ファン感謝祭 結
パレードへの出場が決まった翌日、俺とイリヤは飛行連隊の皆を集め、会議を始めた。
会議室に入ると、すでに隊員たちが集まっていた。昨日までの興奮がまだ冷めていないのか、皆、席に着くなり好き勝手に口を開いている。
「まあ、レン隊長ならそうなるよね」
「ならなかったら、パレードそのものに苦情が出てたと思うけ」
「レオニードさんが一位なのが不思議すぎる。外の人間には、あれがいいの?」
「言い過ぎだぞ」
俺が言うと、何人かが笑った。
「冗談ですよ、隊長」
「冗談だとしても、レオニードの強さは本物だぞ」
イリヤが咳払いを一つした。ざわめきが少しずつ収まる。
「対策会議を始める」
その一言で、皆が口を閉じた。
イリヤは正面のスクリーンを操作し、パレードの概要を表示させた。
開催日は二週間後。会場は銀河の外に設けられた特別興行区画。対象となる小隊と整備士チームは、一週間前に第三要塞を出発し、会場で機体の最終調整を行う。
エース小隊は五機。対する一般飛行連隊の選抜小隊は二組、合計十機。試合は相手の隊長機を撃墜した時点で終了する。
「開催まで二週間ある。だが、実質的に訓練へ使えるのは一週間だ。残り一週間は移動と現地調整に充てる」
イリヤが言った。
「まず確認する。今回のパレードは、俺たちが普段組んでいる小隊編成で出る必要はない。選抜小隊として、五機を組み直せる」
スクリーンに、各隊員の名前が表示される。俺、イリヤ、リン、ネッサ、マレク。
俺たちは五人とも、それぞれの小隊や連隊で指揮を執る立場にある。普段の編成をそのまま持ち込めば、残された隊の指揮系統に穴が開く。だが、今回は選抜小隊として戦う。出場者を五人に絞る必要がある以上、誰を選ぶかを決めなくてはならなかった。
「僕たち隊員は誰も出ないのですか?」
誰かが尋ねた。
「今回は出さない」
俺が答えた。
「ハンディキャップ戦は、相手が倍の数いる。相手の連携次第では、五機の俺たちが一瞬で包囲される。ルーキーには負担が大きすぎる。今回は俺たちの動きを見ていろ」
隊員たちから、異論は出なかった。出たい気持ちがある者もいるだろう。それでも、これは経験を積ませるための訓練ではない。観客の前で行われる本番の戦闘だ。相手も、こちらも、命を懸けることになる。
イリヤはスクリーンに、両陣営の機数を表示した。
「こちらは五機。相手は十機。まず数の差がある。敵は二つの小隊に分かれ、片方がこちらを引きつけている間に、もう片方が隊長機を狙うこともできる」
「相手の目的は、こっちの隊長機を落とすことだけだ。撃墜数を稼ぐ必要がない分、思い切った動きをしてくるかもしれないな」
俺が言うと、イリヤがうなずいた。
「そうだ。十機で隊長機に集中された場合、残りの四機が全てを捌ききれるとは限らない。こちらは隊形を崩さず、敵に分断されないことが重要になる」
「向こうが一斉に私たちを囲みに来たら、正面から受けずに陣形を崩す必要があるのね」
ネッサが言った。
「そのための役割分担も考え、また各々の操縦技量や経験。レンとの連携した事のある実績を考慮するとこうなった。」
イリヤが俺を見た。
「俺、イリヤ、リン、ネッサ、マレク。この五機でいく」
普段の小隊の形ではない。全員が隊を率いてきた経験を持つ。敵の動きを読み、戦況に合わせて判断する力がある。何より、全員が多くの実戦をくぐってきた。
「隊長とイリヤさんと一緒の小隊になるの、久しぶりだ! 少し楽しみかも!」
リンが明るく言った。
「久しぶりだな。最低でも、俺とレンが同じ小隊で飛ぶのは七年ぶりだ」
イリヤが答える。
「そんなに経つのか」
「お前が飛行連隊を持ってからは、ほとんど別々だったからな」
「なら、昔の感覚を取り戻すところからだな」
