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画面の中の戦争の日常  作者: ぐりこ


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囚われの賞金首 序

俺たちは、ミサイル戦を想定した訓練を続けていた。


新人たちは、フレアやチャフを放出するタイミングに苦戦している。ロックオン警告を聞いてから回避行動に移るまでが遅れていた、また敵をロックオンしても発射の判断が遅れたりする。訓練でミサイルが機体を追尾してくるたび、シミュレーターの中で撃墜判定を受けていた。


今のまま戦場へ出しても、無駄死にさせるだけだ。


それでも、皆は毎日訓練を重ねていた。何度も失敗し、何度も警告音を聞き、何度も機体を落とされた。少しずつ、ロックオンから発射までの手順や、迎撃装備を使う間合いを身につけていく。


ノアやイーサンたちは、ミサイルを使った戦闘にも慣れてきていた。


ルイスだけは、まだ苦戦していた。


彼は敵機を見つけても、すぐに攻撃へ移れない。敵をロックオンしてミサイルを撃つことに集中すれば、戦場全体を見る余裕がなくなる。逆に、味方の位置や戦況を把握しようとすると、目の前の敵を攻撃する判断が遅れてしまう。


訓練が終わると、ルイスはシミュレーターの記録を何度も見返していた。


「敵を発見しても、攻撃に移るのが遅れています。かといって、ロックオンと発射に集中していると、味方の動きを追えなくなるんです」


彼は画面を止め、何度目か分からない反省を口にした。


「ノアやイーサンは、もう発見から発射まで迷わずできています。僕だけ、どちらかに意識を向けると、もう片方が抜けてしまう」


「ルイス、今日はもう終わりだ」


俺が声をかけても、彼はシミュレーターから目を離さなかった。


「あと一回だけお願いします。次は、敵を見失わないようにします」


その「あと一回」は、一回で終わらなかった。


次の日も、ルイスは訓練記録を見直していた。さらに次の日には、シミュレーターの予約を早朝に入れていた。


自分の後から来た新人たちが、次々にミサイル操作へ慣れていく。その様子を見るたび、ルイスは焦っているようだった。


同期や後輩が敵機をロックオンし、発射の合図を出す。フレアやチャフを使ってミサイルをかわす。そうした動きを見ている間、ルイスは自分の端末に視線を落とし、黙って記録をつけていた。


戦場全体を見渡す能力なら、ルイスは隊の中でも優れている。敵の進路や味方の位置を把握し、必要な情報を整理して伝える。だが、本人はそれだけでは足りないと思っているようだった。


「敵を見つけたら、すぐ攻撃に移らなければいけない。分かっているんです。でも、ロックオンと発射を意識していると、味方や敵がどこにいるのか見落としてしまう」


ある日の訓練後、ルイスはそう言った。


「逆に、味方の位置や戦況を見ていると、目の前の敵を撃つ判断が遅れる。どちらかを意識すると、もう片方が抜けてしまいます」


「それは普通だ。二つを同時にやるのは簡単じゃない」


「イリヤさんは、両方できています」


ルイスは、整備記録を確認していたイリヤを見た。


「僕もイリヤさんのようになりたいんです」


イリヤは端末を置き、ルイスに向き直った。


「無理をする必要はない。お前の一番大切な役目は、隊の皆を生きて帰す手伝いをすることだ」


「でも……」


「目の前の敵を攻撃することと、味方を守るために戦場全体を判断すること。その二つを同時に完璧にできる人間なんて、ほとんどいない。今のお前に、両方を完璧にやれとは言わない」


ルイスは視線を落とした。


「それでは、いつまで経っても追いつけません」


「俺が何年飛んでいると思っている」


イリヤの口元が、わずかに緩む。


「今のお前に同じことをやられたら、それこそ俺の立つ瀬がない。それに、俺は天才だ」


「イリヤさん、自分で言うんですね」


「事実だからな」


イリヤが笑うと、ルイスも小さく息を吐いた。張り詰めていた肩から、少し力が抜ける。


次の訓練から、ルイスは自分の役割を切り替えた。


敵を発見したら、敵の種類と数、進行方向をすぐに共有する。味方が敵のロックオン範囲へ入りそうなら、危険を知らせて援護を向かわせる。自分が撃墜を狙うことより、仲間が攻撃を受けないよう動くことを優先した。


