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画面の中の戦争の日常  作者: ぐりこ


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36/53

教官どの様 破

俺たちは綿密に準備を進めた。


想定宙域をシミュレーターに再現し、輸送船団が予定航路を進む間にどこから敵が現れるか、護衛対象が隊列を乱した時にどう立て直すか、何度も訓練を繰り返した。敵が小惑星群の陰から現れる場合もあれば、船団の後方へ回り込む場合もある。毎回同じ展開にはせず、状況を変えて対応を確かめた。


訓練を重ねるうちに、新人たちも少しずつ動けるようになっていった。


エリサが護衛対象を守る位置を取り、ルイスが敵の速度変化を読む。ノアはエリサの援護位置を保ち、イーサンは敵の接近を見つけて報告する。まだぎこちなさはあるが、互いの位置を確かめながら動けるようになっていた。


出撃を翌日に控えた日、俺は全員を集めて告げた。


「明日は出撃だ。今日は休め。機体と装備の確認は済んでいる。寝不足で出てくるなよ」


「了解です、隊長」


ノアの返事に、イーサンも続いた。


「はい、レン隊長」


新人たちはそれぞれの時間を過ごすため、格納庫を後にした。


俺も休むつもりだったが、セリーナに頼まれていた買い物がある。出撃に持っていく小物を買いたいので、付き合ってほしい。そう頼まれていたのだ。


俺は約束した待ち合わせ場所へ向かった。


*


「レン隊長、お待たせしました」


セリーナが一人で立っていた。


「他の連中は?」


「いません」


「何人か一緒に行くと聞いたが」


「嘘です。一人です。デートです」


彼女は何でもないことのように答えた。


「……相変わらず逞しいな」


「ありがとうございます」


「褒めてない」


セリーナは楽しそうに笑った。出会った頃の彼女と、本当に中身は同じなのだろうか。そう思うことがある。


だが、出撃前に必要な物を買うのは大事だ。俺は彼女に向き直った。


「帰りに飯くらいは食わせてやる。だが、まずは必要な物を買うぞ」


「はい。分かっています」


俺たちはショップが並ぶエリアへ向かった。


戦闘機乗りにとって、まず考えなければならないのはトイレの問題だ。あの狭いコックピットに、気の利いた設備はついていない。


「尿吸収パックと、携帯用のピスバッグだ。長時間飛ぶ時は、我慢すればいいという話じゃない。集中力が落ちる。自分が使いやすいものを選んでおけ」


「こんなに種類があるんですね」


「形や固定方法が違う。実際に使う場面を考えて選べ」


セリーナは真面目な顔で、商品を手に取って見比べた。


「それから、下痢止めと整腸剤も買う」


「そこまで必要ですか?」


「前に、ク●を漏らした後の帰還機を見たことがある」


俺が説明すると、セリーナは顔をしかめた。


「……想像したくないです」


「出撃中に催したら最悪だ。出してしまったら、さらに最悪だ。整備士も本人も、帰投後の処理で地獄を見る。薬を持っておいて損はない」


彼女は少し考え、整腸剤と下痢止めをカゴへ入れた。


俺は、彼女が手に取った品を確認してから店員のアンドロイドを呼んだ。


「これと同じものを、格納庫に二ケースずつ届けてくれ。個人用じゃない。出撃する新人たちに配る」


「承知いたしました。明日の出撃前に格納庫へ納品いたします」


セリーナはカゴの中身を見た。


「私が選んだ分まで、みんなの分にしたんですね」


「持っていく物に差があると、忘れる奴が出る。必要なものはまとめて用意した方がいい」


「デートなのに、ずっと隊長ですね」


「買い物に付き合うって約束だ」


「はい。だから一緒に来てもらいました」


彼女は少しだけ頬を膨らませたが、すぐに次の商品棚へ向かった。


次に見たのは、水分と行動食だった。