リンが嬉しそうにうなずいた。
イーサンが手を挙げる。
「隊長たちの実力は知っていますし、信用もしています。でも、そんなに連携訓練をしていないなら、普段から一緒に飛んでいる僕たちの方がいいのではないですか?」
「その懸念はもっともだ」
俺はスクリーンの編成表を見た。
「だが、先程も言ったが相手が多い場合は、何より経験による動きの予測が大切になる。連携は訓練で取り戻せる。人数差の中で相手が何を狙うか読むのは、場数がいる。今回はこの編成で行く」
イーサンは納得しきれない顔をしていたが、それ以上は何も言わなかった。
「明日から俺たちはシミュレーターで訓練する。お前たちはパレードが終わるまで自主訓練をしていてくれ」
俺はマレクを見る。
「特にマレク。お前は他の小隊長たちと比べて、まだ戦闘経験が少ない。この一週間で鍛え上げる」
「はい。よろしくお願いします」
マレクは真剣な顔で答えた。
*
そこからの一週間は、あっという間に過ぎていった。
俺たち五人は、シミュレーターで編隊飛行やハンディキャップ戦を繰り返した。五機で十機を相手にする状況を何度も作り、敵の集中攻撃をどういなすか、隊長機を狙う敵をどう誘い出すかを確認する。
最初のうちは、わずかなずれがあった。
俺が昔の癖で先に出すぎると、イリヤが後方から射線を補う。リンは敵の注意を引きつける動きをするが、ネッサの援護位置と噛み合わず、何度か仮想機に撃墜判定を受けた。
マレクは、隊長として味方をまとめる判断に慣れてきていた分、俺たちの動きに合わせるのに苦労していた。味方の損傷を見れば、反射的に助けに向かおうとする。だが、五機対十機の状況で一機が不用意に離れれば、残りが包囲される。
「マレク、そこは助けに行くな。敵が作った隙だ」
「ですが、リンが囲まれています」
「ネッサが援護に入っている。お前は外側の二機を押さえろ」
「了解です」
次の訓練では、マレクは指示どおりに動いた。リンへの射線を作っていた敵機を牽制し、ネッサがリンを安全圏へ戻す。その間に俺とイリヤが反対側の敵を崩した。
回数を重ねるごとに、五人の動きが揃っていく。
小隊長は、それぞれの隊の柱だ。今回は特別に集めたとはいえ、誰も失うわけにはいかない。仲間としても、隊の運営のためにもだ。俺自身も、ここで死ぬわけにはいかなかった。
*
パレードへ出発する前日、レンナ率いる整備士チームが、空母へ機体を格納する作業を進めていた。
俺たちの機体は、出発に備えて一機ずつ点検を受けている。推進器、火器管制、装甲、生命維持装置。レンナは整備士たちに指示を飛ばしながら、チェック表を埋めていた。
そこへ、運営から追加の通達が届いた。
出場する全機を、空母内でパレード仕様に塗装するという。
「この大事な最終調整の時期に、どうして余計な仕事を増やすのよ!」
レンナの怒声が格納庫に響いた。
「機体の最終確認だけでも手が足りないのに。塗装するなら、乾燥時間も塗膜の確認も必要なのよ!」
「レンナ、落ち着け」
「落ち着けるわけないでしょ。飛ぶ機体に、出発直前で塗装を追加するなんて!」
リンは少し離れたところで、怒っているレンナを眺めていた。何か言いたげに、何度も口を開いては閉じる。
やがて意を決したように、彼女はおずおずと声をかけた。
「あの……機体を塗装するなら、尾翼に黒猫をおっきく描いてほしいんだけど……」
「機体のカラーは指定されてるから無理! レンと似たカラーになるよ」
レンナは作業の手を止めずに答えた。
「私の夢が……」
リンは膝から崩れ落ち、床に手をついた。四つん這いのまま、悲しそうに尾翼を見上げている。
俺は、レンナが一瞬だけリンの機体を見たのに気づいた。だが、彼女はすぐに整備士へ指示を出し、作業へ戻っていった。
*
出発当日。
