ファン感謝祭 兆[ちょう]
ファン感謝祭に向けた投票が始まってから、四日が経った。
今朝までの順位は、49位、40位、42位、34位。
順位は上がっている。だが、まだ三十位以内には入っていない。
そして今朝、ファン投票がスタートしてから初めて、興行への出撃命令が届いた。
興行の内容自体は単純だった。
警戒中の敵基地へ侵入し、保管されている宝玉を奪取する。
相手は、小規模軍事基地を模したコロニーに展開している。周囲には巡洋艦が一隻、駆逐艦が二隻、フリゲート艦が四隻、コルベット艦が四隻。基地の防衛にあたる有人飛行連隊は三組。さらに、複数のアンドロイド飛行隊が基地周辺に配備されていた。
対する第三要塞側は、巡洋艦三隻、駆逐艦四隻、飛行連隊五組。
殲滅して基地を制圧してもいい。敵の目をかいくぐり、極秘に潜入して宝玉を盗み出してもいい。宝玉を確保し、持ち帰れば任務達成だ。
単純な目標に対して、集められた戦力は大きかった。
参加する戦闘員たちは、作戦確認のためブリーフィングルームに集められていた。正面の大型スクリーンには、コロニーと両陣営の配置が映し出されている。
招集された飛行連隊は、レン飛行連隊を含めて五隊。そのすべてで、連隊長をエースが務めていた。
各連隊の編成は共通している。連隊長機と副隊長機、その下に四機編成の小隊を四から五個。連隊全体で十八から二十二機になる。
違うのは、隊員の腕前と、隊長がどんな戦い方を選ぶかだった。
代表してイリヤがスクリーンの前に立つ。集まった面々を見渡し、簡潔に口を開いた。
「……よくこれだけ集まったな。これから作戦会議を始める」
招集されたエースたちは、若くして実績を上げた連中ばかりだが、イリヤは気後れする様子もなく続けた。
「まず、各隊の戦い方を共有してくれ。編成は同じだ。違うのは、どこで力を使うかだ」
最初に立ち上がったのは、短く刈った銀髪の男だった。三十六歳。肩幅が広く、首や腕には古い火傷痕が残っている。
「第一飛行連隊、アレクシス・ヴァレンタインだ。強襲作戦を得意としてる」
彼はスクリーンを見た。
「俺たちは正面突破を担当する。小隊を縦に重ねて、先頭が敵の防衛線をこじ開ける。後続が穴を広げ、隊長機が全体を押さえる」
突撃型の編成だ。敵の注意を引き、戦線を崩すことに特化している。
「細かい小細工は苦手だ。邪魔なものをどかす。後は任せる」
次に、長い黒髪を後ろで束ねた女性が立ち上がった。三十二歳。顔の右半分に薄い傷痕があり、表情はほとんど動かない。
「第二飛行連隊、ミレイユ・サヴァン。遊撃は任せてほしい」
「私たちは中距離から敵の動きを止める。小隊を二機ずつに分けて散開し、推進器、火器管制、通信機を狙う。」
遠距離から敵の機能を奪い、戦線を支える隊だった。
三人目は、赤い短髪に金属製のピアスをいくつもつけた男だった。二十九歳。軽薄そうな笑みを浮かべているが、目つきは鋭い。
「第三飛行連隊、バスティアン・ロシュ。俺たちは速度で敵を崩す」
彼の隊は機動力を重視し、敵編隊を分断して孤立した機体を各個に叩く。
「追いかけっこなら任せてくれ。追いつかれる前に、相手の背中を取る」
四人目は、褐色の肌に白髪交じりの短い髪をした大柄な男だった。四十八歳。古い軍服を改造したような装備を着ており、腰には大ぶりなナイフを差している。
「第五飛行連隊、オスカー・ベルク。撤退戦や防衛戦は任せろ」
