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第三十章 崩れるもの

まだ暗かった。


オイラはハウスの中におった。


なんや落ち着かへんかった。


体の奥がむずむずする。


気になって何度も後ろを振り向いた。


そして、


そこを噛んでしもた。


痛かった。


すごく痛かった。


でも思うように体は動かへん。


どうしたらええんか分からんかった。



しばらくして、


友ちゃんの大きな声が聞こえた。


「寅──!」


びっくりして顔を上げた。


友ちゃんがオイラを見とる。


あの人も飛び起きてきた。


二人とも慌てとった。



なんやろ。


オイラは二人を見た。


友ちゃんも。


あの人も。


すごく困った顔をしとった。



あの人が毛布を持ってきた。


オイラを包む。


友ちゃんが頭を撫でる。


何度も撫でる。


大丈夫やで。


そんな声が聞こえた。



オイラは少ししんどかった。


でも、


友ちゃんの匂いも、


あの人の匂いもした。


せやから安心しとった。



しばらくして外へ出た。


空気はひんやりしとった。


友ちゃんが運転席に座る。


あの人はオイラのそばにおった。



車が走り出す。


ゴトゴト揺れる。


友ちゃんは前を向いたままやった。


でも匂いで分かった。


すごく緊張しとる。


あの人も同じやった。



オイラは毛布の中でじっとしてた。


少し痛かった。


少ししんどかった。


でも、


友ちゃんがおる。


あの人もおる。


それだけで十分やった。



やがて明るい建物に着いた。


知らん匂いがいっぱいした。


犬の匂い。


猫の匂い。


薬の匂い。


オイラは少しだけ顔を上げた。



「寅次郎」


誰かが呼ぶ。


また呼ぶ。


オイラは目を開けた。


友ちゃんがおる。


あの人もおる。


よかった。


オイラはそれを確かめながら、


静かに息をした。

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