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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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113/121

幕開き

115、幕開き


***

もう……何日、立ったんだろう……。

もう、足も腕も、感覚がない。

まだ腕が動くうちに、ポケットに手を入れられてよかった。

わずかに動く指先で、お守りの感触を確かめた。



なんだか今日はやけに人の気配がする……。

ざわざわと人の声がするが、頭の中で意味を結べない。

ただ揺蕩うように、意識が落ち始めた……。


「ヒロさん!!」


カナエの声が聞こえた。

驚くほど、鮮烈に響いた。



***

「すみません、通してください!」

人垣が厚い。かき分けて進んでいく。

急ぐあまりに、押してしまった人が迷惑そうに振り返る。

でも、構っていられない。

最後の1人を押し退けて、ヒロさんの前に出た。


「ヒロさん!!」


ヒロさんは、乾いて、飢えて……。

割れた唇。肌はシワがよって粉が吹いて白い。

それでも……。

ポカンと口を開けて、目を丸くしてこちらを見ている。

吹き出しそうなくらい、いつもの表情。

黙っていれば貴公子然としているのに、表情を崩したら途端に幼い……。


喉が締め付けられて言葉が詰まる。目の奥が熱をもって視界が曇る。ダメ、泣かない。

ぎゅっと目を瞑って追い出した涙を首振って弾いた。


だって……ご褒美が、待ってるんだ。


「そろそろ暇になって来た頃でしょう?また私のお話を聞いて」


私は、抱きしめるように持って来たノートをヒロさんに見せた。


***

『なになに!?』

『女子高生登場』

『あの人ヒロっていうんだ……』

『お話って何?』


なんだか動きがあったらしい。

ちらほらとあった投稿が徐々にその数を増している。

人が集まってるんだ……。

投稿を目で追っていると、Live配信を見つけた。

思わず立ち止まって、また歩き出した。

気付いたら、早足になっていた……。


『なんか……不思議なお話』



***


「えっ何?」

「あの制服見たことなくない?」


ざわめきの中で、カナエがすっと息を吸い込む音が聞こえた。


――しまった。

雨が降っている。私は塾から出ると寒空を見上げてため息をついた――


耳に優しい声だった。

屋上でいくつも物語を紡いだ声だ。

桃から生まれる赤ん坊の冒険や、ガラスの靴で再会する恋人達……どれも聞いた事の無い話だった。


――だが、この話は……。


カナエがここに招かれた物語だ。


不意に緩い風が吹いて、ノートの端がパラパラと音を立てた。


『秘密!女の子の秘密は魅力だから』


秘密の物語が始まる。


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