彼の隊は相互援護を重視していた。四機小隊が互いの死角を補い、敵が突破を試みれば隊長機を含めて反撃する。
「俺たちは防衛線を保つ。守る場所を決めたら、勝手に離れるな。前に出る奴がいるなら、後ろを守る奴も必要だ」
突撃で敵陣を崩すアレクシス。遠距離から敵の機能を奪うミレイユ。速度と分断で翻弄するバスティアン。味方を守り、戦線を支えるオスカー。
そして、俺たちレン飛行連隊。
俺の隊も同じ編成で、イリヤが副隊長を務めている。レン小隊は俺、イーサン、ノア、ルイス、エリサの五人だ。
連隊の各小隊は、状況に応じて連携の組み合わせを変える。決まった形にこだわらず、戦場の変化に合わせて動くのが俺たちのやり方だった。
スクリーン上では、敵側の戦力も確認できるようになっていた。
敵の有人飛行連隊は三組。だが、エース級の操縦士は確認されていない。さらに、基地の防衛用アンドロイド飛行隊が複数待機している。
「敵にエースはいないのか?」
俺が尋ねると、イリヤは配置図から目を離さずに答えた。
「現時点で、確認された該当者はいない。だが、腕の立つ奴がいないとは限らない。敵も基地を守るために命を懸けている」
「こちらにはエースクラスが五人いる。差がありすぎるな」
「運営の狙いは分かりやすい。ファン感謝祭の投票を動かしたいんだろう」
イリヤは敵基地の周囲を指した。
「だが、エースがいるから勝てるという話じゃない。俺たちが一つ判断を誤れば、ここにいる連中も死ぬ。敵を軽く見るな」
ブリーフィングルームが静まった。
「作戦は二段階で進める。最初に艦隊が遠距離艦砲射撃を行い、敵巡洋艦と駆逐艦を沈黙させる。その間、五つの飛行連隊は敵のフリゲート、コルベット、有人飛行連隊を抑える。基地からアンドロイド機が出てきたら、そちらも基地へ近づけるな。敵の航空戦力を基地から引き離す」
イリヤがコロニーの内部図を表示した。
「俺が潜入部隊を率いて基地へ入る。宝玉の保管区画を探し、確保したら撤退する。宙側[そらがわ]の戦闘が続いている間に宝玉を取るのが理想だ」
「潜入部隊が宝玉を取ったら、俺たちは撤退か?」
オスカーが聞いた。
「潜入部隊が離脱したのを確認してからだ。敵航空戦力が残っているなら、侵攻部隊として基地周辺へ進み、敵を引きつける。潜入部隊の撤退経路を空けた後、全隊で撤退戦に移る」
「潜入部隊から連絡がない場合は?」
ミレイユが尋ねた。
「予定時刻を過ぎても連絡がなければ、他の部隊が基地内部への侵攻を試みる。だが、所在が分からないまま全員で突入すれば敵との正面衝突になる。まずは基地の外側を制圧し、基地へ侵攻しなければ戦線維持に支障がある。」
バスティアンが椅子の背にもたれた。
「宝玉を取ったら、俺たちが敵を引きつけて逃げる。派手な画にはなるな」
「見せ場を作りに行って死ぬな」
イリヤは即座に返した。
「帰還できなければ投票も何もない。各隊、任務を確認しておけ」
*
作戦は、予定どおり艦隊の遠距離砲撃から始まった。
第三要塞側の巡洋艦三隻が敵艦隊へ砲撃を開始する。駆逐艦四隻は左右へ展開し、敵巡洋艦と駆逐艦の進路を塞いだ。
宇宙空間に閃光が走る。
敵巡洋艦の前方装甲に砲撃が命中した。続いて、敵駆逐艦の一隻が推進器を破壊され、回転しながら戦列から離れていく。
敵側もすぐに反撃を始めた。巡洋艦の主砲が第三要塞側の駆逐艦へ向き、青白い光線が艦体を横切る。直撃を受けた駆逐艦は左舷から火を噴き、隊列を離れた。
