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第二十三章 異変

残暑が長引いとった。


昼の空気はまだ暑うて、

夕方になっても、

地面からむわっと熱の匂いがしとった。


せやのに、

オイラの身体は、

なんや前と違うた。


ごはんの匂いはする。


でも、

食べる気にならへん。


散歩に行っても、

足が重い。


前みたいに、

どこまでも歩きたい思わへん。


呼ばれても、

身体が動かん日が増えた。


寝とる時間ばっかり、

長うなっていった。


友ちゃんが言うた。


「やっぱりおかしい。

夏バテやないよ。」


あの人は、

「でも熱もないし、

疲れとるだけちゃうか」

って笑っとった。


せやけど、

その声には、

少しだけ不安の匂いが混じっとった。


病院へ行った。


診察台の上で、

オイラはじっとしとった。


先生は、

胸に冷たいもんを当てたり、

脚をゆっくり触ったりしとる。


それから、

大きな機械のところへ連れて行かれた。


部屋には、

変な音が響いとった。


白と黒の画面。


オイラには、

何が映っとるんか分からへん。


せやけど、

その時やった。


画面の奥に、

黒い嫌なもんが見えた気がした。


身体の奥で、

ずっと暴れとるもんと、

同じ匂いやった。


友ちゃんも、

あの人も、

先生も、

誰も気づいてへん。


みんな、

「大丈夫そうです」

って顔しとった。


オイラだけが、

じっとその画面を見とった。


それから、

注射をされた。


何なんか、

オイラには分からへん。


ちくっと痛かっただけや。


せやけど、

不思議やった。


その夜から、

身体が少し軽い。


ごはんの匂いが、

急に近うなる。


オイラは皿を、

すぐ空っぽにした。


歩く足も軽い。


しっぽも上がる。


友ちゃんは、

「寅ちゃん元気になってる」

って、

ほんま嬉しそうに笑った。


あの人も、

泡の出る黄色い飲み物を持ちながら、

「効いたんかな」

って何回も言うとった。


でもな、

次の日から、

喉がやたら渇いた。


何回も水を飲んだ。


飲んでも、

また飲みたなる。


それから夜。


寝とる間に、

おしっこが漏れた。


じわっと、

身体の下が濡れとった。


オイラは、

「あれ……」

って思った。


ちゃんと我慢しとったのに。


友ちゃんは、

すぐ飛んできて、

「大丈夫やで」

って優しゅう拭いてくれた。


怒らへんかった。


せやけど、

その声が優しいほど、

胸の奥がざわざわした。


脚の震えは減った。


ごはんも食べられる。


ぱっと見たら、

治ったみたいやった。


あの人は、

「良かったなぁ」

って言うとった。


でも、

友ちゃんは、

静かな顔でオイラを見とった。


数日後、

お薬が終わった。


するとまた、

身体が重うなった。


足が動かん。


ごはんも残す。


座ったまま、

ぼーっとする時間が増えた。


友ちゃんが、

小さい声で言うた。


「戻っちゃったね……」


あの人は、

何も言わんかった。


ただ、

オイラの顔を、

じっと見とった。


オイラには、

難しいことは分からへん。


せやけど、

身体の奥におる嫌なもんが、

まだ消えてへんことだけは、

ちゃんと分かっとった。


あの黒い影は、

ずっとそこにおったんや。


それから、

あの人が言うた。


「このままじゃあかん。

違う先生にも診てもらおう。」


友ちゃんは、

すぐ頷いた。


オイラは、

静かに目を閉じた。


たぶん、

みんな、

やっと同じもんを見始めたんやと思った。


外から、

風が入ってきた。


どこか甘い匂いもした。


季節が、

少しずつ変わり始めとった。

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