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画面の中の戦争の日常  作者: ぐりこ


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14/51

戯言 破

クロイツとの話し合いが済んだ翌日、共用モニターの映像はすっかり変わっていた。


マレクもその変化に気づいていた。自分のせいで仲間まで危険にさらしてしまったかもしれない。そう考えているのだろう。食堂でも格納庫でも、仲間の顔を見るたび、言い出せない謝罪を飲み込んでいるようだった。


そんなマレクを、ケンドレを筆頭に仲間たちが支えた。


「奴らは元々気に食わなかったんだ。この要塞に来てからも、陰で暴力や薬物、強姦ここでもギャングまがいのことを平気でやっていた」


「食い物にされた奴を何人も見てきた。今まではレンやイリヤのおかげで俺らには手を出せなかったが、ケジメをつける時が来ただけさ」


言葉をかけたのは、ケンドレだけではなかった。飛行隊の戦闘員達や整備士達も、マレクを一人にしないようにしていた。


マレクは何度も「すみません」と言いかけた。そのたびに、ケンドレが大きな手で彼の肩を叩く。


「今さら謝るな。次に飛ぶ時、仲間を見てろ。それでいい」


マレクはうつむいたまま、何度かうなずいた。


だが、その話を立ち聞きし、ミゲルたちに密告した者がいたらしい。


翌朝から、ミゲルたちの嫌がらせが始まった。


食堂では、飛行隊メンバーの朝食のトレーに唾が吐きかけられていた。居住区では、飛行隊の女性にしつこく声をかける。相手が嫌がっていると分かっていても、引き下がらない。


ネッサに声をかけられた時には、最後に侮辱の言葉まで吐いた。


リオが憤慨して相手へ向かっていこうとする。リオを止める方が、相手を追い払うより大変だった。


「離してください、隊長!」


「離したらお前が殴るだろ」


「殴るだけで済ませます!」


「そういう話じゃない」


ネッサはリオの腕を押さえ、相手の男を睨みつけていた。イリヤも近くにいた隊員を呼び、通路の人だかりを散らす。俺とケンドレが間に入ると、男たちは笑いながら去っていった。


ネッサは、リオの腕を離した。


「助けようとしたのは分かった。でも、ああいう相手に先に手を出したら、向こうの思うつぼよ」


「でも、あんなこと言われて」


「聞こえてた。だからって、あなたが処分されてどうするの」


リオは言い返せず、拳を握ったまま黙った。


その夜、俺はリオがネッサに「俺ももう大人だから、いろいろ教えてください」と頼んで、あっさり断られたという話を聞いた。ネッサは「まず訓練で一人前になりなさい」と返したらしい。


リオは翌朝、その話を全力で否定していた。否定するたびケンドレが笑い、マレクも口元を少し緩めた。俺は、あいつらしい失敗だと思った。


俺たちは、なるべく複数人で行動するようにした。特に女性は、男性二人以上と一緒に移動する。食堂も、訓練区画も、格納庫から居住区へ戻る時もだ。


俺は意識したわけではないが、訓練以外の時間はレンナと過ごすことが多くなった。格納庫に顔を出し、食事に付き合い、用がなくても彼女の作業台の近くにいた。


「ずっといるわね」


「そうか?」


「そうよ。機体の点検に来たの?」


「いや」


「じゃあ、何をしに?」


「ここにいる」


レンナは呆れた顔をした。


「邪魔」


「分かった」


俺は少しだけ離れた。


しばらくすると、レンナは俺を見て言った。


「そこまで離れなくていい」


「どこまでなら邪魔じゃないんだ」


「知らない。自分で考えて」


その距離を探りながら、俺たちは日々を過ごした。


表立った問題は起きなかった。


だが、とうとうトラブルが起きた。


うちの飛行隊の戦闘員が、通路で刃物に刺された。命に別状はなかったものの、何針も縫う傷を負い、訓練を休まなければならなくなった。


刺したのは、ミゲルと同じ小隊に所属する男だった。ラテン系のラウル・ベガ。ミゲルのすぐそばにいる腰巾着で、いつも後ろをついて回る。普段は口数が少ないが、ひとたび頭に血が上ると何をするか分からない危険な男だった。


