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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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交錯


***

月曜日は憂鬱だ。

早朝のバスは空いているけれど、気分は沈む。

――月曜日の早朝だけラジオ体操する社風どうにかなんないもんかなぁ。

残業が多い上に体育会系の職場。

営業職はやりがいがあるが、正直社風は合わない。

くたびれた革靴を見ながら歩いていれば、ふと視線が上がった。前を歩く人が、嫌に綺麗に歩いている。

身長が高い割に頭が小さい。モデルさんかな?

不意にその人は駅前の広場の端で立ち止まった。

通り過ぎ様に見たその人は、とても綺麗な顔をしていた気がした。




おかしい。

あれから3日……。

毎日その人は同じ場所で立っていた。

見間違いかと思った。

でも今、0時を過ぎている。

残業が長引いて終電に滑り込んだのだ。間違いない。

深夜の広場に人影は少ない。

――ずっと立ってるのか?

恐ろしくなって、足早に通り過ぎようとした。


「……ぉんはんわぁ」


その人が何か喋った。

およそ人の言葉ではなくて、驚いて顔をまじまじと見た……。

乾いた唇が切れて、滲んだ血は乾いて張り付いていた。

途端に恐ろしくなって、走り出した。

雨が降り出した。傘をさす余裕もなかった。




最終のバスに乗って、やっと一心地ついた。

――もしかして、他にも気付いてる人いるかな?

スマホを取り出し、SNSを眺めた。



『〇〇駅前、変な人いる』

『まってこの人昨日もいなかった?』

『なんかの企画?』



『この人、なにしてるんだろ?』





***

5日目を過ぎたあたりで、日付を数えるのをやめた。

ヒロさんは片手をポケットに入れたまま全く動かなくなった。

早く、終わらせてあげて――。

「アヤ、成功したら、何か合図があるのか?」

じりじりした思いはサチさんも同じだ。

「正直わからない。ただ――」

アヤさんも祈るように指を組んでヒロさんを見つめている。

「誰も成し得ない事を為すのはほとんど奇跡だ。……必ず解る」

アヤさんの言葉を、信じる。

とにかく、早く……。

「あれ……?」

ヒロさんの周りに、足を止める人がちらほらと現れた。

いつの間にかそれは小さな輪になっていく。



人垣が、出来始めていた。





***

『週末だし、あの人見に行ってみるー!』

『現地からLive配信するね!』

『近所だし、俺も行っとこ』



あれから、気味が悪くて降りる駅を変えた。

あの人はまだあそこに立ってるみたいだ。

貴重な週末だから寝て過ごしたい……。


でも……。


寝癖頭を雑に整えてアウターを羽織った。

不思議と足は外へ向いた。




***

「目立って来たか……」

サチさんの舌打ちが聞こえる。

人垣は増え続け、ヒロさんの姿が見えなくなっていく。


ダンッ!


音を立ててベッドから降りた。

「おわ!カナエ……?」

サチさんの声を無視して部屋へ走った。

いつも書いていたノートをつかむと、階段を駆け降りる。

途中、茶器さんたちや雑巾が合流した。

頑張れ、行っておいで……そう言ってくれてる気がした。

木戸の前まで戻った。

「私、行ってくる」

それだけ言って、木戸を抜けた。




***

「カナエ!待て!!」

乱暴に閉まった木戸に駆け寄ろうとすると、雑巾が顔に張り付いた。

「だぁ!お前なんだよこんな時に!」

それだけじゃない。茶器たちまで、足元でガチャガチャ言って動けない。


行かせてあげて――。


こいつらの声が、聞こえた気がした。

「サチ、行かせてやろう」


……わかってる。

カナエだって、後悔したくねぇよな。


ボスっとベッドに座り直せば、雑巾は肩に乗って、茶器たちも大人しくなった。

アヤが窓に手をかざすと、ヒロとカナエがそこに映った。

「ここから、見守ろう」


「そうだな……」



「きっと俺の出る幕じゃねぇ」


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