↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/49

親子ごっこ

授業が終わると、すぐに『砦攻略戦』について聞きたくなり、ついついAZITOへ。


今日は二十時から『倭国争乱・大合戦視聴会』をやるらしい。


階段の下には、立て看板が設置されていた。


階段を上り、自動ドアのプッシュボタンを押した途端……不穏な雰囲気が流れてきた。


元凶は……カノンさん。


「なんなんですの、あの男! 言いたい放題言ってくれましたわ……」


前のめりのカノンさんと、エビ反りの店長。


「お、おお……いらっしゃい……」


いつもの調子はどこいった? 店長、完全にお手上げの状態だった。


あれだけのテンションでまくし立てられれば、近くにいるだけで嫌でも話が耳に入ってくる。


どうも、あの男――海江田がメイドインヘヴンにお客として入ったらしい。


口にしていたのは、AZITOの店長から受けた冷たい仕打ちや、五十万出してもソフトを売ってくれない邑人への文句。


――やっと原始人から文化が上がった程度で調子に乗るな!


――あいつらは何か知っている。いまだに全国で七例しかないスキル覚醒が、同じ店で二つも重なるなんてあり得ない!


――今度の『砦攻略戦』に来たら、ボッコボコにしてやる!


ほとんど注文もせず、喚くだけ喚いて帰ったらしい。


そして、メイドインヘヴンのレビューに星一つを付けたって……。


カノンさんが怒るのも、もっともだ。


「あの~。『砦攻略戦』って何ですか?」


二人に話しかけて、少しだけ話の方向をずらす。だが、二人の視線がこちらを向くことはなかった。


先に来て遊んでいた直くんが、こちらに向かって手を振った。


「そっちは危ないから、僕が説明するよ!」


「そっちは危ない」と小学生にまで言われ、さすがのカノンさんも少し我に返ったようだ。


「コーラ、いただけるかしら?」


カウンターに座ると、短いスカートから伸びた白い脚を組み、肘をついたまま不機嫌そうに何やら考えている。


普通に座っていると、ホントにキレイなんだけどな……。


残念そうな僕の視線に気付いたのか、キッと睨んだあと、店長と話し始めた。


僕は、直くんの席へと避難した。


『砦攻略戦』とは――百人規模の邑が『砦』を構え、そこを三つの邑が攻める戦いだ。


砦を守るのは十部隊。攻める側は三つの邑から十部隊ずつ、合計三十部隊が攻め上がる。


数だけ聞けば、攻める側が圧倒的だ。だが、砦の壁へたどり着くまでに矢が飛んでくる。壁を登れば投石を浴び、ほとんどの兵が壁際で倒れていく。


実質、守備側の勝率は八割を超えているそうだ。


AZITOは、文化もまだ〈原始〉から〈黎明〉へ上がったばかり。今回の砦攻略戦では、丸裸同然で攻め込むことになる。


「――実質、勝ち目はないね。ゼロだよ、ゼロ」


直くんが冷静な分析を聞かせてくれた。


「邑をちゃんと発展させるのも強さの秘訣か~。AZITOは常に人員不足って、店長が言ってたしな」


僕らが学校や仕事に行っている間も、店長が邑人の仕事を割り当てている。


NPCに〈邑長におまかせ〉と指示を出し、ログアウトしている間もこき使っているようだ。


農業、伐採。そして今、AZITO邑は建築ラッシュに入っている。


絶対的に人手が足りないせいか、最近の店長は疲れ気味に見えた。


「ただいま~。あれ? カノンさん、いらっしゃい」


東野さんが入ってきた。今、カノンさんのことをちゃんと「カノンさん」って言ってたね……。


「おう、おかえり」


いつもの親子の会話が聞こえてくる。


「パパ、今日は二十時からのイベントには参加できないよ。一人で大丈夫?」


「見るだけだ。そんな大したことじゃない」


店長はこぶしを軽く上げ、大丈夫だとアピールする。


そんな二人をカウンターから眺めていたカノンさんが、ふと不思議そうに尋ねた。


「あなた達、いつまで親子ごっこを続けているの?」


……ん? 親子ごっこ?


僕の胸に、大きな杭が突き刺さったような感覚がした。


店長は何ら悪びれる様子もなく、軽く答えた。


「ま、防犯の一つだな」


……じゃあ、どうして東野さんは店長を「パパ」と呼んでいるんだ?


気付けば、僕はカウンターへ足早に近づいていた。


「東野さんと店長って親子じゃなかったの?」


気付いた時には、すでに言葉が口から飛び出していた。


東野さんはキョトンとして、


「がっくん、知らなかったの? 私のお父さん、もういないよ。天国まで行っちゃった……」


明るく言ってはいるものの、どこかいつもと違っていた。


その言葉を聞いて、自分の問いかけの重さに今更ながら気付き、後悔した。


「何か……ごめん」


「そんなの、いいよ……いいよ~!」


両手を前に出し、思いっきり振る東野さん。


そして、バックヤードの奥を指さした。


「私のお父さん、いつもあそこにいるから」


お店のレイアウトを手伝った時に見た、あの額縁。


僕は、その中で照れくさそうに笑う男の人を思い出した。


「店長! 裏に入って、もう一回見せてもらってもいいですか?」


僕の表情が、それほど真剣だったのだろう。


「お、おう」とだけ返事が返ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。