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画面の中の戦争の日常  作者: ぐりこ


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19/53

惑星圏の制宙 破

俺は今回の話を聞くと、すぐに飛行隊のメンバーを集めて共有した。


次回の相手は、惑星一つ分の正規軍だ。防衛する側にとっても、攻撃する側にとっても、惑星軌道上の制宙圏を掌握することは欠かせない。激戦になるのは間違いなかった。


会議室の壁に、惑星とその周囲の軌道図を映す。


「俺たちの任務は、軌道上の敵艦隊と基地を制圧すること。その後、降下部隊の護衛に入る」


ネッサが手を挙げた。


「地上に部隊が降りた後は、どうなるんだい?」


「そこから先は聞かされていない。俺たちの使命は降下部隊の護衛までだ」


「惑星を完全制圧するって話だったよね」


「そうだ。だが、地上で何をするかは俺らとは別の話だ」


ネッサは不満そうだったが、それ以上は聞かなかった。


最新装備や機器の使い方は、シミュレーターに反映されたらしい。順次確認をするようにと通達があった。実弾射撃訓練も、各小隊に順番で割り当てられるという。


「新型装備に実弾訓練か。運営にしちゃ、至れり尽くせりだな」


ケンドレが言った。


「ここまで用意するのはおかしい。必ずまだ何かある」


俺は全員を見回した。


「準備を怠るな。機体の状態も、新しい装備も、完全に使いこなしておけ。シミュレーターの結果だけを信用するな」


「了解」


マレクたちが返事をした。リンは腕を組み、壁の戦域図を見たまま黙っている。ネッサは彼女の横で、降下部隊の進入経路を確認していた。


分からないものは、分からない。今できることをやるしかなかった。


*


出撃三日前、朝食から豪華になっていた。


いつもは栄養バーだけだったはずなのに、その日は穀物粥とフルーツミックスが並んでいた。極めつけには、副食までついている。


「これ、本当に朝食か?」


ケンドレが皿を持って席につく。


「せっかく出たんだから、まずは食べよ」


レンナが言った。


「食べるよ。食べるけど、何か裏がありそうでな」


「そうね、こんな事、ここでは今まで経験ないわ」


「この要塞に長くいると単純に喜べなくなるな」


近くでは、ルイスがフルーツを一つずつ数えていた。マレクは黙って粥を食べ、エリサとマーカスは周囲の様子を見ていた。若い隊員たちは喜んでいたが、俺たち古株は浮かれきれなかった。


朝食の後、エースたちは再びエースラウンジへ集められた。


モニターに映った軍服の男が、作戦の細かな配置を説明している。胸元にいくつもの勲章をぶら下げているのが特徴的であった。

誰がどの区域に入り、何を攻撃するのか。各艦隊と飛行隊の位置が戦術図に示され、作戦の流れが順番に説明された。


その時、モニターの戦術図に、俺たちの後方に正規軍艦隊の配置が示された。


続いて、作戦説明の音声が流れる。


『後方に配置された正規軍の艦艇は、敵艦隊と基地へ艦砲射撃を行う。砲撃は一定間隔で行われる。警告を確認したら、赤の表示範囲から離脱。各隊は艦隊間の安全通路へ退避しろ。後方射撃の開始時刻は、作戦開始後に各戦域へ通達する。以上』


