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画面の中の戦争の日常  作者: ぐりこ


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28/54

基礎の意味 結

俺たちは二か月目の二週目まで、役割ごとのチームで動きを練習した。


基礎の反復だけではない。場面ごとの状況をシミュレーターに再現し、どんな動きが有効なのか、どこに欠点があるのかを一つずつ整理した。訓練生たちに意見を出させ、同じ状況を何度もやり直す。うまくいかなければ原因を探り、動きを変えて再挑戦した。


飛行訓練では、リンが攻撃を主体とする組を担当した。敵の隊列を崩し、相手が陣形を立て直す前に攻め込む。トーマスやイネスは、いち早く敵へ接近する役割を与えられていた。


「トーマス、突っ込むのはいい。でも、突っ込んだ後に何をするか決めておきな」


「敵を追います」


「追うだけじゃだめ。相手が逃げた時、仲間がどこにいるか分からなくなったら、そこで孤立する」


「次は、進路を塞ぐところまで考えます」


トーマスは何度も飛び直した。最初は勢いに任せて敵役へ向かっていたが、やがて攻撃を仕掛けた後、僚機が追いつける位置を保つようになった。


イネスは、相手の動きに反応する速さを活かして敵の進路を崩す。ただし、相手を追うことに集中しすぎて周囲を見失う癖があった。


「敵だけを見るな。お前が相手の進路を変えた後、味方がどこへ入るかも見ておく」


リンは訓練を止め、戦術図を指した。


「相手を動かすのは、お前一人で撃墜するためじゃない。味方が攻撃できる場所へ押し込むためだ」


イネスは悔しそうに頷き、もう一度機体へ戻った。


イリヤは、戦術や指揮を現場で実践する組を担当した。エミルやユナたちは戦術図を見ながらではなく、飛びながら全体の位置を把握し、指示を出す。


「ユナ、敵機だけじゃない。味方の位置を報告しろ」


「左翼に二機、距離を保っています。後方の一機は少し遅れています」


「確認した。遅れた機体を置いていかず、速度を合わせろ」


エミルは、指示を出す役を任された。考え込んで判断が遅れることがあり、イリヤはその場で訓練を止める。


「迷うこと自体は問題じゃない。だが、迷っている間に何も伝えないのは危険だ。今分かっていることを先に言え」


「敵の数は確認できています。進路はまだ判断できません」


「それでいい。次に、味方へ何を指示するか考えろ」


訓練が終わると、イリヤは飛行記録を確かめ、生徒たちに判断を振り返らせた。答えを先に教えることはない。生徒自身が、どこを見落としたのかを見つけるまで待っていた。


ネッサは、全体を俯瞰し、援護に回る組を受け持った。ナディアやミラたちに、戦場の端まで目を配らせる。攻撃する機体が前へ出た時に、どこに隙ができるか。敵が一機を追い始めた時、誰が射線を切るか。