「敵機二、右上方から接近。ノア、そちらへ回り込んでいます。進路を変えてください」


「了解!」


「イーサン、敵をロックオンできる位置です。発射するなら今です」


「ロックオン確認。発射します!」


ルイスの報告に合わせて、味方が動く。


危険を見つけ、伝え、必要な隊員を動かす。その一つ一つが、誰かの機体を救っていた。


「いい判断だ」


訓練が終わった後、俺はルイスに伝えた。


「お前やイリヤ、マレクのような人間は必要なんだ。目の前の撃墜数より、仲間を何人生かせたかを数えてくれ」


ルイスはしばらく考えてから、うなずいた。


「はい。自分の役割をきちんと果たします」


*


レンナは、飛行連隊全体の戦闘機の換装に追われていた。


今回の出撃に向けて、各機のミサイル搭載設備と迎撃装備を確認し、機体の整備を行っている。機体ごとに仕様や使用歴が違うため、確認項目も多い。


実弾を使った試験が許可されていないことにも、彼女は不満を隠さなかった。


「実際に撃って確かめられないのに、戦場へ出すなんて。そこで動かなかったらどうする気なのよ」


格納庫では、整備士たちが端末の整備記録と機体を照らし合わせていた。


「シミュレーターで手順は確認できますけど、機体側の不具合まで完全には分かりません」


「分かってる。だから何度も点検してるんでしょう」


レンナは言いながら、自分の端末に新たな確認項目を追加する。


休憩を取るよう言われても、すぐに作業へ戻ってしまう。寝る時間を削って、機体に不備がないか確かめていた。


そんなレンナの様子を、俺は何度か見かけていた。


ある日、整備士の一人が俺のところへ来た。


「隊長、レンナさんを少し休ませてもらえませんか。私たちが言っても聞かないんです」


「俺が言っても聞くか分からないぞ」


「それでも、お願いします。最近は食事も作業をしながら済ませています」


その話を聞いていたセリーナも、心配そうに言った。


「レンナさん、最近ずっと働きっぱなしです。少し休んでもらった方がいいと思います」


俺は二つ返事で引き受けた。


レンナを見つけたのは、格納庫の奥だった。彼女は機体の点検表を手に、整備士と話し込んでいる。


「レンナ、飯に行くぞ」


「今は無理。確認が残ってるの」


「その確認は、他の整備士でもできるだろ」


「この機体は私が担当してるの」


「なら、確認が済んでから行く」


「だったら今は行けないでしょ」


「確認が済むまで、俺がここで待つ」


レンナは困ったように眉を寄せた。俺が本当に動かないと分かると、ようやく点検表を整備士へ渡した。


「……分かった。でも、さっと食べて戻るからね」


「好きな店を選んでいい」


俺は飲食区画にある、レンナのお気に入りの店へ連れていった。チャイニーズフードを扱う店で、レンナはここの焼売が大好物だ。


運ばれてきた焼売は、合成肉を使っている。だが、種にはニラやニンニク、生姜が混ぜ込まれていて、肉の臭みはほとんど感じない。合成肉の脂っぽさも、焼売にすると旨味に変わる。


フライドライスもよくできていた。本物の米なのかは分からないが、細長い粒の米に卵液とネギが絡み、ほどよい塩気が食欲をそそる。


値段はかなり張る。酒もこの店独特のものがあり、琥珀色をした紹興酒は、砂糖と水を煮詰めたカラメルのような香りがした。甘苦く、癖の強い味だが、ここの料理とはよく合う。


レンナは、無理やり連れてこられたことにまだ怒っていた。


「私、仕事が残ってるんだからね」


「分かってる」


「機体の確認がまだ終わってないの」


「分かってる」


「本当に分かってる?」


「焼売を食べながら言うことじゃないだろ」


レンナの箸は止まっていなかった。大皿の焼売は、話している間にも一つずつ減っていく。


「あまり気を張り詰めすぎるな。きちんと休まなければ、故障を見つけられるものも見つけられなくなる」


「でも、皆の命を背負ってると思うと不安なんだもん。私のせいで戦場で何かあったら、私は……」


言葉が途切れた。


レンナは箸を置き、手元を見つめる。


「俺はお前を信頼してる。お前が確認しても見つけられない不具合なら、誰が見ても分からなかったんだろうと思う。お前が整備した機体に不具合があって、俺が死んだとしても、お前に文句はない。俺の運がなかっただけだ」


