表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

白紙の共鳴

前回: 落ち込む凛の手のひらを、自身の心臓へ導いた悠真。


二人の「音」という壁を乗り越える。

悠真は凛の手を自分の胸に強く押し当てたまま、ゆっくりと、けれど迷いのない筆致でノートに書き込んだ。


 『違うよ、凛。

あの子と話している時より、君とノートで話している時の方が、僕は僕でいられる。


音が聞こえるとか、聞こえないとか、そんなのどうでもいいんだ。


君が僕のギターに触れて、その振動を「綺麗だ」と言ってくれた時、僕の音楽は初めて完成した気がしたんだ』


悠真はノートを置くと、愛用のギターを抱え直した。


 そして、凛の目をじっと見つめ、静かに、深く息を吸い込む。


彼は歌い出した。


マイクも、スピーカーも、SNSのフィルターもない。


ただ、目の前の彼女一人に届けるためだけの、生身の声。


凛の手のひらに、彼の心臓の鼓動がダイレクトに伝わってくる。


ドクン、ドクンと刻まれるリズム。


それに合わせて、彼の喉が激しく震え、胸板が熱を帯びて振動する。


(……聞こえる)


鼓膜は震えていない。


音色も、音程も、歌詞の意味さえも正確には分からない。


けれど、彼が今、全身を震わせて自分に何かを叫んでいること。


その「熱」が、指先から血の巡りに乗って、凛の心臓を直接叩いていること。


それは、どんなに耳の聞こえる人たちが聴く音楽よりも、ずっと鮮やかで、切実な「音」だった。


悠真は、涙を溜めた瞳で笑いながら、一番強く弦を弾いた。


ギターのボディから溢れ出した激しい震えが、凛の体中を駆け抜ける。


音がわからないから一緒にいちゃいけないなんて、そんなの嘘だ。


世界で一番、彼の音楽を「体感」しているのは、今、ここにいる自分なのだと確信した。


歌い終えた悠真は、肩で息をしながら、再びノートを手に取った。


そこには、たった一行。


 『僕の隣で、ずっと僕の震えを聴いていてくれませんか』


凛はもう、涙を隠さなかった。


ぐちゃぐちゃの笑顔で、彼の胸に飛び込む。


耳元で、彼の心臓が今までで一番速く、力強く跳ねるのを感じながら、凛は心の中で何度も、何度も返事を繰り返した。


第八話「白紙の共鳴」最後まで読んでいただきありがとうございます。


ノートには何も無い。


言葉では伝わらない、二人の振動が共鳴する。


次回もどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