第6話 忘れられた温泉
異世界生活六日目。
「温泉、行ってみる?」
朝食の席で女将さんにそう言われた。
「温泉?」
「そう。町の西側にあるのよ」
俺は少し興味を持った。
「この辺にも温泉があるんですか?」
「ええ。昔は結構人気だったんだけどねぇ」
「昔は?」
女将さんは少し困ったように笑った。
「今はあまり人が行かないのよ」
その言葉を聞いて、俺はすぐに《レビュー》を使った。
【西の森温泉】
【評価:★★☆☆☆】
『遠い』
『道が悪い』
『湯が熱すぎる』
『設備が古い』
『でも景色は綺麗』
「……」
確かに評価は低い。
でも。
『景色は綺麗』
この一文が妙に気になった。
「行ってみます」
「本当に?」
「はい。温泉好きなので」
もちろん、前の世界でも温泉は好きだった。
異世界の温泉なんて、興味が湧かないわけがない。
町を出て、森へ向かう。
最初のうちは普通だった。
だが、森の中へ入るにつれて道が悪くなる。
「……これは確かに」
石。
坂。
木の根。
「遠いっていうレビューも正しいな」
一時間ほど歩いた頃。
ようやく小さな建物が見えた。
「着いた……」
受付には、おばあさんが一人座っていた。
「いらっしゃい」
「温泉、入れますか?」
「もちろんだよ」
料金を払って浴場へ向かう。
服を脱ぎ、湯に入る。
「……熱っ!」
最初は本当に熱かった。
レビュー通り。
「これは確かに熱い……」
だが、しばらくすると体が慣れてくる。
「……あぁ」
肩まで浸かる。
気持ちいい。
そして、顔を上げる。
露天風呂の向こうには、森が広がっていた。
夕方の光が木々の隙間から差し込んでいる。
「……綺麗だ」
思わず呟いた。
そこで《レビュー》を使う。
【西の森温泉】
【評価:★★☆☆☆】
『ここまで来るのが大変』
『設備は古い』
『お湯が熱い』
『でも景色は最高』
さらに。
【現在の感想】
『昔はもっと人が来たんだけどねぇ』
『この景色を知っている人が少なくなった』
『この温泉、なくしたくないんだけど』
俺は黙った。
温泉そのものは悪くない。
むしろ、かなり好きだ。
ただ、遠い。
設備も古い。
だから人が来なくなった。
でも。
この場所を残したいと思っている人がいる。
俺は風呂から出ると、受付のおばあさんに声をかけた。
「最高でした」
「そうかい?」
「はい。景色も綺麗でした」
おばあさんは嬉しそうに笑った。
「そう言ってくれる人がいると、続けてきてよかったと思えるよ」
《レビュー》を見る。
【現在の感想】
『また来てくれるといいねぇ』
俺は答えた。
「また来ます」
「……本当かい?」
「はい」
「ありがとう」
帰り道。
森の中を歩きながら、俺は考えていた。
レビューは便利だ。
だけど、それ以上に面白い。
星の数だけでは分からないものがある。
そこにいる人の気持ち。
店を続ける理由。
誰かが大切にしている場所。
「……レビューって、人の生活まで見えるんだな」
そう呟いた。
俺はまだ、この世界に来て六日しか経っていない。
でも、
少しずつこの世界のことを好きになっている自分に気づいていた。