今回の任務は輸送船団の護衛だが、状況次第では長時間の操縦になる。脱出ポッドに乗ることになれば、回収までの間をしのぐ必要もある。


「運営はわざわざ探しには行かない。だが、位置が把握できている脱出ポッドは回収してくれる」


「帰してもらえる可能性はあるんですね」


「可能性はな。だから、回収されるまで持ちこたえる準備がいる」


セリーナは、チョコ味やフルーツ味の栄養バーを選んでいく。


「どれが一番好きなんだ?」


「チョコです。でも、同じ味ばかりだと飽きるので、果物の味もほしいです」


「そうか。なら、それは自分用にカゴへ入れておけ」


他の新人たちの分も考え、俺は別の味をいくつか選んだ。水分の入った、柔らかく噛みちぎれるキューブも二箱加える。


携帯酸素、拳にガードが入った防刃グローブ、応急セットも揃えた。品物を選ぶたび、セリーナは用途を尋ね、俺は一つずつ説明した。


その途中、彼女が装飾品の棚の前で足を止めた。


小さなハートの形をしたネックレスだった。中央には透明なガラス玉がはめ込まれている。値札を見ると、安くはない。


セリーナはしばらく眺めていたが、やがて目をそらし、棚から離れようとした。


俺はそのネックレスを取り、カゴに入れた。


「レン隊長?」


「今後の活躍に期待してる」


それだけ伝えると、セリーナは一度目を丸くし、すぐに笑顔になった。


「ありがとうございます。大事にします」


「ああ。出撃装備と一緒に、なくさないよう保管しろ」


「はい」


彼女は、さっきまでより少し弾んだ足取りでついてきた。


買い物を終える頃には、必要な品が二人分だけでなく、新人たち全員に行き渡る量になっていた。


「結局、みんなの買い物になりましたね」


「明日は全員で出る。誰か一人だけ準備不足にするわけにはいかない」


「そういうところ、レン隊長らしいです」


「そうか?」


「はい」


セリーナは、ネックレスの入った袋を胸に抱えた。


俺たちは約束どおり、帰りに食事をした。出撃前の景気づけというには少し静かだったが、セリーナは明日の作戦について質問し、俺は答えられる範囲で説明した。


「怖いですか?」


食事を終えた頃、彼女が尋ねた。


「何が?」


「明日の戦いです」


「怖くないと言えば嘘になる」


セリーナは静かに頷いた。


「でも、準備をして、仲間の声を聞いて、やるべきことをやる。そこは訓練と変わらない」


「はい。私も、教わった通りに飛びます」


「それでいい」


彼女は、その言葉を確かめるようにもう一度頷いた。


*


翌朝、四つの飛行隊がブリーフィングルームに集まった。


中央のスクリーンには、輸送船団の編成と予定航路が表示されている。


輸送船は四隻。それを護衛艦六隻と駆逐艦三隻が囲む。俺たち戦闘機部隊は船団の周囲に散開し、敵の接近を阻止する。


イリヤがマップを拡大した。


「この航路は小惑星群の間を通る。船団は速度を上げられない。敵が仕掛けるなら、視界が遮られるこの区間が有力だ」


「船団から離れすぎるな。前へ出る時も、後ろに穴を作らないようにしろ」


俺が補足すると、新人たちは真剣な目で地図を見ていた。


「敵が正面から来た場合、第一隊は船団の進路を守る。第二隊は右舷側、第三隊は後方。第四隊は予備として、敵の突破方向に応じて動く」


イリヤがそれぞれの配置を示していく。


「小惑星群の陰から複数機が出てきた場合、確認できた機数と進路を報告しろ。姿の見えない敵を追うな。護衛対象を見失えば、任務を果たせない」


出撃前の最終確認では、イリヤが配置と通信手順を読み上げ、俺は状況が変わった時の判断を補足した。


セリーナも緊張しているようだった。端末を握る指に力が入っている。


「セリーナ」


「はい」


「怖いか?」


「はい。でも、準備はしました。仲間の位置を見て、通信を続けます」


「よし。撃墜数は考えるな。任務を果たして帰ることだけ考えろ」