「ミラ、今の場面で一番危なかったのは誰?」


「前へ出た機体です。敵の一機が後ろに回っていました」


「じゃあ、あなたが援護に入るなら?」


「敵機と味方の間に入ります。射線を切って、味方が戻る時間を作ります」


「そう。それをすぐ判断できるように、次も同じ状況をやるよ」


ナディアは周囲への声かけが得意だったが、自分が動く時は慎重になりすぎていた。


「相手を気にするのは長所だよ。でも、自分が止まったら僚機も動けない。声をかけながら、自分も前へ出ていい」


「はい。声をかけたら、次は機体を動かします」


「そう。それを身体に覚えさせよう」


マレクは、攻撃機を掩護する組を担当した。攻撃を仕掛ける味方が撃ち漏らした敵を落とし、敵が反撃に移れば、攻撃機が離脱するまで進路を塞ぐ。


「撃ち漏らしを見つけても、すぐ撃たない。まず攻撃機がどこへ抜けるかを確認してください」


マレクは訓練生たちに、攻撃役の動きを見てから射撃するよう繰り返し教えた。


「相手だけを見ていると、味方の進路を塞ぐことがあります。攻撃役が安全に抜けてから撃つ。待つのも、援護の仕事です」


その組には、パヴェルやデニスがいた。パヴェルは手順を正確に覚える反面、予定外の動きに戸惑う。デニスは射撃の照準こそ正確だが、発射をためらうことがあった。


「撃つ判断が遅れました」


「なぜだ?」


「味方が射線に入るかもしれないと思いました」


「その判断は大事だ。では、撃てない間に何をする?」


「攻撃機の進路を確認して、敵の逃げ道を塞ぎます」


「そうだ。撃つ以外にも援護はできる」


俺は、全ての組の飛行訓練に参加した。


攻撃役の動きを確認し、指揮役の指示が届いているかを確かめる。援護役の視野が狭くなっていないか、掩護役が味方の進路を読めているかを見る。訓練が終わるたびに、各組の記録を確かめ、必要なら役割を調整した。


それぞれの役割を徹底的に反復させた。同じ動きを何度も何度も繰り返す。


訓練生たちは、初めのうちは退屈そうにしていた。だが、繰り返すうちに、指示を聞く前に動ける場面が増えた。失敗した時も、何が原因だったのかを自分たちで話し合うようになっていった。


*


レオニードの教室では、座学のほかに模擬戦を中心とした訓練をしているようだった。


一度、俺は見学に行った。


訓練宙域では、特練生一人に一般訓練生が組まされるチーム編成で模擬戦を繰り返していた。特練生がどうすれば活躍できるのか。そのために、一般訓練生たちは補助役を務めているらしい。


レオニードは宙域の映像を見ながら、訓練生たちへ指示を出していた。


「相手の動きを見てからでは遅い。こちらから仕掛け、相手に対応を強いるんだ」


「特練生は、自分の技量を信じて前へ出る。君たちは、その動きを支えろ」


一機が敵役の機体へ正面から仕掛けた。相手が回避に移る。その動きを読んだ特練生は機体を反転させ、相手の死角へ滑り込んだ。


模擬弾が命中し、撃墜判定が出る。


別の特練生は、敵役を小惑星帯へ誘い込んでいた。危険な距離まで接近し、相手が回避のために進路を変えた瞬間、反対側から回り込む。そこへ射線を通した。


一対一の特練生同士の模擬戦も、かなりのレベルだった。互いの動きを読み、照準を避け、わずかな隙を狙う。大型スクリーンに映る機体の動きは速く、観客がいれば歓声を上げるような場面もあった。


ドネルは、見学に来ることが多いらしい。その日も訓練宙域が見える区域に寄り、満足そうに外を見つめていた。俺が近くにいると気づくと、彼はなぜか自慢げな顔をした。


「見事だろう。あれが選ばれた生徒たちの力だ」


「そうですね」


俺はそれ以上、何も言わなかった。


この時点で、俺は勝ちを確信していた。


レオニードの教室では、特練生一人ひとりが目立つための戦い方を教えている。個人技を磨くには効果的だろう。そして模擬戦の相手役は、特練生の活躍を支えるように動いていた。


俺たちの教室では、全員に役割を与えていた。誰か一人を目立たせるためではない。チーム全体が、それぞれの役割を果たせるようにしている。


その違いが、集団戦でどう出るのか。答えはもう見えていた。


*


二週目の終わり、俺は教室に全員を集めた。


「ここからは、今のチームをいったん崩す。毎回違うメンバーで小隊を組んで飛んでもらう」


生徒たちの間に、ざわめきが起きた。


「今まで身につけた動きは、同じチームでしか使えないものじゃない。違う相手と組んで、さまざまな状況を経験してもらう。人によって動きの癖は違う。いつもの相手とだけ飛んでいたら、そこに慣れすぎる」