ミゲルに憧れているらしく、タトゥーも似たような絵柄を選んでいる。左胸には、ミゲルの名前を模したタトゥーまで彫っているという噂があった。


ここまで来ると、憧れというより忠誠に近い。


事件を看過できなくなったクロイツに、俺とミゲルが呼び出された。


部長室には、いつもの黒い革張りのソファと、ブランデーのグラス、葉巻の煙があった。クロイツは俺たちが向かいに座るのを待ってから、ミゲルへ目を向けた。


「なぜ興行まで待てないのかね。話の流れを読むこともできないのか?」


ミゲルは肩をすくめた。


クロイツは続けた。


「こんなところで大事な人員を殺されたら、会社の損失だ。君はどう責任を取るつもりかね?」


「オヤジさん、うちの連中は我慢ってのが苦手なんだ」


ミゲルは笑いながら言った。まるで、部下が人を刺したことなど、少しばかり手順を間違えた程度の話にすぎないようだった。


「今後は気をつける。ただ、いつまで我慢すりゃいいのかだけ教えてくれ」


クロイツは、どうしようもない奴だとでも言いたげに首を振った。だが、その表情には、面白がっているような笑みが浮かんでいた。


「そんなに待たせることはない。材料は揃った。もうすぐやろう」


「そうか。なら、うちの連中にもそう言っておく」


面談はそれで終わった。


刺した男に、明確な罰則が下ることはなかった。翌日には何事もなかったように日常へ戻り、ミゲルのそばに立っていた。


俺は飛行隊全体へミーティングを行った。


「ミゲルの隊との興行が決まった。内容も時期も、まだ分からない。ただ、そのうちぶつかることになる」


誰も冗談を言わなかった。


俺は、マレクだけでなく全員を見渡した。


「向こうは喧嘩を売ってきている。だが、挑発に乗るな。次の出撃では、全員が生きて帰ることを優先する」


マレクはうなずいた。


イリヤが、ミーティングの最後に補足する。


「編成が決まり次第、ペアでの連携を訓練する。敵は隊列を崩しにくるだろう。一人で追うな。味方の位置を確認しろ」


リオは、ネッサの隣で小さくうなずいた。この間の怒りを、出撃で無茶をする理由にさせるつもりはなかった。


その日の夕方には、俺たちとミゲルの隊の騒動が、一つのストーリーとして放映されていた。


〈仲間を傷つけられたレン隊〉

〈ミゲル隊との因縁、ついに決着へ〉


クロイツの顔は映っていなかった。だが、部長室で俺とミゲルが向かい合い、話している映像が使われていた。最後には「決戦」の二文字が、画面の中央に大きく浮かんだ。


興行の内容が告知されたのは、それから二日後だった。


両方ともに第三要塞所属のレン飛行連隊vsミゲル飛行連隊


俺たちはベビーフェイスとして、ミゲルたちはヒールとして紹介された。運営にとって、俺たちに悲劇が訪れても、勧善懲悪が果たされても、どちらに転んでも満足のいく筋書きなのだろう。


興行のルールは三つ。


* 飛行隊同士の総力戦。

* 相手の隊長機を撃墜すれば試合終了。

* 宙域には機雷がランダムに設置され、接触すれば爆発する。


告知を見た後、ミゲルがわざわざ俺たちのところへやってきた。


俺の目の前で、首を切る仕草をする。


それからレンナへ目を向けた。


「こいつを殺した後は、可愛がってやるから待ってろよ、かわいこちゃん」


俺は、その場をやり過ごした。


言い返せば、運営が望む映像になる。殴れば、向こうに口実を与える。頭では分かっていたが、怒りが収まらないのを隠しきれなかった。


レンナが俺の手に触れた。


「私を守って」


「ああ」


「無茶もしないで」


「分かってる」


彼女は俺の手を握ったまま、しばらく離さなかった。


今回だけは負けられない。死ねない。


その覚悟を胸に、俺たちは出撃準備へ入った。


告知から二日後、飛行隊に正式な出撃命令が下りた。


ブリーフィング室の壁面には、予定宙域の立体図が映し出されていた。機雷の配置はランダム。地図に表示されたのは設置候補の範囲だけで、実際の位置も量も出撃後じゃないと分からない。


