第4話 星を比べて
異世界生活四日目。
朝食を食べ終えた俺は、『銀の羽根亭』の自分の部屋でベッドに寝転がっていた。
「……暇だ」
異世界に転生してから、まだ四日しか経っていない。
だから当然、知り合いもほとんどいない。
冒険者登録をしたわけでもない。
仕事をしているわけでもない。
魔物を倒す予定もない。
昨日までは、それでも町を歩いているだけで楽しかった。
見たことのない建物。
知らない食材。
聞いたことのない言葉。
何もかもが新鮮だったからだ。
だが、今日は少し落ち着いてしまった。
「……そういえば」
俺は昨日、スキルのレベルが上がったことを思い出した。
【スキル《レビュー》Lv.1】
【新機能:レビュー比較】
「これ、まだ使ってなかったな」
《レビュー比較》。
説明によれば、複数の対象を指定することで、それぞれの評価を項目ごとに比較できるらしい。
今までの《レビュー》は、基本的に一つのものを見るだけだった。
例えば宿なら、
【銀の羽根亭】
【評価:★★★★☆】
『部屋が綺麗』
『店主が優しい』
『朝食のパンが美味しい』
という具合だ。
これはこれで便利だった。
だが、二つの宿を比べたい場合は、自分でレビューを見比べる必要がある。
それが《レビュー比較》なら、一瞬で分かる。
「せっかくだし、試してみるか」
俺は部屋を出て、町へ向かった。
まずは適当に二軒のパン屋を探す。
異世界に来てから、俺はパンを食べる機会が多い。
だから比較するなら、パン屋がちょうどいいだろう。
少し歩くと、以前見つけた『麦穂パン店』が見えてきた。
俺は店の前で《レビュー》を使う。
【麦穂パン店】
【評価:★★★★☆】
『焼きたては美味しい』
『値段が安い』
『パンが少し硬い』
『朝は混んでいる』
「うん。悪くない」
次に、少し先にある別の店。
【金の小麦亭】
【評価:★★★☆☆】
『パンが柔らかい』
『店内が綺麗』
『少し高い』
『昼過ぎには売り切れる』
「こっちは★3か」
普通なら、俺は『麦穂パン店』を選ぶだろう。
だが、今日は違う。
「《レビュー比較》」
意識すると、二つの店を囲むように光る枠が現れた。
【比較対象を選択しました】
【麦穂パン店】
味:★★★★☆
価格:★★★★★
量:★★★★☆
柔らかさ:★★☆☆☆
【金の小麦亭】
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
量:★★★☆☆
柔らかさ:★★★★★
「おお……」
思わず声が出る。
「これは便利だな」
総合評価だけなら、『麦穂パン店』のほうが上だ。
だが、パンそのものの味は同じくらい。
違うのは、食感や値段。
俺は柔らかいパンも好きだ。
「じゃあ、今日はこっちだな」
『金の小麦亭』に入る。
「いらっしゃいませ!」
店内は明るく、木のテーブルが綺麗に並んでいる。
「おすすめはありますか?」
「焼きたてのミルクパンですね」
「じゃあ、それを一つ」
「ありがとうございます」
しばらくして、焼きたてのパンが出てきた。
まだ温かい。
俺は一口かじる。
「……柔らかい」
ふわっとした食感。
ほんのり甘い。
「美味いな、これ」
思わずもう一口食べる。
確かに、総合評価は★3だった。
でも俺にはかなり好みだった。
食べ終わった頃、店の奥から店員の女性がこちらを見ていることに気づいた。
俺は何となく《レビュー》を使った。
【現在の感想】
『気に入ってくれたかな』
『最近、硬いパンのほうが好きなお客さんが多いから心配』
俺は少し驚いた。
この店のパンを作っている人は、自分のパンが客にどう思われているか気にしているらしい。
俺は席を立つ。
「すみません」
「はい?」
「このパン、美味しかったです」
女性は少し驚いた顔をした。
「本当ですか?」
「はい。柔らかいパンが好きなので、かなり好みでした」
「……ありがとうございます!」
その笑顔を見て、俺も少し嬉しくなった。
レビューを見ているだけでは分からなかった。
★3という数字の裏に、パンを作っている人の気持ちがある。
俺は店を出た。
「……レビュー比較、結構いいな」
だが、そこでふと思った。
俺はこの能力を、食べ物や宿を選ぶためだけに使っている。
でも、もっといろんなことに使えるんじゃないか?
服。
家具。
道具。
乗り物。
武器。
もしかしたら魔法だって。
「……なんか、ちょっと楽しくなってきた」
異世界に来た当初は、どうなることかと思った。
でも今は違う。
俺には《レビュー》がある。
強くなくてもいい。
俺は俺なりに、この世界を楽しめばいい。
そう思いながら歩いていると、腹が鳴った。
「……昼飯、何食おう」
結局、俺は食べ物のことばかり考えていた。