「組み合わせは毎回変わるんですか?」


ナディアが尋ねた。


「毎回変える。うまくいかないこともあるだろう。その時は、何が合わなかったのかを確認する。必要なら同じ状況をやり直す。ただし、復習した後は別の組み合わせや別の状況へ進むことが多くなる」


「現場では、同じ人とだけ組めるとは限らないからですか」


「そうだ。現実の戦場では、いつも同じ相手、同じ状況になるとは限らない。臨機応変さを身につける」


生徒たちは互いの顔を見た。ヤコブは少し緊張しているようだったが、ソフィアが小さく頷くと、彼も頷き返した。


「もう一つ。整備士科との連携を大切にする。機体に乗る前に、今日の調子を整備士へ聞く。戻ってきた後は、飛行中に気づいたことを必ず報告する。口頭だけで終わらせず、書面にも残す」


レンナが前へ出た。


「機体の不調は、整備士が見ただけでは分からないことがあります。操縦中に何を感じたのか、いつ異音がしたのか、どんな操作をした時に振動が出たのか。具体的に伝えてください」


ファラが手を挙げた。


「整備士科の生徒にも、直接報告するんですか?」


「そう。担当の教官が確認するけれど、機体を使った本人が最初に伝える。あなたたちの言葉が、整備の手がかりになるの」


レンナは、生徒たちの目を見ながら説明した。


「飛ぶ人と整備する人は、別々に仕事をしているわけじゃない。どちらかが情報を抱えたら、機体の状態を正確につかめなくなる」


「分かりました」


ファラが頷く。周囲の生徒たちも続いた。


*


三週目に入り、組み合わせを変えた飛行訓練が始まった。


毎回、違う相手と飛ぶ。経験してきた役割も違えば、報告の仕方も違う。いつもの仲間なら察してくれる動きが、初めて組む相手には伝わらない。


「今の合図、分からなかった」


訓練後、エミルが言った。


「口頭で伝えたつもりだったんだが」


「聞こえた。でも、どこへ動けばいいのか分からなかった」


「合図に自分の意図まで含めてしまっていたな」


俺は二人に、同じ状況をもう一度飛ばせた。今度は指示を短く区切り、相手に復唱させてから動く。


その後は、別の生徒を組み合わせた。


ナディアとミロは、互いの速度を合わせるのに苦労した。ナディアは慎重に距離を取り、ミロは課題を早く終わらせようと前へ出る。何度か隊形が崩れた後、二人は互いの速度を声に出して確認するようになった。


「今の速度を維持して。私が後ろにつく」


「了解。少しずつ加速する」


「確認した。距離は保ててる」


「分かった。そこから先は急がない」


ユナとデニスは、訓練の記録を見比べながら、自分たちが見ている情報の違いを話し合った。ユナは計器をよく見ている。デニスは目標の動きに集中している。その違いを互いに補う形ができ始めていた。


セリーナは、特練生として身につけた操縦技術を見せつけるのではなく、相手の動きに合わせようとしていた。彼女と組んだヤコブは、目標を見つけるとすぐに報告する。


「右前方、敵機を確認」


「距離は?」


「二千。こちらの進路へ向かっています」


「了解。俺が位置を保つ。セリーナ、射線を作れるか?」


「できる。ヤコブ、速度を維持して」


二人は声を交わしながら、相手の進路を塞いだ。セリーナが照準を合わせ、ヤコブが位置を保つ。模擬弾は敵役の機体を捉えた。


「今の連携はよかった」


俺が言うと、ヤコブは少し驚いたようだった。


「俺が報告して、セリーナが撃っただけです」


「それが連携だ。報告がなければ、彼女は照準を合わせられなかった」


セリーナも頷いた。


「ヤコブが目標を見つけてくれたから撃てました。私一人なら、見つけるのが遅れていたと思います」


ヤコブは、赤い記章を指で触ってから手を下ろした。


整備士科との連携も日課になった。


飛行前、生徒たちは整備担当の訓練生へ機体の状態を尋ねる。飛行後には、気づいた振動や機体の反応を書面にまとめる。整備士科の生徒たちは、教官の確認を受けながら、その情報を点検に活かしていた。


