第一章 第二話 カード
会議室へ入った瞬間。
最初に思ったのは。
人が少ない。
だった。
長机。
椅子は六脚。
そのうち、使われているのは三つだけ。
一人。
知っている顔があった。
「…………」
思わず足が止まる。
向こうも私を見る。
驚いた様子はない。
当然だ。
私が来ることを知っていたのだろう。
知らなかったのは。
私だけだ。
「久しぶりだな」
低い声。
昔から変わらない。
子供の頃。
親戚の集まりで会った時も。
大学へ進学すると報告した時も。
外務省へ入ると伝えた時も。
この人は大体こんな声で話す。
「……叔父さん?」
隣にいた職員が、わずかにこちらを見る。
言ってから気づいた。
ここは親戚の集まりではない。
男も同じことを思ったらしい。
「ここでは鍵谷と呼べ」
鍵谷信隆。
母の兄。
そして。
内閣官房の人間。
役職について詳しく聞いたことはない。
というより。
親戚同士で会った時に、仕事の話をするような人ではなかった。
知っているのは。
少なくとも。
私よりかなり偉い。
その程度だった。
「……分かりました」
席を見る。
鍵谷信隆の向かい。
もう一人。
こちらも年齢は上。
灰色のスーツ。
机の前には薄い資料。
その隣。
「…………」
一人だけ。
明らかに雰囲気の違う男が座っていた。
年齢は。
私とそれほど離れていないだろう。
着ているものが悪いわけではない。
姿勢が悪いわけでもない。
ただ。
なんとなく。
ここにいる人間には見えない。
視線が合う。
向こうが小さく頭を下げた。
私も返す。
誰?
案内してきた職員が扉を閉めた。
「水城。座れ」
鍵谷信隆が席を示す。
私は座った。
その瞬間。
ようやく実感する。
仕事だ。
親戚として呼ばれたわけではない。
当然。
そんなことは最初から分かっている。
それでも。
まさか。
日本に到着して最初に会う相手が叔父だとは思わなかった。
「まず」
鍵谷信隆が口を開く。
「急な帰国になったことは謝る」
「本当に急でした」
「聞いている」
「進行中の案件を全部置いてきました」
「それも聞いている」
「来週には会談もありました」
「承知している」
「では」
私は聞いた。
「それでも私を呼び戻した理由を、教えてください」
鍵谷信隆は答えなかった。
代わりに。
隣の男を見る。
「境」
呼ばれた男がこちらを見る。
「境宗一郎です」
差し出された名刺を受け取る。
会社名。
役職。
技術顧問。
会社名には当然、覚えがあった。
国内最大手の半導体メーカー。
日本国内だけでなく、海外にも複数の生産拠点を持つ企業。
そして。
境宗一郎。
その名前にも。
どこか覚えがある。
昔。
中央省庁で技術政策に関わっていた人物。
「水城京子です」
「存じています」
名刺を置く。
「それで?」
私は鍵谷信隆を見る。
「国内最大手の半導体メーカーの技術顧問と内閣官房。それに私」
もう一度。
隣の男を見る。
この人だけ。
まだ分からない。
「どういう組み合わせなんですか」
鍵谷信隆が机の上へ資料を置いた。
表紙には。
見たことのない言葉。
特殊構造形成品。
「三か月ほど前」
境宗一郎が説明を始める。
「弊社で、ある材料の評価を行いました」
「材料?」
「合成Siです」
聞き覚えはあった。
国内で進められている材料開発。




