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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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お土産探し

いつもの木戸の前……。

窓からは朝日が差し込んでいる。

窓の外には灰色のビルと手前に広い道路。

奥には少し開けた場所と大きな建物が見える……駅なのかもしれない。


また、私の世界と似ている。


「……刻限は一カ月半。足りるか?」

アヤさんが静かにヒロさんに問う。

「申し分ない。準備期間を考えても、余裕がある」

昨日の話を聞いていたから、刻限に余裕があって心底ほっとした。

「お前、腹の中空っぽにするのにどのくらいかかる?」

サチさんが確認する。

ちょっと頭が痛そうなのは、二日酔いのせいかもしれない。

「1週間はかけたいな。人の限界がどんなものかわからないが……まぁ2、3日は遊べるんじゃないか?」

その答えに、みんなでニッと笑った。

「土産を期待しているよ」

アヤさんが言う声は淡々としているが、楽しみにしているのは伝わる。もう、ちゃんと解る。

「いい酒があるといいな」

サチさんが呆れた声で言うけれど、その顔はあたたかい。

「じゃあ俺たちは酒以外を探そうか」

なっ、と目を向けてくれるヒロさんにうなづく。

「あっ!ちょっと待ってて!」

私はそう言って、忘れ物を手に木戸の前に戻った。


「準備万端です!いきましょう!」


笑うヒロさんとサチさんと一緒に木戸をくぐった。




見慣れた街並みだった。

一瞬帰ってきたのかと思うほどに。

振り返れば店はコンビニだった。

雑誌棚の向こうで手を振っているアヤさんが見えた。

なんだか不自然でちょっと笑ってしまう。


「なんかカナエの世界と似てるんじゃねえか?」

「カナエ、文字は読めるか?」

コンビニの看板に目を移す。

「なんか……似てるけど、ちょっと違う」

店名の下に、おそらく支店名が書いてあるみたいだ。

漢字とカタカナが混じったような文字列は読めるには読めるが、明らかに私の世界とは違った。

「読めない事もないから、道案内くらいできそう」

オーバーサイズのパーカーにジーンズ、空のリュックには、お土産を沢山詰めよう。

ちょっとワクワクした。

「なら、観光と洒落込むか」

サチさんは緩めのカーゴパンツにロンT、首元の細いネックレスがちょっとおしゃれだ。

声も、どこか弾んでいる。

「どんな体験ができるか楽しみだ」

ヒロさんが子供みたいな顔で笑ってる。

パーカーに細めの黒いパンツ……パーカーが私と色違いなのはもしかしてアヤさんの遊び心だろうか?

「じゃ、タクシー拾って遊びに行きましょ!」




タクシーに乗り込んで、観光に行く前に寄りたい所があるから……とちょっと寄り道をさせてもらった。

お目当てのものが見つかって一安心してタクシーに戻ると2人は気のいい運転手さんと仲良くなっていた。

「あんたら観光なんだってな?だったらいい場所がある。おじさんに任せとけ!」

そう言って運転手さんは親指を上げてニカっと笑った。



「さ、ここだ!」

おじさんが連れて来てくれたのは商店街の入り口だった。

大きな鳥居のような赤い門の下には丸い提灯がいくつもつられ、中央の提灯には白い文字がプリントされている。この商店街の名前だろうか?

