教官どの様 破
俺たちは綿密に準備を進めた。
想定宙域をシミュレーターに再現し、輸送船団が予定航路を進む間にどこから敵が現れるか、護衛対象が隊列を乱した時にどう立て直すか、何度も訓練を繰り返した。敵が小惑星群の陰から現れる場合もあれば、船団の後方へ回り込む場合もある。毎回同じ展開にはせず、状況を変えて対応を確かめた。
訓練を重ねるうちに、新人たちも少しずつ動けるようになっていった。
エリサが護衛対象を守る位置を取り、ルイスが敵の速度変化を読む。ノアはエリサの援護位置を保ち、イーサンは敵の接近を見つけて報告する。まだぎこちなさはあるが、互いの位置を確かめながら動けるようになっていた。
出撃を翌日に控えた日、俺は全員を集めて告げた。
「明日は出撃だ。今日は休め。機体と装備の確認は済んでいる。寝不足で出てくるなよ」
「了解です、隊長」
ノアの返事に、イーサンも続いた。
「はい、レン隊長」
新人たちはそれぞれの時間を過ごすため、格納庫を後にした。
俺も休むつもりだったが、セリーナに頼まれていた買い物がある。出撃に持っていく小物を買いたいので、付き合ってほしい。そう頼まれていたのだ。
俺は約束した待ち合わせ場所へ向かった。
*
「レン隊長、お待たせしました」
セリーナが一人で立っていた。
「他の連中は?」
「いません」
「何人か一緒に行くと聞いたが」
「嘘です。一人です。デートです」
彼女は何でもないことのように答えた。
「……相変わらず逞しいな」
「ありがとうございます」
「褒めてない」
セリーナは楽しそうに笑った。出会った頃の彼女と、本当に中身は同じなのだろうか。そう思うことがある。
だが、出撃前に必要な物を買うのは大事だ。俺は彼女に向き直った。
「帰りに飯くらいは食わせてやる。だが、まずは必要な物を買うぞ」
「はい。分かっています」
俺たちはショップが並ぶエリアへ向かった。
戦闘機乗りにとって、まず考えなければならないのはトイレの問題だ。あの狭いコックピットに、気の利いた設備はついていない。
「尿吸収パックと、携帯用のピスバッグだ。長時間飛ぶ時は、我慢すればいいという話じゃない。集中力が落ちる。自分が使いやすいものを選んでおけ」
「こんなに種類があるんですね」
「形や固定方法が違う。実際に使う場面を考えて選べ」
セリーナは真面目な顔で、商品を手に取って見比べた。
「それから、下痢止めと整腸剤も買う」
「そこまで必要ですか?」
「前に、ク●を漏らした後の帰還機を見たことがある」
俺が説明すると、セリーナは顔をしかめた。
「……想像したくないです」
「出撃中に催したら最悪だ。出してしまったら、さらに最悪だ。整備士も本人も、帰投後の処理で地獄を見る。薬を持っておいて損はない」
彼女は少し考え、整腸剤と下痢止めをカゴへ入れた。
俺は、彼女が手に取った品を確認してから店員のアンドロイドを呼んだ。
「これと同じものを、格納庫に二ケースずつ届けてくれ。個人用じゃない。出撃する新人たちに配る」
「承知いたしました。明日の出撃前に格納庫へ納品いたします」
セリーナはカゴの中身を見た。
「私が選んだ分まで、みんなの分にしたんですね」
「持っていく物に差があると、忘れる奴が出る。必要なものはまとめて用意した方がいい」
「デートなのに、ずっと隊長ですね」
「買い物に付き合うって約束だ」
「はい。だから一緒に来てもらいました」
彼女は少しだけ頬を膨らませたが、すぐに次の商品棚へ向かった。
次に見たのは、水分と行動食だった。
今回の任務は輸送船団の護衛だが、状況次第では長時間の操縦になる。脱出ポッドに乗ることになれば、回収までの間をしのぐ必要もある。
「運営はわざわざ探しには行かない。だが、位置が把握できている脱出ポッドは回収してくれる」