「そんなこと、簡単に言わないで」


「簡単に言ってるわけじゃない」


俺は彼女の目を見た。


「それに、お前に倒れられた方が困る。その方が戦場で何か起こりそうだ」


レンナは何も答えず、箸を手に取った。しばらくして、少しだけ笑う。


「整備士の仲間からも、お前を連れ出すよう言われた。チームにあまり心配をかけるな」


「みんな、そんなことまで言ったの?」


「そうだ」


レンナは俯いた。嬉しそうにも、困っているようにも見えた。


「ダメ。死なないで」


「ああ」


「でも、ありがとう。今日は一緒にゆっくりする」


レンナはそう言って、残っていた焼売を口に運んだ。


*


宙賊狩りのために第三要塞を出発する三日前、運営主催のブリーフィングが開かれた。


会場には、各飛行連隊から隊員が集められていた。正面の大型画面には、軍服姿の男が映っている。今回は音声だけの案内ではなく、質疑にも応じるらしい。


「全員、よく聞け。これより作戦の概要を説明する。資料に記載された内容を確認し、各隊は指示どおり準備を進めろ」


男は画面越しに隊員たちを見渡すようにして、上から目線の口調で話し始めた。


作戦区域の映像が表示される。


作戦区域は、第一次宇宙大戦の戦場となった宙域だった。現在は放棄され、広範囲にスペースデブリと小惑星群が漂っている。そのどこかに、宙賊の基地が複数存在しているという。


「基地は一か所ではない。小惑星群や廃棄施設を利用し、複数の拠点に分散している。一つの拠点へ攻撃を仕掛ければ、周辺の宙賊が反応し、増援として出てくる可能性がある。蜂の巣をつついたように敵が現れ、包囲される危険がある。各隊、警戒を怠るな」


画面に、宙域の立体図が映された。小惑星の間には、過去の戦闘で破壊された艦艇の残骸が漂っている。大きなものは艦橋や船体の一部を残し、小さな破片は無数に散らばっていた。


「宙賊が使用している船は、主に拿捕した輸送船を戦闘用に改造したものだ。分類上は戦闘機よりフリゲート艦に近い」


映像が切り替わる。民間輸送船の船体に、大型ブースターや追加火器を無理に取り付けた船が映った。輸送区画の一部は取り払われ、装甲も薄くなっている。


「奴らは装甲より機動力を重視する。民間輸送船の船体を軽量化し、大型ブースターを取り付けている。正規の艦艇と撃ち合うより、輸送船へ死角から接近し、乗り込んで制圧する戦法を得意としている」


宙賊は、獲物の船へ短時間で接舷し、白兵戦で制圧する。船と積荷を奪ったら、すぐに宙域を離れる。


艦隊戦よりも、接近戦や船内での戦闘に慣れている連中だ。


「今回、第三要塞の部隊には、宙賊の拠点への攻撃と制圧を担当してもらう」


軍服の男が続ける。


「宙賊どもは可能な限り生け捕りとしろ。捕縛した人数と対象の役割に応じてポイントを加算する。捕縛ポイントは要塞ごとに集計し、作戦期間中のランキングとして発表する。最終的に一位となった要塞には、運営から特別な施設を贈呈する」


会場がざわついた。


「捕まえた人数を競わせるのか」


誰かが小さく呟く。


運営は、宙賊をただの敵として扱っていない。捕虜にして、次の興行や番組に使うつもりなのだろう。


「捕縛対象を確認する端末を各部隊へ配布する。対象を拘束し、識別情報を登録した時点でポイントを反映する。死亡した場合、捕縛ポイントは加算しない」


画面には、捕縛対象ごとの評価項目が並ぶ。一般構成員、操縦士、武装要員、指揮官。立場によってポイントが異なるようだった。


運営は、捕まえた宙賊をランキングへ変える。


「今回の作戦では、短距離ミサイルの仕様が変更されている」


軍服の男がそう告げると、画面に新しい兵器の図が表示された。


「従来のSJSMに代わり、運営が新たに開発した鹵獲専用兵器を搭載する。名称はSNLM、Space Non-Lethal Electromagnetic Missile。宇宙非殺傷電磁ミサイルだ」