俺たちは第三要塞の仲間たちに見送られながら、空母の停留区域へ向かった。
「俺たちの代表として頑張ってきてくれ!」
「全員、無事に帰ってこいよ!」
「レン隊長、レオニードを倒して一位を取ってきてください!」
「そういう試合形式じゃない。レオニードとは戦わない。」
「じゃあ、無事に生きて帰ってきてください!」
そんな声に手を上げて応えながら、俺たちはドックへ進んだ。
空母の停留ドックには、見送りに来た飛行連隊の仲間たちが集まっていた。今回はレン、イリヤ、リン、ネッサ、マレクの五人と、レンナ率いる整備士チームが空母に乗る。それ以外の隊員たちは、ここで俺たちを見送る。
イーサンが俺の前に立った。
「隊長、皆で見ています。無茶はしないでください」
「分かってる」
「隊長のことですから、無茶しないか心配です」
「心配しすぎだ」
「それでもです」
ノアやエリサ、ルイスも順に声をかけてくれた。ルイスは、出発後も通信の窓口を担当するイリヤへ必要な記録を送ると約束した。
セリーナは一歩前に出て、少し緊張した様子で言った。
「レン隊長、皆さん、頑張ってください。必ず帰ってきてくださいね」
「もちろんだ」
マレクも仲間たちと短く言葉を交わす。リンは機体の尾翼を何度も振り返っていたが、そこにはまだ黒猫のマークはない。
最後にイリヤが見送りに来た隊員たちを見渡す。
「行ってくる。留守の間、訓練をサボるなよ」
「了解です」
「無事に戻って来てください。」
見送りの声を背に、俺たちは空母へ乗り込んだ。
*
空母での一週間も、シミュレーター訓練を中心に過ごした。
訓練開始当初は、外から見ても分からない程度でも、ずれがあった。だが、何度も飛び、撃ち合い、互いの動きを確かめるうちに、昔の感覚が戻ってきた。
イリヤの指示で俺が動き、リンが敵を散らす。ネッサがその隙を逃さず撃墜し、マレクが全体の穴を埋める。五人の間に、言葉がなくても通じる動きが生まれていく。
パレード当日、俺たちは会場へ到着した。
会場は、何も遮るもののない宙域に設けられていた。その宙域をぐるりと囲むように、観客席を備えた巨大なアリーナが建造されている。
戦闘区画の四隅には、支柱のような装置が浮かんでいた。支柱同士を結ぶ電磁バリアが、流れ弾を外へ通さない仕組みになっているらしい。
「撃墜された機体や流れ弾は、支柱間の電磁バリアが遮断します。なお、機体がバリアへ接触した場合、強力な電流が流れ、機体は爆発します」
実況の男が、会場モニターを通して説明していた。
俺は説明を聞きながら、広い戦闘区画を見渡した。
「実力が試されるな。遮蔽物が一つもない」
「うちらなら大丈夫! 最強だよ!」
リンが明るく答えた。
「油断はしない。ここまで来てしまったら、やるだけだ」
イリヤは冷静だった。
「隊長たちが前を見てくれるなら、私は後ろを支えます」
ネッサが言う。
「俺も、皆の動きに遅れないようにします」
マレクが続けた。
頼もしい。誰も浮ついてはいない。そして、怖じ気づいてもいなかった。
「よし。やるだけだな」
俺たちは出場者控室へ移動した。
*
試合は、投票順位の低い小隊から始まる。五位、四位、三位と続き、最後に上位の小隊が出場する。
最初は、第二要塞のナディア・ケストナー小隊だった。
出場者控室のモニターに、ナディアの小隊が映し出される。五機の機体は、白と薄い水色を基調にした塗装だった。尾翼や翼端に銀色の線が走り、照明を受けるたびに細く光る。
ナディアは機動力を重視する操縦士だ。敵の照準をぎりぎりでかわし、相手の背後へ回り込む戦い方を得意としている。
対する一般飛行連隊の十機。二つの小隊が左右に分かれて、ナディアたちを挟み込む構えを取った。