「帰してもらえる可能性はあるんですね」
「可能性はな。だから、回収されるまで持ちこたえる準備がいる」
セリーナは、チョコ味やフルーツ味の栄養バーを選んでいく。
「どれが一番好きなんだ?」
「チョコです。でも、同じ味ばかりだと飽きるので、果物の味もほしいです」
「そうか。なら、それは自分用にカゴへ入れておけ」
他の新人たちの分も考え、俺は別の味をいくつか選んだ。水分の入った、柔らかく噛みちぎれるキューブも二箱加える。
携帯酸素、拳にガードが入った防刃グローブ、応急セットも揃えた。品物を選ぶたび、セリーナは用途を尋ね、俺は一つずつ説明した。
その途中、彼女が装飾品の棚の前で足を止めた。
小さなハートの形をしたネックレスだった。中央には透明なガラス玉がはめ込まれている。値札を見ると、安くはない。
セリーナはしばらく眺めていたが、やがて目をそらし、棚から離れようとした。
俺はそのネックレスを取り、カゴに入れた。
「レン隊長?」
「今後の活躍に期待してる」
それだけ伝えると、セリーナは一度目を丸くし、すぐに笑顔になった。
「ありがとうございます。大事にします」
「ああ。出撃装備と一緒に、なくさないよう保管しろ」
「はい」
彼女は、さっきまでより少し弾んだ足取りでついてきた。
買い物を終える頃には、必要な品が二人分だけでなく、新人たち全員に行き渡る量になっていた。
「結局、みんなの買い物になりましたね」
「明日は全員で出る。誰か一人だけ準備不足にするわけにはいかない」
「そういうところ、レン隊長らしいです」
「そうか?」
「はい」
セリーナは、ネックレスの入った袋を胸に抱えた。
俺たちは約束どおり、帰りに食事をした。出撃前の景気づけというには少し静かだったが、セリーナは明日の作戦について質問し、俺は答えられる範囲で説明した。
「怖いですか?」
食事を終えた頃、彼女が尋ねた。
「何が?」
「明日の戦いです」
「怖くないと言えば嘘になる」
セリーナは静かに頷いた。
「でも、準備をして、仲間の声を聞いて、やるべきことをやる。そこは訓練と変わらない」
「はい。私も、教わった通りに飛びます」
「それでいい」
彼女は、その言葉を確かめるようにもう一度頷いた。
*
翌朝、四つの飛行隊がブリーフィングルームに集まった。
中央のスクリーンには、輸送船団の編成と予定航路が表示されている。
輸送船は四隻。それを護衛艦六隻と駆逐艦三隻が囲む。俺たち戦闘機部隊は船団の周囲に散開し、敵の接近を阻止する。
イリヤがマップを拡大した。
「この航路は小惑星群の間を通る。船団は速度を上げられない。敵が仕掛けるなら、視界が遮られるこの区間が有力だ」
「船団から離れすぎるな。前へ出る時も、後ろに穴を作らないようにしろ」
俺が補足すると、新人たちは真剣な目で地図を見ていた。
「敵が正面から来た場合、第一隊は船団の進路を守る。第二隊は右舷側、第三隊は後方。第四隊は予備として、敵の突破方向に応じて動く」
イリヤがそれぞれの配置を示していく。
「小惑星群の陰から複数機が出てきた場合、確認できた機数と進路を報告しろ。姿の見えない敵を追うな。護衛対象を見失えば、任務を果たせない」
出撃前の最終確認では、イリヤが配置と通信手順を読み上げ、俺は状況が変わった時の判断を補足した。
セリーナも緊張しているようだった。端末を握る指に力が入っている。
「セリーナ」
「はい」
「怖いか?」
「はい。でも、準備はしました。仲間の位置を見て、通信を続けます」
「よし。撃墜数は考えるな。任務を果たして帰ることだけ考えろ」
「はい、レン隊長」
*
出撃前、格納庫ではレンナが新人たち一人ひとりに声をかけていた。
