言わないよ」
「約束じゃぞ」