「さあ、ファン感謝祭の第一試合、第五位のナディア・ケストナー小隊が登場しました! 対するは第五要塞一般飛行連隊、十機です! 隊長機を撃墜した側が勝利となります!」
試合開始の合図が鳴る。
ナディアたちはすぐに散開した。先頭の二機が左右へ引きつけ、ナディアは中央を高速で抜ける。一般飛行連隊の射撃が追いすがるが、彼女は機体を細かく傾けてかわした。
「速いな」
リンがモニターを見ながら言った。
「ナディアの得意な距離だ。相手の射線を読んで、ぎりぎりで抜けている」
イリヤが答える。
ナディアは相手の一機の背後へつき、翼の付け根を撃った。敵機が姿勢を崩す。その隙に味方の一機が追撃し、最初の敵機を撃墜判定にした。
しかし、一般飛行連隊は隊列を立て直す。九機が連携し、ナディアたちの逃げ道を少しずつ狭めていった。機動力で翻弄されないよう、アリーナの境界を使いながら包囲を作っている。
ナディアは包囲の薄いところを見つけ、急旋回した。狙撃機の射線を避け、反対側へ抜けようとする。
その瞬間、狙撃の光が彼女の機体をかすめた。
ナディアは射撃そのものをかわした。機体は無事だった。だが、回避した先に電磁バリアがあった。
機体の翼端がバリアに触れる。
青白い電流が機体を包み、ナディア機が爆発した。
「ナディア機、撃墜判定! 操縦者の生命反応、消失!」
実況の声が会場に響く。
控室の空気が凍りついた。
「説明では聞いていたけど……本当に、触れただけで爆発するんだ」
ネッサの声が硬くなる。
「あれを境界に使うのか。流れ弾を止める設備が、機体を破壊する壁になるなんてな」
イリヤは画面を見たまま言った。
「ナディアは機動力が持ち味だ。あの区画での戦いは狭いな、彼女にとって不利でしかなかったな」
「逃げる方向まで制限される。数の差もあった」
俺は、支柱の位置を確認した。
ナディア小隊の隊長機撃墜と同時に、試合終了の表示が出た。残存機はナディア小隊が二機、一般飛行連隊が四機。終了後の撃墜はなかった。
実況は、ナディアを含む二名が死亡し、残る一名は脱出ポッドで救助されたと伝えた。
*
四位は、第四要塞のバスティアン・ロシュ小隊だった。
バスティアンの機体は、濃い赤と黒。翼の縁だけが白く塗られている。華やかな色合いではないが、五機が同じ配色で揃っているため、隊形がひと目で分かった。
「第四要塞のバスティアン・ロシュ小隊が入場しました! 堅実な連携を得意とする小隊です。対する一般飛行連隊は十機。隊長機の撃墜で勝敗が決まります!」
試合開始の合図が鳴る。
一般飛行連隊は、先ほどの試合を見ていたのだろう。アリーナの境界へ追い込まれないよう距離を保ちつつ、バスティアン小隊を囲むように展開する。
バスティアン小隊は、無理に突っ込まなかった。
敵が前へ出れば一歩引き、敵が散開すれば隊形を保ったまま押し返す。派手な急旋回も、目を引く一斉攻撃もない。
それでも、敵は確実に減っていった。
一機がバスティアンを狙って前へ出る。小隊の一機が射線に割り込み、敵の動きを止める。別の一機が側面から撃ち、撃墜判定を取る。
敵が反撃しようとすれば、バスティアン小隊は隊形を縮めて受け流した。相手が無理に追えば、待ち構えていた二機がその後ろを取る。
目立つ見せ場はない。だが、気がつけば一般飛行連隊の機体は、十機から七機、七機から六機へと減っていた。
その間に、バスティアン小隊も二機を失った。撃墜された機体の一人は脱出できず、もう一人はポッドで回収されていた。
最終的に、バスティアン小隊は残存三機。一般飛行連隊は残存五機。相手の隊長機が撃墜判定を受け、試合は終了した。
「堅実だな。まるでチェスを見てるようだった。」
俺が言う。
イリヤは深くうなずいた。
「引くべきところで引き、押すべきところで押している。これは強い」