「飛行隊、出撃!」
レンの声が通信に響いた。
五つの飛行連隊が、母艦から順次発進する。
俺たちレン飛行連隊も、編隊を組んで戦場へ飛び出した。
「レン隊長、右前方に敵飛行隊。有人機が三機編成で二組です。後方にアンドロイド機の反応もあります」
ルイスの声が入る。
「確認した。イーサンはノアと組め。エリサは俺についてこい。ルイスは全体の状況を見て、分かったことを知らせろ」
「了解しました」
敵飛行隊がこちらへ向かってくる。
アレクシスの第一飛行連隊が正面から突っ込み、敵の先頭機を牽制した。その後ろから、バスティアンの第三飛行連隊が高速で回り込み、敵編隊の側面を突く。
ミレイユの隊は距離を保ったまま狙撃を始めた。敵機の推進器が一機、火花を散らして停止する。オスカーの第五飛行連隊は、艦隊と飛行隊の間に位置を取り、敵の突破を防いでいた。
「敵機がこちらへ来ます!」
エリサが叫ぶ。
「ノア、イーサン、敵を左へ誘導しろ。俺たちで射線へ追い込む」
「了解です!」
ノアとイーサンが左右へ分かれた。敵の三機が二人を追う。二人は急旋回で攻撃をかわしながら、敵を俺たちの射線へ誘い込んだ。
「今だ、撃て!」
俺の射撃が敵機の翼を捉えた。エリサも続けて撃つ。敵機の姿勢が崩れ、回転しながら戦場から離脱していった。
だが、残る二機は編隊を崩さず、ノアへ食らいついた。
「ノア、上だ!」
イーサンが声を上げる。敵機がノアの後方へ回り込み、射撃を始めた。
ノアは急降下して攻撃をかわした。弾の一発が機体の尾部をかすめ、警告灯が点滅する。
「尾部に損傷! 操縦はできます!」
「無理をするな。母艦へ戻れ」
「まだ飛べます!」
「機体を失えば次は飛べない。戻れ!」
ノアは一瞬ためらったが、敵機が再び射撃した。イーサンが彼の機体に並び、敵の射線を遮るように進路を変えた。
「ノア、俺が援護する。帰投するんだ!」
「分かった!」
ノアは戦線を離れ、母艦へ向かった。
レン小隊は四人になった。
敵機の一機がイーサンの後方へ回り込む。イーサンは旋回しながら射撃を避け、反撃の隙をうかがった。俺とエリサが敵の進路を狭め、ルイスが位置を知らせる。
「イーサン、敵機は左へ流れる!」
ルイスの声に合わせ、イーサンが機首を切り返した。敵機は射線を外そうとしたが、俺の射撃が翼をかすめ、機体の姿勢が崩れる。
「今だ、イーサン!」
「了解!」
イーサンが撃った弾が敵機の推進器に命中した。敵機は火を噴きながら戦線を離脱する。
その直後、エリサの機体が敵の砲撃を受けた。機体が大きく傾く。
「エリサ!」
「操縦できます。右側の装甲が剥がれました!」
「母艦へ戻れ」
「まだ援護できます!」
「戻れ。ここは俺たちで押さえる」
「……了解しました」
エリサは損傷した機体を旋回させ、母艦へ向かった。
レン小隊は三人になった。
その後も敵との交戦は続いた。俺とイーサンが敵機を引きつけ、ルイスが状況を読み、連携して一機ずつ押し返す。だが、基地側から新たな有人機とアンドロイド機が出てくるたび、戦場の密度は増していった。
「ルイス、敵の増援は?」
「基地からアンドロイド機がさらに六機出ています。有人機の別編隊も、こちらへ向かっています」
「分かった。イーサン、ルイス、俺から離れすぎるな。敵を本隊から遠ざける」
「了解!」
