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画面の中の戦争の日常  作者: ぐりこ


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46/52

ファン感謝祭 破

昨日の出撃から一夜明けた。


格納庫の共用モニターには、俺が敵機を十二機撃墜した場面が流れていた。


有人機を六機。アンドロイド機を六機。


映像は、俺が一人で敵の包囲を抜け、機体を次々と撃墜していくところを何度も繰り返す。敵の攻撃をぎりぎりでかわし、反転して敵機の背後を取る。そのたびに、画面の端には撃墜数が表示された。


俺にとっては、あの場面でマレク小隊が抜ければ戦線に穴が空く。俺が逃げれば、背後から撃たれる。残って敵を引きつけるしかない状況だった。


致し方ない場面だった。


だが、映像だけを見れば、俺が一人で敵を圧倒したように見えるのだろう。


昨夜共闘した第三要塞所属のエースたちも、モニターを見ていた。アレクシスとバスティアンは、悔しさを隠そうとしながらも画面から目を離さなかった。


「十二機か。俺たちが敵を押し込んでいた間に、随分と派手にやったな」


アレクシスが腕を組む。


「うちの連中も何機か落としたんだがな。映像だと全部、レンの見せ場みたいだ」


バスティアンは笑っていたが、その目は笑っていなかった。


「映像を作るのは運営だ。俺に言われても困る」


「分かってる。だから余計に腹が立つんだよ」


バスティアンは、モニターの中で敵機を撃墜する俺を見た。


「次は俺が、あんたより目立ってやる」


「好きにしろ。生きて帰ってからな」


俺が答えると、アレクシスが小さく笑った。


「言うねえ」


格納庫にいた隊員たちからは、称賛の声が上がっていた。ほかの飛行連隊の連中も、元訓練生たちも、昨日の戦闘について話している。


「レン隊長、あんな動きできるんですね」


「敵が六機もいたのに、全部落としたんだろ?」


「アンドロイドまで合わせたら十二機だってさ」


「一人で戦ってるように見えた」


俺は、そのたびに適当に答えた。


昨日は、あれしかなかった。仲間が下がった後も、戦線を保つ必要があった。敵を引きつけている間に、潜入部隊が宝玉を奪う。そこまで考えれば、俺が一人で飛んでいたのも特別なことではない。