ある日、トーマスが戻ってくるなり、担当の整備士科生徒へ報告した。


「左旋回の時だけ、機体の後ろから軽い振動がありました」


「速度は?」


「中速から加速した時です。減速中はありませんでした」


整備士科の訓練生は報告を記録し、教官を呼んだ。


「機体を止めて点検します。詳しく教えてくれてありがとう」


トーマスは、自分の報告が役に立ったことに少し驚いていた。


「ちゃんと伝わったみたいだな」


俺が言うと、彼は頷いた。


「はい。今までは、戻ってきたらそれで終わりだと思っていました」


「戻った後の報告も、飛行の一部だ」


彼はその言葉を記録用紙に書き留めた。


*


三週目の終わりには、訓練生たちが互いの癖を少しずつ覚え始めていた。


どの相手と組んでも、最初に位置を確認する。指示を聞いたら復唱する。動きが合わなければ、飛び終わってから記録を見直す。失敗をそのままにせず、次の訓練で試す。


レオニードのクラスからは、模擬戦で特練生が複数の撃墜判定を取ったという話が届いていた。彼らは毎回、別の一般訓練生を相手にしていたらしい。


特練生同士の模擬戦も続いていた。選抜に向けて、彼らの動きはさらに鋭くなっているという。


*


最後の一週間は、選抜メンバーを固定した。


選抜に入らなかった訓練生たちは、残りの生徒と毎回違う組み合わせで模擬戦を行う。選抜メンバーの訓練は、俺たち飛行隊の隊員が交代で見た。


模擬戦は、本番を想定して繰り返した。敵機の数や配置、開始位置を変え、ヤコブには毎回違う状況から指揮を執らせた。撃墜判定を取ることだけを追わず、隊列を保てたか、援護が間に合ったか、指示が全員に伝わったかを確認する。


最初の訓練では、トーマスが敵を引きつけた後、戻る位置を見失いかけた。セリーナは敵機を捉えたが、パヴェルとの距離が開いて射線を作れなかった。ヤコブは隊全体を見ようとして、指示を出すのが遅れた。


そのたびに訓練を止め、記録を見ながら動きを確認する。休憩を挟んで同じ状況をやり直し、次の模擬戦では別の敵配置に切り替えた。


「トーマス、敵を引きつけた後、帰る位置を決めておけ」


リンが訓練映像を止めて指摘する。


「セリーナは、パヴェルとの距離を保つ。撃てる位置へ戻る前に、自分だけで追わない」


エリサが続けた。


「ヤコブ、全員の状況を見ているのはいい。ただ、指示が遅れれば味方は動けない。確認と命令を分けろ」


イリヤが戦術図を示す。


選抜メンバーは、指摘を受けては飛び直した。撃墜判定の数だけを見れば目立たない試合も多かった。それでも、模擬戦を重ねるたび、誰かが追われれば別の機体が援護へ入り、攻撃役が戻れる場所を残せるようになっていった。


レオニードの特練生たちは、模擬戦で毎回複数の撃墜判定を取っていた。彼らは個々の動きにさらに磨きをかけ、本番には選び抜いた特練生たちだけで出ると張り切っているらしい。


模擬戦の前日、俺は選抜メンバーを集めた。


「明日は、訓練と同じ動きをしようとするな。相手は訓練相手じゃない。想定外の動きがあったら、まず報告する。ヤコブは全体を見て指示を出せ。各自は自分の役割を果たし、指示が届かない時は相方と補い合え」


