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大人の階段

初めまして。先日、チャッピーとこんなゲームやりたいと話していたらどんどん話膨らんじゃって・・・

だだの一ユーザーがゲームの仕様書書いても、誰も見てもくれないじゃないですか。

だったら物語でも書いたらいいんじゃね?

って感じでノリで書いては細かいところチャッピーに突っ込まれ、何とか序章書き終わりました。

まだ序章というからには、ここからゲームの本髄を見せていくつもりです。

西野君共々、よろしくお願いいたします。

序章


 暑い。


 異常に暑い。


 まだ五月にもなっていないよね?


 今にも塗装が剥がれそうなテナントビルの前で、僕は一人、壁を背に立っていた。


 話は一か月前、入学式の日まで遡る。


「西野君……だったっけ? 今日からよろしくね」


 隣の席から微笑みかけてくれた女の子。


 東野たまきさん。


 目はくりっとしていて、笑うと目尻がちょっとだけ下がる。


 艶のある黒髪は肩口まで伸び、毛先に少し癖がある。


 いつも身なり正しく、姿勢の良い女の子。


 そんな子が、ほんの一瞬だけ僕に向かって微笑んでくれた。


 僕の高校生活、最初にして最大のメモリアルである。


 その東野さんに、あらぬ噂が立った。


 メイド喫茶でアルバイトをしているらしい。


 そんなはずはない。


 あの東野さんが、メイド姿で「おかえりなさいませ、ご主人様」とか言うのか?


 いやいやいや。ないでしょ。


 ところが噂には、具体的な店名までついていた。


『メイドインヘヴン』


 天国にメイド? メイドがいるから天国?


 意味を考えるな。


 東野さんのメイド姿。


 アリ!


 じゃなくて、どうするんだ、僕は。


 結局、学校と店の間にある自宅まで全力で帰り、私服に着替えた。


 念のため親父のサングラスを拝借。


 机にしまっていた一万円を軍資金として確保。


 そして現在、五階建ての古びたテナントビル前でストー……コホン!


 事実確認をしている。


 ほぼ一直線に来た。東野さんが先に入っていることはないだろう。


 ここで客として待ち構えているのと、彼女が店に入ったあとで“偶然”入店するのとでは、後者の方が気まずさで勝る。


 だから待つことにした。


 目的の『メイドインヘヴン』は三階。


 二階には『AZITO ゲーム&喫茶』。


 一階には『高価買取』とある。質屋だろうか。


 地下へ下りる階段の先には古い木の扉。窓に『焼き鳥』と書かれているが、その上から大きく『テナント募集中』の紙が貼られている。電気もつかず、ひっそりしていた。


 建物の左側には、上階まで一直線に伸びる外階段。


 途中にAZITOの看板はあるが、その先の天国が今日の目的地だ。


 こんなところで働くなんて……不遇だな。


 彼女への好感度が、ちょっと下がった。


 本当は日陰の階段で待ちたい。


 だが東野さんと鉢合わせるわけにはいかないので、サングラスをかけたまま、入口横の日向に立つ。


 立っているだけだ。


 そうこうしているうちに、三階から「おかえりなさいませ、ご主人様」が三回。「いってらっしゃいませ、ご主人様」が二回。


 いい大人が二人、だらしない顔で出てきた。


 僕も、もうすぐあんな顔になるのかな。


 期待と期待が――いや、不安が膨らむ。


 下がった好感度が反転しているのが分かる。


 もうすぐ十七時。


 ほかに出入りしたのは、ランドセルを背負った小学生が、ぴょこぴょこと階段を上っていったくらいだ。


 その時だった。


 東野さんが制服姿で現れ、そのまま階段を駆け上がっていく。


 階段の下に回って確認しようとした瞬間、彼女は腰から下を学生鞄で隠した。


 危うく犯罪者になるところだった。


 メモリアルが一枚増える代わりに、人生へ消えない傷がつくところだった。


 僕はすぐに階段から目をそらし、また壁を背に日向へ戻った。


「ただいま!」


「おう、おかえり」


「たまき、フロントにいてくれ」


 そんな会話が聞こえた。


 え?


 今、二階から聞こえたよね?