イリヤが全体配置を説明した。


「ミゲル隊は、正面から全機で突っ込んでくる可能性が高い。隊列を崩して乱戦に持ち込むつもりだろう。こちらは各機でバディ(相方)を決め、離れすぎないようにする。機雷を避ける時も、互いの位置を見失うな」


俺は小隊で生き残っている四人を見た。


俺とマレク。リオとネッサ。


それぞれのペアで敵を受ける。どちらかが追われれば、相方が射線を切る。敵機を率先して落とすことより、ペアを維持して生き残ることを優先する。


「マレク、俺と組め。敵隊長機を見つけても一人で追うな。俺が合図するまで射線を維持しろ」


「分かりました」


彼の声には、前の出撃の時のような高揚はなかった。名前を呼ばれただけで、少し肩がこわばる。それでも、視線は逸らさなかった。


「リオ、ネッサと組め。相手が挑発してきても乗るな。ネッサの位置を見失うな」


「分かりました」


「今度は殴りかからないか?」


ネッサが横目でリオを見た。


「戦闘中は殴りません」


「そこ以外でもね」


「……努力します」


イリヤが地図を切り替えた。


「飛行隊全体は19機。欠員はあるが、他の小隊も含めて各自のペアを組ませる。こちらが乱戦に巻き込まれても、周囲の小隊が敵の援護を引き受ける。隊長機のレンは、全体の状況を見ながらミゲルを探せ」