「了解」


ヤコブの返事に、全員が続いた。


俺は一人ずつ顔を見た。緊張はある。だが、ここまでの訓練で、互いの動きや癖はかなり分かってきていた。


「よし。今日は休め。明日に備えろ」


*


模擬戦当日、訓練生全員が広場へ集められた。


大型スクリーンには訓練宙域の映像が映され、会場には運営の撮影機も飛んでいた。観覧席の正面にはドネルが座り、隣にはガレスとエレーナがいる。レオニードも、彼の小隊長たちと一緒にいた。


これは訓練というより、見せしめなのだろう。


ドネルは開始前、訓練生たちへ向けて演説した。


「今日は、レオニード教官の特練生たちの動きをよく見るように。個々の能力を高めた者が、どれほどの力を発揮するのか、参考にしてほしい」


彼は、俺の教室の生徒たちを見た。


「教え方の違いが、どのような結果を生むかも分かるだろう」


その言葉を聞き、何人かの訓練生がこちらを見た。セリーナは何も言わず、胸元を確かめている。彼女の白い記章はもうない。


レオニードの選抜メンバーが、模擬戦用の機体へ向かった。


特練生の一人が、俺の前で足を止めた。前に教室で重練隊と組みたくないと言った生徒だ。今日の相手チームでは隊長機を任されているらしい。


「レン教官。今日は、あなたの教えがどれほど間違っていたか、目に物を見せます」


「そうか。なら、飛んで確かめろ」


彼はセリーナへ顔を向けた。


「君も、こちらへ移ればよかったのに。今からでも後悔することになる」


セリーナは彼を見返した。


「私は自分で選んだ」


「その選択が正しかったか、すぐ分かるよ」


彼はそれだけ言い、機体へ乗り込んでいった。


俺たちの選抜メンバーも、発進準備に入る。


十六機対十六機。これまでの練習で積み重ねてきたものを、今度は本番で試す。


*


模擬戦の条件は、両チーム十六機。撃墜判定を受けた機体は戦闘区域から離脱し、最後まで残った側が勝利する。機体は模擬戦仕様だが、特練生側には専用機が用意されていた。


機体を見ただけで、性能差はありそうだった。


彼らの専用機は、反応速度も推力も高い。装甲も軽量化され、動きに無駄がない。こちらの機体より、明らかに新しく調整されているように見えた。


大型スクリーンに、両チームの配置が映し出される。


レオニード側の隊長機が前へ出た。残りの機体は、個々の間隔を広く取っている。各機が互いに重ならないよう散開し、好きな方向へ攻撃を仕掛けられる配置だった。


対する俺たちの隊は、ヤコブが中央で全体を見渡し、左右に攻撃役と援護役を配置している。トーマスは先行する撹乱役。セリーナとパヴェルは攻撃と掩護を組み、エミル、ナディア、ユナ、サミル、イネス、ミラたちがそれぞれの役割に入る。ミロ、ソフィア、デニスも、隊列の穴を埋める位置についた。


『模擬戦、開始』


開始の合図と同時に、レオニード側の機体が一斉に動いた。


一機が高速で突っ込み、相手の照準を避けながら旋回する。別の一機は上下に大きく機動し、こちらの隊列を分断しようとした。隊長機は正面からヤコブへ迫る。残る機体も左右へ散り、個別に撃墜判定を取りに来る。


特練生たちの操縦は見事だった。


一機はセリーナの照準が合う直前に機体を反転させ、弾道を紙一重でかわした。別の機体は、ナディアの背後へ回り込むと見せて急上昇し、追撃に出たイネスを誘い込む。機体の性能も高く、加速から旋回への切り替えがこちらより速いように見えた。