「はい、レン隊長」


*


出撃前、格納庫ではレンナが新人たち一人ひとりに声をかけていた。


「ノア、装備の確認は済んだ?」


「はい。水分と応急セットも確認しました」


「イーサン、通信機の予備バッテリーは?」


「あります。予備も含めて確認しました」


「よし。気をつけて帰ってくるのよ」


レンナは新人を順番に抱きしめた。新人たちは照れながらも、彼女の言葉に頷く。


その列の後ろに、ルイスがちゃっかり並んでいた。


「お前は新人じゃないだろ」


「レンナさんが順番にハグしていたので」


「並ぶ理由になってない」


ルイスが何か言う前に、俺は後ろから彼の頭を軽くはたいた。


「ほら、機体に乗れ」


「はい、隊長」


レンナは俺に目を向けた。


「全員のこと、お願いね」


「ああ。お前も、帰ってくるのを待っていてくれ」


「もちろん」


俺は彼女に感謝を伝えた。


「やっぱりお前は良い女だ」


レンナは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑った。


「今さら気づいたの?」


その声を背に、俺たちはそれぞれの機体へ向かった。


*


発進の合図が出る。


機体が射出レールに固定され、カウントが始まった。


「シン飛行連隊、発進準備完了」


「レン飛行連隊、準備完了」


「全隊、発進!」


機体が次々と宇宙へ飛び出した。


輸送船団は予定どおり航行していた。四隻の輸送船を中心に護衛艦が取り囲み、その外側を駆逐艦が進む。俺たちは船団の周囲に広く散開し、レーダーと目視で周辺を確認した。


「小隊各機、間隔を維持。護衛対象を見失うな」


「ノア、位置を確認しました。エリサ先輩の左後方を維持します」


「イーサン、右舷側に異常なし。小惑星群の反応は継続して確認します」


新人たちの通信は落ち着いていた。


出撃前に何度も繰り返した訓練が、声に出ている。


「そのまま続けろ。気づいたことは小さくても報告しろ」


「了解」


しばらくは、何も起こらなかった。


やがて、小惑星群の陰でレーダーに複数の反応が現れた。


「敵機反応。小惑星群の外縁、三時方向。数は――」


イーサンが報告する。


「八機。後ろにもう四機。合計十二機」


「確認した。船団から距離を取るな。各小隊、迎撃位置へ」


俺の指示に、各飛行隊が動き始めた。


敵機は二手に分かれた。一群が船団の前方を脅かし、もう一群が小惑星群を回り込んで側面へ向かってくる。


「エリサ、船団右側を維持。ノアはエリサの後ろ。イーサンは接近する敵の位置を報告しろ。ルイス、速度と進路を見てくれ」


「了解」


敵機が接近する。


ルイスが敵の速度変化を読み、エリサが射線を作る。ノアはその後ろを守り、イーサンは敵の接近方向を味方へ伝えた。


「敵二機、右舷から接近。速度上昇。船団へ向かっています」


「ルイス、どちらを先に見る?」


「前の一機は囮です。後ろの機体が輸送船へ向きを変えています」


「エリサ、後ろを押さえろ。ノア、逃げ道を塞げ」


「了解」


エリサが敵の進路へ機体を移す。ノアがその外側へ回り込み、敵が船団へ向かう経路を狭めた。イーサンは追いかけず、位置と進路を報告し続ける。


「敵機、左へ旋回。船団から離れます」


「そのまま押さえろ。無理に撃つな」


敵機が回避に入った。エリサの射線が機体を捉え、敵の計器に警告が走る。敵は船団から離れていった。


その間、別方向では他の飛行隊が交戦していた。四隊が散開しているため、通信には各所から報告が飛び交う。


「左翼、敵四機と交戦中」


「駆逐艦より、船団後方に反応あり」


「敵機が護衛艦へ接近!」


イリヤが全体の通信を整理し、必要な指示を各隊へ流す。


「右翼の一隊、船団後方へ回れ。前方の二機は俺たちが引き受ける」


俺も自隊の配置を保ちながら、全体の状況を見ていた。