「ノア、装備の確認は済んだ?」
「はい。水分と応急セットも確認しました」
「イーサン、通信機の予備バッテリーは?」
「あります。予備も含めて確認しました」
「よし。気をつけて帰ってくるのよ」
レンナは新人を順番に抱きしめた。新人たちは照れながらも、彼女の言葉に頷く。
その列の後ろに、ルイスがちゃっかり並んでいた。
「お前は新人じゃないだろ」
「レンナさんが順番にハグしていたので」
「並ぶ理由になってない」
ルイスが何か言う前に、俺は後ろから彼の頭を軽くはたいた。
「ほら、機体に乗れ」
「はい、隊長」
レンナは俺に目を向けた。
「全員のこと、お願いね」
「ああ。お前も、帰ってくるのを待っていてくれ」
「もちろん」
俺は彼女に感謝を伝えた。
「やっぱりお前は良い女だ」
レンナは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑った。
「今さら気づいたの?」
その声を背に、俺たちはそれぞれの機体へ向かった。
*
発進の合図が出る。
機体が射出レールに固定され、カウントが始まった。
「シン飛行連隊、発進準備完了」
「レン飛行連隊、準備完了」
「全隊、発進!」
機体が次々と宇宙へ飛び出した。
輸送船団は予定どおり航行していた。四隻の輸送船を中心に護衛艦が取り囲み、その外側を駆逐艦が進む。俺たちは船団の周囲に広く散開し、レーダーと目視で周辺を確認した。
「小隊各機、間隔を維持。護衛対象を見失うな」
「ノア、位置を確認しました。エリサ先輩の左後方を維持します」
「イーサン、右舷側に異常なし。小惑星群の反応は継続して確認します」
新人たちの通信は落ち着いていた。
出撃前に何度も繰り返した訓練が、声に出ている。
「そのまま続けろ。気づいたことは小さくても報告しろ」
「了解」
しばらくは、何も起こらなかった。
やがて、小惑星群の陰でレーダーに複数の反応が現れた。
「敵機反応。小惑星群の外縁、三時方向。数は――」
イーサンが報告する。
「八機。後ろにもう四機。合計十二機」
「確認した。船団から距離を取るな。各小隊、迎撃位置へ」
俺の指示に、各飛行隊が動き始めた。
敵機は二手に分かれた。一群が船団の前方を脅かし、もう一群が小惑星群を回り込んで側面へ向かってくる。
「エリサ、船団右側を維持。ノアはエリサの後ろ。イーサンは接近する敵の位置を報告しろ。ルイス、速度と進路を見てくれ」
「了解」
敵機が接近する。
ルイスが敵の速度変化を読み、エリサが射線を作る。ノアはその後ろを守り、イーサンは敵の接近方向を味方へ伝えた。
「敵二機、右舷から接近。速度上昇。船団へ向かっています」
「ルイス、どちらを先に見る?」
「前の一機は囮です。後ろの機体が輸送船へ向きを変えています」
「エリサ、後ろを押さえろ。ノア、逃げ道を塞げ」
「了解」
エリサが敵の進路へ機体を移す。ノアがその外側へ回り込み、敵が船団へ向かう経路を狭めた。イーサンは追いかけず、位置と進路を報告し続ける。
「敵機、左へ旋回。船団から離れます」
「そのまま押さえろ。無理に撃つな」
敵機が回避に入った。エリサの射線が機体を捉え、敵の計器に警告が走る。敵は船団から離れていった。
その間、別方向では他の飛行隊が交戦していた。四隊が散開しているため、通信には各所から報告が飛び交う。
「左翼、敵四機と交戦中」
「駆逐艦より、船団後方に反応あり」
「敵機が護衛艦へ接近!」
イリヤが全体の通信を整理し、必要な指示を各隊へ流す。
「右翼の一隊、船団後方へ回れ。前方の二機は俺たちが引き受ける」
俺も自隊の配置を保ちながら、全体の状況を見ていた。
小惑星群の奥から、さらに敵機が現れた。予想していたより数が多い。