「敵機、左翼へ二機。右側から一機が回り込みます」


ヤコブが報告する。


「左翼は維持。ナディア、イネスの援護に入れ。トーマスは先行した敵を引きつけて戻れ」


「了解!」


トーマスは一番に敵へ接近した。リンに教わった通り、敵の隊形へ飛び込み、相手の注意を自分へ向けさせる。特練生の一機が彼を追った。


トーマスは追わせたまま、隊列の外へ出すぎない。相手が旋回して追い越そうとした瞬間、彼は速度を落として進路を譲る。敵機は前へ出た。


「今です!」


トーマスの報告と同時に、ヤコブが指示を出す。


「セリーナ、敵機の進路を押さえて。パヴェル、彼女の後ろを守れ」


セリーナが敵機を照準に捉える。特練生は機体を急旋回させた。セリーナは追いかけず、相手が戻る経路へ照準を移す。パヴェルが反対側から進路を塞いだ。


敵機は回避方向を失い、模擬弾を受けた。


撃墜判定。


会場から小さなどよめきが起きる。


レオニード側はすぐに反応した。撃墜された機体の位置を空け、隣の特練生がその隙間から攻め込む。動きは速く、一機がヤコブを狙い、もう一機がセリーナへ向かってきた。


「セリーナ、右後方!」


パヴェルが知らせる。


「確認。こちらへ誘導する」


セリーナは敵を追わず、ヤコブの指示が届く位置まで戻る。パヴェルは敵機との間に割り込み、相手の照準を外した。敵機はパヴェルを避けて進路を変え、その先にいたユナが位置を報告する。


「敵一機、中央へ進入。速度が落ちています」


「ミロ、ソフィア、左右から進路を塞いで。撃つ必要はない。隊列へ戻さないで」


ヤコブの指示に、二機が応じる。


ミロは相手の進路へ先回りし、ソフィアが後方から距離を詰めた。敵機は二機を振り切ろうと加速する。だが、進路を変えるたびに別の味方機が先回りしていた。


レオニード側の機体は、個々に見れば圧倒的にうまい。だが、味方がどこにいて、次に誰が動くのかを互いに知らせる声は少なかった。


隊長機は、ヤコブを狙っていた。


「隊長機、正面から来ます」


ヤコブは報告を聞きながら、隊列全体の位置を確認していた。


「エミル、中央を空けろ。ナディアは後ろへ下がる。敵機をその隙間へ通せ」


「了解!」


ヤコブの指示で、中央に道ができる。敵隊長機はそこを突破しようとした。だが、通過した先では、イネスが待ち構えている。彼女は撃たずに相手の進路を変え、ミラがその動きを報告した。


「敵隊長機、右へ転進。ヤコブ、そちらへ向かっています」


「確認。セリーナ、隊長機を狙えるか?」


「射線が開けば撃てます」


「パヴェル、射線を作ってくれ」


パヴェルは敵の進路を妨げ、セリーナの正面にわずかな時間だけ射線を開いた。


模擬弾が敵隊長機をかすめる。


撃墜判定にはならなかった。敵はすぐに上昇して射線を外し、別の味方を追い始める。


「追うな。隊形を戻せ」


ヤコブの声に、セリーナは機首を戻した。


レオニード側は、個人技で何度も局面をひっくり返そうとしていた。一機がこちらの側面へ回り、別の機体が後ろから攻める。特練生たちは機体の性能を活かし、急加速と反転を繰り返す。動きは鮮やかだった。大型スクリーンには、機体同士が重なり、模擬弾の光が次々に走る。


しかし、連携のための声が足りない。


誰かが追われても、別の機体は自分の相手を追っている。敵の位置が変わっても、隊長機の指示が全員に届かない。各自が自分の判断で戦い、その技量で勝とうとしていた。


特練生同士の模擬戦では、それで問題がなかったのだろう。互いに個人技を磨き、相手の隙を見つけて撃墜判定を取る。見学していた時は、そこに弱点があるとは気づかなかった。


だが、こちらの集団戦法の前では、思うように個人技を出せていなかった。


相手を追えば、ヤコブが指示した位置へ誘導される。回避すれば、別の機体が進路を塞ぐ。こちらを狙えば、味方が射線を切る。単独で突破しようとするたび、別の二機がその動きを抑えていた。