「犠牲を出すべきところで出していた。」
俺は、撃墜された二機を思い出した。
「バスティアンは、仲間の死すら計算に入れて戦っている」
イリヤはすぐには返さなかった。
「それでも、あの判断で残り三機を生かした。隊長機を守り、試合にも勝った。冷たい判断だが、間違いとは言えない」
俺たちは出撃準備のため、控室を出て格納スペースへ移動した。
*
格納スペースでは、レンナが俺たちを待っていた。
機体はすでにパレード仕様の塗装を終え、最終点検も済んでいる。レンナ率いる整備士チームは、それぞれの機体のそばに立ち、細かな確認を続けていた。
リンが自分の機体を見上げた。その視線が尾翼で止まる。
そこには、小さな黒猫のマークが描かれていた。
「え……?」
リンは目を見開いた。機体へ近づき、尾翼をじっと見つめる。
「これ、なんで……?」
レンナは整備士たちの陰から顔を出した。
「運営には内緒。塗装の最終確認の後に、私がこっそり描き足したの」
「レンナ!」
リンは駆け寄り、レンナに抱きついた。
「ありがとう! 絶対に帰ってくるからね! 大好き!」
「はいはい。機体を汚さないでよ」
「汚さない!」
リンは笑顔で機体へ戻った。
レンナは俺たち五人の前に立つ。
「機体の整備は完璧。武装も推進器も、生命維持装置も最終確認済み。あとはあなたたちが無事に帰ってくるだけ」
レンナは一人ずつ顔を見た。
「全員、絶対に生きて帰ってきて」
彼女はまずイリヤを抱きしめた。
「イリヤ、皆を頼むね」
「分かっている」
次にリン、ネッサ、マレクと順に抱きしめる。
「リン、無茶な軌道を取らないこと」
「分かってるよ!」
「ネッサ、周りをよく見て」
「はい」
「マレク、無理に助けに行かない。隊形を崩さないこと」
「はい。必ず戻ります」
最後に、レンナは俺の前に立った。
「レン」
「ああ」
「約束して。必ず帰ってきて」
「約束する」
彼女は俺を強く抱きしめた。俺も腕を回す。言葉を交わすより、その方が伝わる気がした。
全員が搭乗を始める。
「行くぞ!」
*
「さあ、やってまいりました! ファン感謝祭、投票第二位! 第三要塞所属レン・タチバナ小隊の入場です!」
実況の声が会場に響き渡る。
「初日の順位は四十九位! そこから怒涛の単独十二機撃墜を見せ、二位にまで駆け上がった、今話題のエースです!」
俺たちは所定の出撃口から会場へ入った。
宙域の上には巨大な映像が浮かび、俺たち五人のプロフィールが顔写真とともに順番に表示される。会場を埋め尽くす観客の歓声が、通信越しにも聞こえてきた。
「レンといえば、専属整備士との命を懸けた純愛でも有名ですね! 『どきどきお姫様のパレード』での名場面は、今年のベストオブシーンにもノミネートされています!」
「余計なことを言うな」
俺が呟く。
大型モニターの映像が切り替わった。格納庫が映る。レンナが、俺たちの出撃口に向かって膝をつき、両手を合わせて祈っていた。
「レンは愛しの彼女のもとへ無事に帰ることができるのか! 悲劇が起こらないことを期待しましょう!」
「……あれ、本人は知らないんだろうな」
イリヤの声が通信に入った。
「帰ったら、カメラの位置を教える」
「やめてあげて。今は試合に集中しよ」
リンが言った。
俺たちは全員でモニターのレンナを見た。
「絶対に生きて帰ろう」
俺が言う。
「当然だ」
イリヤが答えた。
「レンナのお祈りを無駄にできないね」
リンが続ける。
「五機で帰還する」
ネッサが言った。
「必ず、全員で戻ります」
マレクも力強く応じた。
対戦相手の一般飛行連隊も、所定位置についている。十機が二つの小隊に分かれ、広い宙域に散開していた。
「両陣営、準備完了! 試合開始!」
*
相手は開始と同時に二手へ分かれた。