戦術表示に、青い砲撃予定区域がいくつも出た。砲撃が飛ぶたびに、進路上の広い範囲が危険になる。細い安全通路が、その間を縫うように描かれていた。


エースたちは口々に不満を漏らした。


「俺たちの後ろから撃つのか」


ヴァシリー・オルロフが低く言った。重武装機を操るベテランである。


「敵と交戦している最中にも、砲撃を続けるのか?」


ユン・ソヨンが資料から顔を上げる。艦隊護衛の経験が長い。


「安全通路って、どれだけ幅があるんだ?」


マヤ・サントスが戦術図を見つめた。索敵と僚機支援を得意としている。


ダリウス・コールも椅子から身体を起こした。高速機による急襲を得意とする自信家だが、いつもの笑みは消えていた。


「目の前に敵がいるのにどう後ろからの砲撃を避けろっていうんだ」


「全ての機体にマップ機能があり予定射線が表示されるとある。それを使えという説明だろう」


ヴァシリーが答えた。


「乱戦になったら、そんな通路を選んで飛べる余裕があるのか?」


誰かが吐き捨てた。


モニターの説明は続いていた。質問への返事はない。用意された作戦説明が終わると、画面は次の資料へ切り替わった。


誰も、納得した顔はしていなかった。


*


部隊に戻ると、俺は緊急ミーティングを開いた。


「後方の正規軍艦隊から、一定間隔で艦砲射撃がある。最新機体のマップに表示される赤い区域が危険範囲だ。回避する時は、惑星方向へ進路を取るな。弾道に重なる危険がある。青い表示で示される安全通路へ入れ」