「敵、追加。小惑星群の内側から出てきます!」
「各機、船団との距離を保て。追い込まれるな」
その時、戦域共通回線が割り込んだ。
『レン教官! 僕です! エミルです!』
聞き覚えのある声だった。俺の照準は、船団へ向かおうとする敵機を捉えている。
『訓練施設で教えてもらったエミルです! 撃たないでください! 僕は――』
敵機が回避に入る。俺の照準が機体に重なり、撃てば当たる距離だった。
エミルの機首はまだ船団を向いている。あいつは敵として戦場にいる。
俺は引き金を引いた。
弾は敵機の主推進器を捉え、出力を奪う。機体は姿勢を崩し、船団から外れて回転した。脱出ポッドが射出される。
『次は殺す。もう教官と思うな』
俺は戦域共通回線を切り、次の敵機へ照準を移した。
「今の……撃ったんですか?」
新人の声が通信に混じった。
ネッサがすぐに答える。
「レンなら殺せるのに、脱出できるように落としたの。あれは優しさよ」
通信の向こうが一瞬静まった。
俺は何も答えなかった。敵機はまだいる。彼らが戸惑う時間は、戦闘が終わってから作ればいい。
「各機、交戦を続けろ。船団を守る」
*
戦況は悪くなっていた。
敵は船団を直接攻撃するより、護衛機を小惑星群の間へ誘い込み、隊列を崩そうとしている。ネッサ小隊の二機が岩塊の陰で敵機に分断された。
「ネッサ小隊、二機が孤立! 敵機三方向から接近!」
イリヤの声が飛ぶ。
「ネッサ小隊、船団側へ戻れ。深追いするな」
俺は全体通信で命じた。
「了解。孤立機を確認した。小隊は船団側へ戻る」
ネッサの返答に続いて、彼女は小隊内にも指示を出す。
「全機、私について戻って。救援は援軍に任せる」
だが、新人のユージンは隊列を離れた。孤立した二機のうち、もう一方の新人を助けようと、小惑星の陰へ機首を向ける。
「ユージン、戻りなさい!」
ネッサが叫んだ。
「でも、あいつが敵に追われています!」
「命令よ。戻って!」
ユージンは返答せず、孤立機へ向かった。敵機が小惑星の陰から回り込み、二人の退路を塞ぐ。
「しまった、罠だ!」
イリヤがすぐに状況を伝える。
「レン、今そちらが戻れば、船団後方が空く。敵の主力が輸送船へ向かっている」
レーダー上では、敵の主力が船団へ接近していた。俺の小隊が離れれば、護衛線に穴が開く。
「二機の位置は?」
「確認できている。援護に行くのか?」
通信の向こうで、悲鳴が重なった。
「助けて! 後ろに敵が――!」
「ユージン、避けて!」
ネッサの声が飛ぶ。
その直後、ユージン機から被弾の報告が入った。
俺は一瞬だけ歯を食いしばった。だが、目の前にまだ護衛対象がいる。それに乱戦となれば悪戯に被害を増やす可能性が高い。
「全機、護衛線を維持。船団を通せ」
ノアの声が震えていた。
「レン隊長、あいつらが!」
「見えている。だが、今戻れば輸送船がやられる。持ち場を守れ」
「……了解」
その言葉を口にして、俺は操縦桿を握り直した。
ユージン達の通信が一つ、また一つと途切れる。
小惑星群の陰で、二つの光が弾けた。
*
船団の左舷側では、小惑星群を抜けようとしていた別の飛行隊が危険に陥っていた。
その隊の新人が、追尾してくる敵機を避けようと急旋回する。だが、速度が落ちきらないまま、機体は小惑星群の狭い隙間へ飛び込んだ。
「速すぎる! 制動しろ!」
小隊長の指示が飛ぶ。
新人機は姿勢を戻そうとしたが、岩塊が迫っていた。
「止まれない! ぶつかる!」
機体の翼が小惑星に触れた。
衝撃で機体が横へ弾かれ、回転しながら岩塊の表面に激突する。機体は砕け、破片が暗い宇宙へ散った。
「左舷側、一機が小惑星に衝突。識別信号、消失」
イリヤの報告に、誰もすぐには答えなかった。