ただ、周囲の連中にはそうは見えないらしい。


それを証明するように、前日まで三十四位だった俺の順位は、今朝の発表で十六位まで上がっていた。


昨日から今日までの一日で、一気に十八位も上昇したことになる。


「三十位以内に入れればいいと思っていたんだがな……」


俺が呟くと、イリヤが横から言った。


「この勢いで上がり続けたら、五位以内に入るかもしれないな」


「そうなったら、パレードに出なきゃならない」


「ああ。上位五名に選ばれた隊は、ハンディキャップ戦だ」


「三十位以内を目指していたはずが、ずいぶん先まで来ちまったな」


「順位が上がるのは悪いことじゃない。だが、望んでいない場所まで押し上げられることもある」


「分かってる。……ここから先は、上がりすぎないよう祈るしかないな」


朝の運動と身支度を済ませ、格納庫へ向かう。


俺の飛行連隊の連中も、モニターを見ていた。俺が入ると、すぐに何人かが声を上げた。


「レン隊長、すごかったです!」


「一人で十二機なんて、見たことないですよ!」


「隊長、あの時どうやって後ろを取ったんですか?」


次々に質問が飛んでくる。


その中で、リンはモニターから目を離せずにいた。彼女は俺を目標にし、いつか追いつくと公言している。


「あんな動き……追いつける気がしない」


リンは腕を組み、画面を見ながら一人で唸っていた。


「昨日は、ああするしかなかっただけだ」


「それでもだよ。私なら、あの包囲に入る前に落とされてる」


「なら、落とされない飛び方を考えろ」


「考えてるもん。でも、隊長の動きは私が考えるものと違うの!!!」


リンは、まだ納得できないように眉を寄せた。


近くでは、マレクとセリーナが興奮気味に昨日の動きを解説していた。


「ここでレン隊長は、敵の射線が重なる直前に急降下してるんです」


セリーナがモニターを指す。


「そうだな。正面の敵に狙いを絞らせてから、後ろの三機を一度に振り切ってる。普通ならそのまま下へ逃げるところを、あそこで上昇に切り替えた」


マレクが続ける。


「それで、敵の一機が隊長の後ろに回り込もうとして……」


「そこで逆に、敵の背後へ入った。あの距離で機首を切り返せるのは、反応速度だけじゃない。敵の進路を先に読んでいたんだろう」


二人とも、モニターを見ながら何度も動きを巻き戻していた。


「レン隊長、あの一機目を落とした時、もう次の敵の位置も分かっていたんですか?」


セリーナが尋ねる。


「全部は見えていない。敵の射線と機体の向きで、次にどこへ来るかを絞っていただけだ」


「それができるのが、すごいんです」


セリーナは目を輝かせた。


「昨日も言ったが、お前はあんなことをするなよ」


「はい。でも、いつかは隊長の動きを真似できるようになりたいです」


「真似じゃなくて、仲間と自分の飛び方を見つけろ」


「はい」


イリヤが、少し離れたところから俺たちを見ていた。


「レン単独なら、そこらの連中が束になっても勝てん」


ルイスが目を丸くした。


「イリヤさんがそこまで言うなんて、珍しいですね」


「事実を言っただけだ」


「隊長、イリヤさんのお墨付きですよ」


「聞こえてる。本人の前で騒ぐな」


「褒められてるんだから、素直に受け取ればいいじゃないですか」


「……そういうのは、本人がいないところで言え」


俺はほとほと疲れたという顔をしていたと思う。


飛行連隊の奴らは勝手に盛り上がっているが

問題は、レン小隊の隊員たちだった。


ノア、イーサン、ルイスは、昨日の映像を見た後からどこか沈んでいた。エリサも治療から戻ってきていたが、彼らの表情を見て、すぐに事情を察したらしい。


「お前たち、何を気にしている」


俺が尋ねると、三人は互いに顔を見合わせた。


「俺たちは、隊長の足を引っ張っているんじゃないかと思って」


ノアが答えた。


「昨日、俺たちが先に戻らなければ、隊長は一人にならなかった」


「俺たちが残っていたら、逆に隊長の負担を増やしていたかもしれません」


イーサンが続ける。


「俺も、自分の機体を損傷させた。味方の位置を知らせたり敵を見つけ出したり周囲を把握する役目なのに、隊長の近くにいられなかった」


ルイスは視線を落としていた。


俺は三人を見た。


「俺は毎回あんな危険なことをするのは勘弁してほしい」


彼らが顔を上げた。


「確かに、撃墜数は少ないかもしれない。だが、お前たちがいたから俺は無事に帰ってこられるし、俺はお前たちを生かすために飛んでいる。目立つためでも、撃墜数を稼ぐためでもない」