「敵を避けながら、味方の砲撃も避けるんですか」


ルイスが尋ねた。


「そうだ」


マーカスが腕を組む。


「安全通路が塞がれたら?」


「その場で判断するしかない。だが、惑星方向へ逃げるな。砲撃の弾道をなぞるだけになる。」


「撃たれる前に通路を確保する必要があるね」


ネッサが言った。


「そうだ。相方と位置を確認しろ。安全圏へ移る時も、片方だけ先に飛び出すな」


俺は全員を見た。


「運営は出撃拒否を認めない。首輪がある以上、俺たちには選ぶ権利がない。だから、準備できることを全部やる。通信を聞き逃すな。配置を崩すな。帰ってこい」


「了解」


その返事の中に、怒りや不安が混じっているのは分かった。


俺たちは、これまでの運営の至れり尽くせりをようやく理解した。休暇も食事も新型機も、俺たちのためではない。この作戦に全力で送り込むためだ。


*


戦闘宙域へ到着した。


惑星の青い縁が、視界の端に広がっている。軌道上には敵艦隊と基地が点在し、戦域図には無数の識別信号が表示されていた。


第三要塞の大型空母は、惑星の影に沿うように進んでいた。格納庫では機体が発進準備を整え、整備員たちが最後の点検をしている。


レンナは俺の機体の計器を確認し、点検票を閉じた。


「機体は問題ない。新しい射撃管制も、機雷探知器も動いてる」


「ああ」


「帰ってきて」


「ああ」


彼女は周囲を確かめると、格納庫の柱の陰へ俺を引っ張った。人目につかないように、短くキスをする。


彼女はすぐに離れ、何事もなかったように俺の胸元を整えた。


今回の作戦には、万を超える人間が参加する。無人撮影機が宙域を縦横無尽に飛び回り、戦闘の様子をあらゆる角度から撮影していた。この戦争もパレードとして放送される。


出撃命令が下りた。


俺たちエースが率いる連隊は第二陣。第一陣として、各要塞の一般飛行連隊、戦闘用アンドロイド飛行連隊、駆逐艦が先に出撃する。


各要塞の部隊はチームごとにまとまり、惑星軌道上の広い戦域へ同時に攻勢をかけた。


俺たちは味方艦隊達の間から、遠くの戦闘を見ていた。


戦域のあちこちで光が瞬く。砲撃が敵艦を貫き、ミサイルが迎撃されて爆ぜる。飛行機の識別信号が急に消える。その一つずつが、普段の興行とは比べものにならない数だった。


「第一陣、敵防衛艦隊と交戦に入った」


管制から報告が届く。


「後方砲撃の危険区域に、第一陣の一部が接近しています」


戦術図には、青い砲撃予定区域が表示されていた。細い安全通路が、敵艦隊の間を縫うように伸びている。


「第一陣、後方射撃の開始まで三十秒。赤い区域から離れろ」


指示が飛ぶ。


だが、第一陣はすでに敵機と艦艇に囲まれていた。後退する機体、敵を引きつける機体、損傷して速度の落ちた機体が、同じ宙域に混ざっている。


正規軍の戦艦が砲撃した。


光の筋が、後方から惑星の縁に向かって伸びる。戦術表示の青い区域が、実際の砲撃に合わせて一瞬白く点滅した。


着弾。


敵艦隊の一角が爆発し、駆逐艦が一隻、船体を折った。だが赤い区域の端にいた味方機も巻き込まれた。識別信号が二つ消える。


敵の砲撃ではない。


味方の砲撃だった。


「第一陣、損失二。損傷機多数」


「着弾区域から離脱しろ。次の斉射まで四十秒」


戦闘はそこで終わらなかった。敵機は第一陣を包囲しようと動き、味方艦隊は次の砲撃に備えて射線を修正していく。


「第二陣、発進準備」


俺は操縦席に身体を沈め、ハーネスを締めた。計器が順番に点灯する。マレクの機体が右側に表示された。エリサ、マーカス、ルイスも信号を返す。


