第1話 異世界レビュー
俺は、死んだ。
……いや、もっとこう、劇的な死に方をするものだと思っていた。
魔王に殺されたとか、トラックに轢かれたとか、誰かを庇って死んだとか。
そういうのじゃない。
俺の場合は、ただ寝た。
そして、目が覚めたら真っ白な空間にいた。
「……ここ、どこ?」
『ああ、目が覚めましたか』
「誰?」
目の前にいたのは、白い服を着た男だった。
神様っぽい。
いや、どう見ても神様。
『あなたは先ほど亡くなりました』
「……え?」
『寿命です』
「いやいやいや」
思わず立ち上がった。
「俺、まだ二十二歳なんだけど?」
『こちらの世界では、あなたの寿命はそこで終了ということになっています』
「雑じゃない?」
『申し訳ありません』
「謝るんだ……」
なんだか調子の狂う神様だった。
しばらく説明を聞いたところ、俺は別の世界へ転生することになったらしい。
いわゆる異世界転生というやつだ。
そして、転生する人間には一つだけ「スキル」を与えることができるらしい。
『あなたには、好きなスキルを一つ選んでもらいます』
「本当に?」
『はい』
「じゃあ、最強の剣術とか、魔法とか……」
そう言いながら、目の前にいくつものスキル名が浮かんだ。
《剣聖》
《大魔導》
《不死》
《身体強化》
《超再生》
……なんだこれ。
明らかに強そうなものばかりじゃないか。
俺は興奮しながら一覧を眺めていた。
そして、その中に妙な名前を見つけた。
《レビュー》
「……レビュー?」
『はい』
「何それ?」
『対象を利用、あるいは体験した者の感想を見ることができます』
「…………」
『…………』
「それ、何に使うの?」
『さあ?』
「神様が知らないの!?」
神様は少し考えてから、
『便利……かもしれません』
「絶対ハズレじゃん」
俺は思わず頭を抱えた。
剣聖。
大魔導。
不死。
そしてレビュー。
どう考えても一つだけ場違いだ。
だが、なぜか気になった。
「……レビューか」
俺は前の世界でも、口コミやレビューを見るのが好きだった。
旅行に行く前にはホテルの評価を見る。
飯を食べに行く前には店の評価を見る。
何かを買うときもレビューを見る。
星の数だけじゃない。
『店員は無愛想だったけど料理は美味しかった』
『部屋は綺麗。ただし壁が薄い』
『二度と行かない。でもラーメンだけは美味かった』
そういう、誰かの本音を見るのが好きだった。
「……まあ、これでいいや」
『本当によろしいのですか?』
「うん」
俺は《レビュー》を選んだ。
『では、異世界へ』
「待って。せめて使い方――」
言い終わる前に、視界が真っ白になった。
次に目を開けたとき。
俺は森の中にいた。
「…………」
鳥が鳴いている。
木々が揺れている。
遠くから聞いたことのない動物らしき声がする。
「本当に異世界だ……」
夢じゃない。
自分の手を見る。
ちゃんと手がある。
体も動く。
どうやら本当に転生したらしい。
「じゃあ、さっそく……」
俺はステータスを確認した。
【名前:ユウマ】
【年齢:22】
【職業:なし】
【スキル:《レビュー》】
「……本当にこれだけか」
剣もない。
魔法もない。
戦闘能力もない。
そして、ここは森。
もし魔物が出てきたら終わりだ。
「せめて何か武器……」
周囲を見渡す。
そして、足元に落ちていた石を拾った。
「……これなら」
俺は試しに石を見る。
すると。
【ただの石】
【評価:★★★☆☆】
『硬い』
『重い』
『投げると痛い』
――村人A
「…………」
俺は石を置いた。
「なんだこれ」
レビューだった。
本当にレビューだった。
しかも、
『投げると痛い』
ってなんだ。
「いや、確かにそうだけど」
俺はため息をついた。
やっぱりハズレスキルだ。
そう思った。
そのときだった。
森の向こうに、何かが見えた。
木々の隙間から煙が上がっている。
「煙……?」