ケンドレが腕を組んだまま口を挟む。


「向こうが全機突撃してきたら、配置図なんてすぐ意味なくなるぞ」


「だから、ペアで動く。隊形が崩れても、隣を見ろ」


イリヤは簡潔に答えた。


格納庫では整備員たちが機体を一機ずつ点検していた。レンナは俺の機体の翼端を確かめ、固定具を指で押す。金属が小さく鳴った。


「この前の損傷箇所は交換した。射撃管制も機雷探知も、動作確認済み」


「機雷の場所がレーダー出てるのか?」


「場所が分からないけど、近付けば探知器が警告して確認できる」


「そうか」


レンナは点検票へ記入し、俺に渡した。


「機体の異音がしたら、すぐ連絡して。自分で判断して飛び続けない」


「分かってる」


「本当に?」


「分かってる」


レンナは俺の返事を聞き、今度はマレクの機体へ向かった。彼の機体の外装を確かめ、計器の反応を一つずつ見ていく。


「マレク、前回の被弾箇所は直してある。だけど、機体が振動したらすぐ言って」


「はい。ありがとうございます」


「礼はいらない。無事に帰ってきて、次の点検に持ってきて」


マレクは、少しだけ頭を下げた。


リオはネッサの機体の横で、ヘルメットと通信機を何度も確かめていた。


「ネッサ、通信が切れたらどうするんでしたっけ」


「まず自分の位置を確認。それから最後に受けた指示を守る。勝手にこっちを探しに来ない」


「分かりました」


「それと、機雷の警告が出たら私の指示を待つ。急旋回して接触したら、二人とも終わりよ」


「はい」


「返事だけはいいわね」


「返事も大事ですから」


ネッサは小さく息を吐いたが、口元にはかすかな笑みがあった。


ケンドレが、リオの肩を軽く叩いた。


「帰ったら飯を奢ってやる。だから帰ってこい」


「未成年に酒を約束しないでくださいよ」


ネッサが言った。


「じゃあ、飯だ」


リオは少し笑った。


「それなら帰ります」


出撃時刻が近づくと、格納庫の隔壁が順に閉じていった。


俺は操縦席に身体を沈め、ハーネスを締めた。計器の灯りが順に点き、通信回線に飛行隊の声が入る。


イリヤの確認。ケンドレの応答。ネッサの短い返事。リオの少し硬い声。マレクの機体信号。


四人の位置が表示された。


発進許可が下りる。


俺たちは射出レールへ進んだ。



開始の合図と同時に、ミゲルの飛行隊は全機で突撃してきた。


前衛も後衛もない。隊長機を守る気も、隊列を保つ気もないようだった。最初から敵陣の奥まで突っ込み、こちらを乱戦へ引きずり込む。そのために機雷原へ突っ込むことすら、ためらわなかった。


「敵機、正面から全機接近!」


ネッサの声が通信に入る。


「散れ! ペアを維持しろ。機雷に近づきすぎるな!」


俺たちが予想していた通り乱戦になった。訓練では、各機が相方との連携を繰り返し確かめてきた。敵が編隊を崩してきても、孤立しない。片方が追われれば、もう片方が射線を切る。撃墜を追うより、隣の機体を見ろ。


マレクは俺の右後方についた。リオとネッサは距離を保ちながら、左側の敵機を引きつけている。


敵の先頭集団が、射程に入った。


俺は速度を落とし、先頭の一機を引きつける。マレクが反対側から短く射撃し、敵の進路をずらした。相手が回避へ動いた先には、機雷の反応があった。


「前方、機雷反応!」


ネッサが叫ぶ。


敵機は急旋回した。後続が避けきれず、機体の一つが機雷に触れる。爆発が広がり、金属片が周囲へ散った。俺は機体を傾け、破片の隙間を抜ける。マレクもすぐに後を追った。


「マレク、俺の右を維持しろ。追うな」


「了解」


通信は短く、落ち着いていた。


敵の一機が大きく旋回し、俺の背後を取ろうとする。マレクがすぐに反応した。敵の進路へ射撃を置き、こちらへ照準が合う前に牽制する。


「助かった」


「まだです。左からもう一機来ます」


俺は機体を横へ倒した。敵弾が胴体の脇を抜ける。マレクの射撃が相手の翼をかすめ、敵は後退した。


左側では、リオとネッサが二機の敵を引きつけていた。


ネッサは敵を追わず、射線を切りながら距離を維持している。リオは相手の後ろへ回ろうとして、ネッサの位置を見て機首を戻した。


「リオ、深追いしない」


「分かっています!」


「今、追いかけようとしたでしょう」


「少しだけです!」


「少しでもだめ」


敵機がネッサへ向きを変える。リオは一瞬ためらい、それからネッサの指示どおり、敵の側面へ回った。短い射撃が相手の進路を塞ぐ。ネッサはその隙に距離を取り、二機で敵の反応域から遠ざけた。


「今の動きはよかった」


「ありがとうございます!」


「でも、声が大きい。集中して」


「はい!」


飛行隊全体の通信には、あちこちから報告が入る。


ケンドレが敵の左翼を引きつけ、イリヤが後方から二つの小隊へ指示を飛ばす。別の小隊が機雷原の外側を回り、敵の援護機を足止めしていた。戦況図の表示は、機体の損傷や位置の変化に合わせて次々と書き換わる。


だが、ミゲルの機体は見失わなかった。


派手な赤と黒の塗装。胴体には、大きく死神が描かれている。迷彩など考えていない。あれを見失う方が難しい。


「ミゲルを確認。中央の機雷群を抜けて、こちらへ向かってる」


マレクが報告した。


「迎え打つ。距離を保て」


「了解」


ミゲルは味方の援護など気にしていなかった。正面から一機へ向かい、射撃を浴びせる。相手が回避すると、追いかけてさらに距離を詰めた。別の機体が側面から撃っても、機体を揺らしてかわし、そのまま乱戦の中心へ突っ込んでいく。


