足踏み
店長に「編成会議」とは聞いたものの、どうするんだろう?
そんなことを考えているうちに、五分ほど経った。
けれど、誰も動く様子はない。
(ピロン)
LINEの通知音が鳴った。
見ると、AZITOのグルチャに榊さんから明日の編成が送られてきている。
そのとき、背後から何やら音がして振り返った。
(斥候行ってきます!)
モブさんが、何やら皆に伝えている。
改めてグルチャを確認する。
「明日はメイドインヘヴンの皆さんの動きを見るため、私とメイドインヘヴンの三名、それから、たまきさんかモブさんのどちらかに出ていただこうと考えています」
続いて、また(ピロン)と音が鳴る。
「では、たまきさんに決定ですね。明日は以上の五名で出陣します。マップは半分見えています。残りはモブさん、お願いします」
僕の名前は、ついに出てこなかった。
榊さんの隣では、チナミちゃんがその腕を指でツンツンしている。
操作ミスを引き出しては、からかっているようだ。
明日はどうしよう。
……やること、なくなったな。
店長も東野さんも忙しそうだし、帰るか。
「三百八十円です。……明日はどうする?」
後頭部をさすりながら、少しだけ返事をためらった。
「来るよ……きっと」
たったそれだけの返事なのに、振り絞るように声を出した。
店長や皆に頭を下げて、自動ドアを抜ける。
暗い階段の先には、明るい風景が続いている。
……変化球って、何球に一球投げるんだっけ。
そんなことを考えながら階段を下り、自宅へ向かった。
自宅に帰り着くと、母が晩ご飯の配膳をしようとしていた。
「手伝うよ」
「珍しいわね……何かやましいことでもあるんじゃないの? お小遣いはまだ先よ」
帰ってすぐにゲームをやる気分じゃなかった。
やらない理由は、何でもよかった。
晩ご飯を食べたあと、部屋に入ってすぐ塾の課題を終わらせる。
終わらせた。
けれど、何ひとつ身についた感覚がない。
そして……ゲームの電源を入れた。
今、二十一時を回ったところだ。
メイドの三人と直くん以外は、皆ログインしていた。
――こんばんは
チャットに打ち込んでみる。
すると、
――モブさん、すごいのよ! 相手の斥候を三人も潰してマップ埋めたって。今も伏兵してるって。
――(・ω・)ノ□□楽しい□□
モブさんの活躍が目に入ってきた。
――モブさん、やられたらまた半分からやり直しだから帰ってきてください。
榊さんの指示が飛ぶ。
――(・ω・)ノ□□時間まで見張る!!□□
やる気満々ってところだ。
何だか、羨ましい。
僕は何をやったらいいんだろう?
今までは、誰かが誘ってくれた。
僕には今、皆を誘うきっかけすらない。
――塾の課題を終わらせます。お疲れさまでした。
十分ほどログインしていただろうか。
電源を落とした。
その夜は、ほとんど眠れなかった。
考えていたのは、
合戦に、いつになったら出られるんだろう。
そのことばかり。
この前までは、気づいたらメンバーに入っていた。
今は周りが強すぎて、上手すぎて、僕が入る理由は《応人の盾》に限られる。
僕自身には、どれくらい価値があるんだろう。
考えれば考えるほど、分からなくなっていった。
そして、眠れないまま夜が明けた。
翌日。
眠りが浅かったせいか、何となく体がだるい。
結局、僕は今日、何のためにAZITOへ向かうのかさえ分からなくなっていた。
ただ、向かわなければ、もっと皆との距離が遠くなる。
その感覚が怖くて、足は勝手にAZITOへ向かっていた。
時間は夕方の五時半。
合戦まで、あと三十分。
階段を昇りきると、自動ドア越しに東野さんとメイド三人が楽しそうに談笑しているのが見えた。
その光景が眩しくて、開閉ボタンを押すことができなかった。
談笑していた東野さんが僕に気づいて手を振ってくれなければ、
僕はずっと、店の前で立ち止まっていたかもしれない。