六機が正面から圧力をかけ、残る四機が大きく回り込む。隊長機を狙うため、初めから俺の位置を探している。
「敵は二方向。左の六機は正面を押さえ、右の四機が後ろへ回ろうとしている」
イリヤが即座に状況を読む。
「リン、敵の視線を左へ引きつけろ。ネッサはリンの援護。マレクは隊形を保って俺の右側を押さえろ」
「了解!」
リンが加速し、左の六機へ向かっていく。敵の先頭が彼女を狙う。リンは正面から撃ち合わず、射線の間を縫うように旋回した。
敵がリンを追う。隊列がわずかに乱れた。
ネッサはその隙を逃さなかった。リンを追って隊形から離れた敵機へ照準を合わせる。
「一機、もらいます!」
射撃が敵機の推進器を捉える。機体が大きく傾き、支柱が作り出す壁に接触した。
「一般飛行連隊!一機、撃沈!」
実況が叫ぶ。
その間に、右側へ回り込んでいた四機が俺を狙いに来た。
「レン、右後方の四機。二機はお前を狙っている。残りはマレクを押さえるつもりだ」
「分かった」
俺は右へ旋回し、敵の先頭機を引きつけた。相手は俺を狙い、射線を重ねてくる。俺が撃ち返すと見せて機首を傾け、敵の弾を外した。
その瞬間、イリヤが援護射撃を入れる。
敵機は回避を強いられ、二機の間に隙間ができた。俺はそこへ入り込み、先頭の機体を撃墜する。
「二機目、撃墜!」
イリヤは俺の動きに合わせて、無理のない角度から射線を通してくる。俺が狙われる前に敵の照準を逸らし、俺が攻撃へ移る瞬間には退路を開ける。
長く一緒に飛んでいなくても、彼の判断は変わっていなかった。
「リン、上から来る!」
ネッサが叫ぶ。
リンはすぐに急降下した。敵機の射撃が頭上を通り過ぎる。追いかけた敵機は、リンの動きに釣られてネッサの射線に入った。
ネッサの一撃が敵機を捉える。
「三機目、撃墜!」
敵の隊形が崩れ始めた。
マレクは俺たちから離れず、四方の状況を確かめながら動いていた。敵が一機、俺の死角へ回ろうとすると、マレクが進路を遮る。
「隊長、左後方は押さえます!」
「頼む。無理に追うな」
「了解です!」
マレクは敵を追いかけず、俺たちの隊形を守った。敵機は攻撃を諦め、別の角度から回り込もうとする。その機体を、リンが引きつけた。
「リン、今の敵を右へ流して!」
「分かった!」
リンが敵の前を横切る。相手は追撃を続け、ネッサの射線へ入った。
「四機目!」
ネッサの射撃が命中し、敵機が撃墜判定を受ける。
その後も、イリヤの指示は的確だった。
「レン、正面の二機を追うな。後ろの一機が援護射線を作っている」
「了解」
「リン、下へ逃げて。支柱に寄りすぎるな」
「分かった!」
「ネッサ、リンの後ろを取る敵を狙え」
「見えています!」
「マレク、隊形を狭めろ。敵が一機、間へ入ろうとしている」
「塞ぎます!」
俺たちは一機ずつ、確実に敵の数を減らしていった。
相手は数を頼みに包囲を試みる。だが、包囲の一角を作れば、別の一角が薄くなる。そこへリンが飛び込み、敵の注意を引く。ネッサが追ってきた機体を撃ち、マレクが背後を守る。イリヤの指示に合わせて、俺が敵の隊長機を狙う隙を探した。
こちらは被弾していない。
会場の歓声が大きくなる。
「レン小隊、圧倒的な連携を見せています! 数で勝る一般飛行連隊が、押し込むどころか一機ずつ失っていく!」
敵の機体は、残り五機になっていた。
そのうち二機が俺へ向けて突撃してくる。隊長機を落とせば勝てる。相手もそれを理解し、残りの機体が援護射撃を重ねてくる。
「レン、正面から受けるな。右へ流せ。リン、左側から敵を散らせ。ネッサは隊長機の援護機を狙う。マレク、後方を固めろ」
「了解!」
リンが敵の隊列を横切り、射撃を誘う。ネッサはその射線の外から援護機へ撃ち込んだ。敵機が回避し、隊長機の周囲に隙間が生まれる。