ノアが短く息を吐く。
イーサンは敵機を見失わないよう、位置を報告し続けていた。声は少し震えている。それでも、情報は途切れなかった。
「敵機二機、船団の後方へ回ろうとしています。速度は落ちています」
「よく見ている。位置を維持しろ」
俺はイーサンに答え、敵機へ照準を合わせた。
「エリサ、船団右側を守れ。ノア、エリサを援護。ルイス、敵の進路を見ろ」
「了解!」
ルイスが敵の速度を読み、相手が旋回を始めるタイミングを報告する。
「敵機、船団から離れる方向へ切り返します。減速しています」
「イーサン、追うな。ノア、敵の逃げ道だけを塞げ」
「はい、隊長」
四人の動きが噛み合った。
イーサンは敵の位置を伝え、ノアはエリサの援護位置を崩さない。ルイスの報告を受けたエリサが射線を作り、敵機の進路を船団から遠ざける。
敵は攻撃を諦め、岩塊の向こうへ逃げていった。
「よくやった。全機、船団との距離を維持しろ」
俺は短く告げ、次の敵影を探した。
*
戦闘は長く続いた。
敵は何度も小惑星群へ誘い込もうとし、そのたびに俺たちは船団との位置関係を確認した。撃墜判定が入るたび敵の数は減っていく。だが、護衛艦も損傷し、駆逐艦の一隻が船団の速度を落とさざるを得なくなった。
通信には、名前を呼ぶ声、機体の損傷を告げる声、位置を見失ったという報告が重なる。
「第一輸送船、外装損傷。航行は継続可能」
「護衛艦二番機、推進系統に損傷。船団後方へ下がります」
「敵機反応、減少。残存機は離脱方向へ向かっています」
イリヤの声が戦況を整理していく。
俺は最後まで船団の周囲を飛び続けた。敵の反応が十分に遠ざかり、輸送船団が予定航路を維持していることを確認してから、各隊に帰投準備を命じた。
「各小隊、帰投できる機体を報告しろ」
「レン小隊、帰投可能。損傷機が一機ありますが、飛行に支障はありません」
エリサの落ち着いた声が返る。
「イリヤ小隊、四機が帰投可能。残る一機は撃沈。位置情報も途絶えた」
イリヤは事実だけを短く告げた。
「リン小隊、全員無事。三機は飛べるよ。もう一機はブースターに不調が出てる。推力が安定しないから、あたしが横につく」
「ネッサ小隊、二機が帰投可能。ユージン機と僚機は撃墜。二機とも応答ありません」
ネッサの声は抑えられていた。最後に一度、息を整える音が入る。
「マレク小隊、帰投可能。損傷は軽微です。後方を警戒しながら戻ります」
いくつもの声が通信に重なる。帰投できる機体の数と、戻らない機体の報告が続いた。
「了解した。損傷機を囲んで帰投しろ。敵影を見ても追うな。全機、船団から離れすぎるな」
「了解」
返事が続く中、三機分の場所だけが、最後まで空いたままだった。
*
格納庫へ戻ると、整備士たちが機体を囲み、損傷の確認を始めた。
帰還者の名前が読み上げられる。名簿に載らない名前もあった。
ノアはヘルメットを外し、しばらく何も言わなかった。イーサンは手袋を握りしめたまま、仲間の機体が運ばれていくのを見ていた。
彼らの目には、恐怖があった。
オープン通信で助けを求めた教え子を、俺が撃墜した。ネッサの制止を振り切って味方を助けに向かった新人と、助けられようとした新人は、二人とも帰ってこなかった。俺の決断で、救援に向かわなかった。
それを見ていた元訓練生たちが、俺を見ている。恐怖の色が、その顔にはっきり浮かんでいた。
俺は何も説明しなかった。
初陣は死にやすい。
守れた奴もいる。守れなかった奴もいる。俺たちは、ここで生きていくしかない。
レンナが格納庫の向こうから歩いてきた。彼女は帰ってきた機体と、空いた場所を見た。それから俺の顔を確かめるように見つめた。
俺はうなずいた。
彼女は何も聞かず、俺の手を握った。




