第三十四章 酸素ハウスの静寂
息がしんどかった。
はぁ。
はぁ。
それだけで疲れた。
⸻
ある日、
家の中に透明な箱がやってきた。
知らん匂いがした。
知らん音もした。
スーッ。
スーッ。
そんな音やった。
⸻
友ちゃんがオイラを抱き上げる。
あの人も横で見とる。
そしてオイラはその箱の中へ入った。
⸻
不思議やった。
少し楽やった。
息が入りやすい気がした。
オイラはそのまま横になった。
⸻
友ちゃんがおる。
あの人もおる。
二人ともすぐ近くやった。
⸻
オイラは寝たり起きたりした。
目を開ける。
友ちゃんがおる。
安心する。
目を閉じる。
また眠る。
そんな繰り返しやった。
⸻
でも、
しんどいもんはしんどかった。
痛い時もあった。
だるい時もあった。
気持ち悪い時もあった。
⸻
ごはんの匂いがしても、
あんまり嬉しくならへんかった。
水を飲むんもしんどかった。
⸻
それでも、
友ちゃんはずっとそばにおった。
あの人もおった。
⸻
ある日、
おしりをさすられるんが嫌やった。
なんや今日は嫌やった。
せやから少しだけ体を動かした。
友ちゃんは
「分かった」
みたいな顔をしとった。
⸻
夜になった。
静かやった。
みんな近くにおった。
⸻
オイラは透明な箱の中で横になっとった。
なんや外へ出たい気がした。
⸻
友ちゃんを見た。
友ちゃんもオイラを見た。
⸻
抱っこしてもらった。
あったかかった。
⸻
友ちゃんの匂いがした。
いつもの匂いやった。
⸻
あの人も近くにおった。
その匂いもした。
⸻
安心やった。
⸻
オイラは小さく声を出した。
友ちゃん。
そんなつもりやったんかもしれへん。
⸻
そのあとやった。
友ちゃんが何か言うとる。
何度も言うとる。
声が震えとった。
⸻
あの人も何か言うとる。
大きな声やった。
聞いたことない声やった。
⸻
二人とも必死やった。
なんでそんな顔しとるんやろ。
なんで泣いとるんやろ。
オイラにはよう分からんかった。
⸻
友ちゃんがおる。
あの人もおる。
⸻
それだけで十分やった。
⸻
なんや体が軽かった。
痛いんもない。
だるいんもない。
気持ち悪いんもない。
⸻
友ちゃんの腕はあったかかった。
⸻
あの人の声が聞こえた。
友ちゃんの声も聞こえた。
⸻
友ちゃんの匂いがした。
あの人の匂いもした。
⸻
安心やった。
⸻
オイラは目を閉じた。
⸻
ずっと、
このままでおりたいと思った。