俺たちは敵の射線を避けながら旋回した。イーサンが敵の一機を引きつけ、ルイスがその位置を伝える。俺は空いた角度から撃ち込んだ。
敵機の一機が爆発する。
だが、その直後、ルイスの機体が敵の砲撃を受けた。操縦席の警告灯が点滅し、機体が大きく揺れた。
「左舷の姿勢制御が不安定です。帰投します!」
「イーサン、ルイスを援護しろ」
「了解!」
イーサンがルイスの横につき、敵の追撃を牽制する。俺は二人から離れ、迫る敵機を引きつけた。
ルイスの機体は姿勢を崩しながらも、母艦へ向かっていく。イーサンはその後ろを守り、敵の追撃が途切れるまで並走した。
「ルイスさん、母艦が見えてきました」
「助かった。イーサン、お前はもう戻れ」
「ルイスさん、大丈夫ですか?」
「レン隊長と合流しろ。こちらは大丈夫だ」
「了解しました。気をつけてください」
ルイスの機体が戦線を離れる。
その少し後、イーサンの機体にも警告が出た。敵の射撃が左翼をかすめており、操縦系統の一部が不安定になっていたのだ。
「イーサン、機体の状態は?」
「左翼に損傷。操縦はできますが、長くは持ちそうにありません」
「母艦へ戻れ」
「隊長は?」
「俺は残る。自分の機体を持って帰れ」
イーサンは一瞬だけ迷った。
「了解しました。隊長も無事に戻ってください」
「分かってる」
イーサンの機体が母艦へ向かう。
レン小隊の機体は、俺一機だけになった。
仲間を守るための隊形も、互いの死角を補う連携もない。俺の動きに合わせる必要がある味方もいない。
敵の数だけを見れば、まだこちらが有利だ。だが、敵の有人飛行隊は俺一人を見つけると、すぐに進路を変えた。
三機が正面、さらに三機が後方から接近する。基地から出てきたアンドロイド機も、少し遅れて左右へ広がった。
「レン隊長、有人機六機がそちらへ向かっています。援護に向かいます」
マレクの声が入る。
「本隊を見ていろ。俺一人で引きつける」
「しかし――」
「通信を維持しろ。必要になったら呼ぶ」
「……了解しました」
敵機が左右に分かれた。三機が正面、残り三機が上方から回り込む。挟み込むつもりだろう。
俺は正面の三機へ向かっていった。
敵が撃つ。
俺は正面から逃げず、機体をわずかに傾けて最初の射線を外した。弾が装甲のすぐ脇を通過する。直後に急降下し、敵の編隊の下をすり抜けた。
先頭の敵機が俺を見失い、旋回が遅れる。
俺は反転して背後へ回り、照準を合わせて一連射した。敵の推進器が爆ぜ、機体が火を噴く。
一機目。
俺はすぐに進路を変えた。残る二機が追ってくる。上方から回り込んでいた三機も、今度は後ろについた。
四機が俺を追う形になった。
俺はコロニーの外壁すれすれまで降下した。敵の射撃が外壁を削り、破片が散る。張り出した構造物の間を抜け、敵機を狭い角度へ誘い込む。
一機が追いきれず、速度を落とした。
俺は機体を立て直して急上昇する。追ってきた敵の射線を上へ誘い、限界まで引きつけてから急旋回した。
敵機が目の前を横切る。
照準を合わせ、撃つ。
敵機の翼が折れ、回転しながら戦場から遠ざかった。
二機目。
残る敵は距離を取った。こちらの動きを見て、正面から突っ込むのをやめたらしい。
敵機が左右へ広がり、俺の逃げ道を塞いでいく。
俺は一番外側の機体へ向かうふりをして、急に進路を変えた。狙いを定めていた敵が射撃を始める。俺は弾幕の隙間を縫って加速し、敵の懐へ飛び込んだ。