「非殺傷?」


前列にいた新人が、聞き返すように呟いた。


「目標に命中すると電磁爆発を起こし、対象の電子機器を破壊する。有人人機や小型艇を無力化し、搭乗者を生け捕りにするための兵器だ」


説明を受け、俺は画面上の仕様に目を走らせた。これまでの短距離ミサイルとは弾頭の中身が異なる。だが、根本的な問題はそこではない。


「電子機器を完全に破壊すると言ったな。生命維持装置や脱出装置も止まるのか?」


俺が尋ねると、運営担当者は少しもためらわず答えた。


「その通りだ。機体の電子装置が破壊されれば、生命維持装置も停止する。」


会場の空気が変わった。


「それでは非殺傷とは言えないでしょう」


イーサンが低い声で言った。


「対象が酸素や予備装置を持っていない場合、どうなる?」


イリヤが続けて尋ねる。


「死亡する前には財閥軍が回収する。予備の酸素タンクや酸素缶を準備していない者については、致し方ない」


「それで非殺傷兵器か」


俺は呟いた。


運営の男は、返答を避けるように次の資料を表示した。


「なお、このミサイルには副作用が確認されている。被弾者の性機能に障害が発生する可能性がある。そのため、味方が侵入している要塞や施設に対しての使用は推奨しない」


新人たちがざわついた。何人かは「性機能」という言葉に反応していたが、俺が気になったのは別の箇所だった。


電子機器を完全に破壊する。生命維持装置も止まるかもしれない。


それでは、相手を生け捕りにするための兵器というより、敵を無力化した後の生死を運に任せる兵器だ。


「ミサイルの使用は任務上必要な場合に限れ。施設内に味方や救出対象がいる可能性がある区域では、着弾時の影響を考慮しろ」


軍服の男は、注意事項を読み上げた。


「対象者を傷つけずに確保した場合、捕縛ポイントは高くなる。過剰な損傷や電磁ミサイルが理由での死亡が確認された場合、ポイントを減算することもある」


命を懸けて戦う相手に対して、捕まえ方まで採点するらしい。


続いて、別の画面が表示された。


「宙賊に拉致された民間人の救出も作戦目標に含まれる。運営が作成した救出対象者リストを各隊へ共有する。対象者を生存した状態で救出した場合、対象者ごとに定められた報奨金を、救出に貢献した部隊へ支給する」


画面に複数の人物の名前と身元情報が表示された。


救出対象者には、それぞれ異なる報奨額が設定されている。裕福な個人や企業関係者は高額で、身元や資産状況によって金額が上下しているようだった。


助けを待っている人々に、運営が値札をつけている。


救出された人数ではなく、誰を救出したかで報酬が変わる。宙賊の捕縛ポイントとは別に、民間人救出の報奨金まで設定されているのだ。


「まるでバウンティブックだな」


イリヤが、隣で小さく呟いた。


「俺もそう思う」


救出対象者のリストは、賞金首の一覧と大差なかった。


「救出対象者がいる拠点を攻撃する際は、施設を破壊するな。救出対象者の所在が不明な場合、内部へ侵入した後に捜索しろ」


軍服の男は画面の向こうから、命令するように言った。


「質問はあるか。作戦に必要な情報は資料に記載してある。各自で確認し、指示に従え」


「つまり、基地を外側から破壊することはできない」


俺は会議室にいる隊員たちへ目を向けた。


「宙賊を捕まえる。民間人を探し出して救出する。どちらも、拠点の中へ入らなければ始まらない」


宙賊は白兵戦に慣れている。輸送船へ乗り込み、船員を制圧してきた連中だ。今度は俺たちが、彼らの拠点へ乗り込むことになる。


「問題は中に入ってからだ」


誰も軽口を叩かなかった。


相手は、こちらを殺すつもりで来る。捕縛ポイントや報奨金を気にして、味方を危険にさらすわけにはいかない。


運営が望むのは、捕虜と救出者と、視聴者を楽しませる映像だ。


俺が望むのは、仲間を生かして帰すことだった。


「宙賊を生かして捕まえろという指示は分かった。だが、相手は俺たちを殺す気で来る」


俺は隊員たちを見回した。


「味方を守るためなら、殺さないなどと言ってはいられない。運営の意図より、まず仲間を生かす行動を取る」


返事の代わりに、何人もの隊員がうなずいた。


ブリーフィングの画面には、作戦区域の小惑星群と、救出対象者の名前が並んでいた。


宙賊を捕らえればポイントが入る。民間人を救えば、報奨金が支払われる。


そして、どちらのリストにも載っていない人間が、基地の中にいる可能性もある。


俺たちが本当に何人を連れ帰れるのか。出発までの三日間で、答えを出すことはできなかった。

書き溜めていた物が無くなってしまいました。

本日以降はAM1時に1ページずつ更新をしていきます。

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