「でも、昨日は……」


「昨日はああするしかなかった。それだけだ。お前たちが先に帰ったのも、俺の命令に従って機体を持ち帰ったからだ。俺はそれを間違いだと思っていない」


ノアは、しばらく黙っていた。


「隊長のために残ることだけが、仲間を守ることじゃない。自分の機体を持って帰るのも、次の戦いで仲間を守ることになる」


「はい」


「自分を足手まといだと思うな。俺はお前たちと飛ぶために、隊を組んでいる」


三人の表情が、少しだけ和らいだ。


昨日の夜、帰還して格納庫へ戻った時、レンナには怒られた。


「仲間を助けるためだったのは分かってる。でも、無茶をしないって約束したよね」


「無茶をするつもりはなかった」


「結果的に、一人で敵の中に残ったじゃない」


「そうするしかなかった」


レンナは、言い返さずに俺を見た。怒りよりも、心配の方が強い顔だった。


俺は彼女を抱きしめた。


「必ずとは言えない。でも、今後も隊と協力して、できるだけ帰る」


レンナはしばらく何も言わなかった。


「絶対に帰って」


それだけ言うと、彼女は俺の腕から離れ、整備士としての仕事へ戻っていった。


セリーナは少し離れた場所から、俺たちの様子を眺めていた。俺と目が合うと笑顔で近づいてくる。


「レン隊長、カッコよかったです! 流石、私の憧れの人です!」


「ありがとう。だが、お前はあんな飛び方をするなよ」


「はい」


セリーナは笑っていたが、手をぎゅっと握りしめていた。俺はそれに気づいたが、何も言わなかった。


*


その日の午後、要塞の館内放送が流れた。


『ファン感謝祭投票において、現在上位五十位以内に入っているエース各位は、エース専用ラウンジ奥の会議室へ集合してください』


上位五十位以内のエースを集めて、運営がPV動画を制作するらしい。


第三要塞からは、俺、アレクシス、バスティアンを含めて五人が対象になっていた。残り二人は、第三要塞の別連隊に所属するエースだ。


時間割が配られ、撮影は本日中に全員分を終えると告げられた。俺は一番最初に指名され、そのまま撮影場所へ連れていかれた。


PV撮影は大変だった。


「あれを着てください」


「この武器を持って、こちらを向いてください」


「今度はあそこを歩いてください」


「そのまま振り返って、カメラを見て」


「もう少し表情を険しく」


「次は笑顔で」


服を替え、装備を持ち替え、何度も歩き直す。あそこへ立て、ここを見ろ、腕を組め。さらに、踊れと言われた時には断った。


「踊りはせん」


「短い振り付けだけです。宣伝映像に使うので」


「俺はパイロットだ」


「エースの皆さんには、戦闘以外の表情も見せていただきたいんです」


「断る」


撮影担当は困った顔をしたが、最後には別のポーズに変えた。


それでも、撮影には丸々六時間かかった。


途中でイリヤにメッセージを送った。


『広告動画を撮られている。戻れそうにない』


すぐに返事が来る。


『スターは大変だな。ファンのためにゆっくりやってこい』


皮肉めいた文面だった。


撮影が始まった時は昼だった。終わって外へ出る頃には、もう夕方になっていた。


流石の俺も疲れ切っていた。少し早いが食堂で飯を食い、そのまま酒場へ向かった。


*


翌日の昼、共用モニターが一斉に切り替わった。


昨日撮影したばかりのエースたちのPR動画が、順位順に流れ始めたのだ。


運営の編集部は仕事が早い。撮影から一日も経たず、五十人分のPVを完成させていた。


俺のPVは、靴先から顔へゆっくり映していく低い角度の映像から始まった。続いて、過去に参加したサドンデスのパレードの戦闘映像。レンナを助けるために挑んだパレードの場面。レンナと抱き合う姿。セリーナの頭を撫でて落ち着かせているところ。そして、グレイヴスとの銃撃戦。


