第5話 評価の裏側
異世界生活五日目。
俺は朝から市場へ向かっていた。
理由は簡単。
自分で料理をしてみたくなったからだ。
昨日まで、俺はずっと宿で食事をしていた。
それはそれで楽だった。
『銀の羽根亭』の料理は美味しい。
朝食のパンはお気に入りだし、スープも優しい味がする。
だが、毎日誰かに作ってもらうというのも少し落ち着かない。
それに――。
「異世界の食材、もっと見てみたいんだよな」
市場に入った瞬間、いろいろな匂いが混ざって鼻を刺激した。
焼いた肉。
香辛料。
パン。
果物。
魚。
前の世界では見たこともない食材が、そこら中に並んでいる。
「すげえ……」
赤や青、紫色の野菜。
巨大な魚。
見た目は普通なのに、妙に甘い果物。
俺は一つずつ《レビュー》を使って確認していく。
【赤芋】
【評価:★★★★☆】
『焼くと甘い』
『煮ても美味しい』
『少し水っぽい』
「なるほど」
【緑豆】
【評価:★★★☆☆】
『スープにすると美味しい』
『そのままだと苦い』
「これはスープ向きか」
そんな感じで市場を歩いていると、一つの屋台が目に入った。
そこには黒っぽい丸い果物が並んでいた。
「……何だこれ」
札には、
『黒蜜果 銅貨三枚』
と書かれている。
俺は《レビュー》を使った。
【黒蜜果】
【評価:★★☆☆☆】
『甘い』
『皮が硬い』
『食べにくい』
『子供には不人気』
★2。
かなり低い。
俺は少し迷った。
「……でも」
さらにレビューを見てみる。
『中身はすごく甘い』
『皮を剥くのが面倒』
『甘いものが好きならおすすめ』
「……これ、俺には合いそうだな」
俺は一つ買ってみた。
「どうやって食べるんですか?」
店主に聞く。
「皮を切って、中身を食うんだよ」
「分かりました」
言われた通りに皮を切る。
中から黄色い果肉が出てきた。
一口食べる。
「……甘っ!」
想像以上だった。
蜂蜜と果物を混ぜたような濃い甘さ。
「これ、美味しいじゃん」
店主が笑う。
「そうだろ?」
道端の人に聞いてみる。
「失礼ですけどこれって、売れてますか?」
「知らんよ。人の好みだろ」
「あっ…スミマセン」
その言葉に、俺は少し考えた。
そうだ。
レビューの星は、絶対的な評価じゃない。
その人がどう感じたか。
それだけだ。
甘いものが苦手な人には★2。
皮を剥くのが面倒な人にも★2。
でも俺には――。
「★5だな」
俺はもう一つ買った。
さらに市場を歩いていると、今度は焼き串の屋台が見えた。
【焼き串屋】
【評価:★★☆☆☆】
『肉が硬い』
『値段が高い』
『店員が怖い』
「……これはやめとくか」
そう思った。
だが、さらに下を見る。
『硬いけど味は好き』
『噛めば噛むほど美味しい』
『酒によく合う』
「……」
俺は屋台を見る。
店員のおじさんは、確かに怖そうだった。
腕を組んで、眉間に皺を寄せている。
俺は恐る恐る近づいた。
「一本ください」
「おう」
焼き串を受け取る。
一口。
「……硬っ」
レビュー通りだ。
だが、噛んでいると肉の味がどんどん出てくる。
「……うまい」
気づけば、一本全部食べていた。
「これ、好きだな」
俺が呟くと、おじさんが少しだけこちらを見る。
【現在の感想】
『……珍しい客だな』
『硬いのに美味いって言う奴、久しぶりだ』
俺は思わず笑った。
「人によって評価が違うって、本当なんだな」
おじさんは意味が分からないという顔をしていた。
「何言ってんだ?」
「いや、こっちの話です」
俺は市場を後にした。
手には黒蜜果。
口には焼き串の味。
そして頭の中には、一つの考え。
――レビューは答えじゃない。
選択肢を教えてくれるだけだ。
「だったら、もっといろんな店を見てみたいな」
そう思った俺は、明日の予定を考えながら宿へ戻った。




