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回想 鳥飼 ― 白い先頭車の記憶

大阪の冬の風は、

ほんま骨まで冷える。


あの日も、

空はよう晴れとったけど、

風はキーンとして、

鼻の奥がツンとした。


鳥飼の車両基地。


フェンスの向こうには、

白と青の大きな列車が、

静かに止まっとった。


あの人は、

昔からああいう乗り物が好きやった。


丸っこい先頭を見ると、

なんや嬉しそうな顔になる。


子どもみたいに。


オイラには、

それが何なのかは分からへん。


せやけど、

あの人にとって、

大事な思い出なんやろなぁっていうのは、

なんとなく伝わってきた。


「鳥飼行ってみようか」


そう言い出したんも、

あの人やった。


たぶん、

オイラがおらんかったら、

友ちゃんは来てへんかったと思う。


友ちゃんにとって、

列車はただの景色や。


せやけど、

オイラがおると、

どこでも“みんなで行く場所”になる。


そんな感じやった。


フェンスの前に立つと、

冷たい鉄の匂いがした。


白い車体が、

冬の日差しを浴びて、

ぼんやり光っとる。


大きくて、

静かで、

なんや眠っとる生き物みたいやった。


オイラは、

霜の残った地面を踏みながら、

風の匂いを嗅いどった。


冷たい空気。

鉄の匂い。

遠くを走る乗り物の匂い。


いろんな匂いが、

風に混ざっとった。


「これ、昔のやつなんでしょ?」


友ちゃんが聞く。


「そう。

子どものころ、これ見るだけでワクワクしたんだよ」


あの人は、

そう言いながら、

遠い目をしとった。


たぶん、

昔の景色を思い出しとるんやろな。


オイラは、

そんなあの人を見ながら、

小さく鼻を鳴らした。


“ほんま好きなんやなぁ”


そんな気持ちやった。


そのとき。


ビューーーーン!!


遠くで、

今の速い列車が走り抜けていった。


空気を切り裂くような音。


あの人は思わず振り返る。


「速いなぁ」


友ちゃんも、

目を丸くしながら言う。


「ほんと。

音が全然違うねぇ」


音が遠ざかると、

また静けさが戻った。


風の音だけになる。


その静かな空気の中で、

あの人は、

なんや少し優しい顔しとった。


――オイラがおらんかったら、

ここへ来ることも、

友ちゃんとこの景色を見ることも、

なかったんやろな。


たぶん、

そんなこと考えとったんやと思う。


あの人の好きな場所。


あの人の大事な思い出。


それを、

オイラが“家族の時間”に変えた。


そんなふうに。


帰りの車。


暖房はついとるのに、

窓の端っこは白く曇っとった。


オイラは後ろの席で、

丸くなっとった。


いっぱい風の匂い嗅いで、

なんや眠くなったんや。


小さく寝息を立てながら、

うとうとしてると、

バックミラー越しに、

あの人の目が合った。


――ありがとうな、寅。


そんな顔しとった。


オイラは、

眠たいまま、

少しだけ尻尾を動かした。


車の外には、

真冬の光。


そして、

あの白い大きな乗り物の姿が、

まだみんなの心の中に残っとった。

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