最後に、昨日の戦闘で俺が敵機を撃墜する映像が差し込まれた。


映像に合わせて、存在しないセリフまで入っている。


『俺はお前を守るために戦っている!』


『お前は俺の部下だ。俺を頼れ』


どこのヒーローだ。


PVが終わると、格納庫のあちこちで笑いが起きた。


「レン隊長って、あんなこと言うんですね」


「言ってない」


「でも、普段の隊長が言ってることと、そんなに変わらないですよ」


「変わる。俺はあんな臭い台詞を言わない」


セリーナも、楽しそうに笑っていた。


「映像より実物の方がカッコいいです!」


「お前も煽るな」


「煽ってません。本当にそう思ってます」


レンナはPVの中で俺に抱きついたり、泣いたりと、見事にヒロイン役を務めていた。顔を真っ赤にして、両手で顔を覆う。


「その話題はもうやめて! お願いだから!」


「レンナ、映像の中でずいぶん楽しそうだったぞ」


「レン!」


「悪かった」


彼女は俺を睨み、また顔を覆った。


俺は、PVが外の視聴者向けのものだと思っていた。要塞の中の人間に見せても意味はない。


興行企画部のどこかのアホは、そんなことも分からないのか。そう思ってクロイツにメッセージを送った。


『外の視聴者だけに見せてくれ。俺たちに見せても意味がないだろう』


クロイツから返事が来る。


『安心したまえ。もちろん外部にも放送する。ホームページでは、好きな戦闘員を選んでPVを見られるようにしている。君の映像は、なかなか再生数が伸びておるよ』


俺は返事をしなかった。


*


PV公開から数日後、ノア、イーサン、ルイスが俺に模擬戦を申し込んできた。


「俺と戦ってみたい?」


「はい。昨日の戦闘を見て、自分たちが隊長にどれだけ離されているのか、ちゃんと知りたくて」


ノアが答えた。


「一度、隊長の本気を体験したいんです」


「何人で来る」


イーサンが答えた。


「俺とノアとルイス、それにエリサも参加します。レン隊長一人と、俺たち四人で戦いたい」


「1対複数の場面を再現するのか」


「はい。あの時の隊長の動きを、今度は仲間として受け止めてみたいんです」


俺は四人の顔を見た。誰も軽い気持ちではなさそうだった。


「分かった。受ける」


「ありがとうございます」


「礼はいらん。だが、模擬戦だからといって手を抜く気はない。危険だと判断したら止める」


「はい」


訓練宙域の予約を取ると、実施日は四日後になった。


それまでの間、俺たちは飛行連隊としてのシミュレーションや飛行訓練を続けた。


投票順位は、PVの公開後も上がり続けた。


模擬戦の日、俺の順位は八位になっていた。


上位五名に入れば、次のパレードへ出場する。八位なら、まだ可能性はある。だが、順位が上がるほど、出撃を避けたいという俺の望みとは離れていく。


*


模擬戦の前、俺は訓練宙域に集まった四人へ告げた。


「本気で行く。お前たちも本気で来い」


「はい、レン隊長」


イーサンが答えた。


ノアとルイス、エリサも頷く。


審判はイリヤだった。訓練宙域の管制席に座り、通信回線を開く。


『開始の合図で模擬戦を始める。どちらかの機体が撃墜判定を受けるか、俺が中止を宣言した時点で終了だ。武装は模擬戦用。危険な接近は避けろ』


「了解」


四人の機体が散開する。俺はその中央に位置した。


『開始』


イリヤの声と同時に、四機が動いた。


正面にエリサ、左からノア。イーサンはやや後方に位置し、ルイスは距離を取って全体を見ている。


前回の敵小隊とは違い、四人は俺の動きを知っている。俺の癖も、よく使う旋回も、どこで相手の背後を取るかも見てきた。


だから最初から、俺の進路を挟むように位置を取った。


エリサが正面から牽制射撃を放つ。俺は上昇して避けたが、そこへノアが回り込んできた。


「上へ逃がさない!」


ノアが撃つ。


俺は機体を傾けて弾を避け、ノアの横を抜けた。背後からイーサンが追ってくる。ルイスは少し離れた位置から射線を作っていた。


四人の連携は悪くない。


俺は一度、彼らの包囲から離れた。だが、ルイスが先を読み、俺の進路へ回り込む。


「そこへ来ると思いました!」


ルイスの射撃が俺の進路を塞ぐ。


俺は速度を落とした。弾が前を横切る。そこへエリサが急接近し、射線を合わせた。


その瞬間、俺はさらに機体を沈めた。