ネッサの小隊、リンの小隊も発進準備を完了させた。別の要塞から来たエースたちの機体も、戦域図に向かって並んでいる。


ヴァシリーの重武装機。マヤの支援機。ユンの護衛機。ダリウスの高速機。


「後方射撃の次の開始まで、二十秒」


管制の声が響いた。


「第三要塞、第二陣。各隊、発進せよ」


俺は操縦桿を握る。


「全機、続け」


俺たちは戦域へ飛び込んだ。


前方には敵。背後には正規軍の戦艦。戦域図には第一陣の味方機が散らばり、艦艇の位置が重なっていた。


「後方射撃、第二斉射まで十五秒」


「全隊、まず安全通路へ入る。敵を追うのは射線を抜けてからだ」


戦術図には、艦隊間を縫う細い通路が示されていた。俺たちは敵へ向かう進路をいったん外し、味方艦の間を抜ける。


「敵戦闘機、右前方から接近」


マレクが報告する。


「安全通路を維持。エリサ、右の敵を引きつけろ。マーカス、追撃を切れ。ルイス、砲撃予告を読み続けろ」


敵機がこちらへ飛び込んでくる。


エリサは正面から撃ち合わず、敵の射線を外へ誘導した。マーカスは進路の先へ回り、相手が安全通路へ入るのを防ぐ。マレクが短い射撃を置き、敵の隊形を割った。


その時、砲撃の警告が鳴る。


「後方射撃、開始まで十秒。区域は右側へ拡大」


「左の通路へ移る。隊列を崩すな」


俺たちは左へ切り返した。敵機がその後を追う。砲撃の青い予定区域が、今までいた場所を覆った。


着弾の光が広がる。


追ってきた敵機の一機が、砲撃に巻き込まれた。もう一機は急旋回して通路の壁面に接近し、機体の外装を削られながら逃げた。


「敵機、一機撃墜。こちらは全機無事」


マレクの声は落ち着いていた。


「よし。次は敵の駆逐艦群を押さえる」


正面に敵艦が見えた。重装甲の駆逐艦が数隻、惑星側へ並び、その間を敵戦闘機が飛び交っている。艦砲は俺たちへ向けて旋回し、対空砲が次々に火を噴いた。


俺たちは敵艦へ正面から突っ込まず、艦隊の間にある安全通路を使って側面へ回る。エリサとマーカスが敵機を押さえ、ルイスが青い砲撃予定区域を読み上げる。


「次の後方射撃まで二十五秒。予想区域は敵駆逐艦隊の右側です」


「敵艦に近づきすぎるな。砲撃を誘ってから抜ける」


俺は機首を敵の駆逐艦へ向けた。敵砲塔がこちらを捉える。敵機も次々に集まってきた。


その奥で、ヴァシリーの機体が敵艦に接近していた。


「オルロフ機、敵艦の砲塔へ攻撃中」


彼は重武装機の火力を集中させ、敵艦の砲塔を一つずつ潰していく。敵の対空砲が彼へ向く。二発、三発と弾が機体をかすめても、ヴァシリーは射線を崩さなかった。


「オルロフ、離脱しろ。後方砲撃が来る」


マヤが全体通信で呼びかける。


「砲塔を止めてからだ」


ヴァシリーが最後の射撃を放つ。砲塔が爆発し、艦の射撃が止まった。


だが、敵機が彼の背後へ回る。


「後ろだ!」


ヴァシリーの機体が大きく傾いた。推進器から火花が散り、脱出信号が表示される。彼は機体を立て直そうとしたが、後方射撃の警告が戦域全体に鳴り響いた。


砲撃区域は、敵艦とヴァシリー機の周囲に重なっている。


「オルロフ、赤い区域から離れろ!」


マヤの声が響いた。


ヴァシリーの機体が、敵艦の陰から出た。


その先には、安全通路がなかった。


砲撃が着弾する。


敵艦の装甲が吹き飛び、ヴァシリー機の信号も光の中で消えた。


「オルロフ機、反応消失」


誰も返事をしなかった。


戦闘は続いていた。


敵艦隊の外側では、リンの小隊が敵の陣形を崩していた。リンは機体を敵機の懐へ滑り込ませ、ぎりぎりの距離で射線を交わす。相手が彼女を追えば、ネッサが横から支援する。敵機がネッサへ向けば、リンが反転して追撃を止める。