小惑星群の奥から、さらに敵機が現れた。予想していたより数が多い。


「敵、追加。小惑星群の内側から出てきます!」


「各機、船団との距離を保て。追い込まれるな」


その時、戦域共通回線が割り込んだ。


『レン教官! 僕です! エミルです!』


聞き覚えのある声だった。俺の照準は、船団へ向かおうとする敵機を捉えている。


『訓練施設で教えてもらったエミルです! 撃たないでください! 僕は――』


敵機が回避に入る。俺の照準が機体に重なり、撃てば当たる距離だった。


エミルの機首はまだ船団を向いている。あいつは敵として戦場にいる。


俺は引き金を引いた。


弾は敵機の主推進器を捉え、出力を奪う。機体は姿勢を崩し、船団から外れて回転した。脱出ポッドが射出される。


『次は殺す。もう教官と思うな』


俺は戦域共通回線を切り、次の敵機へ照準を移した。


「今の……撃ったんですか?」


新人の声が通信に混じった。


ネッサがすぐに答える。


「レンなら殺せるのに、脱出できるように落としたの。あれは優しさよ」


通信の向こうが一瞬静まった。


俺は何も答えなかった。敵機はまだいる。彼らが戸惑う時間は、戦闘が終わってから作ればいい。


「各機、交戦を続けろ。船団を守る」


*


戦況は悪くなっていた。


敵は船団を直接攻撃するより、護衛機を小惑星群の間へ誘い込み、隊列を崩そうとしている。ネッサ小隊の二機が岩塊の陰で敵機に分断された。


「ネッサ小隊、二機が孤立! 敵機三方向から接近!」


イリヤの声が飛ぶ。


「ネッサ小隊、船団側へ戻れ。深追いするな」


俺は全体通信で命じた。


「了解。孤立機を確認した。小隊は船団側へ戻る」


ネッサの返答に続いて、彼女は小隊内にも指示を出す。


「全機、私について戻って。救援は援軍に任せる」


だが、新人のユージンは隊列を離れた。孤立した二機のうち、もう一方の新人を助けようと、小惑星の陰へ機首を向ける。


「ユージン、戻りなさい!」


ネッサが叫んだ。


「でも、あいつが敵に追われています!」


「命令よ。戻って!」


ユージンは返答せず、孤立機へ向かった。敵機が小惑星の陰から回り込み、二人の退路を塞ぐ。


「しまった、罠だ!」


イリヤがすぐに状況を伝える。


「レン、今そちらが戻れば、船団後方が空く。敵の主力が輸送船へ向かっている」


レーダー上では、敵の主力が船団へ接近していた。俺の小隊が離れれば、護衛線に穴が開く。


「二機の位置は?」


「確認できている。援護に行くのか?」


通信の向こうで、悲鳴が重なった。


「助けて! 後ろに敵が――!」


「ユージン、避けて!」


ネッサの声が飛ぶ。


その直後、ユージン機から被弾の報告が入った。


俺は一瞬だけ歯を食いしばった。だが、目の前にまだ護衛対象がいる。それに乱戦となれば悪戯に被害を増やす可能性が高い。


「全機、護衛線を維持。船団を通せ」


ノアの声が震えていた。


「レン隊長、あいつらが!」


「見えている。だが、今戻れば輸送船がやられる。持ち場を守れ」


「……了解」


その言葉を口にして、俺は操縦桿を握り直した。

ユージン達の通信が一つ、また一つと途切れる。


小惑星群の陰で、二つの光が弾けた。


*


船団の左舷側では、小惑星群を抜けようとしていた別の飛行隊が危険に陥っていた。


その隊の新人が、追尾してくる敵機を避けようと急旋回する。だが、速度が落ちきらないまま、機体は小惑星群の狭い隙間へ飛び込んだ。


「速すぎる! 制動しろ!」


小隊長の指示が飛ぶ。


新人機は姿勢を戻そうとしたが、岩塊が迫っていた。


「止まれない! ぶつかる!」


機体の翼が小惑星に触れた。


衝撃で機体が横へ弾かれ、回転しながら岩塊の表面に激突する。機体は砕け、破片が暗い宇宙へ散った。


「左舷側、一機が小惑星に衝突。識別信号、消失」


イリヤの報告に、誰もすぐには答えなかった。