エリサの弾は空を切る。俺は彼女の機体の下をすり抜け、旋回しながら背後へ回った。


エリサが振り向くより早く、模擬弾が機体に命中する。


『エリサ、撃墜判定。離脱せよ』


イリヤの声が入った。


「流石です、レン隊長!」


エリサの機体が訓練宙域の外へ退く。


三対一になった。


ノアとイーサンが左右から詰め、ルイスが遠距離から援護する。俺は一機を追わず、三人の位置関係を崩すために進路を変え続けた。


ノアが追ってくる。俺は急旋回して彼の背後へ入ろうとするが、イーサンが割って入る。二人は互いの死角を補い、俺が入り込む隙を作らない。


「いい連携だ」


俺は通信で言った。


「ありがとうございます。でも、まだ終わりません!」


イーサンが返す。


彼の射撃が俺の機体の脇をかすめる。模擬弾だが、当たれば警告音が鳴り、撃墜判定が近づく。


俺は二人から距離を取り、ルイスの位置を確かめた。彼は俺が逃げる先に回り込んでいる。


四人で俺を包囲するつもりだ。


俺はそのままルイスへ向かうように機首を向けた。


「ルイス、来ます!」


ノアが叫ぶ。


ルイスは進路を変えず、射撃の準備をした。俺が真正面から来るなら、確実に撃ち抜ける位置だ。


だが、俺は直前で機体を横へ滑らせた。


ルイスが照準を修正する。その一瞬、彼の機体はノアとイーサンから離れた。


俺はそこへ飛び込む。


ルイスは逃げるのではなく、こちらへ機首を向けて撃った。弾が俺の機体をかすめる。俺は一度上昇し、ルイスの照準から外れた。


そのまま彼の上を越え、背後へ回り込む。


『ルイス、撃墜判定。離脱せよ』


「くっ……はい!」


ルイスの機体が戦線を離れた。


二対一。


ノアとイーサンは互いの距離を詰めた。二機で隙間をなくし、俺に片方を追わせない。訓練で何度も組んできた連携だ。俺が片方へ向かえば、もう片方が射線を作る。


二人は、俺の動きを読むために必死だった。


ノアが低い位置から接近する。イーサンが上方から射線を作る。俺は二人の間を抜けようとするが、ノアが進路を変え、真正面から押さえにきた。


「隊長の動きは、映像で何度も見ました!」


ノアが叫ぶ。


「見て分かるほど単純じゃないぞ」


「それでも、追いつきます!」


俺はノアの機体へ向かって加速した。ノアは撃つ。俺は機体をひねり、弾を避けながら彼の横を通過した。


ノアはすぐに反転する。


だが、俺は反転しなかった。


彼の機体の進路に合わせて旋回せず、あえて距離を取ってから別方向へ切り返す。ノアの視界から一瞬消えた。


「ノア、上だ!」


イーサンの警告が飛ぶ。


ノアが上を向く。その隙に、俺は彼の下から回り込んでいた。


模擬弾がノアの機体に命中する。


『ノア、撃墜判定。離脱せよ』


「やっぱり、速い……!」


ノアは悔しそうにしながら、訓練宙域を離れた。


残るはイーサン一機。


イーサンはすぐには動かなかった。機体を一定の距離に保ち、俺の進路を見ている。


「一人で相手をするのは初めてか?」


「はい。でも、隊長と飛ぶ時は、いつも隊長の動きを見ています」


「そうか」


「俺は、隊長の背中を守りたいと思って飛んでいました。昨日、隊長が一人で飛ぶ姿を見て……自分が何を見ていたのか、分かった気がします」


「何が分かった」


「背中を追うだけじゃ足りない。隊長がどこへ行くのかを考えて、先に動けなきゃ、守れないんです」


「なら、見せてみろ」


イーサンは機体を加速させた。


正面からではなく、俺の右側へ大きく回る。俺がそちらへ機首を向けると、彼はそのまま距離を取った。俺の動きを誘っている。


左側からノアが来るはずの位置に、彼はいない。仲間はすでに撃墜判定を受けている。


イーサンは、一人で俺の進路を封じようとしていた。


俺が左へ行けば、彼はその先へ回る。俺が上昇すれば、射線を作る。正面から仕掛けず、俺の判断を待っている。


数秒、互いに動かなかった。


先に動いたのはイーサンだった。彼は俺の後方へ回り込もうと加速する。


俺はその動きを追わず、逆方向へ機首を向けた。


イーサンはすぐに進路を変え、俺の横へ並ぶ。


彼の射撃が機体の外側をかすめた。


俺は機体を傾けて彼の射線から外れ、そのまま急上昇する。イーサンも追ってくる。距離を詰め、今度は俺の背後を取った。


「もらった!」


イーサンが撃つ。


俺は反転をやめ、機体を真下へ落とした。弾が上を抜ける。すれ違う寸前、機体を起こしてイーサンの下へ滑り込んだ。