近距離ですれ違いざま、翼の付け根へ撃ち込む。
敵機が爆発した。
三機目。
背後から射撃が来る。俺は旋回を続け、敵機の照準を外した。相手は追ってくるが、射撃のタイミングが合わない。
俺は相手が引き金を引く寸前に機体を沈めた。弾が頭上を通り過ぎる。そこから一気に機体を起こし、敵の進路を横切った。
敵は回避が遅れた。
短く撃ち、推進器を破壊する。
四機目。
残る敵機は二機だった。
一機が俺を牽制し、もう一機が側面へ回ろうとする。二機で挟み込むつもりだ。
俺は相手の動きに合わせず、あえて速度を落とした。
敵の一機が勝機と見たのか、距離を詰めてくる。
相手が射撃を始める直前、俺は急加速した。照準が追いつくより早く懐へ入り、敵機の下をくぐる。
視界の端に敵の腹部が映った。
俺は上昇しながら射撃した。敵機の胴体を弾が貫き、機体が爆発する。
五機目。
残った一機は、すぐに距離を取ろうとした。だが、俺の機体はすでに敵の退路へ回り込んでいた。
敵が反転して逃げる。俺はその後ろにつき、射撃を続けた。敵機は左右へ揺れ、弾をかわしながらコロニーの陰へ逃げ込もうとする。
俺は一度、狙いを外した。
敵機が速度を落とす。その瞬間、推進器の噴射が強まった。
逃げる先は決まっている。
俺は敵機の進路の先へ回り込み、機首を向けた。
敵は避けきれず、正面から俺の射線へ入ってくる。
最後の一連射が敵機の翼を捉えた。機体は大きく傾き、回転しながら戦場から離れていく。脱出ポッドが飛び出した。
六機目。
敵の有人小隊は、俺一人に崩された。
『……一人で六機を落としたのか』
マレクの声には、驚きが隠せていなかった。
『あれが、レン隊長の本気……』
セリーナも思わず漏らしたようだった。
俺は返事をしなかった。まだ戦闘は終わっていない。
アンドロイド機が、隊列を変えずに接近してきた。有人機のように迷いやためらいはない。六機が同時に射線を重ね、俺の逃げ道を塞ぐように撃ってくる。
俺は一気に上昇し、弾幕の外へ抜けた。アンドロイド機は間を置かずに追従する。旋回の癖も、射撃間隔も揃っていた。
一機が俺の進路を先読みして回り込む。俺はそのまま進むと見せかけ、直前で機首を下げた。敵機の射線が空を切る。すれ違いざまに横へ回り込み、短く撃つ。機体の片翼が吹き飛び、アンドロイド機は回転して戦闘から離脱した。
残り五機。
別の機体が正面から突っ込んでくる。俺は機体を傾けて避けると同時に、敵の背後へ回り込んだ。射撃が胴体に命中し、機体が二つに割れて爆散する。
残り四機。
そのうち二機が左右から同時に接近した。俺は急減速して相手の間を抜け、直後に反転する。追い越した二機が旋回するより早く、片方の推進器を撃ち抜いた。もう一機は射線を外そうと上昇したが、俺の弾が追いつき、機体の頭部センサーを破壊した。
残り二機。
通信にマレク小隊の声が入る。
『レン隊長、こちらが右側の二機を引き受けます。そちらは残りを』
「頼む。接近しすぎるな。射線が交差する」
『了解しました』
マレク小隊が右側のアンドロイド機を引きつける。セリーナたちは隊列を保ち、互いの間隔を崩さずに敵の攻撃を受け流していた。
俺は残る二機の間へ飛び込み、一機の射撃を誘ってから急旋回した。敵の弾が僚機の進路を横切る。二機の照準が一瞬ずれた。