ノアが短く息を吐く。


イーサンは敵機を見失わないよう、位置を報告し続けていた。声は少し震えている。それでも、情報は途切れなかった。


「敵機二機、船団の後方へ回ろうとしています。速度は落ちています」


「よく見ている。位置を維持しろ」


俺はイーサンに答え、敵機へ照準を合わせた。


「エリサ、船団右側を守れ。ノア、エリサを援護。ルイス、敵の進路を見ろ」


「了解!」


ルイスが敵の速度を読み、相手が旋回を始めるタイミングを報告する。


「敵機、船団から離れる方向へ切り返します。減速しています」


「イーサン、追うな。ノア、敵の逃げ道だけを塞げ」


「はい、隊長」


四人の動きが噛み合った。


イーサンは敵の位置を伝え、ノアはエリサの援護位置を崩さない。ルイスの報告を受けたエリサが射線を作り、敵機の進路を船団から遠ざける。


敵は攻撃を諦め、岩塊の向こうへ逃げていった。


「よくやった。全機、船団との距離を維持しろ」


俺は短く告げ、次の敵影を探した。


*


戦闘は長く続いた。


敵は何度も小惑星群へ誘い込もうとし、そのたびに俺たちは船団との位置関係を確認した。撃墜判定が入るたび敵の数は減っていく。だが、護衛艦も損傷し、駆逐艦の一隻が船団の速度を落とさざるを得なくなった。


通信には、名前を呼ぶ声、機体の損傷を告げる声、位置を見失ったという報告が重なる。


「第一輸送船、外装損傷。航行は継続可能」


「護衛艦二番機、推進系統に損傷。船団後方へ下がります」


「敵機反応、減少。残存機は離脱方向へ向かっています」


イリヤの声が戦況を整理していく。


俺は最後まで船団の周囲を飛び続けた。敵の反応が十分に遠ざかり、輸送船団が予定航路を維持していることを確認してから、各隊に帰投準備を命じた。


「各小隊、帰投できる機体を報告しろ」


「レン小隊、帰投可能。損傷機が一機ありますが、飛行に支障はありません」


エリサの落ち着いた声が返る。


「イリヤ小隊、四機が帰投可能。残る一機は撃沈。位置情報も途絶えた」


イリヤは事実だけを短く告げた。


「リン小隊、全員無事。三機は飛べるよ。もう一機はブースターに不調が出てる。推力が安定しないから、あたしが横につく」


「ネッサ小隊、二機が帰投可能。ユージン機と僚機は撃墜。二機とも応答ありません」


ネッサの声は抑えられていた。最後に一度、息を整える音が入る。


「マレク小隊、帰投可能。損傷は軽微です。後方を警戒しながら戻ります」


いくつもの声が通信に重なる。帰投できる機体の数と、戻らない機体の報告が続いた。


「了解した。損傷機を囲んで帰投しろ。敵影を見ても追うな。全機、船団から離れすぎるな」


「了解」


返事が続く中、三機分の場所だけが、最後まで空いたままだった。


*


格納庫へ戻ると、整備士たちが機体を囲み、損傷の確認を始めた。


帰還者の名前が読み上げられる。名簿に載らない名前もあった。


ノアはヘルメットを外し、しばらく何も言わなかった。イーサンは手袋を握りしめたまま、仲間の機体が運ばれていくのを見ていた。


彼らの目には、恐怖があった。


オープン通信で助けを求めた教え子を、俺が撃墜した。ネッサの制止を振り切って味方を助けに向かった新人と、助けられようとした新人は、二人とも帰ってこなかった。俺の決断で、救援に向かわなかった。


それを見ていた元訓練生たちが、俺を見ている。恐怖の色が、その顔にはっきり浮かんでいた。


俺は何も説明しなかった。


初陣は死にやすい。


守れた奴もいる。守れなかった奴もいる。俺たちは、ここで生きていくしかない。


レンナが格納庫の向こうから歩いてきた。彼女は帰ってきた機体と、空いた場所を見た。それから俺の顔を確かめるように見つめた。


俺はうなずいた。


彼女は何も聞かず、俺の手を握った。

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