 いや、それよりも「おかえり」の声は男だ。


 大人の男。


 しかも下の名前を呼び捨てにしやがった。


 再び階段を見上げる。


 背後から整髪料の香りがした気がして振り返ったが、誰もいない。


 二階から、東野さんの元気な声が響く。


「いらっしゃいませ!」


 もう一度見上げる。やはり誰もいない。


 状況を飲み込めずに階段を見つめていると――


「失礼」


 ストライプのスーツ。


 このビルには場違いなほど整った姿勢と身なり。


 どこかの御曹司かと思える男に、僕は道を譲った。


 彼は高そうな腕時計へ目を落とす。


「十七時九分……四十秒前ですね」


 そのまま階段を上がり、AZITOへ吸い込まれていった。


 一度、整理しよう。


 僕は、メイド喫茶で働く東野さんの接客を受けに――いや、事実確認に来た。


 東野さんが入ったのは、おそらく二階の『ゲーム&喫茶 AZITO』。


 そこで大人の男に、下の名前で呼び捨てにされている。


 そして東野さんのメイド姿は消えた。


 安堵と落胆が入り混じる。


 安堵が白で、落胆が黒なら、今の僕は真っ黒だ。


「お客様~、ご来店ですか? キャッ!」


 三階から顔を出したメイドさんが、慌てて短いスカートの裾を押さえた。


 僕の方が何倍も慌てた。


 人差し指と中指の間を開けた手で顔を隠し、もう片方の手をぶんぶん振って全力で否定する。


「な~んだ。ざ~んねん」


 メイドさんは三階の扉へ戻っていった。


 その時、舌打ちが聞こえたような気がする。


 奥からは、キャッキャと騒ぐ声。


「この手はもう使えないなぁ」


「まだ子供には分からないのよ」


 散々な言われようだった。


 少し腹が立った。


 二階を確認して、さっさと帰ろう。


 階段を二、三段上がったところで、声が降ってきた。


「ようやく大人の階段を上がる気になったか」


 さっきの呼び捨て野郎だ。


「わわわ……ぼ、僕は……」


 視線を逃がした先、AZITOの看板の下に養生テープが貼られていた。


『ゲームソフト販売・買取はじめました』


「僕はゲームを買いに来ただけですから!」


 男に向かって階段を上る。


 僕だって男だ。


 覚悟を決める。


「パパ、やっぱりこの子、クラスメイトだよ」


 全校生徒の前で、用意したスピーチを全部忘れたみたいに、頭の中が真っ白になった。


 パパ。


 パパ。


 パパ。


 東野さんの声が、頭の中で何度も響く。


 たった二文字なのに、東野さんの声で再生されると妙な破壊力があった。


「……おーい。大丈夫か、こいつ」


 遠くから、さっきの呼び捨て野郎――いや、東野さんのお父さんの声が聞こえる。


「西野君、ゲームを買いに来たんじゃなかったの?」


 東野さんの声で、ようやく我に返った。


 まずは失礼のないよう、ずらしたサングラスを尻のポケットへしまう。


 そして慌てて背筋を伸ばした。


「お、お父様!」


 口から出た言葉で、自分の頭がまだ正常ではないことを理解した。


「俺はお前の親父になった覚えはねぇよ」


 店主は呆れた顔をしたあと、店の奥へ視線を向けた。


「ちょっと見て回る。あとはよろしく」


「はーい」


 学校では見たことのない笑顔で、東野さんが返事をする。


 それから僕を見た。


「いらっしゃい」


 その一言に誘導されるように、僕はAZITOへ足を踏み入れた。


 店内では、十人ほどの客が思い思いにゲームをしていた。


 右手にはカウンター。


 喫茶店というより、少しだけバーのようにも見える。


 さっきの御曹司が、カウンター席からすっと右手を挙げた。


「はいはい、オロヤクね」


 東野さんが慣れた様子でカウンターへ入る。


 映画で見たことがある。シェイカー、だったと思う。


 氷を入れる東野さんの姿は、少し大人っぽく見えた。


 次に、卵黄。


 卵黄?