彼はすぐに機首を向け直す。


だが、俺はすでに彼の側面へ回っていた。


模擬弾が機体を捉える。


『イーサン、撃墜判定。模擬戦終了』


イリヤの声が響いた。


『スコア、レン 四。小隊チーム 零』


通信が静まった。


俺は機体を旋回させ、四人のいる待機位置へ戻った。


*


帰還した四人は、格納庫へ戻ると不思議なくらいすっきりした顔をしていた。


「ありがとうございました、レン隊長」


ノアが言う。


「どうだった」


「全然届きませんでした。でも、少し分かった気がします」


「隊長の動きを真似しても、同じにはならないってことです」


イーサンが続けた。


「自分の役割を考えて飛ばないと、ただ背中を追うだけになる。今日は、それがよく分かりました」


ルイスも頷く。


「レン隊長の小隊で飛べることを、誇りに思います」


エリサが続けた。


「でも、足手まといにならないように、もっと練習します」


「足手まといかどうかは俺が決める。お前たちは、今の仕事を続けろ」


「はい」


ノアが頷いた。


「いつかは必ず、レン隊長に追いついて超えてみせます」


「そうか」


俺は笑った。


「おう、待ってる」


その日は、隊の全員を飲みに誘った。


勝ったからではない。四人が自分の課題を見つけ、また一緒に飛ぶと言ったからだ。訓練が終わった後も、食堂で長く話し、遅くまで酒場にいた。


順位は、その間も上がり続けた。


*


投票最終日。


三日前から順位は非公開になっていた。最後に発表された順位は六位。上位五名に入れば、次のパレードへ出場する。


一位から五位に選ばれたエースの飛行連隊は、五機編成の選抜小隊を作り、一般飛行連隊から無作為に選ばれた二小隊、計十機と戦う。人数差のあるハンディキャップ戦だ。


六位のままなら、俺たちは出場しない。


あと一つ順位が上がれば、戦場へ出ることになる。


俺は、ハズレを引かずに済むよう祈っていた。


投票結果の発表は、全要塞の共用モニターで生中継されていた。アナウンサーが十位から順番に名前を読み上げていく。


十位。九位。八位。


名前が呼ばれるたび、食堂にいる連中が騒いだ。俺は椅子に座り、モニターを見ていた。


七位。


それでも、俺の名前は呼ばれなかった。


「隊長、まだですね」


セリーナが隣で小声を漏らす。


「そうだな」


「五位に入ったら、出場ですよね」


「そういうことになる」


「……隊長なら、きっと大丈夫です」


彼女は励ますように笑った。


六位が発表された。


俺の名前ではなかった。


五位。


四位。


違う。


三位。


それでも、呼ばれない。


食堂のざわめきが少しずつ消えていった。


残るは二位と一位。


「第二位――レン・タチバナ。レン飛行連隊。合計票数、六百三十八万九千四百五十二票!」


俺の名前が呼ばれた。


食堂のあちこちから歓声が上がる。レン飛行連隊の仲間も、マレクも、セリーナも、レンナも、皆が俺を見ていた。


俺たちのパレード参加が決まった。


一位は、レオニード・ヴァレンタイン。合計票数、七百十八万二千三十一票。


俺との差は八十万票ほど。かなりの差がついていた。


レオニードは中継がつながっているらしく、仰々しい口調で受け答えをしていた。最後に、カメラへ向かって笑顔を作る。


『レン、元気にしているかね! 君の活躍シーンは何度も目にしたよ。華麗な操縦だった。流石、僕がライバルとして認めている男だ。僕には到底及ばないが、僕に続く二位になるのも納得している。当日はお互いベストを尽くして盛り上げようじゃないか』


相変わらず鼻につく奴だ。


それでも、女子訓練生のために立ち上がった時の姿を思い出すと、嫌いにはなれなかった。


俺の仲間たちも、同じような顔をしていた。呆れたように笑いながら、レオニードの言葉を聞いている。


出場が決まった以上、今さら避けられない。


「出ることになったな」


イリヤが言った。


「ああ」


「なら、準備をするだけだ」


「そうだな」


俺はモニターの中で胸を張るレオニードを見た。


俺は俺にできる対策をする。


どんな相手が選ばれても、隊を連れて帰る。それが、俺のやることだ。

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