近づいてみると、森を抜けた先に街があった。
石造りの壁。
大きな門。
そして、その向こうを歩く人々。
「……街だ!」
俺は急いで街へ向かった。
まずは食料。
次に寝る場所。
その二つを確保しなければならない。
幸い、神様から少しだけ金をもらっていた。
門を抜け、街の中を歩く。
見たことのない料理。
見たことのない服。
見たことのない道具。
何もかもが新鮮だった。
そして俺は、一軒の宿を見つけた。
看板には、
『銀の羽根亭』
と書かれている。
「……宿か」
ここで《レビュー》を使ってみる。
【宿屋『銀の羽根亭』】
【総合評価:★★★★☆】
『部屋が綺麗』
『店主のおばちゃんが優しい』
『風呂が広い』
『朝食のパンが美味しい』
『ただし夕食は普通』
――冒険者・グレン
「へえ……」
悪くない。
むしろかなり良さそうだ。
少なくとも、
『ベッドに虫が大量にいた』
みたいなレビューはない。
俺は宿の扉を開けた。
「いらっしゃい!」
出迎えてくれたのは、恰幅のいいおばちゃんだった。
「泊まりかい?」
「はい。一泊お願いしたいんですけど」
「もちろん。食事はどうする?」
「食事もお願いします」
「毎度あり!」
料金を払い、部屋に案内される。
部屋はレビュー通り綺麗だった。
「……当たりだ」
ふかふかのベッド。
掃除された床。
窓から見える街並み。
俺はベッドに腰を下ろした。
「異世界、悪くないな……」
しばらくすると、夕食が運ばれてきた。
パン。
スープ。
焼いた肉。
「いただきます」
まずはスープを一口。
「…………うま」
思わず声が出た。
次に肉。
「これもうまい」
パンも食べる。
「うまい」
全部食べ終えたところで、俺はふと気づいた。
「……あれ?」
《レビュー》の画面を見る。
【銀の羽根亭】
【総合評価:★★★★☆】
レビューが増えていた。
『スープが美味しい』
『肉の焼き加減が最高』
『パンがふわふわ』
――ユウマ
「……俺のレビューが追加されてる」
どうやら、このスキルは俺自身の感想も記録するらしい。
「じゃあ……」
俺はもう一度、宿を見る。
すると新しい表示が現れた。
【現在の評価】
★★★★☆
『部屋が綺麗』
『店主が優しい』
『料理が美味しい』
『風呂も良さそう』
『また泊まりたい』
――ユウマ
「……」
なんだろう。
ただのレビューなのに。
自分が誰かにおすすめを書いているみたいで、少しだけ楽しかった。
その夜。
俺はふかふかのベッドに寝転びながら考えていた。
強力なスキルではない。
魔王を倒せるわけでもない。
剣が強くなるわけでもない。
それでも。
「……案外、悪くないかもな」
少なくとも。
俺は今、異世界で美味い飯を食べて、綺麗なベッドで寝ようとしている。
それだけで十分だった。
そして翌朝。
部屋を出ようとした俺は、テーブルの上に置かれたパンを見つけた。
「……これ?」
昨日より一つ多い。
不思議に思って《レビュー》を使う。
【銀の羽根亭】
★★★★★
『昨日来た変な客、なんだか面白い奴だった』
『また来るなら、パンを一個おまけしてやろう』
――店主・マルタ
「…………」
俺はパンを手に取った。
そして、昨日の宿屋のおばちゃんを見る。
「おばちゃん」
「ん?」
「このパン……」
「ああ、それ? サービスだよ」
「……ありがとうございます」
「また来な」
「はい」
俺はパンをかじった。
うまい。
そして、思った。
「……このスキル」
もしかしたら。
俺が思っていたより、ずっと面白いのかもしれない。
魔王を倒す必要なんてない。
世界を救う必要もない。
俺はただ、
美味い飯を食べて。
良い宿に泊まって。
面白い人たちと出会って。
そして、たまにレビューを覗きながら。
のんびり生きていけばいい。
「さて……次はどこ行こうかな」
俺の異世界生活は、こうして始まった。
面白かったでしょうか?次回も読んでみてください!