二人の小隊は、訓練で作ってきた連携を崩さなかった。


「ネッサ、右の敵が通路へ入った!」


「見えてる。リン、追わずに左へ戻って」


「了解!」


リンは敵を追いきらず、安全通路へ戻る。直後、後方砲撃の予告区域が、さっきまで敵機のいた宙域を覆った。逃げ遅れた敵機が砲撃に巻き込まれる。


「敵機、撃墜確認」


ネッサの報告が入る。


一方、マヤは索敵機を率い、敵艦隊の通信中継を狙っていた。敵の識別信号が多すぎる。彼女の隊は敵機を落とすより、敵の連携を崩すことを優先している。


「敵の中継艦を確認。護衛が三機」


「こちらで一機引きつける。マヤ、射線が開いたら撃て」


マヤの部隊が敵機を散らし、中継艦の前に細い射線を作った。マヤはその隙に射撃を放つ。通信中継設備が爆発し、敵艦隊の信号が一部乱れた。


だが、敵の反撃は早かった。


「マヤ機、左から敵!」


彼女は機体を傾けて射線を外す。直後、砲撃警告が重なった。赤い区域が、マヤの機体の進路を覆う。


「安全通路へ抜けろ!」


ユンが叫ぶ。


マヤは惑星方向へは逃げず、艦隊間の隙間へ進路を変えた。敵機はすぐ後ろまで迫っていた。彼女は敵の照準を外すために旋回したが、もう一機の敵が正面に出る。


マヤの機体が被弾する。


「マヤ、脱出しろ!」


返事はなかった。


二発目が胴体を貫き、機体が回転する。後方砲撃の着弾区域から抜ける前に、マヤの識別信号が消えた。


「サントス機、撃墜」


ユンは彼女の信号を見届けることなく、損傷した僚機を護衛していた。彼女の隊は味方艦艇へ向かう敵機を引きつけ、戦線の穴を塞いでいる。


「ユン小隊、損傷機を安全通路へ送る。残りは俺についてこい」


ユンの機体は、味方の駆逐艦へ向かうミサイルを次々に撃ち落とした。敵機の射撃が彼女の翼を掠める。彼女は損傷機を先に通し、自分は後方に残った。


次の砲撃警告が流れる。


赤い区域は、ユンと敵機、そして味方艦の一部を含んでいた。


「ユン、退避しろ!」


彼女は敵機の進路を塞ぎ、味方の駆逐艦が安全通路へ入る時間を作った。機体を傾けて砲撃区域を抜けようとしたが、敵の射撃が推進器を捉える。


彼女の機体は速度を失った。


後方から砲撃が迫る。


ユンは最後まで操縦を続けた。機体が安全通路の端へ滑り込む。だが、尾部が赤い区域に残った。


光が彼女の機体を包んだ。


「ソヨン機、反応消失」


次々に、エースの名が戦域図から消えていく。


敵を倒しても、味方の砲撃から逃れられなければ生き残れない。砲撃を避けるために敵の射線へ入れば、そちらで撃ち落とされる。


それでも、戦線は前へ進んでいた。


「敵の第二防衛線を突破する。各飛行連隊は指揮艦を押さえろ」


指示が入った。


敵の指揮艦は、惑星の影に近い位置にいた。周囲には護衛艦と戦闘機が密集している。正面から進めば、敵艦の砲撃を受ける。横から回れば、味方の砲撃区域を横切ることになる。


ダリウス・コールの高速機が、一番に動いた。


「俺が右へ回る。敵の目を引きつける」


「深追いするな。安全通路から出るな」


「分かってる」


彼は敵艦隊の外側を高速で抜け、敵機を引きつけた。速度を落とさず、敵の射線をぎりぎりでかわしながら、指揮艦の側面へ回り込む。


敵の護衛機がダリウスを追う。


「敵を引き離した。今だ!」


ダリウスの攻撃で開いた隙を、後続が突く。俺もマレクとともに指揮艦へ向かった。


「艦の通信設備を狙う。マレク、右側を押さえろ」


「了解」


俺たちは敵機を避けながら、指揮艦の側面へ射線を通した。マレクの射撃が通信アンテナを破壊する。敵艦隊の隊形がわずかに乱れた。


その時、後方砲撃の警告が鳴った。


「砲撃開始まで三十秒。赤の区域、指揮艦周辺」


安全通路は、敵艦の下を抜ける狭い道しかない。


「全機、艦の下を通って退避する。敵機を連れてくるな」


俺は機首を下げた。


ダリウスは、まだ敵機を引きつけていた。


「コール、通路へ入れ。砲撃が来る」


「あと一撃で指揮艦の推進器を止められる」


「離脱しろ!」


彼は聞かなかった。


高速機が指揮艦の側面をかすめ、推進器へ射撃を叩き込む。敵艦が揺れ、推進炎が乱れた。ダリウスはその場から離れようとしたが、追っていた敵機が進路を塞いだ。


彼は敵を撃ち落とす代わりに、機首を下げて艦の下へ滑り込む。


砲撃予告のカウントが減る。


「十秒!」


「ダリウス、通路へ!」


「見えてる!」


彼の機体は安全通路へ向かった。敵機が後ろから射撃する。ダリウスは旋回して一機をかわしたが、その動きで通路の外へ押し出された。


砲撃が始まる。


「コール機、区域内!」


ダリウスは最後の瞬間に機体を傾け、赤い区域の端を抜けようとした。だが、艦の爆発で散った破片が機体に当たる。姿勢が崩れ、推進器が停止した。


後方砲撃が指揮艦を直撃する。


艦の側面が裂け、ダリウスの機体はその光に巻き込まれた。


「コール機、反応消失」


敵指揮艦は航行不能になった。


俺たちは安全通路を抜け、別の敵艦へ向かった。


後方砲撃が着弾するたび、敵艦の隊列は崩れていく。その一方で、味方機も安全通路を外れれば巻き込まれる。作戦図の青い区域は、戦況が変わるごとに描き直され、進める場所は狭くなっていった。


ケンドレの小隊は、敵艦隊の左翼を引きつけていた。


ケンドレはいつものように軽口を叩いていたが、操縦は慎重だった。彼の僚機三機も、敵の砲火を避けながら距離を保っている。


「ケンドレ、そこから離れろ。砲撃区域がそっちへ伸びる」


「見えてる。敵の砲塔をこっちへ向けさせてるんだ」


「もう十分だ。安全通路へ戻れ」


「あと少しだけだ。味方艦が通れる」


イリヤが全体通信に割り込んだ。


「ケンドレ、命令だ。戻れ」


短い沈黙が入る。


「了解。戻る」


ケンドレの小隊は進路を変えた。


その時、敵の戦闘機が四機、ケンドレ小隊の背後へ回った。先頭の敵機が僚機の一機を狙う。もう一機はケンドレの退路を塞いだ。


「敵機接近!」


ケンドレ小隊は二手に分かれた。ケンドレが敵を引きつけ、僚機二機が安全通路へ入ろうとする。だが、敵の砲撃でその通路の一部が塞がれた。戦術図の青い表示が消え、別の区域へ移る。


