第9話 一皿目
異世界生活九日目。
俺は朝から台所に立っていた。
「よし」
昨日買った包丁を握る。
市場で買った食材を並べる。
赤芋。
緑豆。
肉。
黒蜜果。
「今日はちゃんと作るぞ」
まずは赤芋を切る。
包丁がスッと入る。
「やっぱり切りやすい」
次に肉。
これも綺麗に切れた。
鍋に材料を入れる。
火をつける。
煮込む。
味を確認する。
「……ちょっと薄いか」
調味料を少し追加する。
もう一度味を見る。
「うん」
今度はいい。
しばらく煮込んで――。
「完成」
見た目は、それなり。
俺は皿に盛る。
そして一口。
「……」
味は。
「……普通だな」
不味くはない。
でも、特別美味しいわけでもない。
自分で作った料理としては、こんなものだろう。
俺は苦笑した。
「★3くらいかな」
すると。
【自分の料理】
【評価:★★★☆☆】
『味は普通』
『でも自分で作ったから美味しく感じる』
「……なんだそれ」
思わず笑ってしまう。
そのとき、食堂から女将さんがやってきた。
「ユウマ君、何か作ってるの?」
「はい」
「ちょっと食べてもいい?」
「どうぞ」
女将さんが料理を一口食べる。
「……あら」
「どうです?」
「美味しいじゃない」
「本当ですか?」
「ええ」
《レビュー》を使う。
【現在の感想】
『思ったよりちゃんとしてる』
『この子、料理できるのね』
『ちょっと嬉しい』
俺は少し照れた。
「ありがとうございます」
「また作ってちょうだい」
「いいんですか?」
「もちろん」
その日の昼。
俺は宿の厨房を少し借りて、料理を作った。
昨日より少しだけ上手くできた。
そして、それを宿泊客にも食べてもらった。
「美味しい」
「昨日より味がまとまってるな」
「野菜が柔らかくていいね」
俺は《レビュー》を使った。
【本日の料理】
【評価:★★★★☆】
『美味しい』
『少し薄味』
『野菜が柔らかい』
『朝に食べたい』
「……★4」
昨日より上がっている。
俺は少し嬉しくなった。
ただの料理。
ただのスープ。
それでも。
自分が作ったものを誰かが美味しいと言ってくれる。
それが、思っていた以上に嬉しかった。
俺は料理を片付けながら考える。
《レビュー》は、便利な能力だ。
でも、レビューを見るだけでは何も変わらない。
実際に食べる。
実際に使う。
実際に人と話す。
そうして初めて分かることもある。
「……結局、自分で確かめるのが一番なんだな」
そう思った。
夜。
自分の部屋に戻る。
ベッドに座る。
今日も悪くない一日だった。
魔王を倒したわけでもない。
大きな功績を上げたわけでもない。
でも。
美味しい飯を作った。
人に喜んでもらった。
それだけで十分だった。