味方の一機が被弾した。


機体が大きく揺れ、脱出ポッドが放出される。ポッドは慣性に押され、戦闘宙域の端へ流れていく。


ミゲルの死神機が、即座にそちらを向いた。


「ミゲル、脱出ポッドを狙ってる!」


通信に誰かの声が飛び込む。


ミゲルは交戦中の敵機を捨て、脱出ポッドへ照準を合わせた。


俺は機体をそちらへ傾けた。だが、間に合わなかった。


死神機の砲口が光った。


脱出ポッドが爆ぜた。短い通信音が一つ、共通回線に混じって途切れる。


「ポッドの反応、消失」


イリヤの声が全体通信に響いた。


ミゲルは何事もなかったように機首を戻し、再び乱戦へ突っ込んでいった。


マレクが息を呑む音が通信に入った。


「……あいつ」


「見るな。前を見ろ」


俺は言った。


ミゲルの機体が、こちらへ向き直る。


赤黒い機体が、機雷の間を縫うように加速してきた。正面から撃ち合うつもりらしい。俺は機体を傾け、相手の射線を外した。マレクが反対側へ回り、ミゲルを挟もうとする。


だが、彼は減速しなかった。


俺へ向けた射撃を最後まで続けながら、機体を急旋回させる。マレクの射線が通る直前に、ミゲルは機雷のそばへ滑り込んだ。マレクは撃てなかった。追えば機雷に触れる距離だった。


俺はミゲルの後ろを取るため、機首を切り返した。だが、その瞬間、別の敵機が横から割り込んできた。射撃が機体の装甲を叩く。警告灯が点滅した。


「隊長、右後方!」


マレクの声に合わせて、俺は機体を大きく傾けた。敵弾が翼の端を削る。マレクが相手を追い払い、俺は体勢を立て直した。


ミゲルは、その隙に再び乱戦の向こうへ抜けていた。


戦場のあちこちで、機体が火を噴いていた。機雷に触れて爆発した機体。射線を見誤り、味方の砲撃に巻き込まれた機体。背後を取られて、一瞬で照準から消えた機体。通信には悲鳴や警告が重なり、誰かの呼びかけが途中で切れる。


「隊長、マレクが敵二機に追われてる!」


ネッサの声がした。


「リオ、マレクを援護。ネッサは俺とミゲルを追う」


「了解!」


「リオ、二機の射線を分けて。近づきすぎるな」


「分かりました!」


ネッサは俺の左へついた。リオはマレクのほうへ向かい、追っていた敵機の片方を引き受ける。マレクは一機に狙われながらも、相方の位置を確認して機体を立て直した。


「リオ、助かった!」


「あとでお礼を聞きます!」


「今は前を見て!」


ネッサがすぐに言う。


俺はミゲルの機体を探した。


死神の塗装は、まだ見えていた。


俺たちは二機で距離を詰めた。ミゲルはすぐにこちらへ向き直る。機体を大きく傾け、マレクの射線を外すと、俺へ向かって加速してきた。


正面から撃ち合う気だ。


俺は機体を下へ滑らせ、射線を避ける。マレクが横から射撃を入れた。ミゲルの機体は機雷の間を縫うように旋回し、爆発の光を背にして反転する。


「こいつ、機雷を気にしてないのか」


マレクが言う。


「気にしている。だから、あの位置を飛べる」


ミゲルは危険な間隔で機雷を避けていた。恐れていないのではない。危険を承知で、相手が追いづらい位置を選んでいる。


戦闘はそこで終わらなかった。


ミゲルの隊は数で押し込み、俺たちは機雷を避けながら隊列を維持する。敵の一機がケンドレの僚機へ食いつき、別の機体がイリヤの側面を狙う。味方の小隊が二つに割れかけるたび、イリヤが全体通信で位置を整えた。


