SJSM
俺たちは、飛行連隊の所属を問わず新人たちを集め、戦闘機に搭載するミサイルの種類について説明することにした。
まずは、宇宙空間で使用するミサイルだ。
SSM――Space-to-Surface Missile。宇宙から惑星の地表を攻撃するミサイル。
SSAM――Space-to-Space Air Missile。宇宙から航空機や飛行体を攻撃するミサイル。
SSCF――Space-to-Space Fortress。宇宙から宇宙要塞や建造物を攻撃するミサイル。「C」はコロニー「Colony」の略称で居住施設への攻撃、建造物への攻撃をする役割だ。
SJSM――Space-Joint Strike Missile。宇宙統合打撃ミサイル。
宇宙で使用するミサイルは、大きく分けてこの四種類になる。作戦内容に応じて、搭載するミサイルの種類や数が変わる。
SSMや、SSCFの派生型の中には、SBM――Space Multiple Environment Missile、宇宙多用途ミサイルという分類もある。地上用にもBGM――多用途対地上ミサイルと呼ばれる種類が存在する。通称トマホークミサイルだ。ただし、あれらは戦艦クラスが運用するものだ。今回は話が広がりすぎるので、そこまでにしておく。
「ちなみに俺は使ったことがないが、惑星内……母なる大地と呼ばれる場所では、分類が少し違う」
俺は資料を切り替えた。
AAM――Air-to-Air Missile。空対空ミサイル。
ASM――Air-to-Surface Missile。空対艦ミサイル。
AGM――Air-to-Ground Missile。空対地ミサイル。
JSM――Joint Strike Missile。統合打撃ミサイル。
「俺たちは惑星内での戦闘を経験していない。だから、今回は宇宙用の装備に絞って説明する」
俺たちがこれまで搭載したことがあるのは、SSAM、SSCF、SJSMだ。SSMを使用した経験はない。作戦に応じて、その三種類を使い分けてきた。
イリヤは新人たちの前に立ち、一つずつ丁寧に用途と特徴を説明していった。
今回の装備については、運営から積載数や機体の仕様も伝えられていた。その内容も、資料を使って周知する。
「搭乗する機体は変わらない。出撃までに、全機へミサイルを積める状態に整備とメンテナンスをする。元々ミサイルを搭載できる機体だ。無理やり取り付けるわけじゃない」
俺は誤解がないように付け加えた。
「俺やイリヤ、リンみたいに、制宙戦を生き延びたパイロットが乗る機体には、搭載設備が残っている。これからメンテナンスをして、不備や問題があれば報告してくれ」
ミサイルの搭載数は、機体一機あたり合計十六発。
主翼には中距離ミサイルを四発、懸架式で搭載する。前翼には小型短距離ミサイルを十二発、内蔵式の弾倉に収める。短距離ミサイルは普段、機体の中に収納されている。
ミサイルにはステルス機能やホーミング機能が備わっている。よほど高性能な警戒システムを搭載していない限り、敵は視認できないままミサイルに撃墜される可能性がある。
「今回の作戦で搭載するのは、この二種類だ」
俺は使用予定の兵装を表示した。
中距離巡航ミサイル――SSCF-G103f。対宇宙要塞ミサイル。
短距離巡航ミサイル――SJSM-K2638α。多用途統合型打撃ミサイル。
新人たちは表示を見ながら、手元の端末に記録していく。
「コックピットで触るなと言われている箇所があるだろう。その中に、ミサイル関連のスイッチや計器がある」
俺はモニター上にコックピットの図を出した。
「機体搭載用レーザー兵器システム、SHiELDの残エネルギー欄の横に、不自然な空白があるはずだ。そこにミサイルの残弾数が表示される。故障などのエラーも、同じ場所に出る」
新人たちは、画面を見て顔を見合わせた。
「乗り始めた頃に、気になった空白だな」
「はい。何か表示が欠けているのかと思ってました」
「俺もです。機体の故障かと」
日常の中で見慣れて、いつしか忘れていたのだろう。最初に乗った時に感じた違和感の正体が分かり、納得した様子だった。
イリヤが説明を引き継いだ。
「次は注意点だ。ミサイルを搭載するということは、普段は載せていない爆発物を背負って戦場に出るということだ」
彼の声は落ち着いていたが、言葉には重みがあった。
「普段なら『被弾した』で済む損傷でも、当たりどころが悪ければ搭載したミサイルが誘爆する。被弾箇所によっては、機体ごと爆散すると思え」
新人たちの顔から、さっきまでの好奇心が少しずつ消えていく。
「二つ目。こちらがミサイルを撃つなら、敵も撃ってくる。レーザー兵器なら、かわした後は軌道を変えない。だが、ミサイルは違う。撃たれた後も追ってくる。回避行動を取っただけでは、振り切れない場合がある」
イリヤは一呼吸置いた。
「三つ目。ミサイルにはステルス機能がある。俺たちの機体では、飛来するすべてのミサイルを発見できるとは限らない」
新人の一人が、青ざめた顔で尋ねた。
「レーダーに映らないミサイルが、どこから来るかも分からないまま追いかけてくるんですか?」
「そういうこともある」
俺が答えると、何人かが息を呑んだ。
