エピローグ
「あっつーーーーい!!」
晴天の高い空に、嘆く声は響いた。
高校三年の夏休み。
周りは受験対策!夏期講習!と、目の色を変えて机に齧り付いている。
私はといえば、青春18切符を使って旅行中だ。
木造に赤いとたん屋根の古い駅。
無人の改札を降りれば目的地だ。
――今時エアコンもついてないのか。
駅まで運んでくれた鈍行列車はよく言えばレトロで、エアコン代わりの扇風機が天井から緩い風を送るばかりだった。
とにかく暑い。
お金に余裕は無いけど、お店に入って冷たい物でも……と思うけれど、こんな田舎にそんな気の利いたものはないよね。
諦め混じりに駅前の短い商店街を歩く。
カチャン
陶器がぶつかるような音がして目を向けると、不思議な木戸がついた店が見えた。
店の中は雑多だった。
見た事の無い植物のドライフラワーが天井から下がり、どこかの民族楽器の横には何かの鉱石なのか光を吸い込むような石が山と積まれていた。
でも、なんだか――。
「おや、客とは珍しい」
ドライフラワーの奥にレジがあって、女の人がこちらに声をかけてきた。
「あ、すいません。冷やかしです」
「ふふ、外は暑いものね」
切れ長の目に長いまつ毛。白い肌が浮き立つような、とても綺麗な人だった。
「それでね、お母さん勉強しろってうるさいの!私の書いてる小説今すっごくいいところなのに!」
「帰ったぞー……え?」
綺麗な人は、近寄り難いほどの美人なのに、話すと気さくだった。
思わず色々話していると、ちよっとワイルドな感じの男の人が入ってきた。
ご主人?
その人は、私を見て目をぱちくりさせて驚いている。
「珍しい客だろう?」
「……びっくりした。こんなしみったれた店に客が来るとはな」
毒舌だ。
でも、なんだろ?……目はとても優しい気がした。
「おい嬢ちゃん、この店のもの、何も買ったりしてないだろうな?」
「買ってません!冷やかしです!ごめんなさい!」
なんだろう?お金がないように見えたのかな?
勢いよく謝れば、男の人は一瞬キョトンとして、長いため息を吐いた。
「っはぁー……すまねぇ。嬢ちゃんが気にいるようなもんはこの店にはねぇよ」
何がなんだかわからないけど、なんだか安心した。
「でも、このお店、とっても素敵!」
飾り棚に飾られた、アンティークな茶器。隣の写真立てには色褪せたポラロイドの写真。その隣の、やけに綺麗な雑巾?布巾?
初めて来たのに、なんだかとても懐かしい。
「……そりゃあ結構だ。嬢ちゃんは何しにこんな寂れた街に来たんだ?」
「奇祭があるって聞いて!干潮の時に出来る道を石を持って走るんでしょ?参加したくて」
土着の古い祭りが、あまりに盛り上がるのでSNSでバズっていた。
「ああ、あれか……マレビトは喜ばれるからな」
「そう!マレビト!土着の祭りなのに飛び入りを歓迎してくれるなんて……これは参加したいと思って!」
「お嬢さんは将来小説家になりたいんだそうだ。だから今はふぃーるどわーく?」
「そうです。フィールドワーク。色んな世界を見たいの」
お母さんは小言を言うけど、実は小説サイトにアップした私の話を読んでるのは知ってる。
「このお店も、雰囲気あってとっても素敵!私の小説のモチーフにしてもいい?」
「「もちろん」」
2人の声が重なった。
なんだかちぐはぐなのに、仲の良い夫婦みたい。
男の人が私を見て目を細めた。
「なら、お前道案内ついでに、一緒に参加してこいよ」
「いいの?」
「ああ、俺は一回やったからな」
高い空の下を、とても綺麗な女の人と歩いた。
「あ、そう言えば、お名前、聞いてもいいですか?」
「アヤ……アヤというよ」
「私はカナエです!夢が叶うと書いてカナエ。お父さんがつけてくれたの!」
アヤさんはほころぶように笑った。
「じゃあ、アヤさん!早く行きましょう!」
なんだか、楽しくなって走り出した。
「こらこら、そんなに焦ると転ぶぞ」
コロコロと笑うアヤさんと一緒になって笑った。
晴天は、抜けるように高く、見守っている気がした。
了
本作はこれにて完結となります。
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※ 後日番外編をいくつか投稿予定です。