「ケンドレ、右へ下がれ。敵を機雷帯へ誘い込め」


「了解!」


「ネッサ、リオを援護しろ。無理に追うな」


「了解」


「リオ、機雷の位置を声に出せ。自分だけで抱えるな」


「右前方に二つ、左下に一つ!」


リオの報告に、ネッサが応じる。


「聞こえた。左へ抜ける」


二人は、機雷帯を避けながら敵機を引き離していった。別の味方小隊も加勢し、乱戦の中に少しずつ隙間が生まれる。


やがて俺たちは、ミゲルの機体をもう一度捉えた。


マレクが俺の横へ戻ってくる。


「隊長、今度こそ二機で挟めます」


「無理に決めに行くな。俺が右へ回る。お前は距離を保て」


俺たちは左右に分かれ、ミゲルの進路を狭めた。彼は正面の俺を避け、マレクの側へ回り込む。マレクは追わず、機首を返して俺との距離を保った。


ミゲルは一度、俺たちの射線から逃れた。


その時、ラウルの機体がマレクの後ろへ回り込んだ。


「マレク、後ろ!」


ラウルの射撃がマレクの機体を捉える。外装が弾け、推進器の片側から火花が散った。


「被弾しました。姿勢制御が不安定です!」


「脱出しろ、マレク!」


「了解!」


マレクの機体から脱出ポッドが放出された。


俺はすぐにラウルを照準に捉えた。彼は俺へ機首を向ける前に、マレクのポッドを狙おうとしていた。


「ラウル!」


俺は撃った。


射撃が彼の機体を捉え、左側の推進部が爆ぜた。ラウルの機体は回転し、機雷原へ流れていき爆発をする。


その向こうで、ミゲルがマレクの脱出ポッドへ照準を合わせていた。


俺は、マレクのポッドへ向かう進路に機体を割り込ませた。ミゲルの射撃が俺の機体をかすめ、外装の一部が飛ぶ。警告音が鳴ったが、気にしている余裕はなかった。


ミゲルの機体が、もう一度マレクへ照準を合わせる。


俺は照準器の中へ、ミゲルの機体を捉えた。


一撃で仕留めるつもりはなかった。ミゲルの機体の推進部を撃ち抜ければ、マレクのポッドを狙う軌道から外せる。


俺は射撃した。


弾がミゲルの機体の後部を貫いた。推進炎が乱れ、赤黒い機体が大きく傾く。ミゲルは機体を立て直そうとしたが、回転が止まらない。


「敵隊長機、撃墜!」


アナウンスが響いた。


「興行終了。勝者、レン飛行連隊!」


勝利判定が表示された。


ミゲルの機体から脱出ポッドが放出された。彼は生きていた。


戦闘が終わったはずなのに、ミゲルは共通通信を開き、命乞いを始めた。


『レン、待て! 試合は終わった。俺はもう戦えない。撃つな!』


俺は、彼のポッドを照準に捉えていた。


マレクのポッドは、まだそこに浮かんでいた。彼は生きている。ミゲルは、あれを狙った。


俺は返事をしなかった。


『やめろ!!!やめてくれ!!!死にたくない!!!やだぁーーーーーー!!!!』


俺は引き金を引いた。


ミゲルの脱出ポッドが爆ぜた。


通信が途切れる。


俺はマレクのポッドのそばへ機体を寄せた。外装は傷だらけだったが、生命反応はある。


「マレク、聞こえるか」


『……聞こえてます。生きてます』


「ならいい」


飛行連隊、皆の状態を確かめる余裕はまだなかった。俺は画面から目を離し、全体通信を開いた。


「全機、帰投可能な機体は帰投しろ。ブリッジで会おう」


飛行隊の通信には、損傷状況と生存確認が次々に入ってくる。ケンドレの声も聞こえた。隊長機を失った敵隊も戦域を離れていった。


勝利のアナウンスは、まだ何度も繰り返されていた。


喜ぶ気分には、なれなかった。

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