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エピソード:ある邑長の苦悩

――これは【倭国争乱】が発売されてから、半年ほど経った頃のお話です。


最近、邑人のログインが減ってきた。


発売当初は結構な数の邑人が邑のあちこちで討伐、採集に励んでいたんだが、新しいゲームが出るたびに動いている人数が減っていく。


現在、邑には五十人と少しのプレイヤーが在籍しているが、実際に動いているのは二、三人といったところか……。


「また操作できるNPCが増えたな……」


ログインせずに十日が過ぎると、邑での行動指示を邑長が担当することになる。


一人のプレイヤーが最大で六人まで操作できるので、五十人ちょいの規模でも、邑長一人で担当するNPCは二百人ほどになる。


過疎化は進むが、邑長の私にとっては立派な『箱庭シミュレーター』になっていて、毎日が充実している。


八日おきの合戦も『傭兵』を雇えば五人揃う。


そのために、農業、建築、採集、加工品づくりなどへ人員を割り振り、余った物は『商人』スキルを持った邑人に行商させて、傭兵との交渉に使う品をいくつも用意していた。


最近は私のような邑長が増えていると聞いている。


邑が成長するのは楽しいんだよ……。


邑の文化レベルは、もう少しで青銅器が作れるところまで達していた。


勾玉や呪符を生産する祭場、素材を加工する加工炉、布を織る機織り所……。建設にも人手が要るが、完成後は中で働いてもらう人員も必要になる。


採集をしないと素材が不足する。農業は食料充足率の基礎になるので、人員を多めに配置する。人員の割り振りはいつも頭が痛いが、そこが面白い。


いつの間にか、邑長同士の掲示板もできていて、皆、楽しそうに頭を抱えていた。


「最近、ウチの合戦のエースがログインしないから鍬を持たせて畑に行かせている」


「大手の邑で活躍できない人が流れてきたけど、邑の寂しさにすぐに出て行かれた」


「鉱山のマップを開拓したいが、一部隊じゃ絶対無理!」


「最近は嫁と一緒に開発中」


邑長の掲示板では、楽しそうに悩みを語り合う日々が続いていた。


あれほど売れたゲームも今や中古ショップでワゴンセール。


「一年もつかな……このゲーム」


邑長達は、いつ自分の楽しみがなくなるのかと内心焦っていた。


そんなとき、ゲーム誌に【倭国争乱の今】というタイトルの記事が掲載された。


――過疎になっても楽しいゲーム。


そんなフレーズで、少しずつ世間から注目され始めた……。


新品は一本三千円。それに対して中古は一本五百円で、五本買っても新品一本より安い。中古ショップに寄るだけで、充実した編成で戻れるのだ。


当時は、今みたいにパッケージの裏にスキルランクが表示されておらず、値段もそれ相応というわけではない。


五百円のソフトの中に《アタリ》も混じっていた。


発売当初は二、三人編成の部隊が主だったが、ゲーム誌で紹介された後、ワゴンセールだった商品が店から消えていった。


そして、五人編成が当たり前になるまで、半年とかからなかった。


五人編成の部隊がぶつかる合戦は以前より盛り上がる。


八日に一度、ログインして合戦を楽しむ邑人も増えた。


悲鳴を上げたのは、今まで『箱庭シミュレーター』で遊んでいた邑長達……。


日に日に邑から邑人が減っていく……。


中古を手にしたプレイヤーのもとへ、邑人が移動したからだ。


掲示板では早速、リクルート活動が始まっている。


「ウチの邑は青銅器あります!」


「装備一式、プレゼントします!」


ゲーム掲示板の邑人募集スレは、常に売り手市場になっていた。


私の邑では、二百人ほどいた操作可能なNPCが、今や五十人を切っている。


救いといえば、文化レベルが多少上がっているため、新規プレイヤーに渡す装備もそこそこ調達できることだ。


邑長達の新たな悩みは、今日も続く……。

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