第7話 星三つの我が家
異世界生活七日目。
朝、俺は『銀の羽根亭』の食堂で朝食を食べていた。
いつもの焼きたてパンを一口かじる。
「……うん、やっぱり美味い」
この世界に来てから一週間。
最初は何も分からなかった。
自分がどこにいるのか。
どうやって生きていけばいいのか。
何を食べればいいのか。
何をすればいいのか。
そんなことすら分からなかった。
でも、今は少し違う。
毎朝ここで飯を食べる。
町を歩く。
気になる店があれば《レビュー》を見る。
美味しそうなら実際に食べてみる。
そんな生活が、少しずつ当たり前になっていた。
「ユウマ君」
朝食を食べていると、女将さんが声をかけてきた。
「はい?」
「そろそろ部屋、変えてみない?」
「部屋を?」
「ええ」
女将さんは俺の向かいに座る。
「今の部屋、少し狭いでしょう?」
「まあ、荷物が増えましたからね」
異世界に来て一週間。
最初は何も持っていなかった俺も、少しずつ物が増えている。
服。
食材。
黒蜜果。
昨日買った細かい道具。
そして、町を歩いているうちに増えた小物。
「二階の奥に、もう少し広い部屋があるのよ」
「いくらですか?」
「今の部屋より銀貨一枚だけ高いけど……」
「それなら、見てみたいです」
女将さんに案内され、二階の廊下を歩く。
突き当たりにある部屋の扉が開かれた。
「ここよ」
「……おお」
確かに広い。
ベッドも少し大きい。
机もある。
何より窓が大きかった。
窓を開ける。
町の景色が一望できる。
「いいですね、ここ」
「でしょう?」
俺は《レビュー》を使ってみる。
【銀の羽根亭・二階奥の部屋】
【評価:★★★☆☆】
『広い』
『静か』
『窓からの景色がいい』
『少し寒い』
『夜に風の音がする』
「……★3か」
「どうしたの?」
「あ、いや」
俺はレビューを眺める。
確かに、悪いところもある。
少し寒い。
夜は風の音がする。
総合評価が★3なのも分かる。
でも。
俺はもう一度、窓の外を見る。
町の人たちが歩いている。
遠くには市場も見える。
夕方になれば、きっと綺麗だろう。
「……こっちの部屋にします」
「本当に?」
「はい」
「でも、今の部屋より評価は低いわよ?」
「それでもいいです」
女将さんは少し驚いた顔をした。
「変わった子ねぇ」
俺は笑った。
「自分が気に入ったなら、それでいいかなって」
その日の夜。
俺は新しい部屋のベッドに寝転がっていた。
窓の外から風の音が聞こえる。
「……確かに、ちょっと寒いな」
毛布をかぶる。
でも、不思議と嫌ではなかった。
静かな部屋。
遠くから聞こえる町の音。
窓から見える星空。
「……悪くない」
俺は《レビュー》を使った。
【現在の感想】
『気に入ってくれたみたいね』
女将さんの感想だった。
さらに、その下にもう一つ表示された。
『この部屋、昔は息子が使ってたんだけどね』
俺は少し驚いた。
続きが表示される。
『今は遠くに行っちゃったけど』
それ以上は表示されなかった。
俺はしばらく画面を見つめた。
聞けばいいのかもしれない。
でも、聞かなかった。
レビューで見えたからといって、何でも知ろうとする必要はない。
それは、その人の心の中にあるものだからだ。
俺は窓を閉める。
「……おやすみ」
誰に言うでもなく呟いて、布団に潜り込む。
異世界生活七日目。
俺は初めて、この世界に自分の居場所ができたような気がした。




