第3話 低評価の店
異世界生活三日目。
俺は朝から悩んでいた。
「……昼飯、どうするかな」
昨日の『赤い鍋亭』は美味かった。
文句なしの★5。
店主は無愛想だったが、料理は本当に美味かったし、最後にはパンまでくれた。
だったら今日も同じ店に行けばいい。
普通ならそうする。
だが――。
「せっかく異世界に来たんだしな」
毎日同じ店というのも、少しもったいない気がする。
俺は町を歩きながら、いくつかの店を《レビュー》で確認していった。
【白猫食堂】★★★★☆
『魚料理が美味しい』
『店員が親切』
『少し高い』
「……悪くない」
【金貨亭】★★★★★
『とにかく高級』
『味は最高』
『接客も素晴らしい』
『ただし財布が死ぬ』
「……却下」
【大樹亭】★★★☆☆
『普通』
『普通』
『普通』
「逆に気になるな……」
そんな感じで歩いていると。
一軒の小さな店が目に入った。
建物は古い。
看板も少し傾いている。
店の前には誰も並んでいない。
「……ここ、食堂か?」
看板には、
『小鳥の止まり木』
と書かれていた。
俺は何となく《レビュー》を使う。
【小鳥の止まり木】
【評価:★☆☆☆☆】
『二度と行かない』
『料理が遅すぎる』
『店員の愛想が悪い』
『店が古い』
『おすすめしません』
「……うわ」
これはひどい。
★1。
しかも、褒めているレビューが一つもない。
「さすがにここは……」
通り過ぎようとした。
だが、そのとき。
ぐうううう。
「……腹減った」
朝食を軽く済ませたせいで、腹が減っている。
周囲を見る。
他の店はそれなりに混んでいる。
もう少し歩けば、昨日の『赤い鍋亭』もある。
でも――。
「★1って、逆に気になるな」
レビューを見れば、悪いところはある程度分かる。
なら、それを知ったうえで入ってみるのも悪くない。
「……一回だけ」
俺は店の扉を開けた。
カラン。
小さな鈴が鳴る。
「いらっしゃいませ」
声をかけてきたのは、若い女性だった。
店内には客が一人だけ。
「一人です」
「はい。こちらへどうぞ」
案内された席は、少し古い。
椅子も年季が入っている。
確かに、レビュー通りだ。
メニューを見る。
「……何にするかな」
料理の種類は多くない。
肉料理。
魚料理。
スープ。
パン。
そして本日のおすすめ。
「本日のおすすめって何ですか?」
「魚の香草焼きです」
「じゃあ、それで」
「かしこまりました」
注文してから、しばらく待つ。
……五分。
……十分。
……十五分。
「……」
なるほど。
『料理が遅すぎる』
これは本当らしい。
俺は窓の外を眺めながら待つ。
さらに五分。
「お待たせしました」
「おお」
運ばれてきた料理を見て、俺は少し驚いた。
魚が丸ごと一匹。
香草がたっぷり乗っている。
焼けた皮から、香ばしい匂いがする。
「いただきます」
ナイフを入れる。
身を一口。
「……うま」
思わず声が出た。
魚はふっくらしていて、香草の香りがちょうどいい。
塩加減も絶妙だ。
これは――。
「普通に美味いじゃん」
いや。
普通どころじゃない。
「かなり美味いぞ、これ」
俺は夢中で食べた。
魚の身をほぐしてパンに乗せる。
そこにソースを少しつける。
「……最高だ」
食事を終えた俺は、満足して椅子にもたれた。
そこで《レビュー》を見る。
【小鳥の止まり木】
【評価:★☆☆☆☆】
『二度と行かない』
『料理が遅すぎる』
『店員の愛想が悪い』
『店が古い』
確かにその通りだ。
でも。
「……料理は書かれてないんだよな」
俺は気づいた。
★1の理由は、料理そのものではない。
待ち時間。
店員の態度。
店の古さ。
つまり――。
「この人たち、料理以外のところで評価を下げてるのか」
面白い。
星だけを見ていたら、俺はこの店に絶対入らなかった。
けれど、実際に食べてみれば料理はかなり美味しい。
そこで、もう一度レビューを見てみる。
すると。
【現在の感想】
『……今日のお客さん、全部食べてくれた』
『最近、残されることが多かったから……よかった』
俺は顔を上げた。
店員を見る。
彼女は厨房の奥で、食器を片付けている。
そして――。
『美味しいと思ってくれたかな』
そんな文字が浮かんだ。
「……」
俺は少し迷った。
でも。
「すみません」
「はい?」
「料理、美味しかったです」
彼女の手が止まった。
「……本当ですか?」
「はい。かなり美味しかったです」
「ありがとうございます……!」
その顔が、ぱっと明るくなる。
そして《レビュー》に、新しい文章が表示された。
【現在の感想】
『よかった……』
『また作ろう』
俺は少しだけ笑った。
「ごちそうさまでした」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
店を出る。
外の空気が気持ちいい。
「……なるほどな」
歩きながら、俺は考える。
レビューは便利だ。
でも、星の数だけを見ていたら、見落とすものもある。
誰かにとっての★1が、別の誰かにとっては★5になることもある。
料理が美味しくても、店が嫌いな人はいる。
店が古くても、料理が好きなら通う人もいる。
つまり――。
「レビューって、結局その人の感想なんだな」
当たり前のことだった。
けれど、前の世界では星の数ばかり気にしていた気がする。
★5なら良い。
★1なら悪い。
そんなふうに、簡単に決めつけていた。
でも、この世界では。
俺には、その裏側まで見えてしまう。
「……このスキル、思ってたよりずっと面白いな」
そう呟いたところで。
ふと、視界の端に新しい表示が出た。
【スキル《レビュー》の熟練度が上昇しました】
「……え?」
思わず立ち止まる。
【スキル《レビュー》Lv.1】
【熟練度:上昇】
【新機能が解放されます】
「新機能?」
表示が切り替わる。
【レビュー比較】
俺は目を丸くした。
「……比較?」
どうやら《レビュー》は、ただ人の感想を見るだけのスキルではないらしい。