特練生の一機が、ナディアを追い詰める。


「ナディア、後退しろ。無理に撃ち返すな」


ネッサに教わった通り、ナディアは相手の動きを見ながら下がる。イネスが横から進路を塞ぎ、ミラが敵の位置を知らせる。


「左に抜ける!」


ナディアが声を上げる。


「確認。道を開ける」


イネスが機体をずらした。敵機はナディアを追い続けようとし、その隙にパヴェルが射線を切る。


セリーナが照準を合わせた。


敵機は模擬弾を受け、撃墜判定となった。


「二機目、撃墜判定!」


会場から歓声が上がる。


セリーナは機体を反転させ、すぐにヤコブの位置へ戻る。撃墜を追わない。狙える時だけ撃ち、あとは隊列を守る。彼女の射撃精度は高かったが、それ以上に、味方の動きに合わせて撃つ判断が良くなっていた。


「セリーナ、右からもう一機」


パヴェルが報告する。


「見えてる。位置を保って」


「了解」


二人は互いの距離を崩さず、敵機を迎えた。相手はセリーナを狙って急接近する。パヴェルが正面へ出て、敵の照準を引き受けた。


「パヴェル、離脱!」


「まだ持ちます」


敵がパヴェルを避けようと進路を変えた。その先に、セリーナの照準が待っていた。


撃墜判定。


レオニード側の隊長機が、味方の損失を見て指示を飛ばした。


「各機、個別に動くな! 中央へ集まれ!」


だが、指示が遅かった。


先に敵を追っていた機体は、すぐに戻れない。別の機体は追撃を受け、隊長機の呼びかけに応じる余裕がなかった。相手の隊列が乱れたところへ、ヤコブが声を張る。


「今だ。左右から圧をかけろ。中央へ集めさせるな」


エミルとナディアが左から進路を狭め、ミロとソフィアが右へ回る。イネスとミラは、中央へ戻ろうとする敵を押し返した。


撃墜判定が続く。


一機、また一機と、レオニード側の機体が戦域から離脱していった。個々の動きは最後まで鋭かった。射線を避け、味方の機体を盾にせず、最後まで自分の腕で状況をひっくり返そうとしていた。それでも、一機の動きに対して複数の機体が役割を変え、進路を塞ぐ。


特練生たちは、次第に自分らしい動きを出せなくなっていった。


「このままでは、隊長機を守れない!」


誰かが通信で叫ぶ。


「各自、隊長の周囲へ戻れ!」


隊長機が命じる。


けれど、戻る道をヤコブたちが塞いでいた。


セリーナは、直接隊長機を追わなかった。ヤコブの指示を受け、隊長機の援護に入ろうとする敵機を狙う。パヴェルがその横を守り、彼女が射撃できる時間を作った。


模擬弾が命中する。


撃墜判定。


セリーナは連続して撃墜判定を重ねた。彼女の操縦技術と射撃精度は、確かに高い。だが、ひとりで戦っていた時とは違い、仲間が作った射線と、仲間が開けた時間を使って撃っていた。


