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第2話 星の数ほど 

 異世界に来て、二日目。


 俺は朝から腹を空かせていた。


「……腹減った」


 昨日泊まった『銀の羽根亭』の朝食は、確かに美味かった。


 焼きたてのパンに、薄いスープ。

 それから卵料理と、何かの野菜。


 豪華ではない。


 けれど、妙に落ち着く味だった。


 何より、昨日レビューで見た通り、パンが美味かった。


「レビューって、便利だな……」


 そう呟きながら、俺は町を歩いていた。


 目的は一つ。


 ――昼飯を探す。


 別に大した目的ではない。


 魔王を倒すわけでもない。

 冒険者として危険な依頼を受けるわけでもない。


 ただ、美味い飯が食いたい。


 異世界に来たんだから、異世界の料理を楽しんでみたい。


「さて……」


 俺は通りを見渡した。


 食堂らしき店はいくつもある。


 だが、普通に入るだけでは面白くない。


「ここは……」


 俺は目の前の店を見る。


 木造の小さな食堂。


 看板には、


『赤い鍋亭』


 と書かれている。


 俺は《レビュー》を発動した。


 すると、昨日と同じように視界の端へ文字が浮かんだ。


【赤い鍋亭】


【評価:★★★★★】


『ここの煮込み料理は最高』


『量が多い』


『店主のおっさんが無愛想だけど、料理は本当に美味しい』


『昼時は混むから早めに行ったほうがいい』


『パンを煮込み料理につけて食べると最高』


「……★5」


 文句なしじゃないか。


 しかも、


『料理は本当に美味しい』


 という感想がある。


 これは期待できそうだ。


「よし、ここにしよう」


 扉を開ける。


「いらっしゃい」


 店の奥から、いかにも無愛想そうなおじさんが声をかけてきた。


「一人です」


「好きなところ座れ」


「はい」


 言われた通り、窓際の席に座る。


 メニューを眺める。


「……煮込み料理が一番人気か」


 ならば。


「すみません。煮込み料理を一つ」


「パンは?」


「お願いします」


「飲み物は?」


「水で」


「分かった」


 注文すると、おじさんは厨房へ戻っていった。


 しばらくして、鍋の蓋を開ける音がする。


 ふわっと香りが漂ってきた。


「……うまそう」


 見た目からして、かなり濃い。


 肉と野菜が大きめに切られていて、茶色いスープの中で煮込まれている。


 そしてパン。


 昨日食べたものとは違う、少し硬めのパンだ。


「いただきます」


 一口。


「……!」


 美味い。


 肉は柔らかい。


 野菜にも味が染み込んでいる。


 スープは少し塩気が強いが、その分パンによく合う。


「これは……」


 レビュー通りだった。


「★5も納得だな」


 俺はパンをちぎり、スープにつける。


「……うまっ」


 思わず声が出た。


 すると厨房から、おじさんが顔を出した。


「そうか」


「え?」


「いや。なんでもない」


 おじさんはすぐに引っ込んだ。


 なんだったんだ?


 まあいい。


 俺はそのまま食事を続けた。


 そして、料理を食べ終えた頃。


 ふと、《レビュー》の表示が変わった。


【赤い鍋亭】


【評価:★★★★★】


『ここの煮込み料理は最高』


『量が多い』


『店主のおっさんが無愛想だけど、料理は本当に美味しい』


『パンを煮込み料理につけて食べると最高』


【追加レビュー】


『あの客、パンをスープにつけて食べてたな。気に入ったのか』


「……」


 俺は固まった。


「え?」


 もう一度見る。


 確かに書いてある。


 しかも、名前は表示されていない。


 ただのレビューではない。


「これ……店主の感想か?」


 俺は厨房を見る。


 おじさんは黙々と皿を洗っている。


 まさか。


 今、この瞬間の感想が見えた?


 俺がそう考えた瞬間。


【現在の感想】


『……もう少しパンを出してやるか』


「え?」


 次の瞬間。


 厨房からおじさんが出てきた。


「兄ちゃん」


「はい?」


「これ、持ってけ」


 差し出されたのは、小さな籠。


 中にはパンが三つ入っていた。


「え、いいんですか?」


「余っただけだ」


「ありがとうございます」


「……別に」


 おじさんはそれだけ言うと、また厨房へ戻っていった。


 俺はパンを見つめる。


「……レビュー、すげえな」


 昨日はただの便利機能だと思っていた。


 けれど、これは少し違う。


 レビューに書かれているのは、単なる評価じゃない。


 その人が何を思ったのか。


 何を気に入ったのか。


 何を嫌だと思ったのか。


 そして――


 口には出さなかったことまで。


「これ、使い方次第ではかなり面白いんじゃないか?」


 俺はそう思った。


 ただし。


 その直後。


 店を出ようとした俺の目に、とある表示が飛び込んできた。


【赤い鍋亭】


【評価:★★★★★】


『料理は最高』


『店主は無愛想』


『パンが美味しい』


『ただし――』


 そこで文字が途切れている。


「……ただし?」


 続きを見ようとした瞬間。


 店の外から、誰かの声が聞こえた。


「おい! 親父!」


 若い男が店に入ってくる。


「今日もあれ、あるか?」


「……ない」


「またかよ!」


「仕方ねえだろ」


「昨日もそう言ってただろ!」


 二人のやり取りを見ていると、新しいレビューが浮かんだ。


【常連客の感想】


『料理は最高』


『親父も本当は悪い奴じゃない』


『でも、あれだけはどうにかしてほしい』


『あれがなければ★5なんだけどな』


「……あれ?」


 俺は首を傾げる。


 この店。


 どうやら、俺がまだ知らない何かがあるらしい。


「……まあ」


 俺はパンの入った籠を抱え直す。


「今日はもう十分食ったし、深入りするのは明日にするか」


 異世界生活二日目。


 俺はようやく、このスキルの本当の面白さに気づき始めていた。


 そして同時に――


 レビューを読むだけでは分からないことも、案外多いらしい。


「明日はどこで飯を食おうかな」


 そんなことを考えながら、俺は宿へ戻って行った。


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