自らで立つ
***
美しい海と、暖かい老婆に出会った世界。
寄るべなさに役割を探した間“あわい“での時間。
炭鉱街の恐怖。
雪山での遭難と反抗。
それから――。
カナエの戸惑いと、小さな気づき。
次々と変わる、現実味のない時間。
カナエの言葉で、丁寧に、少しずつ、縁取られていく。
そして、ふと混ざる。
雑多な路地裏で見つけた痩せたネコ。
アヤの並々と作ったスープの味。
酔っ払った俺とサチを介抱した朝――。
確かな温度が世界に宿って、匂い立つほど鮮やかに蘇っていく。
***
――全部努力の軌跡だった。
この先を照らす私の轍だ。
読む声が、少し震えた。
迷いなく差し出せた対価。
大切な物だった。長い努力の成果だった。
でも、あの時に、私はきっともうわかってた。
声が揺れないように、目を瞑って一呼吸。
瞼の裏に銀河が見えた気がした。
――私の、私だけの必要……必然。
縁を探す事なんていつのまにか忘れてた。
それくらい、この旅は――鮮やかで。
……だから、痛かった。
今は、泣きたくない。
一緒に旅ができて良かった。
嬉しい。
大好き。
離れ難い。
でも、行く――。
サチさん、ヒロさん、アヤさん、他にもたくさん。
みんなに出会えた。
言葉では足りないから、全部を。
この旅の全部を――伝えたいの。
***
「なぜお前達だったのかわかった気がする……」
2人の声まで、ここに届いた。
「やっぱり、お前達と旅が出来て……幸せだ」
アヤが噛み締めるように呟く。
そっと肩を抱けば、寄り添ってくれた。
茶器や雑巾が、窓に齧り付いて行方を見守ってるんだろうが……視界が滲んで、もうよく見えない。
「泣いたって、2人には秘密にしてやるよ」
お前だって鼻声だろうが――。
言いたかったが、アヤの手が背を撫でるから……何も言えなくなった。
***
――それじゃあ、ほんとうにありがとう。みんな元気で!
入江の世界で、仲間に手を振って別れた。
残る事もできた。
……でもしなかった。
後悔など、しようもない。
残る何かを残せたからじゃ、ない。
仲間と呼んでくれた。
その子らが、健やかに前を向いた。
そこに、自分がいた。
俺自身が、宿った。
最後の世界で見た夕陽。
照らされる街並み。
歩く人々……。
全部、……全部。
胸が熱を持つ。
乾き切った目に、痺れるように集まってくる。
カナエを見た。
一生懸命、泣くのを堪えて、顔を真っ赤にして、鼻を啜って話し続けている
初めて映画を見た後に、視線では見下ろして、気持ちでは見上げていたカナエと、今、同じ目線になれた。
今ここに溢れそうなものに、名前など……。
いらないんだ。
ありがとうと……この旅が宝物だと伝えたい。
渾身の力を振り絞って……ポケットの物を取り出して、カナエに見せた。