俺はイリヤの指示どおり右へ流れた。追ってきた二機を引き離し、隊長機の側面へ回り込む。
敵の隊長機は、俺を見つけると機首をこちらへ向けた。
「隊長機がレン隊長へ向かっています!」
マレクが叫ぶ。
「マレク、撃つな。こちらの射線が通るまで持ちこたえろ」
イリヤが指示を出す。
マレクは敵の援護機の前へ出て、俺への射線を塞いだ。敵はマレクを避けて軌道を変える。その瞬間、リンが隊長機の後方へ回り込み、敵の進路を狭めた。
ネッサの射撃が隊長機の翼をかすめる。敵機が姿勢を崩した。
「今だ、レン!」
イリヤの声と同時に、俺は照準を合わせた。
敵の隊長機が最後の抵抗として突撃してくる。俺は逃げずに機体を傾け、相手の射線をかわした。すれ違いざまに撃つ。
隊長機の機体が撃墜判定を受けた。
「試合終了! 勝者、レン・タチバナ小隊!」
実況が続けて叫ぶ。
「強い! 強い! 強ーーーーい! 今回の興行で決着まで最速! そしてレン小隊、被弾ゼロ! 圧倒的です!」
観客の歓声が、会場を揺らし実況の声を掻き消した。
俺たちは事前に指示されていたとおり、宙域をゆっくり一周してから格納庫へ戻った。
*
格納庫では、レンナが興奮した様子で俺たちを迎えてくれた。
「すごい! すごすぎるよ、みんな!」
「レンナのお祈りのおかげで頑張れたよ! レンナのおかげ!」
リンが言う。
「えっ!? なんで知ってるの!?」
「会場のモニターに映されていたぞ。全宇宙に放送された」
俺は天井のカメラを指した。
「あそこのカメラだ。宇宙で一番有名な整備士になれたんじゃないか」
レンナはカメラと俺たちを交互に見た。
「そんな……」
彼女は膝から崩れ落ち、四つん這いになった。以前のリンと同じ姿勢だ。
「レンナが全宇宙のアイドルになる夢か……」
リンが呟く。
「そんなの望んでない!」
レンナは顔を上げて抗議した。
*
最終戦のレオニードも、さすがの実力だった。
レオニード小隊は、彼を中心に戦うための編成である。盾役の二機が、レオニードを頂点にした逆三角形の形で前へ出る。後方には援護役の二機が控え、レオニードの動きに合わせて敵を散らす。
試合開始から十分ほどで、決着がついた。
盾役は相手の狙撃を装甲の厚い部分で受け止め、レオニードの突撃を支えた。援護役は前へ出て、敵の隊形を崩す。
最初の交差で、レオニードは続けざまに二機を撃墜した。
その後は、ほとんど彼の独壇場だった。
四機の仲間がレオニードの動きにぴたりとつき、援護を続ける。レオニードは無駄に見える一回転や急旋回まで織り交ぜながら、敵の射線をかわしていった。
敵の一機が逃げようとする。レオニードはその進路を読み、回り込んで撃墜する。次の一機が味方の援護へ向かうと、彼はその機体を追い越すように上昇し、背後から射撃を叩き込んだ。
最後は、敵の隊長機だった。
レオニードは味方の援護を受けながら距離を詰め、相手の正面からの攻撃をかわして撃墜した。試合開始から十分足らず。レオニード小隊の勝利だった。
「またしてもエースの圧勝! レオニード小隊、いや、レオニード・ヴァレンタインが単独五機撃墜! 第九要塞所属一般飛行連隊、撃墜数ゼロ!」
俺たちは格納庫のモニターでその光景を見ていた。
「強い……」
リンが呟いた。
「ああ」
俺も認めるしかなかった。
レオニードは、一人で戦っているように見えて、仲間の支援を最大限に使っていた。仲間たちもまた、彼を勝たせるために自分の役割を果たしている。
俺たちも、レオニードたちも、仲間の力があったから味方を無くさずに勝つ事ができた。
パレードを生き残った。
個人技を活かすには、チームの力が必要だ。俺たちは全員の力を合わせて、これからも生き抜いていく。