その隙に、俺は先頭の機体へ接近し、推進器を撃ち抜いた。最後の一機が旋回して俺へ向き直る。俺は弾をかわしながら距離を詰め、機体の下を通り抜けざまに連射した。
最後のアンドロイド機が爆発した。
マレク小隊も、右側の二機のうち一機を撃墜し、もう一機を基地から遠ざけていた。
『レン隊長、こちらマレク小隊。援護を継続します』
「了解。各隊、基地への進路を塞げ。俺は左へ回る」
『了解しました』
マレク小隊が敵の進路を切り、バスティアン隊が速度を生かして有人機の編隊を分断する。アレクシス隊は正面から押し込み、ミレイユ隊が遠距離から敵機の推進器を狙う。オスカー隊は艦隊近くに防衛線を維持し、敵の突破を防いでいた。
「レン隊長、こちらは機体の応急修理が終わりました。再出撃します」
イーサンの声が戻ってきた。
「全員一緒か?」
「いえ、エリサのみ治療と機体確認中です。他の三機は応急処置済みです。無理はできませんが、戦線には戻れます」
「三人とも無茶はするな。俺の後ろにつけ」
「了解です!」
間もなく、ノア、イーサン、ルイスの機体が戦線へ復帰した。エリサはまだ治療と機体確認のため母艦に残っている。
俺たちは、敵を基地から遠ざけるように進路を取った。
*
敵艦隊の残存艦が砲撃を始めた。第三要塞側の巡洋艦が援護射撃を返し、撤退経路を開く。大破した駆逐艦は艦隊の後方へ下がり、別の艦がその位置を埋めた。
基地内部へ入ったイリヤから、通信が入った。
『宝玉を確保した。潜入部隊は保守口から撤退する』
「全隊へ。宝玉確保。撤退戦を開始する。潜入部隊を最優先で帰す」
レンの指示が戦場全体に流れた。
「飛行隊は基地側から追撃を抑えろ。艦隊は撤退経路を開け。損傷機を先に下げる」
基地の保守口から、潜入部隊が現れた。
先頭の隊員機が周囲を確認し、その後ろからイリヤ機が出てくる。宝玉を収めたケースが、隊員の機体に固定されていた。
「保守口を離脱。撤退する」
「了解。こちらで追撃を止める」
イリヤは自部隊を艦隊側へ誘導した。
敵基地から残存機が次々と発進してくる。宝玉を持つイリヤ小隊を追おうとしたが、オスカー隊が防衛線を張り、バスティアン隊が側面から進路を崩した。
アレクシス隊は損傷した機体をかばいながら敵の攻撃を引き受ける。ミレイユ隊は遠距離から敵の推進器を狙い、追撃速度を落とした。
俺たちレン飛行連隊は、イリヤ小隊の後方についた。
「ノア、イーサン、イリヤの小隊を守れ。俺は左側を押さえる」
「了解!」
敵の砲撃が迫る。俺は機体を旋回させながら撃ち返し、敵機の進路を逸らす。ノアとイーサンは、損傷機とイリヤ小隊の後ろを守った。
一機の敵が、潜入部隊の脇を抜けようとした。
「イリヤ、右後方!」
「見えている!」
イリヤの小隊が反転する。だが、敵の射撃が先に届いた。潜入部隊の一機が被弾し、機体が大きく揺れる。
「操縦不能! 脱出する!」
脱出ポッドが機体から離れ、慣性で戦場を流れていく。敵の追撃機がポッドへ向きを変えた。
俺は進路を変え、敵機との間に割り込んだ。射撃を続けて敵の照準をずらす。ノアも横から攻撃し、敵機を後退させた。
「ポッドを回収しろ!」
イリヤが指示を飛ばす。
「了解!」
イリヤ小隊の一機が速度を落としてポッドへ接近した。機体後部から回収ワイヤーを伸ばし、ポッドの固定環に掛ける。ワイヤーが張り、巻き取り機構がポッドを機体の下へ引き寄せていく。