 さらにヤクルトを二本。


 シャカシャカとシェイカーを振り、氷の入ったジョッキへ注ぎ、最後にオロナミンCを加える。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 御曹司は姿勢正しく受け取ると、何の迷いもなく口をつけた。


 うえええ。


 飲むのか、あれ。


 一方、店主は別の客と話していた。


 大きなモンスターをノーダメージで倒したらしい。客は興奮して画面を指し、店主も一緒に笑っている。


「今の回避、見たか?」


「見た見た。調子に乗って次で死ぬやつだな」


「言い方!」


 二人とも楽しそうだった。


 僕には、何がそんなに楽しいのか分からない。


 別の席では、客が十連ガチャのボタンを店主に押してくれと頼んでいた。


「頼む、店長。五連敗中なんだ」


「たまきに押させりゃいいだろ」


「たまきちゃんは全滅姫だからダメ」


「最近は全滅してませ~ん。」


 東野さんがカウンターから少し誇らしげに否定する。


 店主は笑いながらボタンを押した。


 数秒後。


 客と店主が、一緒になって真っ白になった。


「三万……」


「出ねぇ時は出ねぇな……」


 お金がもったいない。


 三万円が飛んだとか、僕には信じられなかった。


 ゲームの中で強い自分を見て喜ぶ人。


 お金を使い、何も出なくて落ち込む人。


 それを一緒になって笑ったり、嘆いたりする店主。


 何が面白いんだろう。


「どうしたの? ゲームの棚はあっちだよ」


 東野さんが不思議そうに首をかしげた。


 そうだった。


 僕は、ゲームを買いに来たと言ってしまったばかりだ。


 適当に棚を見て、さっさと帰ろう。


「どんなゲームが欲しいの?」


 困った。


 僕はゲームをしない。


 親からは、ゲームなんて時間の無駄だと教えられてきたし、僕自身もそう思っている。


 スマホに入っているのも、暇つぶしのパズルが一つだけだ。


 何を言えばいいのか分からず、僕は聞き返した。


「東野さんは、どんなゲームをするの?」


「私はね、これ」


 東野さんは棚の中央へ向かった。


 一番、手に取りやすい高さ。


 そこに並んでいた一本を迷わず抜き取る。


『倭国争乱』


 卑弥呼のような衣装をまとった女性が、小さな人間たちを両手ですくい、優しく見守っている表紙だった。


 棚には同じ絵柄のソフトが何本も並び、何本かはわざわざ裏向きに置かれている。


 東野さんが手にした一本には『オススメ!!』のシール。


 なぜ同じゲームを何本も並べているのか。なぜ裏向きなのか。


 意味が分からない。


 まあ、どうでもいい。


「苦しかった時期もあるけど、噛めば噛むほどスルメ味だよ」


 東野さんはパッケージを胸の前に抱えて笑った。


 ゲームといえば、美少女や巨大なボス。


 僕にとっては、その程度のイメージしかない。


 ガラスケースに並ぶ商品を見ても、価値はさっぱり分からなかった。


「たまき、そろそろ時間だ。準備はできてるか?」


 遠くから店主の声がした。


「はーい!」


 東野さんの表情が変わる。


 少しだけ緊張しているように見えた。


「たまきの友達か。カウンターに座って観戦すればいい。今日はお友達記念で、料金はサービスしとく」


 店主が席を勧める。


 カウンターの奥に料金表があった。


『一時間三百八十円 三時間九百八十円』


 メイド喫茶でもないのに、有料かよ。


 つまり、この客たちは家でもできるゲームを、わざわざお金を払ってここで遊んでいるのか。


 この店は異常だ。


 帰りたい。


 だが、帰れる空気でもない。


 僕はカウンター前の、座ると足が床へ届かない高い椅子によじ登った。


 尻のポケットから、ボキッと親父の悲鳴が聞こえたような気がした。


 考えないことにする。


 カウンターには『イベント中につき、しばらくお待ちください』の札。


 店員、堂々と遊ぶ気じゃないか。


 奥の大型モニターに地図が映し出された。


 店主がその前に立ち、指で画面を叩く。


「さて、今回の合戦だが」

お疲れさまでした。

私含め、登場人物のほとんどが「バカ」なんです(笑)

一生懸命やってるから面白く映ってるけど、本人たちはマジです。

記憶に残る一生懸命さは青春に欠かせないものです。

あと、舞台の「AZITO」私が作ってすぐに法律の壁の前に閉店した店舗です。

どうしてゲーム喫茶やりたいと考えたのかは後のお楽しみです。


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