「よく見てるな」


俺は隣にいたイリヤへ言った。


「セリーナの腕もある。だが、周りが彼女を活かしている」


「そうだな」


「全員が、自分の役割を忘れていない」


スクリーンに映るヤコブの機体は、敵の動きを見続けていた。敵を追うことはせず、隊員の位置を確認し、指示を出す。彼の視野の広さが、選抜隊全体を動かしていた。


残りの敵機は四機まで減っていた。


隊長機は、ヤコブを落とそうと直進してくる。先に教室で俺へ意見をした特練生だった。彼は個人技を活かし、射線をかわしながらヤコブへ迫る。


「隊長機、中央を突破します!」


ヤコブが報告する。


「エミル、正面を空けろ。ナディア、後方へ下がって射線を作れ。セリーナ、敵隊長機の進路を見て。パヴェルは彼女を援護」


隊長機は、空いた中央を抜けようとした。


その先には、ヤコブがいた。


相手はヤコブを狙う。ヤコブは逃げず、機体をわずかに傾けて射線を外した。敵が追撃に入る。そこへ左右からエミルとミロが進路を塞いだ。


「敵隊長、進路を変更」


「ナディア、今だ」


ヤコブの指示と同時に、ナディアが後方から射線を通す。敵隊長機はその弾を避けた。だが、避けた先にはセリーナの照準があった。


パヴェルが、最後の敵機をセリーナから引き離す。


セリーナは照準を固定した。


模擬弾が敵隊長機を捉えた。


『隊長機、撃墜判定。模擬戦終了』


レオニード側の残存機は、すべて撃墜判定を受けていた。


大型スクリーンに両チームの結果が表示される。俺たちの選抜隊は複数の機体を残していた。撃墜判定の数だけを見ても、圧勝だった。


広場に歓声とざわめきが広がる。


レオニード側の訓練生たちは、誰もが悔しそうな顔をしていた。個人技を発揮する前に動きを封じられ、自分らしい戦い方をほとんどさせてもらえなかった。


レオニードは、スクリーンと自分の生徒たちを交互に見ていた。


その表情に、ようやく気づきが浮かぶ。


選抜する生徒たちを、間違えたのだ。


特練生同士の模擬戦では、誰もが自分の技量を競っていた。だが、今日のような集団戦では個々の力だけでは足りない。彼らを支えていた一般訓練生はいない。特練生同士で編成した結果、全員が自分の力を出すことに執着し、誰かを支える動きがほとんどなかった。


ドネルは顔を真っ赤にして立ち上がった。


「こんな結果が出るとは……」


彼は何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。俺たちの選抜隊を一度見た後、広場を出ていった。


ガレスが前に立ち、訓練生たちへ指示を出す。


「全員、模擬戦の記録を確認しろ。勝った側も負けた側も、今日の動きを振り返る。次の授業へ戻れ」


生徒たちは、それぞれの教室へ戻り始めた。


セリーナは、選抜隊の仲間たちと一緒に機体を降りてきた。彼女はヤコブに何かを言い、パヴェルにも頭を下げた。


「セリーナ、よくやった」


「あの人たちが、私に射線を作ってくれたからです」


「そうだ。お前一人の勝利じゃない」


セリーナは頷いた。ヤコブはまだ少し緊張した面持ちだったが、赤い記章をつけた胸を、今度は隠すように触れてはいなかった。


*


その日の夕食後、自由時間にセリーナが俺のところへ来た。


周囲に人がいないのを確かめてから、彼女は声を落とした。


「レン教官。相談があります」


「どうした?」


「特練生だった頃、女子の一部は、決められた日にドネル責任者の部屋へ行くように言われていました」


俺はすぐに返事ができなかった。


「行くと、何をされる」


「言いたくありません。ただ、断れない雰囲気でした。私の順番は五日後です」


セリーナは、手を強く握っていた。


「私はもう特練生ではありません。それでも行かなければならないのか分からなくて……できれば、もう行きたくありません」


あの噂は、真実だった。


胸の奥に、熱いものが湧き上がった。俺は拳を握り、どうにか声を抑える。


「行く必要はない」


セリーナは、ようやく少しだけ息を吐いた。


「本当に、行かなくていいんですか」


「お前が望まないなら、行かなくていい。ここで俺に話したことも、勝手に他の生徒へ言いふらしたりはしない」


「でも、ドネル責任者が何か言ってきたら……」


「その時は俺に知らせろ。ひとりで対応するな」


「分かりました」


彼女は一度だけ頷き、頭を下げた。


俺はその場に残り、ドネルのことを考えていた。


訓練生を特別扱いし、クラスまで動かし、彼女たちに拒めない要求をしている。今まで聞いてきた噂が、ひとつにつながった。


このまま何もせずに、五日後を迎えるつもりはなかった。


俺は、後輩たちへの置き土産をすることを心に決めた。

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