その間、別の潜入機がポッドの前に出て、敵の射線を遮った。
「固定を確認! 操縦士の反応があります!」
「そのまま艦隊まで運べ。全機、撤退を続けろ!」
敵艦隊の残存艦が砲撃を始める。第三要塞側の巡洋艦が援護射撃を返し、撤退経路を開いた。
イリヤの小隊が宝玉を運び、艦隊の防衛線へ入る。
「潜入部隊、撤退線を通過。宝玉を確保したまま帰投中。脱出ポッドも回収済みです」
ルイスの声が届いた。
「侵攻部隊は追撃を抑えた後、順次撤退する。先に損傷機を帰せ」
俺は最後まで敵を引きつけた。
ノアの機体は尾部の修理が必要だった。イーサンの機体も左翼の損傷が残っている。エリサはすでに母艦へ戻り、治療を受けていた。ルイスは通信を維持しながら戦線の外縁に残っている。
「レン隊、撤退開始。損傷機を先に帰せ。俺は最後に戻る」
「了解しました」
ルイスが返す。
ノアとイーサンが先に母艦へ向かい、ルイスも通信を引き継いで後退を始めた。マレク小隊は損傷機を含む隊列を維持しながら、艦隊の防衛線へ戻っていく。
俺は最後まで敵を引きつけた。残った敵機が追撃を試みるたび、短い射撃で進路を塞ぐ。
「レン、もういい。戻れ」
イリヤの声が通信に入った。
「了解」
俺は機首を返し、艦隊の防衛線を抜けて母艦へ向かった。
背後では敵基地の砲撃が続いている。第三要塞側の艦隊が最後の援護射撃を行い、敵の追撃を押しとどめた。
戦闘が終わったのは、宝玉を確保してから十数分後だった。
*
帰投した機体は、次々と格納庫へ運び込まれた。
アレクシス隊は二機を失った。操縦士の一人は脱出できず、もう一人の救難信号も回収前に途絶えた。
オスカー隊も二機を撃墜され、どちらの操縦士も帰らなかった。ミレイユ隊では一機が大破し、操縦士が重傷を負った。バスティアン隊にも複数の損傷機が出ていた。
レン飛行連隊にも被害があった。
エリサは右側装甲を失い、腕に破片を受けていた。ノアの尾部は応急修理が必要で、イーサンも腹部を打撲している。マレク小隊では一機が中破し、操縦士が負傷して搬送された。別の一機は帰投せず、脱出信号も確認されなかった。
誰もが無傷で帰れる戦闘ではなかった。
それでも、宝玉は第三要塞側の手に渡った。
「レン隊長、ノアが医療区画へ運ばれました。意識はあります」
整備員が報告する。
「エリサは?」
「治療を受けています。傷は浅いそうです」
「分かった。全員の状態を確認してくれ」
俺は格納庫の中を見渡した。
損傷した機体が並び、隊員たちは疲れ切った顔で整備班に説明をしている。エースたちは宙側の戦いを押し切った。俺も一人で敵機を十機以上を落とし、敵航空戦力を崩す大きな役割を果たした。
だが、その間にも味方は死んだ。
運営が望んだ見せ場の裏側は、画面の向こうにいる観客には伝わらないだろう。翌朝には戦闘映像が編集され、撃墜の瞬間やエースの活躍が繰り返し流される。帰らなかった操縦士の名は、短い字幕で片づけられる。
投票順位もまた更新される。
格納庫の天井にある共用モニターには、ファン感謝祭の広告がまだ流れていた。
あなたの一票が、次のパレードを決める。
戦場で死んだ人間の名も、負傷した隊員の痛みも、票数に換算される。
そのことを、俺たちは知っていた。
それでも、明日の朝になればまた順位が発表される。誰が上がり、誰が下がり、誰が次の興行へ送られるのか。
ファン感謝祭の投票が終わるまで、あと十日。




