第三十二章 穏やかな年越し
家の中は静かやった。
友ちゃんも、
あの人も、
ずっと近くにおった。
オイラは寝たり起きたりしながら、
二人の気配を感じとった。
⸻
そういえば、
いつもやったら、
この頃になると出かけとった。
人がぎょうさんおる場所。
大きな声が聞こえる場所。
友ちゃんの袋みたいなんに入って、
外を眺めるんが好きやった。
いろんな匂いがした。
いろんな人がおった。
頭を撫でられることもあった。
⸻
でも今回は行かへんかった。
オイラはもう歩かれへん。
友ちゃんも、
あの人も、
家におった。
⸻
テレビの音が聞こえとった。
二人は画面を見とる。
オイラはよう分からんかったけど、
なんとなくその音を聞いとった。
たまに友ちゃんがオイラを見る。
あの人も見る。
オイラも二人を見る。
それだけやった。
⸻
毎日同じやった。
オムツを替えてもらう。
体を拭いてもらう。
おしりをさすってもらう。
なんか塗られる。
ひんやりする。
終わると少し楽になる。
⸻
友ちゃんの手は優しかった。
あの人の手も優しかった。
オイラはじっとしとった。
終わると少し楽になる。
せやから大人しくしとった。
⸻
ごはんも食べた。
水も飲んだ。
うんちも出た。
友ちゃんは褒めてくれた。
あの人も嬉しそうやった。
⸻
ある日、
友ちゃんとあの人と一緒に外へ出た。
ひんやりした空気やった。
土の匂い。
草の匂い。
木の匂い。
いろんな匂いがした。
⸻
二人は手を合わせとった。
オイラは横で見とった。
何をしとるんかは分からん。
でも二人とも真剣やった。
せやからオイラもじっとしとった。
⸻
家へ帰る。
いつもの匂いがする。
いつもの場所がある。
友ちゃんがおる。
あの人もおる。
⸻
少ししんどい日もあった。
体が重たい日もあった。
でも、
ごはんはうまかった。
水もうまかった。
撫でてもらうんも気持ちよかった。
⸻
オイラは目を閉じた。
友ちゃんの匂いがした。
あの人の匂いもした。
静かやった。
穏やかやった。
せやから、
もう少し寝ようと思った。




