第8話 誰かの失敗
異世界生活八日目。
「……自炊したい」
朝食を食べながら、俺はそんなことを考えていた。
別に料理が得意なわけではない。
前の世界でも簡単な料理くらいしか作らなかった。
だが、この世界に来てから、美味しいものを食べる機会が増えた。
そうなると自分でも作ってみたくなる。
「まずは道具だな」
俺は朝食を終えると、町の道具屋へ向かった。
店内には、様々な道具が並んでいる。
鍋。
フライパン。
皿。
木製のスプーン。
そして大量の包丁。
「……種類多すぎないか?」
普通の鉄製包丁。
少し高そうな包丁。
細身の包丁。
妙に大きな包丁。
さらに、魔法がかかっているらしい包丁まである。
「これは……料理用なのか?」
俺は一本ずつ《レビュー》を使っていく。
【鉄製包丁】
【評価:★★★★☆】
『切れ味がいい』
『丈夫』
『少し重い』
【銀刃包丁】
【評価:★★★★★】
『切れ味が最高』
『軽い』
『高い』
「高いのか……」
値札を見る。
「……高いな」
俺の財布では厳しい。
そのとき。
棚の端に、一本の古びた包丁が置かれているのを見つけた。
【名無しの包丁】
【評価:★★☆☆☆】
『重い』
『扱いにくい』
『初心者にはおすすめしない』
『でも長持ちする』
「……」
評価は低い。
普通なら選ばない。
だが、俺は《レビュー比較》を使ってみた。
【鉄製包丁】
切れ味:★★★★☆
耐久:★★★☆☆
重さ:★☆☆☆☆
【名無しの包丁】
切れ味:★★★★★
耐久:★★★★★
重さ:★★★★☆
「……こっちのほうが性能いいじゃん」
問題は重さ。
俺は店主に声をかけた。
「これ、持ってみてもいいですか?」
「構わんよ」
包丁を持つ。
「……重い」
確かに重い。
だが、持てないほどではない。
「これください」
店主が少し驚く。
「そっちを買うのか?」
「はい」
「珍しいな」
「そんなにですか?」
「ああ」
店主は包丁を眺める。
「それ、昔ここで働いていた鍛冶職人が作ったものなんだ」
「鍛冶職人?」
「料理人向けに作ったらしいんだが、重すぎるって評判が悪くてな」
「なるほど」
俺は包丁を見る。
「でも、切れ味はいいんですよね?」
「そこだけは間違いない」
俺は少し笑った。
「じゃあ、俺には十分です」
包丁を買って宿へ戻る。
さっそく野菜を切ってみる。
スッ。
「……おお」
驚くほど綺麗に切れた。
肉も切る。
魚も切る。
どれも気持ちよく切れる。
「これ、当たりじゃん」
俺は思わず笑った。
レビューでは★2。
でも、俺には十分すぎる。
そのとき、ふと思った。
「……この包丁を作った人って、今どこにいるんだろう」
《レビュー》を見る。
【名無しの包丁】
『うむ……やはり重くなってしまうか…』
『切れ味は申し分ないのだがな……』
俺は目を丸くした。
「……本人の感想まで出るのか」
そして、その下には。
『まあ、失敗作にしては…上出来か!』
『ガハハハハハハ!!!』
俺は包丁を見つめる。
「……なんか、面白いな」
誰かが失敗だと思っているものが、別の誰かにとっては宝物になる。
レビューとは、そういうものなのかもしれない。
俺はその日の夜、買った包丁で簡単な料理を作った。
味は――。
「……まあ、普通」
でも、自分で作った飯はなんとなく美味く感じた。




