リベンジ戦の始まり
昨夜は遅くまでゲームをしていたから、眠い。親に隠れてゲームをするのは悪い気もするが、そうも言ってはいられなかった。
新しいNPCの性能も見たい。
裏のスキル表には、剣C 槍D 大楯C 混乱 農耕B 商人C と書かれていた。
このゲームには、腕力や知恵といった具体的な数字がまったく書かれていない。
(混乱、二人目だな。面白そうだし使いたいな……商人ができるってことは、賢いのかもしれない)
根拠はないが、スキルランクを参考にして、ご自分で想像してください、という運営の意向らしい。なら、そう思うのも当然だ。
農民と商人が混ざるって……どんな奴だよ。
中古だけあって、レベルが高い。この個体のレベルは七十。
イノシシがぶつかっても、一度は立ち上がる。僕の《ace-joker》では無理だ。
体力があるので、名前を《nanaC》から《iwao》に変えた。岩夫……なんとなく固そうな名前だ。
装備は大楯にしている。まずは倒れないこと。
店長にもらったNPCは、剣B 槍D 弓C 混乱 釣りC 農耕D。剣がBなので《kengou》、剣豪だ。
僕の《ace-joker》には弓を装備させている。危なくなったら真っ先に逃げる……そんな立ち回りだ。
岩夫が大楯でイノシシの突進を受ける。剣豪がチクチク。《ace-joker》は弓でチクチク。
昨夜の狩りを思い出しては、再戦するメイド三人組の影響を受けたかもと考えた。
今は十六時三十分。本番まで一時間と少し。
AZITOの入ったテナントビルに近づくと、階段の入口には数人の男たちがいた。
階段の左側には、合戦時間を待つ人たちが一列に並んでいた。
「やっぱり、メイドを見ていた方が癒されるよ」
「全滅姫は先週、男どもを全滅させちゃったしね……」
「ここで先週、覚醒者が出たって本当かな?」
憶測と欲望を聞きながら、階段を上っていく。隣を話題の人物が通っても、お構いなしに噂は続く。
東野さん、この階段をどうやって上がってくるのだろうか?
彼女の心配をしつつ、AZITOの自動ドアを抜けた。
「こんにちは~。って、あれ? 昨日作ったテーブルが真ん中に?」
昨日のテーブルが店の中央付近に配置され、その周囲を、駐車場で見かけるようなポールとチェーンが囲んでいる。
店長はカウンターに突っ伏していた。
「う、うぉ~。ふぅ……いらっしゃい」
完全に生気をなくした男がいた。いつもは無駄に元気なのに、閉店してからも頑張ったんだろうな……。
「榊とたまきには、もう教えてある。カノン達が来る前に、お前にもマップだけ教えておく」
ゲームの話になると、店長の表情が徐々に引き締まっていく。
「今日は田んぼのステージだ。畔と田んぼの中では、動きに差が出るぞ」
部隊を組んでいても、歩く場所によって、部隊内で明確な速度差が出るらしい。
「だいたい、足を取られる田んぼの中を、わざわざ主戦場に選ぶバカはいねぇよ」
それはそうだ。お互いが少しでも有利な状況に持ち込もうとするなら、田んぼは選ばないと思う。
「だが、ルールは画面の中にある。榊の話を聞くと、今回はやってくれるはずだ」
店長は何やら自信があるらしい。この人はいい加減に見えて、結果だけはついてくるんだよな。
モブさんと直くんは、端の席を巡ってじゃれあっている。榊さんがラインで、僕は片方の端だと伝えていたらしい。
端の席に座り、てこでも動かないモブさんを、直くんがくすぐっては、逆にくすぐり返されていた。
「危ないからやめろよ。昨日、必死で仕上げたんだ……」
生気のない声に戻った店長が注意する。
結局、大人げのないモブさんが端の席を守り、その隣に直くん、手前側の端に僕が座ってゲームを立ち上げた。
画面にはシールが貼られ、スキル発動用のアイコンが隠されていた。
「店長、このシールは?」
店長はニヤリと笑った。
「手札まで観客に見せる必要はねえんだよ。ネームドが二人もいるんだ。向こう側にも貼ってある」
NPCの分を含め、最大で五つ並ぶアイコン。順番は覚えているから、大丈夫……だろう。
「こんにちは」
「ただいま」
榊さんと東野さんが、同時に店へ入ってきた。最近は物騒だからと、東野さんは榊さんの来店時間に合わせたらしい。
……まあ、やきもちを焼いてもしょうがない。ちょっとしょんぼりもする。
僕の隣に東野さん、その隣の中央席に榊さんが座る。榊さんが、ここから指揮を執る。
「あっついね……あ~!! シールが貼ってある! ありがとう、パパ」
店長は親指を立てて、その感謝に応えていた。
榊さんが着席したあと、店長が電話で呼び出した三階のメイド三人と、カノンさんが連れてきた二人が入店した。
おそらく、メイドインヘヴンの常連さんをサポート役にしたのかな。大学生に見える男二人が、両端の席に座る。
カノンさんが中央に座る。トモさんは直くんの正面からウインクし、チナミさんは東野さんに小さく手を振った。
今日の対戦者が揃うと、観戦者たちも続々と店へ入ってくる。
五十人ぐらいかな? 店長は、さっきまでの疲れを微塵も見せず、むしろ生き生きとしだした。
観客のざっと七割は、メイドインヘヴン側に回っている。
こちら側の背後には、《全滅姫》目当ての観客が少しと、せわしなくモニターを観察する数人。
僕の背後に来た観客は、NPCの数で戦力を判断したのか、興味なさそうにモブさん側へ流れていく。
観客が揃ったところで店長が挨拶するかと思われたが、カノンさんが立ち上がって先手を打った。
「皆さん、今日はお集まりいただき、光栄ですわ! この後、お店で戦勝祝いでしてよ」
堂々と、店長の目の前で勝利宣言を始めた。さらにカノンさんはまくしたてる。
「たまきちゃんの生のメイド姿はお見せできませんが、チェキはお店でご覧いただけますわ。観戦後は、ご一緒に楽しみましょうね」
後ろの観客の目が、一斉に東野さんへ集まる。見たい。欲しい。そんな視線が集まり、隣の圧が上がっていくにつれて、僕の圧は急降下した。
カノンさんは、東野さんを見下ろし、目を細めて微笑んでいる。
いつ見ても、この二人はおっかない……。
そうこうしているうちに、開始五分前になった。店長は最終チェックを終え、お客さんに挨拶する。
「本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます」
すっと息を整えて、続ける。
「いいライバルに恵まれて、こうして遊ぶことができています。皆さま、あまり前に出ないように。操作の邪魔だけはなしですよ」
特に、メイドインヘヴン側のお客さんへ目を配る。
「それでは、そろそろ時間です。静かにお待ちください」
カノンさんが仲間たちを見回した。
「打ち合わせ通りよ。いいわね?」
どうやら相手も作戦を立ててきたようだ。
ようやく、と言ったらいいのか。腹に響く重低音の太鼓が鳴り、因縁のライバル同士による対戦が始まった。