「通路が消えた。左側へ回る!」


僚機の一人が叫んだ。


「そっちへ行くな! 弾道と重なる!」


ケンドレが止める。


しかし、敵機が後方から迫っていた。味方艦砲の次の斉射まで、残り十数秒。どちらへ動いても危険だった。


ケンドレは反転し、敵機へ向かった。


「お前らは通路を探せ。俺が引きつける」


「隊長、無理です!」


「行け!」


ケンドレが敵機へ突っ込み、二機を自分へ向けさせた。残る僚機は、戦術図に出た新しい安全通路へ向かう。


そのうちの一機が、敵の射撃を受けた。


機体が揺れ、脱出ポッドが放出される。ポッドは慣性で宙域の端へ流れていった。


もう一機が助けに行こうとしたが、ケンドレが止めた。


「戻るな! 砲撃が来る!」


その声の直後、後方砲撃の警告音が鳴った。


戦術表示の赤い区域が、ケンドレ小隊のいる宙域を覆う。


「ケンドレ、退避しろ!」


イリヤが叫ぶ。


ケンドレは敵機を振り切り、安全通路へ向かった。敵機も追ってくる。彼は最後尾で射撃を続け、敵を通路の外へ押し返していた。


砲撃が始まる。


ケンドレは通路へ滑り込んだ。だが、後ろから追っていた敵機が、彼の僚機へ射線を通す。僚機の機体が被弾し、推進器が爆発した。


脱出ポッドの信号が一瞬だけ表示された。だが、敵弾がポッドを貫き、信号が消える。


ケンドレは反転した。


「戻るな、ケンドレ!」


俺は叫んだ。


ケンドレは返事をせず、最後に残った僚機の前へ機体を割り込ませた。敵弾が彼の機体に集中する。最後の僚機は安全通路へ逃げ込んだが、損傷した機体が砲撃の衝撃の余波を受けて機体が瓦解した。