彼らは、レーダーに反応しないミサイルが何発あるかも分からないまま、自分の機体を追いかけてくる光景を想像したらしい。
*
「だから、機体に搭載されている迎撃システムがある」
イリヤが次の資料を表示した。
「一つ目はフレア。熱誘導型ミサイルに対するデコイだ」
「二つ目はチャフ。レーダー誘導型ミサイルに対するデコイ」
「三つ目は電子戦システム、EW/ECM。敵の火器管制レーダーやミサイルのシーカーへ強力な電波妨害を行い、誘導を狂わせたり、ロックオンを外させたりする」
「四つ目は曳航式デコイ。ワイヤーで機体の後方に小型の欺瞞装置を引っ張って飛ぶ。敵のミサイルに、機体ではなくデコイを狙わせる装備だ」
イリヤは四つの装備を順に指した。
「この四つは、ミサイルから機体を逃がすためのものだ。もう一つ、ミサイルそのものを迎撃する装備がある」
画面に小型ミサイルの図が表示された。
MSDM――Miniature Self-Defense Munition。自衛用小型ミサイル。
「フレアやチャフなどの防御装備は、全機に標準搭載される。MSDMは小隊長機以上の機体にだけ搭載される」
新人たちは、また端末に記録を始めた。
「フレアとチャフは、基本的に同時に排出する。どちらも一機につき五十発ずつ、合計百発だ。一度に一発から五発を使う。自分の身を守るための装備だ。節約しようとして使うのが遅れたら、命を落とす。必要なら使え」
新人の一人が、手を挙げた。
「でも、使いすぎてなくなったら、その後に撃たれた時は……」
「使わずに撃墜されれば死ぬ。使いすぎてなくなっても、次のミサイルで死ぬかもしれない」
俺は答えた。
「どちらにしても、状況を見て判断するしかない。矛盾しているように聞こえるだろうが、戦場はそういうものだ」
新人たちは黙った。端末を操作する音だけが、部屋に残る。
イリヤはルイスを名指しした。
「ルイス。お前や俺のように、戦場全体を俯瞰して指示を出す人間が重要になる。ミサイルを見落とせば、仲間が死ぬと思え。誰が撃たれたか、何発飛んできたか、撃墜できたか。必ず報告しろ」
「了解しました」
ルイスは緊張した面持ちで答えた。
*
「次は、ロックオンシステムの説明だ」
俺はコックピット映像を再び表示した。
「普段のレーザー兵器は、照準に敵を捉えて撃つ。ミサイルの場合は、ロックオンしてから発射する。条件が揃えば、システムが自動で照準を合わせる」
画面上に、機体の正面に表示される四角い枠が映った。
「機体に乗ると正面に四角い枠があるだろう。真ん中に照準がある。その枠の中に敵機を入れておけば、ロックオンが始まる」
「ロックオンされた相手には警告音が鳴る。俺たちがロックオンされた場合も同じだ」
イリヤが補足する。
「ロックオンした側は、敵の電子戦システムで妨害される前に撃つ。撃たれた側は、フレアやデコイなどを使って迎撃する。ロックオン警告を聞いたら、ただ逃げるんじゃない。周囲を確認して、誰が狙われているのか、どの方向から撃たれたのかを伝えろ」
「いかに早く敵のロックオンを見破り、いかに高度な嘘の電波で敵のレーダーを騙すか」
イリヤが新人たちを見渡す。
「それが、ミサイルを搭載した戦闘で撃墜されないための大事な心得だ」
俺は話を続けた。
「ロックオンするには、四角い枠に敵を捉えなければならない。仲間と敵の位置を確認し、互いに援護へ入れ。まずは自分や仲間がロックオンされないことを考えろ」
「そして、ロックオンしたらすぐに撃て」
俺はひとりひとりの顔を見た。
「ミサイルは敵を追っていく。撃つ時点でのお前たちの技量は関係ない。新人でも、ロックオンさえすれば、エース相手にもミサイルは目掛けて飛んでいく」
その言葉に、新人たちの表情が少し変わった。
恐怖だけではない。自分たちにもエースへ対抗する手段があると知り、わずかに気持ちが前を向いたようだった。
「もちろん、ロックオンしたから必ず当たるわけじゃない。敵も迎撃するし、電子戦で妨害もしてくる。発射した後も、結果を確認しろ。味方が撃ったからといって、敵を撃墜できたと思い込むな」
「了解しました」
新人たちの返事が重なった。
*
「最後に訓練についてだ」
イリヤが、シミュレーターの訓練予定を表示した。
「運営は、実弾を使った練習を許可していない。シミュレーターにミサイルの機能を追加してある。各自、訓練を怠るな」
「どれだけ現実に近い設定で訓練できるかが、生き残るための条件になる。ロックオン警告を聞いてから慌てても遅い。警告、報告、回避、迎撃までを身体に覚えさせろ」
新人たちは、それぞれ端末を開き、シミュレーターの予約を始めた。
「以上、これまで!」
説明が終わると、部屋には端末を操作する音が広がった。新人たちは訓練枠を確保しながら、互いにミサイルの種類や警告音について確認し合っている。
俺も隊員全員の予約状況を端末で確かめた。
誰か一人に任せるわけにはいかない。扱いを誤れば、撃つ前に自分たちが吹き飛ぶ。戦場でミサイルに追われた時、仲間の警告を聞き逃せば、その一瞬で命を失う。
俺は画面を閉じ、隊員たちへ改めて声をかけた。
「全員、シミュレーターの予約を確認しろ。ミサイル戦の訓練を優先する。分からないことを放置するな。出撃前に必ず聞け」
「了解!」
新人たちの返事が、今度はさっきよりはっきりと響いた。