門の奥はガラス屋根に覆われていて、遠くまでお店が連なっているのが見える。

「この辺1番の観光地だ。なんでもあるから土産にも困らんよ」

「凄い!楽しそう……ありがとうございます」

声を弾ませてお礼を言えば、運転手さんは礼には及ばんよ、と笑った。

「商店街を抜けた先に小さいが遊園地がある。展望台もあるから登ってみるといい」

気のいい運転手さんに改めてお礼を言って商店街に繰り出した。



大きな門を潜れば凄い人だかりだ。

客引きの威勢のいい声に、喧騒。外国語が聞こえて来たりもする。海外からも人が来るような観光地なんだ。

「うまそうな匂いがするな」

サチさんが鼻をひくつかせる。

油の焦げる香ばしい匂いに釣られて目を向ければ串焼き屋さんだ。

隣には果物屋さんがカットフルーツをプラカップに入れたものを陳列していた。

「食べ歩きできますね!」

「買ってみた」

どれも美味しそうで迷っているとヒロさんはすでに串焼きを3本買っていた。

ん、と私達に渡してくれる。

「お前はえぇな……」

「迷うなら食べた方が早い。サチが最初に教えてくれたろう?」


『選べねぇのは知らねぇからだ!飲んで食うぞ!』


「そんな事もあったな……」

サチさんがもらった串を眺めて目を細める。

なんだか、私も胸があったかくなる。

「そんな事もありましたねぇ……あ、美味しい!」

「おっほんとだな。……ん?カナエ、なんだあれ?」

「うわっすっごい大きい綿飴!虹色だ!!」

「買ってみた」

「ヒロさん早い!」

ヒロさんの買って来た綿飴は白からオレンジ、赤へとグラデーションを作って夕陽みたいだった。

……とても、映える!

「ヒロさん、サチさん、ちょっと寄って下さい。綿飴真ん中にして……そうそう」

「カナエ?」

「おいおいなんだよ?」

「行きますよー!はいチーズ!」

パシャリ。

途中で寄り道したのはこれ――ポラロイドカメラを買うためだ。

「ぐぁ!」

「びっくりした……カナエ、なんだそれは?」

サチさんはフラッシュにびっくりして目をさすっているし、ヒロさんは逆に目がまんまるでおかしい。

「ちょっと待っててくださいね〜……ほら!」

カメラから出てきたフィルムをちょっと振ってから2人に見せた。

白いフィルムにじわりと色が浮かび上がり、綿飴を挟んだ2人の姿が浮かび上がった。

「お〜こりゃすげぇな」

「似たような世界だったし、きっとこれもあるんじゃないかと思ってさっき寄り道したんです」

デジカメだと使い方がわかるか不安だったし、何よりこれなら物として残る。

たとえ、短い時間だとしても。

「アヤへのいい土産になるな」

そう……アヤさんは一緒には来れない。

けど、同じ旅をした仲間だから――。

「カナエ……ありがとうな」

サチさんからお礼を言われると、少しむず痒い。

「ふふ……これだけじゃないですよ。これを……こう」

「カナエ、これはいい!」

「はは!今からアヤの喜ぶ顔が目に浮かぶじゃねぇか!」

それから、食べ歩きをしながらお酒やお土産を見繕い、時々写真を撮りながら、ゆっくり商店街を見て回った。





散々遊んで、展望台に登る頃にはすっかり夕焼けも終わりさしかかっていた。

「遊園地も楽しかったですね!」

「ジェットコースターだけは2度とごめんだがな」

小さくてレトロな遊園地にあったジェットコースターは子供でも乗れるくらいの物だったが、サチさんとヒロさんには刺激が強かったらしい。

乗り終えると、サチさんは子鹿のように震えて、手すりにしがみつかないと歩けなかった。

ヒロさんに至ってはしばらく『モウ、ムリ……』しか言わなくなってしまった。

「カタコトみたいになっちゃうヒロさんすごく可愛かった……ヒロさん?」

ヒロさんは、いつものように夕陽を眺めていた。

太陽の光の暖色に夜の寒色がグラデーションを作っている。補色のようなそれらの間に雲が白く伸びて昼と夜の橋渡しをしてるみたいだった。

綺麗に写るかわからないけど……これもアヤさんに持って行こう。


「カナエ、サチ……」

ヒロさんの目は空からアーケードへ移っていた。

暗くなり始めた街はライトアップを始めている。ガラス屋根越しに、行き交う人々が見えた。賑やかな通りの喧騒が聞こえるような気がする。

宝物を眺めるようなヒロさんの目線はとても綺麗だった。

思い出を閉じ込めるように、ヒロさんは長い瞬きみたいに目を閉じた。

「帰ろうか。お土産を沢山買って帰って、アヤも一緒に夕飯にしよう」

目を開けたヒロさんが勢いよく私達を両肩に抱いて歩き出した。

「はは!そうだな!散々味見したしな。うまいもん買うぞ!」

「サチさん!食べ歩きは味見だったんですか?」

「綿飴は外せないな!」


賑やかに、賑やかに……私達は家路についた。


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