「ケンドレ小隊、二番機反応消失!」


残るのはケンドレ一人だった。


彼は敵機を追い払い、戦線に残っていた味方艦へ退避しようとした。だが、次の砲撃区域が更新される。ケンドレの進路を塞ぐように赤い範囲が広がっていた。


安全通路は、敵艦の残骸の向こうにある。


ケンドレはそこへ向かう。敵機が一機、後ろから追っていた。彼は射撃を避け、残骸の隙間を抜ける。機体の翼が破片に擦れ、警告灯が点滅した。


「ケンドレ!離脱しろ!」


イリヤの声が飛ぶ。


「今してる!」


「そこは危険地帯だ!間も無く砲撃が来る!急げ!」


「分かってるよ」


ケンドレは、残骸の隙間を抜けて安全通路へ入ろうとした。


その直前、敵艦が爆発した。


残骸が広がり、通路を塞ぐ。戦術図の安全表示が消えた。ケンドレの機体は回避しようと傾いたが、すぐそばに敵機がいた。避けた先には砲撃区域がある。


彼は、機体を反転させた。


敵機へ正面から向かい、最後の射撃を放つ。敵の一機が爆発した。


次の瞬間、後方砲撃が着弾した。


ケンドレの機体は、敵艦の残骸と一緒に光の中へ消えた。


「ケンドレ、反応消失。ケンドレ小隊全滅。」


通信が静かになった。


誰も言葉を返さなかった。


ケンドレの小隊は全滅した。


俺は、操縦桿を握り直した。今すぐ引き返したかった。だが、戦域にはまだ敵がいる。戦術図には次の砲撃区域が表示され、降下部隊の航路も開いていない。


「全機、前進を続ける。敵艦隊の残存戦力を押さえろ」


声が自分のものとは思えないほど、平坦に聞こえた。


マレクが応答する。


「了解」


ネッサ、リン、イリヤも続いた。


誰も、ケンドレのことには触れなかった。


*


残ったエースたちは、敵の主力艦隊へ集中した。


ヴァシリー、マヤ、ユン、ダリウス。先ほどまで聞こえていた名前は、戦域通信から消えている。エース機の識別信号が減るたび、別の部隊が穴を埋めた。


敵の防衛線は少しずつ崩れていたが、こちらの損害も大きかった。艦砲射撃の着弾区域を避け、細い安全通路を渡る。その先で敵機と交戦し、また次の通路を探す。前へ出るたび、戦術図が赤く塗り替えられていく。


「敵基地の主砲、沈黙させる。各隊、射撃位置につけ」


俺は指示を出した。


マレクは俺の右側を維持する。エリサは後方を守り、マーカスは敵機の進路を塞ぐ。ルイスは射線予告を読み上げていた。


「後方砲撃、開始まで二十秒。赤い区域は基地正面を通ります。安全通路は左側」


「左へ抜ける。敵を引きつけるぞ」


俺たちは敵機へ向かい、基地正面から引き離した。敵は追ってくる。マレクが相手の射線を外し、エリサが別の敵を押さえる。マーカスは進路を塞ぎ、ルイスは味方全体の位置を報告する。


砲撃の予告が残り十秒になった。


「敵を通路の外へ誘導しろ」


俺たちは安全通路から外れずに旋回した。追ってきた敵機の一機が、こちらの動きに引きずられて通路へ入る。俺は機体を反転させ、短い射撃を放った。マレクの弾が敵の推進器を捉える。


敵機が姿勢を崩したところへ、後方砲撃が走った。


敵基地の正面が爆発し、対空砲台が連続して沈黙する。敵機の識別信号が二つ消えた。俺たちは安全通路の中に残った。


「砲台、残り一基」


「マレク、左の外装を狙え。エリサ、敵機を遠ざけろ」


「了解」


マレクが射撃する。最後の砲台が爆発し、基地の防衛火力が止まった。


その時、リンの小隊から通信が入る。


「敵機が後退してる。ネッサ、左の通路を確保して!」


「了解。リン、追いすぎないで」


「分かってる」


二人の小隊は、互いの位置を守りながら敵を押し返していく。別の飛行連隊も合流し、残った敵機の退路を塞いだ。


正規軍の降下部隊が、惑星へ向けて移動を開始する。


「敵艦隊、後退を確認。各隊、降下部隊の航路を確保せよ」


俺たちは、残存する敵機を追いすぎず、降下船の周囲に配置を取った。


後方砲撃の最後の警告が流れる。


赤い区域は、敵の残存艦隊を覆っていた。青い予定区域の外に、俺たちの安全通路が細く表示される。


「降下部隊を通す。全機、表示された通路を維持しろ」


俺は指示を出した。


正規軍の戦艦が最後の一斉射撃を行う。砲撃は惑星方向へ進み、敵艦隊の退路を遮った。数隻が爆発し、残った艦艇は軌道を外れて後退する。


戦域全体に、作戦成功の通知が流れた。


「敵艦隊の戦力を無力化。惑星軌道上の制宙圏を確保。降下部隊、進入を開始する」


惑星の大気圏へ、降下船が進んでいく。俺たちはその周囲を飛び、残存する敵機がいないか警戒を続けた。


制宙圏は、俺たちのものになった。


だが、戦域図から消えた識別信号がいくつもあった。エースたちの信号も、ケンドレ小隊の信号も戻らない。


無人撮影機は、砲撃と爆発、敵艦の沈没、降下船の進入を記録していた。ケンドレ小隊が消えた瞬間も、きっと撮られている。


俺は惑星を見た。


制宙圏を掌握した先に何が待っているのか、俺たちは知らされていない。確かなのは、作戦がまだ続いていることだけだった.

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